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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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104.ゼラニウム



 その後も一通り今後の動きを話し合った後、夕方に散会した。

 疲れたけれど、私は一度執務室に戻って情報をまとめる。

 神に聞いてもらわなきゃならないことを、あらかじめまとめておかなきゃならないからね。紫音相手なら日本語で良いから凄く楽。凄く凄ーーーく楽!


 一生懸命手を動かして紙の束を量産していると、珍しく目を丸くした秘書官のエリオ君がハーブティーを淹れてくれた。ミントティーは私が彼に教えた物。リフレッシュできるんだよ、という話を覚えていてくれたらしい。

 今日は手が滑るといけないからオイルは封印、ジェルタイプは丁度切らしていたところだったから助かった。やっぱり有能だね。


 一心不乱に手を動かしているのには他にも理由がある。

 ロイの去就について、今は何も考えたくなかった。

 後から部屋に戻ってきたロイに、私はいつも通りに笑えていただろうか。




 ******




 夕食時、私とロイはいつも通り食堂へと向かう。今日は紫音も一緒。

 オイルに関係する仕事をしながら夕食を取るんだけど、今回はソニア様から指示された「聖女コレクション」についても話をするんだって。


 フェイファー、ビエスタ両国に優先流通させるアロマオイル。

 前者は「神聖軍総司令官で第三皇子のシヴァが選んだ香り」「聖女の紫音が選んだ香り」という触れ込みの物。

 後者は「ミントのジェルタイプ」。……既にオイルじゃないけれど、便宜上オイルプロジェクトに入っている。

 今回は更に聖女の選んだ香りを増やして、紫音の物はフェイファーでの単独販売、エマちゃんの物はジェルタイプにしてビエスタでの単独販売、とするらしい。

 他の香りは全体に流通させるから、限定販売はこの五種類。限定に弱い人は一定数いるから、場合によっては国を跨いでの購買が起こるだろうね、ってソニア様からの書類に書いてあった。


「そういえば、転売屋や違法輸出入に関してはどうなるのかな」

「製造や流通に関してはソニア様が元締めだから、ある程度操作するとは言っていたよ」


 私がトニーさんたちと情報共有している傍で、てんばいやー死すべし、と紫音が握り拳を作っている。そっか、ライブチケットに関してよくそんな話をしていたよね。

 聖女の怒りを買うよ、とか言っても無理かな? どこまで対処できるか知らないけど、まぁそこはソニア様の管轄だから。ノータッチでいこう。


「で、新しく流通に乗せることになったのが、昨日運んでたって昼に報告したゼラニウム」

「どんな香りなのかイマイチ覚えてないなぁ」


 森に出張した時に色々試した覚えがあるんだけど、どうにも記憶の彼方だ。サンプルをもらって確認している横で、紫音が、


「ゼラニウムって、ホームセンターの園芸売り場で『虫除け草』って売られてたよ」


 と教えてくれる。


「え、食虫植物なの?」

「違います」


 サッシュさんに被せ気味で否定された。


「割と普通の葉っぱだったよ? あとね、魔除け草とも書かれてた」

「魔除け草ねぇ………………ん? 魔除け?」


 四人、思わず顔を見合わせる。そんな様子に紫音は一人コテンと首を傾げる。


「サッシュさん、魔除けの香って何からできてるか分かります?」

「いえ、あれは我々の作ではないのですよ」

「トニーさん」

「いや、オレたちもレシピ知らないよ。だいたい、自分らで簡単に作れるならもっとガンガン作って森との行き来を楽にしてるって。わざわざ馬車でのんびり動く必要もないだろ」


 そういえば、最初の出張の時は「秘蔵の香を出してきた」って言ってたっけ。


「何にしてもさ、魔除けの香が効かないのにこれだと効くってのはおかしくないか?」

「香には色んな成分が入っているせいで……とか」

「じゃあもっと効く物が世の中にあっても良いよな」

「逆に、あの場により効果を高める物質があったと考えるのは」

「でも、エタノールにアガー、あとは水でしょ?」


 三人が腕を組み、ロイはその様子を黙って見つめ、紫音はプリンを平らげている。そのスプーンを止めて、


「これも神様に聞いておこうか?」


 と申し出てくれる。


「そんな細かいことを聞くよりもっと大事な話があるでしょ」

「まぁまぁ、先に大事なことを聞いて、書類とか伝令とか持っていってもらって、そんで細々したこと聞けばいいじゃない。

 ついでにお香の製作者聞いとくよ。聞けば分かるなら聞いちゃった方がいいって。それに、色々話を聞くのが楽しみだもん」


 気になると言えば気になるんだけど、うーん、どうなんだろう。

 新入社員の時に「ある程度調べてから質問するか」「時間の無駄だからさっさと聞いて仕事を進めるべきか」って同期で論争になったことを思い出す。あの時の結論は何だったっけ。私が聞かれる側に回った時は、どっちのタイプもいたなぁ。




「で、ミワさん。ミワさんの方はどうなってるんです?」


 トニーさんがソーダを飲みながら尋ねてくる。

 ユタル神殿へ向かう馬車の中で半分寝ながら考えていたことを話す。


 オイルを作ったこと自体は、ゲームとの変化をつけるのに有効な手段だったと思う。邪神戦の障害になるファクターを留めておく働きに期待する。

 更に、実際にこの世界の邪神戦あるいは雑魚戦で使えるアイテムかどうかを検証したい。戦闘メンバーだけでなく誰でも使える、料理アイテムのような感じではないだろうか。

 予防医学のような役割は本来プレイヤーの仕事だけれど、それを本人たちに担ってもらうアイテムじゃないかと予想している。でも効果値が微妙かもしれないから過信はできない。

 それらを踏まえて、まずはオイルが装備アイテムになり得るかどうかを調べたい。


 私の話を受けて、すぐにサッシュさんが小ぶりな瓶を荷物からごそごそと取り出す。短い試験管って感じか。蓋はスクリュータイプだから中身は漏れなさそう。


「こういうことでは……ないようですね」

「荷物から取り出すっていうのはそうなんですけど。常に鞄を持ち歩いている人ならこれでもいいんでしょうけど、どちらかと言うとポケットに入れておいていつでもすぐに取り出せるイメージというか」


 ロイを振り返って例を示す。


「ほら、私がここに来て縛られてた時にさ」

「縛られてたの!?」

「うん、紫音、もうそれはいいからね。

 えっと、私がボロボロなのを見て、乾パンと水をくれたでしょ?」


 腕組みをしたままのロイが真顔で頷く。


「つまりはあれが装備アイテム。その時ポケットか小袋か何かに持っていた物で、武器防具とは別物で」


 ゲームでもロイの初期装備アイテムが乾パンと水だったんだよね。


「他にもね、この世界で最初に助けてくれたキャスパー王子とその従者さんに、エルフの塗り薬を使わせてもらったんだ。携行品だったってことだよね。

 そういう感じで持ち歩きができるかなー、と」


 ふむふむ、とトニーさんが頷きながら小瓶をポケットへ滑り込ませている。彼の服は白衣を短くしたような物だから、ポケットが大きめ。何の苦もなく収まった。他にいくつか装備できそうだ。

 サッシュさんの服にはポケットがないらしく「この場合は今の鞄が携行品入れということですね」と納得している模様。


「ということで、効果効能を既に調べているオイルで、実地での予防医学の役割を持たせられるか、という話に繋がるんです」


 現状で効能ありとして使われているオイルは限られている。

 ミントはリフレッシュと日焼け後の鎮静。

 レモングラスは集中力アップとコリ解し。ただしシヴァが選んでいるから使えない。

 ラベンダーはリラックスと安眠。

 ティーツリーは抗菌作用。

 イランイラン。これも紫音が選んでいる。効能って調べきれてたっけ?


「いえ、効能を差し置いても、マッサージの血流アップで怪我の発生率を下げたり、香りそのもので気力を満たして魔力減少率を下げたり……薬でカバーできなかった面を補う物だと認識しています。

 ですので、装備アイテムという考え方は魅力的ですね。

 わざわざ携行するほどの物でもないのなら早々に見切りを付ければ良いだけですし、それによって仕事の内容も変わってきます」


 サッシュさんが小瓶を鞄から出し始める。


「実地テスト、早速やってみましょうか」


 ロイに山盛り持たせて、「戦闘員の皆様によろしく頼みますね」と有無を言わさない雰囲気の麗しのエルフ。

 サッシュさんって、結構怖いところがあるんだよね……。

 何も言うまい、と、トニーさんと目配せを交わした。




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