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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
38/132

38.ゲームでは語られなかった話



「へええぇぇ。んっふふふ、ミワちゃんってそぉんな秘密があったんだねぇえ」


 私の話を噛み締めて吟味しているらしいケインとは対照的に、マリクさんは軽いノリでんふんふ笑っている。

 なんだかだんだん、彼が某キノコのキャラクターみたいに思えてきたよ……。


「でぇ、ケイン様ぁ? どうやらレオナルド様もマーカス様もぅ、ミワちゃんのことは認めている様子ですけどぉ……そこんとこぉ、どうなんですぅう?」

「正直信じられないですね」

「ですよねー」


 真っ先に私が合いの手入れたよね。


「私が時間をかけて調べたが、特に問題は見当たらなかった」

「マーカスさんがそう言い切るなら、多少は、まぁ……」

「んー、ふふっ、ケイン様ぁ、もう一つ根拠がありますよぉう? ()()()()()()()()!」


 不思議な沈黙がその場を覆った。


「え、あれぇええ? もしかしてぇ、誰もご存じないぃ? ミワちゃんの知識にもないのぅ?」

「何も知らないです。それ以前に、私の知る話にはマリクさんも存在しません」

「ええええぇっ? 何それぇ、ラヴィソフィ国のことを知ってるって言ってもぉ、触りだけってことだよねぇえ?」

「一番ミワの話を詳しく把握している私も、そう思う。だから、彼女にも我々の事情を共有すべきたと思って、君たちを呼んだんだよ」


 顎髭を撫でながらようやくレオナルド様が口を開いた。


「彼女の知る『絵物語』の未来が本当に実現するかしないか、この際置いておく。

 我々の秘密の一部は、確実に彼女も知っている。それならば、こちらに引き込んでしまった方が良いと思うのだがね、ケイン君」


 むすっとしたワンコは、ようやくゆっくりと頷いた。




 ******




 レオナルド様とマリクさんが話した内容は、ゲーム内では語られなかった諸々を補うものだった。


 クルスト王家の筆頭家臣は確かにジルベルト家。だが、その他にも篤い信頼を置かれた三家があった。

 金のクルストに従う、銀のジルベルト、赤のウォーカー、緑のデイ、橙のコールマン。


 私はそれぞれのファミリーネームを、ゲーム内で既に知っている。

 ラルドの幼馴染み、ケイン・ジルベルト。

 ケインの伴侶となる美人騎士、セリア・ウォーカー。

 エルフ隊を率いて軍に参加するエルフの森の王子、キャスパー・ルーク・デイ。

 そして、ラヴィソフィ領を守る辺境伯、コールマン家。


 なんてこったい、単なるゲーム内の主要キャラクターだと思っていたら、ほとんどが亡国関連だったのか!


「ケイン様が眠りについてからぁ、王家付魔術師だったシャイニー様がねぇえ、ジルベルト家の跡取りの身体にぃ、それぞれの家の色が現れるように術を施してくださったらしいんだぁ。

 それぇ、物心つく頃に色が現れるんだよねぇ。色が出たその時にぃ、かの時の真実がぁ自動的に伝わるようになってるんだってぇ。必ず将来四家が揃うようにぃ、ってぇ。

 ちゃあんとぉ、ボクにもねぇ、ほぉら、色が入っているでしょぉう?

 もっともぉ? 長年の代替わりの間にぃ、それぞれの家に伝わる色は多少彩度が落ちちゃってるみたいだけどぉ」


 マリクさんが、髪のメッシュを指さす。

 薄いグレーの髪に、赤と緑とオレンジ。色がくすんだ元銀色、ウォーカーの赤、デイの緑、コールマンの橙。


「ボクの息子にもねぇ、色が入っているのは確認済みぃ。あの子はぁ爪だったねぇえ」


 ……ちょっと待て。今恐ろしいことを聞いたぞ。

 年齢不詳だとは思っていたけど、子供いるのマリクさん!?

 唖然とする私を横に、話は進む。


「四家の末裔は、目覚めたクルスト王家の血を支えて、再びラヴィソフィ国を復興するようにと伝えられている。

 邪神を抑えることができるのは、古に神と契約を交わしたクルスト王家の血筋と、神に祝福を受けた聖女を擁する、ラヴィソフィ国のみだからだ」

「えっと、でも。私の知る話では、ラルドたちが邪神を斃すんですが……」

「そこも違う。邪神は封印することはできるが、かの存在を消滅させられるのは神のみだと伝わっている。

 真実がどちらかは分からぬが、少なくとも四家の末裔は、フェイファーとビエスタによる分割統治を収束させ、邪神を封じる役割を担っていたラヴィソフィ国を再興させることを目的としている」


 ――そうか。

 ゲームでは亡国の再興が最終目的だと思っていたけれど。実際は、邪神を封じるために国が必要で、そのためにずっと戦っていたのか。

 ちょっと! そんな重要な話が描写されてないって、私の知識は全然当てにならないってことじゃないの!

 私が愕然としているのに気付いたマークが、やんわりと口を挟む。


「ミワの情報は充分役に立っているぞ。君が持ちうる知識を元に動いたからこそ、この場があるのだから。

 それに、敵の情報をある程度持っているお陰で、君自身も今後重要な役割を担うだろう」


 マークを見てニヤニヤしていたレオナルド様が、んんっと咳払いをして、話を戻す。


「フェイファーは、聖女を擁すべきなのは皇国である我が国だ、と主張している。

 元はジルベルト家分家に当たる家系だったのが、クーデターにより王政を覆そうとした。

 彼らの目的は我々には分からないが……国の復興にも倒さねばならぬ相手に変わりない。

 この戦い、元はフェイファーによる侵略を堰き止めるものだったが、ラルド様とケイン君が目覚めてこちらに加わった時点で、我々の目的は変わっていたのだよ。まして、聖女が現れたのであれば、尚更。

 我々はクルスト王家を、ラルド様を支えて、再び立国するのが使命だ」


 私が心配するまでもなく、レオナルド様は、戦いの意義が変わっていることを把握していたのか。

 大騒ぎした自分が少し恥ずかしい。


「でぇえ、レオナルド様の目の話ぃ」


 マリクさんの言葉に、ケイン君が姿勢を正す。


「シャイン様がジルベルト家に、それぞれの家の色と一緒に情報が伝わるようにしたように。我々の家系にも、術を施してくださっている。

 赤のウォーカーには、並外れた筋力を授け、どのような戦があっても生き延びられるように。

 緑のデイには、デイ森に守りを授け、その中でエルフの王国をつくり、生き延びられるように。

 そして我が橙のコールマンには……ラヴィソフィにとっての味方を見抜く目を授けられた。いつか来たる時に、確実に戦力を押さえられるように」


 だから私はマークとロイを引き立て、ラルド様とケイン君を迎え入れ、ミワを信じたのだよ。と、優しい優しい目をして、レオナルド様が私たちを見渡した。




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