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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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103.フェイファー邪神の戦略



 複雑な心境。

 ロイは危険度の低い仕事になる。それにホッとする自分がいる。

 一方で邪神戦の戦力がダウンする。それを怖れる自分もいる。

 ロイが自分と離れて一人フェイファーへ行く。それが嫌だと思う自分がいる。

 一方で戦士を書記官として使っている現状を変えられる。それに安心する自分もいる。


 お師匠さんは方々から「強い」と認められている人。その人が太鼓判を押すのがロイ。本当に討伐隊に参加しなくていいのか。

 だけど邪神の目の前にロイを送り出す覚悟がまだ出来ていない。その案に甘えてしまいたい。それでいいのか。


「肝心の対邪神の戦力はどう考えている」


 私の気持ちを知ってか知らずか……いや、たぶん見当は付いているのだろうレオナルド様が、こちらをちらりと見てからお師匠さんに向き直る。


「そこまでオレに振るなよ」


 ガシガシと後頭部を掻き回してから背もたれに寄りかかるお師匠さん。


「戦力を割けと言っているのはダリスだろう」

「そりゃそうだが、ほれ、隣に座ってる軍師が何やら考えてるぞ」

「まずは、大前提としてクルスト軍やフェイファー軍も動きます。可能であれば援軍として参加していた国軍も……──」


 ひっきりなしに動かしていたペンを止め、書類から目を上げて説明を始めるマーク。

 話が耳をすり抜けていく。私の知りたいのはそうじゃない。違う、今の話もそうなんだけど。どうにももどかしい。重要だと分かっていてもなかなか頭に入ってこない。


「──……ですので、ミワの話からすると直接対決できる人数はさほど多くない。人数は絞らなければならない」


 私の名前が出てきて、漸く頭が動き出す。


「一つ目の案は、対邪神チームにロイと同等以上の戦力となる人物を呼んでくること。それこそギルドを頼るのも手ですね」

「アシュカやマリクがもういるだろう」

「彼らは既に戦力として組み込んでいますよ。それ以外のB級です」


 そうだ、マリクさんも強いんだった。ゲームには出てきていないキャラクター、だけど現実では使わないと勿体ない人物。


「二つ目は、ロイはアルバーノ組に入れず邪神組として動くこと」


 どくんと心臓が大きく跳ねる。


「おいおい、オレの依頼はどうなる」

「ええ、ですからロイには『ダリス氏だけでは対処できない()()()()()()戦いに加わってもらう』という形になります。

 邪神に相対してもらう予定のアシュカやマリクとも馴染みがある。他のギルド員を呼んでくるよりも、ロイが加わった方が全員が動きやすいでしょう」


 それもそうだ、とアッサリ納得したお師匠さん。


「それならオレもそっち側か?」

「いえ、アルバーノ組の統括役は必要です。大人数を率いるのに慣れているあなたが適任かと」


 一番大きいはずの戦力をばっさりと切り捨てたマーク。

 それでいいの? 私はどうにも不安が拭えない。


「三つ目は、あえてミワの知るゲーム通り五人だけで戦ってもらう」

「え?」


 複数人から声が漏れる。私もその一人。


「解雇するのは別の人間……例えばアシュカでもいい。あなたが声をかけるに足る人物であれば周囲は納得します。そうしておいて、ラルド、お嬢様、ケイン、ロイ、セリアで対処に当たる」

「えーと、あたしはいいんですか?」


 紫音が張り詰めた空気を壊すように明るく尋ねる。


「はっきり言うが、シオンは戦闘の役には立たない。むしろ神との交信役をなくす方が辛い」

「それならエマちゃんやラルド君もじゃないの? もう一体邪神はいるんでしょ? 無茶して何かあったら大変」


 うんうんとラルドが激しく首を振っている。エマちゃんを見ているから、自分のことより彼女のことを心配しているんだろう。


「浄化と王杖が必須である限り二人は戦闘に加わらなければならないぞ」

「そういえばそっかー……でも、五人だけっていうのは無茶じゃないんですか?」


 息が苦しい。だって、一番危険だもの。ロイだけじゃない、五人全員が危険。下手すると、ラルドとエマちゃんを守って残り三人が……なんて展開だってあり得る。

 私の顔色が余程悪かったのか、私を目の端に捉えたマークが僅かに眉間の皺を深くした。


「考えてみてほしい。ゲームで五人以外が戦闘に加わらなかったのは何故か」

「それは主人公パーティーとして操作できるのがその五人だけだったから」

「それにしても、その場に支援する人間がいてもいいだろう。ノンプレイヤーキャラクター、だったか?」


 NPC。その名の通り、プレイヤーが操作できない登場人物だ。レオナルド様やマーク、キャスパー王子等が該当する。

 その中でも、キャスパー王子は戦争ターンではエルフ隊を率いて戦いに参加する。初期は完全にオートだけれど、ブルサンではクルスト軍としてラルドの指揮下に入る……つまりプレイヤーがエルフ隊も動かすことになる。

 普段の戦闘には参加しないけれど、戦うキャラと見てもいいかもしれない。

 でもブルサンの邪神戦では、王子は外で結界を張る役目をしていて……。


「そこだ。少なくともその時には支援が行われている」

「えーと?」


 私を含め、何人かがマークの話を飲み込めていない。もっと分かりやすく頼む。


「何故外にいるだけなのか? キャスパー殿はともかく、五人以外の誰かしらが支援役としてその場にいてもいいはずだろう?

 例えば、前回戦ったはずのシャイン殿がいないのは何故だ?」


 ゲームのお約束みたいなもので、と言いかけて止まる。

 今話しているのは、そのお約束がパズルのピースなのかもしれない、という仮定だ。


「それが出てきていないということは、この五人で戦うことがキーになっているのかもしれない」


 だけど。だけどさ。その仮定が外れていた時のリスクが大きすぎるじゃないの!


「四つ目は」


 私の内心は置いて行かれたまま、マークの説明が次へと移る。


「前提を崩す。あえてミワの話から外して戦闘空間を広げ、それによって直接対決できる人数を増やす」


 ほう、と誰かの微かな呟きが聞こえる。


「ただしこれはあまり採りたくない。騒動が大きくなればなるほど付随する混乱も多くなる」


 どうやら私が最初に放心していた時に説明された軍の仕事が、その辺りに関わるものらしい。案四はほぼナシ、と。

 その後更にいくつかの案が提示されたけれど、場の流れを見ると、どうやろ最初の三つのうちどれかになりそうな雰囲気。


 さっきから喉が異様に渇く。紫音にお代わりをもらった水は、もうない。




 はいはーい、と紫音が挙手した。


「じゃ、すぐに神様に聞いてくるね。質問がハッキリしているほど答ももらいやすいんだし」


 場が一瞬固まった。

 そうか、皆はまだ神に質問する(検索かける)って概念に馴染んでいないんだ。だからこそ、神との対話がしやすいのは現代日本の人間ってこと……? まぁいいか、この際それはどうでも良い。


「モタモタしてる時間がないのも分かるけど、どっちにしろラルド君たちは首都に行ってこないとダメなんでしょ?

 で、邪神戦に茶々入れられないために、ダリスさんの案を採るか、シヴァの案を採るか、それともマーカスさんが新しく何か考えるか、その辺は未定、と。そんでもって、その案を受けて邪神戦のメンバーを決める。

 つまり、その辺の必要な情報があれば話は進む」


 うむ、とレオナルド様が頷く。


「さっき言ってたアシュ……なんとかさんみたいに関係する人に声をかけておくとか、物資をかき集めるとか、共通する準備はあるわけで。そっちは勿論先に手を着けるんですよね?」


 マークとハーミッドが頷く。


「じゃ、あと数日待っててください」


 あっけらかんと笑う紫音は、やっぱりいつも通り強い子だ。




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