51.出陣までの短い時間
いくら楽しかろうと、二人の行動によりお友達の定義が揺らぎそうなため、とりあえず待ったをかけることにした。
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まずはロイ。晩ご飯の席で、手紙の件だけど、と切り出す。
「あのね、プレゼントを毎回貰うのは、ちょっと心苦しいというか」
私の顔を見たまま少し動きを止めたロイは、小さな溜め息をついた。
「俺が惚れてから気持ちをぶちまけたこの前まで、何をやってきたか少しくらい覚えてるだろ。
しょっちゅう飲みに誘ってたのは分かりにくいとしてもだ。町に下りて飯奢ったり、服買ったり。色々アピールしてたつもりなんだがな」
「ごめん……その、鈍くて」
鈍いというか、考えないようにしていたというか。
「だからな、それと一緒だよ。
今、遊びに行く余裕はない。だが手紙のやりとりだけじゃ味気ないし、たくさん文章書いて伝えようにも勉強中の身だと読むのに苦労するだろ。だからアレだよ」
拗ねたように口をへの字にして、私をジトッと見てくる。
でも、でもさ。やっぱりまだ付き合ってもいないのに物を貰うのは気が引けるんだよね。実際、服買ってもらった時もだいぶゴネた覚えがある。
ああ、でも。付き合ってないのに、って、私は考えちゃってるけど。それを私に考えてほしいからこうしてロイは色々買ってくれてるんだよね。しかも、私が貰って嬉しいものとか、素敵だと感じるものとか。持て余すことがないプレゼント。
嬉しいか嬉しくないかで言えば、うん、だいぶ嬉しい。
嬉しいから、手紙が来る度に顔が緩んじゃうんだよ。
私がぐるぐる思考に嵌まっていたら、いつの間にかお酒のお代わりを持ってきてくれた。これは?
「チャイナブルー。当然奢りだからな」
とか言って笑うから。
もう何も考えられなくなって、テーブルに突っ伏してしまった。
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今度はマーク。
「その……手紙なんだけど。あれ、かなり恥ずかしい」
マッサージで部屋に人がいなくなったのを見計らって、とりあえず申し出てみる。
「黙っていたら君は分からないだろう? それならはっきり言葉にした方が良い」
そう言われて一瞬言葉に詰まるけれど。いやいや、違う。
「だって、マーク。黙って待つって言ってくれたじゃん……」
黙ってないよね!?
ふっと何かを企んでいるような顔をされた。
「君の逃げ場をなくして俺の元以外に行けないようにする……そのつもりはない、と、そういうことだからな。
俺から何も仕掛けないとは言っていないだろう?」
「屁理屈だー!」
「分かるように動かないと、君は疎いから全部気のせいで済ませるだろう? だからまずこちらを気にしてもらうことから始めているだけだよ。
視界に入り続けていれば、嫌でも意識するものだ。だから君が軍に移ってきたのは、俺にとって願ったり叶ったりだったんだ」
ぐ、軍師め……。
「そんなの。この前、ああやって気持ちを言われて、更に私の我が儘な申し出にも応えてくれて。その時からもう気にしちゃってるよ。既にドキドキしちゃってるんだよ」
後ろを振り返って私の顔を見たマークが目元を緩める。微笑みで呼吸止まりそう。
「それなら更に駄目押しするだけだ」
自棄になって親指の力を強めた。
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話を総合すると、自業自得だそうです。
ちょっと違うよね? 相手を知るってそういうことじゃないよね??
部屋に戻ってレターセットを前に一息吐く。
いや、うん。やっぱり自業自得なんだ。
実際に一緒にいられる時間は、あまりない。
だから私は二人に会う時間を作ってもらって。
二人は二人で、短い時間で何とか行動しようとしてたんだ。
マークは、自軍が有利になるように、そしてなるべく被害が出ないように策を立ててくれるだろうけど。それでもロイは出陣するし、どれだけの間戻ってこれなくなるか分からないし……無事でいるとも限らない。
ロイはもちろん、マークも、それまでに結論を出してほしいのかな。
……自業自得だ。
だけどさ、やっぱりどうかと思うの。
ドキドキしすぎて、それだけでもういっぱいいっぱいなんだよね。静かに考えさせてはくれないのだろうか……。
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そうこうしている間に日は流れ。
国からの援軍が到着。彼らはメーヴ城で短い休養時間を取っている。
つまり、もうすぐ出陣。
マークも軍師だから出るのかと思いきや、お留守番組だそうな。レオナルド様と、聖女に関する話し合いをリアルタイムでやらなきゃいけないから、って。つまり、総司令官のレオナルド様もメーヴ城でお留守番。
現場の指揮は、コールマン家の跡取り、マイケルが行う。……そういえばゲームでもそうだった。彼はほとんどモブ状態だったけど。名前くらいしか出てなかったよ。
出陣当日は私は窓から見送ることしか出来ない。人が多すぎるからね。
だから今夜の飲み会は、出陣前のロイと話す最後の時間。
「こういう時って、ご武運を、とか言うんだっけ?」
「そんな堅苦しいのはいらないさ」
私はこの戦争、ラルドたちが、ゲームのキャラクターたちが、どう動いてどう勝利するか知っている。
だけど、フェイファーに聖女が現れた。この戦争の行く末が分からない。
――ロイが、無事でいられるのかどうか、分からない。
戦場に送り出すって、こんなにも不安で、こんなにも怖いものなんだ。
「傭兵に対して、言ってはいけないことを言うよ? 絶対に生きて帰ってきて」
「言っちゃいけないワケじゃないさ。ありがとう。
絶対に無事に仕事を終えてくる。約束だ。ちゃんと戻ってくる」
絶対なんてないって、二人とも分かってるのに。それでも「絶対」の約束をする。
だってさ。
「ごめんね。まだ、私の心、決まってない」
俯いてしまう私の頬にロイの指が触れて、ふにふに押してくる。
「だからこそ、だ。ここでマークの不戦勝にでもなってみろ。取り憑いてやる」
戯けて言うロイの言葉に、私は少しだけ笑った。
いってらっしゃい。
笑って「ただいま」を言ってくれるのを、マークと二人で待ってるよ。




