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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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28.急に仲良くなった……の?



 もう仕事は切り上げる、との言質を取ったので、本当に無茶をしないよう、リラックス効果の高いラベンダーを使うことにする。

 ついでに、前回よりもがっつり時間をかけて解してやる! ワーカホリックよ、さっさと寝たまえ!


「はい、じゃあ、スツールに座って上半身を脱いでください」

「は? 脱ぐのか?」

「この前よりもしっかりやります。背中の方まで解すので、服は邪魔です」

「お前、この前からやたらと遠慮がなくなったな」

「そうですかね。最初からこんな感じだったと思うんですが?」


 大人しく服を脱ぎながら、しばし考える素振りを見せたマーカスは、何かに思い至ったらしい。

 あぁ、そうか、と口の中で呟いて、今日は自分で手早く髪を結い上げた。


「ミワ」

「はい、なんでしょう」


 何となく、マーカスに名前で呼ばれるのがまだ慣れない。


「俺に対して敬語を使わなくてもいい。名前も、マークと呼んでくれ」

「え? ……あ、はい。ん? うん。うん、分かった、え?」

 

 チラリと流し目をし、ふっと表情を緩ませたマーカス。

 ねぇねぇ、ホントに今日はどうしちゃったの!?




「えっと、じゃあ……まずは肩からやってく、ね」


 口調自体は、ゲームをやっていた頃からタメ口のつもりでいたから、すぐに何とでもなる。むしろ今まで敬語が崩れなかったのが我ながら天晴れだと思っているくらい。

 それでも変に照れてしまって、何となくぎこちない。


 スツールに腰掛けたマーカス――マークを見ると、服を着ていた時よりも背中が広く感じる。

 シュッとしているから細く見えがちだけど、最低限の護身術ができるくらいだから、鍛えてはいるんだろう。しかも姿勢も良い。

 それでも肩凝りが酷くなるんだから相当な根の詰めようだよ。

 これはしっかり血流アップさせて眠くさせねばなるまい。

 ……そうだな、どうせならマークの魔術を使わせてもらおう。


「マーク、タオルを少し熱めに感じる程度まで温めて?」


 前回の様子から予想して用意してくれていたのだろう、傍にあった何枚かのタオルから一枚をとって、彼に渡す。


「俺は施術を受ける側なのに手伝わせる気か」


 口調は相変わらずだけど、苦笑しているだけのようで、響きが格段に優しくなっている。

 あっという間にホットタオルの出来上がり。

 ラベンダーをちょいと垂らしてから、ほふほふ熱さを調節して、肩へと乗せる。

 それだけでも、マークの口からほぅっと深い溜息が出る。


「もしかして、ゆっくりお風呂にも浸かってない?」


 肩甲骨の奥に親指を押し込みながら、ヒアリング。

 欧風だろうと、この世界には浴場があるんだ。コールマン家じゃなくても、マークくらいの身分なら、個人用の浴室が用意されているはず。

 でも、この人ならその時間も惜しみそう。

 

「最近は手っ取り早くシャワーばかりだな」

「やっぱりなー。忙しいと面倒臭くなるのはよーっく分かるけど、できるだけ入るようにして。(ぬる)めのお湯で15分」

「は? そんなに長くか?」

「そんな時間くらい頭を空っぽにしないと、ホントに倒れるよ?」


 職場の後輩でいたんだよ。真面目さ故にずーっとずーっと仕事のことを考え続けて、オンもオフもない状態になって、最後は精神的に調子を崩して辞めてしまった子。

 私がもっと早くに気付いて、フォローしてあげていれば、病気にならなかったかもしれない子。

 マークは強い。もはや超人の域だとも思う。それは知っているけれど、でも、どこかに限界値はあるはずだ。ラスボスですら、攻撃され続ければどこかで倒れる。元の世界からすると超人であろうが、ダメージ受け続けて倒れない人はいないよ。


「……分かった。また心配させてしまったようだな」

「そうだよ、心配。レオナルド様だって絶対心配してるから、残業しろと言わないんじゃないの?」

「そうなんだろうなぁ……」


 筋肉が解れていくのと同時に、心も解れているみたい。案外素直に聞いてくれる。

 タオルをもう一度温めてもらい、今度は目に当てるように促す。しばらくお互い無言のまま背中の凝りを解し、次は肩。


「なぁ、ミワ。君は軍に関わることは口にしないと言っていたが。先日、いいように利用されていたことは気付いているか?」


 急にマークがそんなことを言い出した。


「え? 何の話?」

「やはり知らないままか。トム様とのお茶会、と言えば分かるか?」

「はぁ。確かに急にお茶会に引っ張って行かれたけど。ロイだけじゃなくてマークも知ってたんだ?」


 ロイはさっき、言って良いのかどうか、と言葉を濁していたけれど、マークからその話を振ってくるなら、ここで話しても問題ないのだろう。


「ん? いいように利用、ってことは……やっぱり遊びか!」


 くそー、危ないところだった! やっぱり男が見せてくる好意は簡単に信じちゃダメだ!


「遊び? いや、真面目に使われていたぞ。そのお陰で、国内の反乱分子をあぶり出せたとトム様が喜んでいたからな」


 はい? 何ですと?

 どうやら、私とマークでは『お茶会』の出来事に対する認識が違うらしい。

 マーク曰く、いいように利用されて、反乱分子が判明した。

 あれ? 反乱分子って、要は内乱紛いイベント……?

 わ、私がきっかけでラルドたちが赴くのか!?


「マジで? え、じゃあ、トムから迫られたアレは何? 次も使わせてもらうぞっていう宣言?」

「――迫られた?」

「うん、ロイは知ってたみたいだけど。チャラ男に迫られてどうしよう、ってさっきも相談してたんだよ。ちゃんと相手を知ってから反応を返せ、って結論に落ち着いたんだけど。

 そっかー、あれは恋愛感情じゃなくて、良い駒になってくれて嬉しいよこれからもヨロシク、ってやつだったのかー」


 懸念事項が解消されてスッキリした!

 盆の窪へ親指を押しつけながら、一人うんうん頷く。


「何やら不穏な言葉も聞こえたが、ひとまず置いておく。

 ミワ、結局、軍のために口は出さないが、駒として働くのは問題ないのか?」


 うう、それは悩ましい。

 今回はラルドのイベントを潰さなかったからいいけれど、何かがきっかけでこれからの話が変わってしまうとなると……。

 ここにいる人たちを登場人物として見るのはやめるように努力するけれど、この先の出来事がストーリーとして展開されていくのは振り払えない。

 だってそれが、私が無事に生き残るための根拠だから。




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