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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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132.エピローグ



 ラルドの身の振り方が決まり、私はようやく一息吐いた。


 ゲームでは、ラルドの立王、新しいラヴィソフィ国の建国で終わる。

 スタッフロール後のエピローグで、ケインとセリアの結婚式があったり、ラルドとエマちゃんの結婚式があったり、といくつかのエピソードが会話のないムービー形式で流れていくが、時間軸としてはラスボス戦後約半年といったところだろうか。


 実際はゲームと違ってフェイファーとの合併が行われていない。単純に「旧国をそのまま再興する」という訳にもいかない。

 ラルドは人の上に立つ覚悟は決めたらしいけれど、別に王様でなくても構わないし、そもそも無理して立つ必要はないし、と言っている。もうクルスト王家に拘る必要はないから、と笑いながら。リーダーとして旗印になるのはいいけれど、わざわざ旗の下に人を呼んでこなくてもいいんだよ、と手を振りながら。

 ケインは何か言いたげだったけれど、記憶を全て取り戻した幼馴染みがそう言うのなら、と、苦笑いして終わった。

 とにかく、ラルドは暫く辺境領に居続ける(エマちゃんもいるからね!)。ケインはラルドの補佐を続けたいみたいだし、そうなるとフェイファーとの関わりも続くことになる。

 合併からの立王はなくても、両国の外交に関わるんじゃないかなと想像している。レオナルド様とソニア様の下で勉強中、だそうだ。たまにビエスタ国王の下へも参上しているらしい。


 ストーリーの残り、二組の結婚式については、黙っていてもそのうち行われるだろう。大きな問題ではない。


 つまり、ラルドの今後が決まった時点で、ゲーム時空は終了したのだ。

 これで『使徒』としての私の役割も終わり。というか、無理矢理終わりにさせてもらった。

 政治の道具にされるなんて冗談じゃない。私はゲームの知識を持っていただけの一般人だ。




 ******




「おかえり、お疲れさん」

「うん、ただいま」


 今日はロイの方が早く帰ってきていた。


「南地区の果物屋のばあさんの所だったか?」

「そうそう。お礼に果物を、って言われたけど、規約違反になるからって断って自分で買ってきたよ」


 ちょっとオマケしてもらったのはセーフだと思いたい。

 荷物からリンゴを取り出すと、ロイがキッチンで手早く剥き始める。

 ショリショリと小気味良い音を立てるロイの手元に、ついつい恨みがましい視線を向けてしまう。

 いくら料理が好きでも、リンゴの皮剥きが上手かどうかは別問題だ。


「どうにも悔しいんだよねぇ」

「俺がナイフの扱いに慣れてるのは当然だろうが」


 あっという間にくし形切りのリンゴが皿に盛られる。私が荷物を片付けている間に終わってしまった。


「で、今日は何を作ってきたんだ?」

「えぇとね、サンマ定食っぽくしてきた。お味噌汁と、浅漬けと、塩焼きサンマ」


 私は今、ギルドに登録して出張料理人をやっている。料理人という程大層なものではないけれどね。家庭料理レベルだからこそ、金額も抑えめで需要もそこそこ。

 怪我をした奥さんの代わりに夕食を、とか、足腰が悪いご老人のお宅で数日分の食事の作り置きを、とか、仕事で一日だけ空けるからその間の子供の食事を、とか、事情は色々。

 ギルドランクが低くとも、城表のキッチンで働いていたという経歴はなかなかに強力だ。

 お礼に、というわけでもないけれど、新しいレシピの開発をシェフたちと共同で行っている。材料の産地が変わると味も変わるものなんだよ。元の世界の仕事が活かされるのは嬉しい。


「ロイの方は早かったんだね」

「師匠が一緒だったからな」


 ロイもギルド員として仕事をしているけれど、戦士さんの鍛錬や若手の育成をメインに仕事を選んでいる。今日はメーヴに駐留している領騎士さんの鍛錬だったはず。

 傭兵を引退したロイは、用心棒のような仕事も極力取らず、危険性の低い仕事を選んでいる。

 そのうちメーヴのギルドマスターに、という話も出ているそうだ。


「そういや、奥様からの連絡が来てたぞ」

「あー……だったら、明日登城しようかな」

「俺も行く。ついでにレオ様に兵の鍛錬具合を聞いてくるかな」


 ギルド員ミワに指名依頼が来てしまうのだ。ソニア様から。

 何って、当然、オイルに関する仕事だ。

 嫌ではないから、断ることはしない。ソニア様の方も、その辺りの匙加減を考えて依頼してくる。上手いこと囲われている気がしなくもない。


 さて、今日の夕食は何にしよう、おばあちゃんの所と同じものにしようかな、と考えながら食材を漁る。


「あー……そういや」


 ロイの報告はまだ続くらしい。


「シオンから、そろそろ遊びに行っても良いかって連絡も来てたな」


 私が引っ越した後も、お互い落ち着くまでは遊びに行くのは自重する、って紫音に言われていた。

 そうだね、そろそろ来てもらっても良いかも。


「……あと」


 徐々に歯切れが悪くなっていくロイに疑問を抱きつつ、野菜を取り出していく。


「……気に入ると良いんだが」


 差し出された物を見て、手元が狂って大根を足に落としてしまった。地味に痛くて蹲る。

 ロイの手の中にあったのは、華奢な銀色の指輪だった。

 言葉も出ないまま受け取って目の前に翳してみると、デザインも石の大きさも私の好みど真ん中。

 ただ、一緒に細い鎖を渡された。どういう意味なのか……。


「料理の仕事してる最中に指輪なんかできないだろ」


 鎖に指輪を通してペンダントにしてくれた。

 ふとロイの首を見ると、同じようなデザインの太い指輪がIDタグの代わりにぶら下がっている。


「タグはもう必要ないからな」


 停戦になったけれどフェイファーとは微妙な緊張関係が続いているし、魔物がいなくなっても人間同士による殺傷事件は起こり得る。

 だけどロイは、どれだけ凄い戦闘力を持っていても戦士引退を選んだ。


 だから、私はもう、不安で引き攣った笑顔にはならない。


「受け取ってもらえたと考えていいんだな?」

「勿論、ありがたく頂戴します」


 おどけて捧げ持ってから、ペンダントを身に着ける。

 ん? お揃いってことは、これって結婚指輪とかそういうヤツ?


「明日、登城するんだから、一緒に手続きするぞ」

「手続き……」


 話について行けない私の頬を人差し指で突いてから、ガシガシ頭を掻き回して後ろを向くロイ。


「戸籍関係を管理する部署。これで、名実ともに家族だ」


 ロイの耳の端が少し赤い。その背中に向かって飛びつく。


「家族って嬉しい響きだね」

「そうだな」


 こういう時、何て言えば良いんだろう。

 ありがとう? これから頑張ろう? すっと一緒だよ? ……あ。


「私もロイを守ってあげるから!」


 吹き出した振動が身体を伝わってくる。


 どちらかが死ぬその時まで、守り守られて生きていきたいんだ。




これにて完結となります。長い話にお付き合いいただき、ありがとうございました!


今後は不定期に番外編を更新していく予定です。

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