表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
5/132

5.馬上の腹の探り合い



 そうと決まれば。


「王子。キャスパー王子」


 後ろで馬を操る王子に声をかける。

 乗馬初心者の私のために、喋れる程度の速さで駆けてくれている。

 王子との話し合いは街に入るまでに済ませておきたい。


「はい、何でしょう?」

「辺境伯の居城まで、あとどれくらいかかりますか?」

「……城、ですか。街ではなく」


 王子の声が僅かに固くなる。


「ね、王子。最初から怪しく思っていたんでしょ? 私があっさり王子の素性を言い当てたから」

「…………」

「そのくせ、死ぬ寸前まで追い込まれるほど弱い。スパイ……密偵にしては間抜けですよね」

「何が言いたいのでしょう」

「率直に言います。王子から見て、私ってどういう立ち位置です? やっぱり辺境伯の所で牢屋に入れた方がいい人物ですか?」


 少し逡巡するような間があった。


「そうですね。最初にあなた自身がおっしゃっていたように、得体の知れなさはあります。

 ただ、私の一存でどうにかなる話ではありません。私は辺境伯殿の領地で謎の女性を保護したのみ。ですので、おそらくあなたの想像している通り、辺境伯殿へ奏上するつもりです」


 やっぱり。それなら好都合。

 あとは私の口八丁手八丁、交渉力次第。

 聞きたい一言は思ったより早く引き出せたから、少し肩の力を抜いて、そのまま王子との話を続ける。


「私が、異世界から迷い込んだと言ったら、頭おかしいと笑います?」

「異世界、ですか。……前例は聞いたことがあります」

「はい? え、マジで!?」


 予想外の一言が飛び出して、私は思わず後ろの王子を振り仰いだ。

 冗談を言っている顔ではない。……いやまぁ、この人、基本的に表情あんまり変えないから確かじゃないけど。

 ちらっと私に視線をやって「慣れていないなら前を向いていた方がいいですよ」と言うと、自身もまたすぐに前方に視線を戻してしまった。

 大人しく指示に従うが、私の心臓はドクドクしたままだ。ただの雑談のつもりが、急に重要情報が出てきた。


「ほ、ホントですかその話」

「あまり公になっていないですが。首都で魔術師を生業としている同族から聞きました」

「そ、それって、大魔術師のシャイニー様……?」

「……シャインのこともご存知でしたか。ええ、彼から」


 マジで重要情報なんですけど!?

 生き残ったら泣きつこうと思っていた大魔術師――エルフ族のシャイン・ユジール様――の名前が王子から出てきて、一気に希望が増した。


「あのっ、このままシャイニー様の所へ連れて行っていただくなんてことは……」

「無理ですね」

「あ、やっぱり?」


 えぇえぇ、ダメ元で言ってみただけです。


「私が今から辺境伯殿へ用事があることを差し引いても、無理です。

 あなたが異世界人だとしても、私や辺境伯殿、シャインのことを知っていた理由にはなりませんから」

「それは……」


 話してしまってもいいのだろうか。

 ここが、私のプレイしたゲームの中で。出てくるキャラクターも、この先の展開も知っていると。

 考えたのは僅かな時間。


(――まだ言わない方がいい。

 怖い。私の知っているストーリーから外れて、この国が負けることが)


 主人公としてプレイした側の陣営だ。愛着もある。それに現実問題として、自分の身の安全も大切。

 下手に介入することでどれだけストーリーが狂うのか。

 ただでさえ、異分子の私が王子と出会い、更に辺境伯に会うことになるのに。

 この真実を伝える人間は、よく吟味しないと与える影響が大きすぎる。


「言えません。私への疑いが強くなっても、ここでは言えない」


 すみません、と一応謝っておく。




 再び沈黙が降りた馬上で、王子がポツリと呟く。


「このままのペースであれば、あと一時間ほどで領都に着きます。

 もし眠れるようであれば、私にもたれて軽く眠っておくといいでしょう」


 なんだかんだ言ってもやはり王子は優しい。

 血は止まったとはいえ、ボロボロになった後に慣れない乗馬。さすがに疲れた。

 王子の好意に甘えて、遠慮なく一寝入りさせてもらうことにした。

 身体を預けると、ふわりと木の香りが鼻を擽った。

 これも、ゲームでは分からなかったこと。

 知らなかったことを体験できるのは、追体験するよりも嬉しいものなんだね。




 ******




 喧騒で、浅い眠りから浮上した。


「目覚めましたか。そろそろ下馬したかったのでちょうど良かった」


 目をしぱしぱさせて周りを見渡す。

 ああ、ここは馬と馬車の専用道だ。馬に乗った状態じゃないと入れないあそこの路地の奥に、アイテムがあって……って、それは今は置いといて。

 既に城壁が目視できる距離に近付いていた。

 馬用通用門前で、馬から下ろしてもらう。


「キャスパー・ルーク・デイ、辺境伯殿との会談のために参上いたしました。

 こちらは、先程ラヴィソフィ領内で保護した女性です。事情があります、共にレオナルド殿へお目通りを願います」

「お待ちしておりました、キャスパー様。すぐにご案内いたします」


 見るからにボロボロの服を纏った私にも、門番さんは笑顔を見せてくれる。王子効果恐るべし。

 それにしても、今、ラヴィソフィ領って言ったよね、王子。それって、私が名付けた本拠地の――辺境伯領の地名なんですけど。


 微かに湧いた嫌な予感。

 ねぇ、軍の名前や主人公の名前も、デフォルト名じゃなくて私の名付けたものになってたり……しないよね?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ