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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
56/132

56.仕事の出来る人って凄いね



 大きな山場を超えてホッとしたのも束の間、部屋から出ると、ソニア様が待ち構えていた。

 早い。会議が終わって、レオナルド様とマークに話して、それからソニア様に話を聞こうと思っていたのに。早い。

 何だろう、やっぱり仕事が出来る人たちって、行動力が半端ないのかな。


「あらあら、マークもロイも一緒なのね。ちょうどいいわ~。

 皆でいらっしゃい。お茶しましょ!」

「(え、ロイも?)」

「(それは俺のセリフだ。何の呼び出しだよ)」

「(十中八九、アロマオイルの話)」

「(ますます俺が呼ばれる意味がわからん)」

()()()()()()()


 ニコニコ顔なのに有無を言わさぬ迫力のソニア様。


「レオに聞いたわよ、これからはマークだけじゃなくて、ロイも、ミワちゃんと一緒にいるんでしょ?

 和平会談までは時間あるのよね? 嬉しいわね、ミワちゃん。お仕事の人手が増えそうで。うんうん、ロイならきっと手伝ってくれるわ」


 語尾に音符マークでも付いてるのかってくらいウキウキしてますね、ソニア様。

 ソニア様の言う「お仕事」ってさ、どう考えてもオイルの話ですよね。ですよね……。

 完全に、ロイも巻き込んで、仕事をさせるつもりですよね。ですよねー…………。

 

「いったい何をどこまでレオナルド様から伺っているんですか、ソニア様」


 遠い目をしている私を横目に、書類を抱え直したマークが尋ねる。


「ふふふ、そうねぇ……マークとミワちゃんがお付き合いしてる、って話とかかしら!」

「付き合ってません」「残念ながら違います」「どうしてそうなったんですか」


 三人同時に否定してしまった。

 少し驚いた顔で目を瞬いたソニア様だったけれど、すぐに持ち直し、


「やっぱり、皆一緒にお茶しましょ。ほら、奥へ行くわよ?」


 と、太陽のように輝く笑みを向けてきた。




 ******




 私が進捗を話し終えると、マークは何か悟ったような表情で、サラサラと紙に何かを書き付けていた。

 方やロイは、事情がまだ飲み込めないといった顔で、ぽりぽりと頬を掻いている。


「――さて、この件に関する事情は分かったかしら、マーク。

 レオに聞いていたのはね、皆の割り振られた仕事のこと。しばらくはミワちゃんの出番はないんでしょ? ロイと二人、こちらに少し貸してもらうわね」

「出番がない、ですか。反論できないところが痛いですね」


 ふうっと深い息をついて、目頭を押さえるマーク。

 えっと、結局私は一旦軍の仕事をお休みして、オイルの仕事に関わるってことです?


「ええ、レオにはもう許可をもらっているもの。残りはマークだけだった、って訳」


 うわー、私、さっき話を聞いたばっかりだったのに。いつの間にそこまで根回しされてたの。


「ミワちゃんには、物理的な戦う力がないでしょう? 一般人だもの。

 だからこそ、前線に出て戦うんじゃなくて、別の方面で戦ってほしいのよ」


 紅茶のお代わりを飲みつつ、ソニア様が「それにしても」と小首を傾ける。


「もう少ししっかりとした金額が知りたいところよねぇ。

 モニターできるくらいの数の試作品を作ってから、市場調査をして、それから実際に作る量と金額を決定、って順番に動いていると、少し時間がかかりすぎるわね」


 そういえば、気になっていたことがあった。


「戦争回避となれば、急いで作る必要はなくなったんじゃないんですか?」


 元々は、アロマオイルを領民に販売することで、軍資金確保と世情の安定を行うのが目的だったはずだ。

 このままクルスト軍が頑張って戦争がなくなるのなら、そんなに急がなくてもいいよね?


「いいえ、ミワちゃん。逆よ。むしろ急がなきゃならないの。

 和平交渉の場で提示するカードの一つとして、この製品を持ち出したいんですもの」


 ちょちょちょっちょちょっと!?

 何でそんな大層なプロジェクトになってるんです!?




 唖然呆然としている私をよそに、ソニア様の指示は続く。


「そうね。もう、現状だけを同時進行でやっちゃいましょうか。

 まずは、デイ森との交易ルートを、私の方で確立させます。原価はそこから計算できるでしょう。

 市場調査は、しっかりしたものじゃなくて良いわ。城内の女性に聞くくらいで終わらせましょうか。協力してもらえるよう、これも私の方で手配しましょう。

 モニター品作成は今の薬師室でいけそうよね。すぐに動けるよう、予算を少し増やします。

 初期の生産は、薬師室の大量生産部門を見込みましょう。彼らが担当している汎用薬の生産量を少しだけ減らして、空いた手で製作させます。どのくらい作れるか、薬師室に報告書を上げるように言っておきます」


 指示を受け、ソニア様の後ろで侍女さんが続々とお辞儀して退出していく。

 ひいぃ。怖い。なんだコレ。

 やっぱり仕事が速すぎる!


「ミワちゃん、あなたたちは、実際に何を流通させるか――つまり何を交渉の場に出すか、それを検討してちょうだいね。既存の三種類だけじゃなく、新製品も含めて考えてみて」


 期待しているわ、とソニア様は微笑むけれど。

 何だか大変なことになっちゃったなぁ……。




 ******




 城表へ戻ってきた私たちは、すぐに執務室へ向かうマークと別れ、食堂で腰を落ち着けた。

 飲むにはまだ早い時間だけど、ロイはビールを頼んでいる。

 私はさっき紅茶を飲んだから、まだ水分はいらないな。しょっぱめおやつを何か食べよう。

 おつまみにもなるように、とポテトとごぼうとレンコンのチップス盛り合わせを選んで、席に着く。


「……ま、なんだ。とりあえずお疲れさん」


 未だに微妙な顔をしているロイが、ビールを一気に飲み干した。


「馬を飛ばして来てみたが、まさか戻れないとは思わなかったな」

「あー……やっぱり、戦場に立ちたい?」


 ゲーム上では、ロイは頼れる戦士。

 でも私は、パーティーメンバーに入れた時の戦いっぷりしか知らない。戦争パートでロイがどんな働きをしていたのかまでは知らないし、実際の仕事も、ほとんど分からない。

 隊員を置いて自分だけ戻ってきたのは、やっぱり堪えるのかな……。


 早々にビールをお代わりして、腕を組むロイ。


「俺ら傭兵は雇われ仕事だから、基本的に雇い主の要請に従うモンだ。どう考えてもおかしい指示ならその限りじゃないが、今回は違う。

 ただ、それと、個人的な感情は、また別だ」


 レンコンをひょいっと口に放り込んでから、もう一度腕を組んで天井を見上げる。


「……そうだな。何が腹立つって、師匠の一声で俺が隊長を辞めさせられた、ってとこか」


 そう、それ、聞きたかったこと。


「ロイの師匠って? お父さん? なの?」

「あぁ。俺が孤児だってのは知ってるだろ?

 孤児院を出てフラフラしてた時に、俺を拾ってくれたのが師匠だ。そのままいつの間にか、師匠の養子になってた」


 あぁ、実の親御さんじゃないのか。

 

 ゲームの外側の情報はたくさんあって、それを知る度に、少しの混乱がある。

 だけどそれと共に、少しの嬉しさも感じる。また、新しい面を知ることができる。

 今の私に足りないことは、それだから。


「師匠にダメ出し食らったんだからな。気分良くはないが。決まったものは仕方ないさ」


 口ではそう言っていても、やっぱりどことなく上の空。また天井を見上げて、何かを考え込んでいる。

 向かいの席で私がひょいひょい左右に揺れても、天井に向けられた視線は戻ってこない。

 思いついて、そうっと手を伸ばして、ロイのビールをつまみ食い、ならぬ、つまみ飲みしてみる。

 うん。それでも反応ない。そしてビール苦い。


「あー、うん。ミワと仕事ができるんだから、それはそれ、だな。今までマークに好き勝手されてたんだし。

 うっし、じゃ、師匠に引き継ぎ終わったら、さっそく取りかかるか、例の仕事」


 パン、と両手で頬を叩いて、ロイがようやくこちらを向いた。


「……ミワ、それ、俺のジョッキだろ」

「ようやく気付いた? 苦いね」

「馬鹿、お前、それ、俺の口つけた」

「間接キス? 私なら気にしないけど」


 ペットボトルの回し飲みも平気でしちゃうタイプだよ。繊細さの欠片もないね。

 

「気にしろ! 俺は気にする!! 何でそんなところばっかりアッサリしてるんだお前は!」


 そういえば何でだろうね。

 実際にキスしたわけでもないんだから……ないんだから…………。


 あ、ダメだ、目の前にある唇をつい見ちゃった。


 顔が熱くなったのを自覚する。

 ごめんなさい、想像してしまった私が悪かった!!




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