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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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12.嫌味を言われて凹む程、甘ちゃんではないですよ



 ロイとの邂逅は、恋愛偏差値の低い私にはだいぶ強烈な一撃だった。

 単なるハグだろうと異性に抱きしめられた経験がないからね! そもそも、女同士でハグした経験はあっても、まず私の方が背が高いから、相手の襟ぐりに顔が当たるなんてこと自体初めてだったよ!

 ドキドキしながらベッドでゴロゴロ悶えていたんだけど、仕事初日の疲れも手伝って、気付くと寝落ちしていた。

 

 起きたら少し落ち着いた。あ、嘘。思い出したらやっぱり耳が熱くなるわ。

 昨日別れ際にロイと約束した飲み会――五日後の夜までには平静を取り戻しておかなければ。




 今日の朝食は中華粥と卵スープ、デザートの杏仁豆腐もどき。正確に言うと、バニラエッセンスを使った牛乳寒天とフルーツ。牛乳寒天だけは前日帰り際に仕込んでおいたから、今朝の作業はだいぶ楽。

 レシピを見ないで作れる料理はあまり多くないから、朝食に向いたあっさり系に限ると、いくつかのルーティンになりそうなのが申し訳ないところ。その辺は追々、シェフやコックの皆さんと要相談だな。


 オープンして間もなく。まだ食べに来る人も少ない時に、キッチンの入り口にマーカスが現れた。

 報告は受けていたんだろう。実際に私が調理していること自体は、文句は言われなかったものの。


「ふん、仕事はしているのか。暮らし始めて早々、男と逢い引きなんかしているから、レオナルド様に訴えたあの言葉、ただのでまかせかと思ったんだが」


 …………? 逢い引き?

 えっ、昨夜のロイのこと?


「ロイとは逢い引きじゃなくて、たまたま会っただけです。マーカスさんこそ、こそこそ私のこと監視しないでくださいよ」


 ムッとして言い返してやる。


「お前は阿呆なのか。得体の知れない人間を監視するのは当たり前だろうが」


 そりゃそうか。え、でもラルドたちに監視がついていたような描写はなかったぞ? 私だけ?

 疚しいことはなくても、色々見られてるとなると、なんかちょっと暮らしにくいんですけど……。


「大人しくしているのならば、何を見られても問題ないだろう? 疑わしい行動はしないことだ」


 言うだけ言って、さっさとキッチンを後にしやがった。あらやだ、言葉が汚くなったわ、おほほ。


「ミワ。マーカスさんはああ言っていたが、お前さんの朝食、朝一番に来て残さず食べて行ったぞ。少なくとも、仕事ぶりは認められたんじゃないのか?」


 苦笑を浮かべたシェフ。

 あー。毒の混入がどうとか言っていたけど、ちゃんと食べてくれたのか。何だか複雑な気分。

 純粋に嬉しいと思えないのは、どう考えてもさっきの嫌味のせいだよ!




 ******




 ……という愚痴をですね、当のロイに話しています。


 あれからは比較的何事もなく――新米コックに興味を持ったらしい兵士さんや事務のお姉さんの何人かとお話したり、城内を歩いている最中に遠目で美人騎士のセリアを見かけたり、中途半端な時間に風呂に入りにくる私に番台のお婆ちゃんが何かと構ってくれるようになったり、という平穏さ――ロイとの飲み会の夜になった。


 職場の食堂、今は酒場も兼ねているため、酒好きな大人たちがあちこちでワイワイやっている。その一角、小さなテーブルで私作のつまみをつつきながら、近況報告。

 私は、明日の仕事に備えてアルコール控えめなココナッツミルクのカクテル。その向かいでロイはビールジョッキを豪快に呷った。

 その仕草に、数日前の紫音を重ねてしまい、慌てて首を振る。


「ロイにまで変な誤解をかけられたら大変だったけど、そうではなかったんだね?」

「あぁ、別にマークには何も言われてないぞ。そういや、次の朝にちょっと鼻を鳴らされた覚えもあるが、特段気にしてなかったからなぁ。今言われて思い出したくらいだ」

「それなら良かった。私はちょっとムカッとしただけで実害はないからいいけど、ロイは問題になってたら仕事上まずいかな、って心配したから」

「……俺としては…………まま……いんだがな」

「ん? 何て言った?」


 ボソッとロイが何か言ったけど、聞き取れなかった。

 聞き返すけど、笑って首を振って誤魔化された。気になるけど、ロイが言いたがらないならまぁいっか。


「それよりも。ミワの世界の話、聞かせてくれよな」

「あー、うん、最初にそう言ってたもんね。ただ、ここだと……」


 周りを見渡す。

 酒場特有の喧噪はあるものの、私たちの会話が全く聞かれない保証はない。

 レオナルド様と、異世界の話は大っぴらにしない、という約束をした手前、人が多い場所で堂々と話をするのも憚られる。

 ロイもそれに思い至ったんだろう、「あー……そういやそうだな」と残念そうな顔。


「あ、じゃあさ。今度、私とロイの休みが被った時に、城下町に連れてってくれない? その時に歩きながら話すよ。それならよっぽどのことがない限り、話を聞き咎められないだろうし!」


 うん、我ながら名案。

 ロイと一緒なら城下町に出てもマーカスに文句は言われないだろうし、城下にしかない物も買える。これで城下町マップも堪能できるって寸法さ! 一箇所に留まらなければ少し突っ込んだ会話もできるでしょ。

 

「……ミワがそれでいいなら、俺としても願ったり叶ったりだがな」

 

 やっぱり何か言いたげなロイだけど、反対はされなかったからいいんだよね?

 よしっ、そうと決まれば、お仕事頑張って、休みの日に給料前借りの交渉をしなくちゃね。





「つまり、休日に俺とデートってことなんだけど。あれ、分かってなさそうだな……」

 

 現在、ロイが一歩リード。



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