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Yの遺伝子 赤い海  作者: 阿彦
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1話 罪人


その昔、日輪のごとく栄えていた王国があった。


時の皇帝は、東西南北に将軍を配置し、近隣の民族を蹂躙しながら勢力を拡大させていった。東と西と南の将軍は、智略と勇猛さを兼ね備えており、次々と敵の城を落としていった。しかし、北の将軍は、北方の天候が厳しいこと、敵である蛮族の騎馬軍団に苦戦し、連戦連敗であった。みな、北の将軍は無能だと噂し、皇帝の悩みの種であった。


ある日、王国を揺るがす大事件が起きた。王国の金庫番であった男が、金銀財宝を持ち出して逃げ出したのだ。皇帝は怒り狂い、罪人を捕まえて、八つ裂きにしろと命令を出した。ところが、金庫番の男は策略謀略を駆使して、東の海の向こうの島に逃げてしまった。さすがに、東の海を超えたところには、誰がいるのか、何があるのか分からず、皇帝は困り果てた。


そこで、皇帝の側近中の側近である南の将軍に相談をした。


「わたしは、南方の闘いで余裕がありません。ここは、戦果の上がらない北の将軍を更迭して、罪人を追討されましょう。民衆もそれで納得します」


皇帝はこれは名案だと感心した。北の将軍が戦線から抜けたとしても、我が王国は揺るぐことはない。万が一、東の海の向こうに新たな強敵がいて、将軍が討たれたとしても、全く問題はない。皇帝は、北の将軍を呼び出した。追討将軍として任命し、100人の兵を与えた。


北の将軍は、追討将軍となった。東の海の向こうには何があるか全くわからない未開の地だ。皇帝の命令に背くことは死を意味する。渋々、兵士を連れて、東の海を渡った。


たどり着いた島は、追討将軍が想像していたものとは全く違った。この流れ着いた土地は、これまで住んできたとこよりも山が富んでおり、水が澄みきって、美しい。なによりも、通り抜ける風が心地よい。しかも、人があまり住み着いている形跡もない。とりあえず、皇帝の命令は絶対である。この地に罪人を探し出す拠点を設けることにした。


連れてきた兵士とともに捜索した。この島は国土は狭い。川はまるで滝のように流れが速く、山は険しい。屈強な兵士達も疲労困憊し、罪人探しは混迷を極めた。追討将軍は、これ以上の捜索は限界だと考え、祖国へ帰ろうとした。


ところが、探し続けた罪人は、向こうからやってきた。追討将軍は大いに喜び、罪人を縄で縛り上げた。罪人はこう言った。


「将軍、わたしの話を聞いてください。私達の祖国は、残念ながらすでに滅亡しています。いま、私を連れて、国に帰っても、何もありません。それよりも、この島で我々の王国を作りましょう!!」


追討将軍は、その罪人は死刑を逃れるために嘘をついていると思った。ただ、祖国を離れて2年にもなる。祖国へ帰るための食糧もない。とりあえず、罪人を捕まえた報告と皇帝に帰りの手配を依頼するため、使者を派遣した。


数ヶ月後、真っ青な顔をした使者が、命からがら戻ってきた。使者からの報告では、我々の祖国はすでに無くなっていた。我々がこちらに向かった頃、財政悪化が深刻となり、南の将軍が謀反を起こしたことで、あっさり滅びてしまったとのことだった。真実は、罪人があらかじめ、使者に大金を渡し、虚偽の報告させたものだった。


追討将軍は、帰るところがなくなってしまい、途方にくれた。罪人がこう囁いた。


「将軍は、お国のために命を捧げてきました。しかしながら、その国はすでになくなり、すべてを失ってしまいました。将軍、失くしたものは奪い返せばいいのです。ご存知ないかもしれませんが、この山の向こうに、庄の国という裕福な国があります。この縄を解いて頂ければ、貢物を待って、彼らを騙してきます。その後に、庄の国を奪って、王国を築いて見せましょう」


追討将軍は考えた。罪人の言うことも一理ある。今まで、私は皇帝の命令に従い、それこそ死ぬ気で戦ってきた。なのに、恩賞を与えられるどころか、すべてを失った。残してきた家族の安否も分からない。

私についてきた兵たちも、帰るところを失ってしまい嘆いている。これも、あの無能な皇帝のせいだ。ないものは、他所から奪えばよい。そして、私の理想の国を作ればよい。


追討将軍は皇帝を名乗り、罪人を平和の使者として、「庄の国」へ派遣した。



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