45.お節介は厳禁 ――ある傭兵隊員の話――
今日・明日は変則的に二話ずつ更新します。
僕の名前はケビン。
クルスト軍の傭兵隊、第三部隊に所属している傭兵だ。
双子の妹の名前はアリス。
メーヴ城の表にある軍事務室、城下町や志願兵との連絡を取り合う部署――総務というらしい――に所属している事務員だ。
僕たちは、軍拡がいよいよ本格的になり出したという時期に、軍に参加した。
今は二人で城下に部屋を借りて住んでいる。
僕たちの部屋は、ある街食堂の上にある。
だから、毎日の朝飯は食堂で食べて、それから出勤だ。
でも、たまに仕事が早番になることがある。そんな時間では、まだ食堂はやっていない。
対処を職場の先輩に聞いた妹は、朝からやっている城の食堂で朝食を取ることにしたらしい。
僕らが参加する前、軍が本格的に動き出した頃に、女性でも食べやすい軽めの朝食メニューができたんだそうだ。
僕も、早めに出ないといけない時には城の食堂で食べるようにしていたが、そう言われればそんなメニューもあったかな、くらいのぼんやりとした認識だった。
やっぱり仕事前にはがっつり食べないとな!
******
そんな、ふわぁっとした情報しか持っていなかったんだが。訓練中、先輩たちからビックリする話を聞いた。
我らが傭兵隊の若き隊長殿、ロイさんが、その朝食を作っているミワさんという女性に惚れているというのだ。
何やら機嫌が悪くてキレた隊長にランニングを命じられたが、その後も先輩から色々聞かせてもらった。
酒場になった夜の食堂で、たまに一緒に飲んで楽しそうにしている、だの。
この前はめかし込んでミワさんと出かけていた、だの。
……何だよ、その面白そうな話。
これはアリスと情報共有の必要があるぞ。
「うん、ミワさん。知ってるよ。時々事務室におやつ持ってお喋りに来てるし」
「どんな人だよ?」
「えーっと……背が高くてスレンダーで」
「おう」
「メガネが格好良くて」
「へぇ、メガネ」
「どんな朝食メニューが欲しいか聞き込むくらい仕事熱心みたいで」
「ほう」
「休憩時間に一緒にお喋りしてたら、たまに絵を描いてくれたり」
「ふむふむ」
「……そんな人」
いまいち分かんねぇ。
「そのミワさんにさ、彼氏っているの?」
「うーん? そういう話は本人からも周りからも聞いたことないけどなぁ」
とりあえず、先輩たちの話は本当みたいだ。
ミワさんは誰のものでもないらしい。
「僕も一度、ミワさんを見てみようかな」
「え、何、ケビン、ミワさん狙ってるの?」
「違っ、僕じゃない!」
「へぇ、じゃあ何でまた」
「実はな……」
僕の話を聞いたアリスは、腕を組んで考え出した。
おいおい、そんな格好したら、お前のない胸が強調されて……。
「ケビン、何か失礼なこと考えたでしょ」
「はっ!? いや何も!?」
「……まぁいいや。気になるなら一度、こっち側の朝ご飯食べに行ってみる?」
「そうしよっかな」
「ただし! ミワさんには何も吹き込まないでよ?」
「え? ロイさんの気持ちを教えちゃダメなのか?」
「よく考えてもみなさいよ、傭兵隊の皆さんが黙って見守っている訳を」
そう言われればそうだよなぁ。なんで密かに賭けをしているだけなんだ?
「話を聞く限り、隊長は分かりやすいのよね?」
「らしいけど」
「それなのにミワさんが反応していないってことは、何か事情があるって思わない?」
「そういうもんか?」
「付き合えない理由があるのかもしれないし、いわゆる両片思い状態なのかもしれないし」
「両片思い……?」
「そこからか!」
とにかく、第三者が口を突っ込んでも良いことはない、場合によっては上手く進展するかもしれないけれど大体関係が拗れる、と釘を刺された。
「ケビンも、傭兵隊の皆さんも、隊長さんのことが好きなんでしょ?」
「好きっていっても、恋愛対象じゃないけどな。……うん、尊敬してる。
先輩たちも、戦場で従えると思えるくらいには隊長を慕ってるみたいだし」
「じゃ、余計なお節介はしないことね」
「そういうもんかー。でもま、僕がミワさんを見てみたいのは変わらないぞ」
「うっかり惚れて、隊長の恋敵になる羽目にならないといいわね」
「まっさかぁ」
******
そんな風に気軽に会いに行って、結果、何故だか僕もミワさんと仲良くなってしまった。
色んな人から話を聞いて、彼女なりに戦争について考えているんだそうだ。
あぁ、この人は、クルスト軍が好きなんだろうなぁ。
そう感じた。
「ね、ケビン。やっぱり思った通り、惚れちゃったんでしょ」
「惚れてねぇよ! ただ少し、またお喋りしたいなーと思っただけだよ!」
「へぇ……?」
クスクスと笑うアリスにデコピンをする。
手加減はしたが、相当痛かったようで涙目になっている。
「あ、悪ぃ」
「この馬鹿力! で、正直に言いなさいよ、惚れたんでしょ?」
「違うっつの! 何ていうかさー、……姉貴がいたらこんな感じだったのかな、って」
からかう素振りだったアリスが一転、真面目な顔になった。
「あー。やっぱり私とケビンは双子だね。いよいよ青春するのかと思いきや、同じこと考えちゃうのか」
「アリスもそう思ったのか」
「ん。ね、じゃあさ、私たちも。『二人をちょっかいかけずに見守り隊』に入ろっか」
え、なんだそれ。そんな組織が密かに存在していたのか……。




