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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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40.Old days・2

本日四話目です。



 半ば思いつきで孤児院を飛び出したが、特に行く当てもない。

 辺境にあるリューク地方を目指したのは、内陸にあるベルフォーム領よりも戦場に近い分、何か仕事があるんじゃないのか、という、ただの勘だ。




 道中は案外平穏だった。

 今までの経験から、神殿や孤児院へ行けば宿泊場所くらいは恵んでもらえると知っている。移動手段は徒歩だったり、神殿間を結ぶ定期馬車だったり。

 マークに教えてもらった知識が役に立つ。地図の読み方に字の読み方書き方。ベルフォーム領の中、どの辺りが治安が悪いとか、どちらの方面にどんな領があるのかとか。


 路銀は、各孤児院のシスターに紹介してもらった宿屋や商店で、荷物運びをすることでチマチマと稼いだ。

 身分証明なんてない状態ではまともな仕事なんてもらえないですよ、と、孤児院を出てくる時にシスターに引き留められたのを思い出した。

 このまま孤児院で貴重な男手として働いてくれないか、という遠回りな勧誘だったんだな、と気付いたのは、色んな孤児院を見て回ったからだ。


 育ててもらったのに、申し訳ないことをした。

 だけど、俺はもっと上を目指して、たくさんの孤児院のチビ共を守ってやろうと息巻いていた。




 無事にリュークのギルドへ辿り着き、登録を終えて仕事の一覧を眺めた。


 俺でもできる仕事はあった。ただし、単なる雑用。

 まだ成年しておらず、ギルドの実績もない。そんな状態でできる仕事は高が知れている。

 それでも、字の読み書きができるだけで、随分仕事の幅が増える。本当に、マークに感謝だ。


 リューク地方は隣国フェイファーとの国境に高く厳しい山脈がいくつも連なっている。だから、辺境とは言うものの南のラヴィソフィ領よりも呑気なのだ、と、ギルドの姉さんが教えてくれた。

 俺は剣の腕を磨いて傭兵になるんだ、あちこちで雇われて更に上を目指すんだ、国の真ん中でセコい犯罪者を取り締まるより戦で敵を倒す方がいいんだ、そのためにはどんな経験が必要が教えてくれ……と姉さんに相談した。


 そして紹介されたのが、A級ギルド員のダリス・ファングだった。




 ******




 リュークに腰を落ち着けているのは『水が美味しいからだ』って言っていたわよ、と姉さんが笑って教えてくれたから、どんな優男が出てくるのかと思っていたら、筋骨隆々であちこちに傷跡の残る身体をした、見上げるほどの大男だった。

 初老に差し掛かっているだろう外見なのに、マークの兄さんくらいのお貴族様なら威圧するだけで余裕で吹っ飛ばしてくれそうな気迫がある。

 ギルドで見かけた兄さん方と比べても、オーラが違う。思わずたじろぐが、ぐっと腹に力を込めて男の目を見上げる。


「何の用だ、坊主」

「……はじめまして、俺はロイと言います。ギルドのソフィーさんに、あなたのことを紹介されました。俺の目的のためには、あなたに話を聞くのがよいだろう、と言われました」

「ほう? 見た目の割にしっかりした話し方をするな、お前さん。どれ、ソフィーの嬢ちゃんから手紙を預かっているだろう、見せてみろ」


 目上にはまず丁寧に接すること。こんな場面でも、マークの指導が役に立つ。




「ほらよ、坊主。まだ酒は無理だろうから、コレ飲んで待ってろ」

「何ですか、この薄いオレンジ色」

「自家製アンズシロップの水割りだ。オレはビールだが、盗み飲みするなよ」

「しません」


 ここでこの人の不興をを買う訳にはいかない。

 一口飲むと、ほのかな甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、冷たさが胸の中に広がる。

 こんなに冷やされた飲み物なんて、久しぶりだ。水かシロップを冷やしているんだろう。

 ということは、この人はこんなナリでも魔術を使えるのか……?


 じっとおっさんを見ていると、手紙を一通り読んで、スラスラと返事を書いている。

 さらっとこなしているんだから、荒っぽくても高い教養があるということか。

 

 通された部屋を眺めてみると、長剣があちこちに転がっている。剣士か。

 よく見ると、修理している途中のものもある。自分で直しているのか?


(A級ってのは伊達じゃない、か)


 これだけの力をつけるには、どれだけ時間がかかるんだろう。

 だけど、隣国との諍いが今以上に激しくなるまでには、俺も力をつけないと。出番がいつになるか分からないんだから、できるだけ早く。

 このおっさんに話を聞いたら、なるべく早く、なるべく急いで動かないと。


「おい、坊主。ロイ」


 あちこちに目をやっていると、おっさんが俺の目の前にギルド姉さんからの手紙をバサリと投げ出した。


「お前さんの話をしろ。ここに至るまでの身の上全てだ。

 ギルド登録の情報によると、お前、孤児なんだろう? どこでここまでの教養を身につけた?」


 おっさんが睨んでくるが、俺も負けじと睨み返す。


「ギルドってのは、人の情報をホイホイと他人に渡すんですか。先にソフィーさんに文句を言ってきます」

「お? 肝が据わってんな、ますます面白ぇ。

 まぁ待て。お前さん、嬢ちゃんから聞いていないか? 俺はギルドの新人研修も任されている。希望者の情報は正規の手続きで貰えるんだ」


 ほれ、とカードを投げ渡される。……確かに、ギルド証にそうやって書いてある。


「おう、それも読めるか。情報に対する危機感といい、お前さん、やっぱり年の割に頭が良い。それどころか、この国の孤児院の教養からは考えられないくらい、並外れて高い水準だ。

 で、どこで学んだ? ほれ、言ってみな」


 大丈夫だ、遅くなれば飯も食わせてやる。泊まっていけ。

 ニヤリと笑ってそう言うと、ビールを一気にぐいっと仰ぐおっさん。


「じゃ、その前にこれ、お代わりください」


 俺も真似をしてアンズ水を仰ぐと、おっさんは豪快に笑った。



 これが、俺とダリス師との生活の初日だった。




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