3.ファーストエンカウント!
本日三話目です。
いやぁ、本当にリアルな夢ですわ。
全くショートカットされない道のりも、パンプスで長距離を歩く疲労感も、喉の渇きも、空腹感も、しっかりしている。
何よりもさ。痛覚がね。
いやコレ、めっちゃ痛いんですけど!?
私の思い描いた筋書きは、スッと場面変換して本拠地街へ……というものだったのに、意思が反映されないままずっと草原を歩いていた。序盤の草原では何の敵が出てきたんだっけ、と頭の片隅で考えたのがマズかったんだろうか。
でもま、万が一雑魚敵が出てきても、その場になるときっと武器が落ちてたりとか、身体能力が一気に上昇したりとか、この世界の魔術が使えちゃったりするんだよ、それはそれで楽しいかも……とか思ってたよ。
案の定、序盤の雑魚が出てきたよ。ウサギとハリネズミを足して二で割ってそのまま大きくしたようなヤツ。あー、お馴染みのアレじゃーん。じゃ、倒そうか!
――ところがどっこい、不思議な力でスパッと倒せないどころか、むしろこちらがガシガシ痛めつけられる始末。
気付けばあちこち服が破れ、血も滲んできている。痛みも伴って、どんどん自分の動きが鈍くなる。そもそもパンプスで身軽に動き回れるわけもない。
うーん、そろそろこいつ、倒れて欲しいんだけど……。
どれだけ念じても場面がスキップしない。これはアレか、ここに主人公が颯爽と現れて助けてくれるとか、そういうシナリオか?
じゃあそろそろ出てきてくれるかな、と念じた瞬間。
敵が投げてきたデカい木の実が、頭にクリーンヒットした。
あぁ、クリティカルって……こういう感じか…………。
一瞬、ふっと視界が暗転した。
いやいや寝てる場合じゃないでしょ! あ、もしやこれ、場面転換的なアレ?
目を開けてみるとそんなことはなく、さっきよりもよっぽど近くにウサハリネズミ敵が迫っていた。
私の直感が告げる。このままだと殺られる。
――いかん、そんなこと考えたらその通りに夢が進んじゃう。ここでゲームオーバーとかないない!
へたり込んだ私の目前に敵が飛びかかり、鋭い前歯が喉笛に迫るのが、やけにゆっくりと見えた。
ヒュン! ドスッ!!
音とともに敵が左に吹っ飛び、飛び散った僅かな血が、私の顔や胸にかかった。
「え……?」
思わず顔を拭って付いた手のひらの返り血と、倒れたウサネズ敵を交互に見やって呆然としたところで。
「大丈夫ですか、レディ?」
聞き覚えのある涼やかな声が、右上から降ってきた。
******
脳裏に描いた通りのキャラが、そこにいた。
外見25歳くらいの中性的な雰囲気の青年。
白く透き通る肌。本物の宝石のように鮮やかなエメラルドグリーンの瞳。項で結ばれた輝く長いプラチナブロンドの髪。簡素な服ながら高貴な雰囲気。細身の外見には似合わないくらい大きな弓。
そして、前髪の後ろから覗く長く尖った耳。
馬から私の横へ音もなくスッと下り立った彼は、エルフの王子。
「あ、……王子……?」
「おや、私をご存じで? えぇ、キャスパーと申します」
ひくり、と一瞬眉根を寄せた王子だったが、何事もなかったようにゲーム通りの麗しい声で、ゲームよりよほど輝く笑顔を添えて、へたり込んだままの私に恭しく手を差し伸べてくれた。
キャスパー・ルーク・デイ。通称、王子、若様、キャス。
御年308歳になる、エルフの森の第二王子。主人公軍のエルフ隊隊長を務める美男子。
ゲーム序盤で重要な戦力になるエルフ隊には、戦争ターンで非常にお世話になった。
ブルフィアシリーズはフル3DCGで描写されているから、登場キャラは自然に馴染んで夢に出てきてくれるんじゃないかな、と予想していたけれど。
いやこれ、画面で見ていた以上に綺麗になって出てきたね!?
手を取るのを躊躇するくらいに美人。こっちは血と泥でドロドロだからね。
逡巡したのが伝わったのか、
「力が入りませんか? 失礼、レディ」
と言いつつ手袋を外し、少し強引に私の手を取り立ち上がらせてくれた。
あぁ、きゅっと握ってくれた手の形も、すらっとした手からは想像できない少しゴツゴツした肌の手触りも、ほのかな温かみも、しっかりと感じられる。
美人な王子と絡めただけでも素晴らしい夢になったよ! 痛みはリアルじゃない方が良かったんだけどね!
――あれ、なんで王子の手がゴツゴツしてるんだろう。私はサラッと綺麗な手指を想像していたのに……。