35.それどころじゃないの、大変なの!
混乱した頭のまま、私はいつも通りの時間に起き上がった。
寝られなくなるくらい悶々と悩んで一睡もできなかった……なんていう繊細さは私にはなかったようで、身体的疲労と精神的疲労が合わさって、夢も見ないくらい深い睡眠が取れた。
寝るまでは吐きそうになるくらい色々考えたけどね。熱が出そうだったけどね!
えぇっと……これは一体どういう状況なんだろう。人生に三回来るとかいう噂のモテ期か? モテ期到来なのか!?
なんたって、初めての告白をされたかと思いきや、立て続けにもう一度。
一つですらキャパオーバーなのに、もうこれはどうしろと。
しかも、双方共に軍の重要人物ときた。昨日の話が全て現実だったとしたら、私、今まで以上に軍の弱点になっちゃったんじゃない?
何かあれば相談したり愚痴を言ったりしていた相手――ロイは、この場合当事者だし。
医務室の先生も恋愛相談は受けないと怒られたし。
うーんと、えっと……あ、そうだ。前にトムのことを相談した時に、傭兵隊第三部隊長のテオさんがアドバイスくれたんだった。
まずは相手を知ること。
――知ってるよ!!
二人とも、メインキャラだよ? 好きなものとか性格とか、たぶん普通に出会っているよりもずっとずっと知っている。
……あぁ、でも。
それだけで相手を知った気になっていたのは大きな間違いじゃないのか、と、今ようやく気付いた。
ロイが飲む時はビール専門だなんて知らなかった。
マークが根に持つとしつこいなんて知らなかった。
ロイがお洒落服を持っているなんて知らなかった。
マークが酷い頭痛持ちなんて知らなかった。
ロイが白いシャツを大事に考えているなんて知らなかった。
マークが自分のことに関してはちょっと節約志向だなんて知らなかった。
ロイの実際の殺気があんなに怖いなんて、知らなかった。
マークの実際の微笑みが殺人級の麗しさだなんて、知らなかった。
なぁんだ。知らないことだらけじゃないか。
私はロイが好きなんだろうか? マークが好きなんだろうか?
それが分からないのなんて当然だ。こんなにあの人たちのことを知らないんだから。
ゲームで描写されていたのは、ほんの、ほんの一部分だから。私はもっと、彼らのことを知って、考えなきゃならない。
誠実に向き合うためにも。
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そんなわけで、ひとまず彼らに会ったらかけるべき言葉は整理できていたんだよ。
朝食作りの最中に噂を聞くまでは。
「ちょっと待った! それって本当!?」
「あぁ、ミワさん、お久しぶりです。僕、この前まで首都の方へ援軍に出ていたんですよ。あ、紹介します、こっちは僕の妹で」
「よしお帰り! 無事で良かった! 妹さんも事務室でいつもお世話になっています! また今度お喋りにお邪魔します!
そうじゃなくってね。さっき君が言っていた、フェイファー軍に関する話を詳しく聞かせてもらえないかな!?」
噛みつくくらいの勢いで、傭兵隊の青年に詰め寄る。
兄妹とも少し引き気味だけど、気にしていられない。
「詳しくと言われても……僕も噂話で聞いただけで。
フェイファーに聖女が現れた、って、内通していた貴族が漏らしていたらしい、っていうくらいしか……」
緊急事態だ。
仕事を放り出してでも問題ないくらいの、クルスト軍にとっての――私にとっての、緊急事態だ。
「シェフ! ちょっと急用ができたので、これで上がらせてもらいます!!」
「は!? おいコラ、ミワ、どうしたってんだ! まだこれから昼の」
「文句は後ほどマークに言ってください! 軍に関わる一大事です!」
「お? おぉ!? マーカスさんが関わってるなら仕方ない! よし、今日はお疲れさん!!」
私につられて勢いよく、シェフが早退許可を出してくれた。
グッジョブ、師匠!!
******
とりあえずレオナルド様の執務室へ向かえば何とかなるだろうと、廊下を全速力で駆け抜ける。
ちょうど良く執務室へ向かう廊下に書記官さんが立っている。
「たのもー!! レオナルド様とマークはどこですか!?」
私の大声にぎょっとして振り返ってくれた。つんのめるように急ブレーキをかける。
「え? えっと」
「あら、ミワさん。どうしたんですか、今日はお休みですか……って、エプロンしてますし、違いますよね」
「違います、仕事を早退するくらい重要な情報をお二方に持ってきたんです!」
「あらあらぁ、それは大変。イヴァンの代わりに私がご案内しましょうか?」
部屋から出てきてこの事態に遭遇した顔馴染みの侍女さんが、全く動じずに後を引き取ってくれた。
ナイス侍女さん! 仲良くしておいて良かった! 交友関係をコツコツ増やしていたのがこんなところで役に立つんだね!!
「どうした、騒々しいな」
「ミワ。君らしくない慌てようだな」
ちょうど良く、本当に幸運なことに、目的の二人がレオナルド様の執務室に揃っていた。
唖然としている二人に向かって、人払いのお願いを叫ぶ。
何かを察してくれたレオナルド様は、迅速に動いてくれた。
部屋から人が消えた辺りで、ようやく息が落ち着いた。
「フェイファーに聖女が現れたという噂は本当ですか?」
「うむ、そう聞いている」
単刀直入に聞いた私に、あっさりと情報をくれるレオナルド様。何も聞かず答えだけをくれるのが、今はありがたい。
「マズいんです。このタイミングでフェイファーに聖女がいるなんて、ストーリーと大きく外れています」
レオナルド様とマークが、顔を見合わせた。




