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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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4.第一目標、安全確保



 呆けている私を上から下までさっと見やって、王子は後ろに従っていたエルフ氏と何やら話し始めた。

 あ、あの人、よく王子とセットで出てきてたモブエルフ? 服と髪色に覚えがある。


「レディ、ひとまずケガを何とかしましょう」

「血が止まっていない箇所が多いです。応急処置ですが、この薬を塗ってください。エルフの塗り薬です、この程度の出血であれば効きますよ、お嬢さん」


 モブエルフ氏も馬を下り、腰の袋から瓶に入った軟膏を出してくれる。

 これは! 戦闘後にHP回復のためによく使っていた『エルフの薬』ですか! へぇ、エルフの薬って飲み薬じゃなかったんだ。

 ……あれ? なんで飲み薬じゃなくて塗り薬で出てきたんだ?

 私の混乱をよそに、モブエルフ氏が薬を指で掬い取り「試してみましょう、いいですかお嬢さん?」と右腕にできた大きめの傷に塗ってくれた。

 すうっとする感覚が肌を滑り、次の瞬間にはかさぶた寸前くらいまで傷が治っていた。


「うわっ、凄い」

「効果の程は分かっていただけたかと。

 これ以上私が塗るのはお嬢さんに対して失礼ですし、我々は後ろを向いています。どうぞ」


 紳士なモブエルフ氏と王子に礼を言い、私はジャケットを脱いで、確認できる限りの傷に薬を使うことにした。

 それにしても、レディとかお嬢さんとか、そう言われる歳でもないから、少しむずむずしてしまう……。




 あらかた傷も塞がり、後ろを向いたままでいてくれたお二人に声をかける。

 話を聞くと、王子とモブエルフ氏――従者でジェラルドさんというらしい――は、今から辺境伯の居城へ向かうところらしい。

 辺境伯の城があるのは、私が目指していた本拠地街、辺境伯の領都メーヴだ。つまり目的地が一緒。

 ダメ元で同行をお願いすると、快く引き受けてもらえた。


「い、いいんですか? 自分で言うのも何ですが、得体が知れない人間ですよ?」

「ラベッジホグにやられかけていた丸腰のレディを、そのままここに置いていく気はありませんよ」


 苦笑されてしまった。そうだよね、あいつ、結構な雑魚のはずだもんね……。

 ただ、その笑顔の裏には、別の思惑がありそうで。

 ――あ、そうか、一目見た初っ端から王子って呼びかけちゃったからか。




 馬に乗れるかと聞かれたので、素直に「無理です」と答えたら、王子の馬の前方に乗せてもらえた。

 そう、馬に乗ったことはない。

 だから、馬上からの景色も、振動も、一度も体験したことがないんだから、夢では描写されないはずなんだ。曖昧になるはずなんだ。

 なのに、感じる風も、結構高い視点も、ゆっくり歩いてもらっているはずなのに全身の筋肉を使うしんどさも。何でこうも鮮やかなのか。

 

 これが正真正銘私の夢だとしたら、自分の想像以上の描写が多すぎる。

 単純に、妄想力が溢れ出て色んな部分を補完しているのだとしても、これだけ五感が鮮やかで、これだけ整合性があって、これだけ思い通りにならないのは、今までの夢では有り得なかった。


 もしも。

 もしも、これが、現実なのだとしたら。




 ……異世界トリップってやつ!?




 ******




 まぁ待て、まだ慌てる時間じゃない。

 情報を整理しよう。


 幸い……と言っていいのか分からないけれど、王子たちと一緒に安全に本拠地街――メーヴへ向かっている。

 ちらほら見える敵の様子や、王子たちの話を聞く限り、ゲーム序盤だ。

 で、この王子が、あっさりと自分の正体を見破った私をそのまま野放しにするとは思えない。ゲームでも、穏やかな顔をして喰えない行動を取ったりするキャラだし。

 もしかしたら、辺境伯へ差し出される可能性もある。

 元の世界に戻る方法は、何もないフィールドにいる今よりも、落ち着いた状況で考えた方がいいだろう。

 辺境伯のコールマン家の皆様にも会えるなら会いたいし! 我ながらミーハー!




 ふと、考える。


(元の世界に戻る必要って、そんなにあるかな……?)


 私の両親は既に事故で亡くなっている。兄弟姉妹はいない。独り立ちしているから、親戚が後見人になっているわけでもない。

 家庭環境としては、私がいなくなっても特に問題ない。


 仕事は急に放り出す形になってしまうから、会社の上司同僚後輩には迷惑をかけるだろう。職場で仲の良い人も少なからずいたし、仕事に対する責任感だってある。

 少し心苦しいけど、いないならいないで、代わりは何とでもなるだろう。平社員は所詮小さな歯車でしかない。


 住んでいるマンションは、失踪という形で誰かしらが良きに計らってくれるだろうし。

 彼氏もいない。

 趣味はインドア、ほぼ一人で完結するものばかりだから、他人に迷惑はかからない。

 他の心残りといえば。


(紫音……だけ)


 毎日顔を合わせているのではないけれど、私に何かあったら一番心配かけるのは紫音。


 改めて考えると、結構寂しい環境だったのかもしれない。

 仕事に趣味に親友に、と、私としては充実した毎日だったんだけどな。




 ともあれ。

 元の世界に戻るにしろ、このままブルフィアの世界を楽しむにしろ、生き残らなければどうにもならない。

 紫音に対しての心残りが大きいから、帰れるのであれば帰りたい。帰る方向でこの先の行動を考えよう。


 メーヴ城は、ゲーム中通して戦火に見舞われることはない。

 このまま軍本拠地で何とかしてブルイチの戦争を生き残れれば、シリーズ二作目――通称ブルニ――で描写のあった、首都の大魔術師に泣きつくこともできるかもしれない。

 簡単にお目通りが叶うとも思えないが、元の世界に戻るのであれば可能性に賭けてみる価値はある。


 生き残るためにも、自分の好奇心のためにも、辺境伯へ差し出されるのは悪くないのかも。

 よし、それなら。

 王子が辺境伯へ会わせたくなるような振る舞い、しようじゃないの!




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