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しがない文学同好会の日常  作者: 間島健斗
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 壁に掛けられているヘッドフォンはワイヤレスタイプの物なのか出力端子に繋ぐコードが付いていない。

 白を基調とした空間には、勉強机とベット、ぬいぐるみやお花のような比較的女の子が好みそうなものは何一つ置いてなくて、あるのは、彼女が背伸びをしてやっと手が届きそうなほど高い本棚に整頓された分厚い文芸書と文庫本が詰まっていた。

 板張りのフローリングは、顔が映るのではないかと思ってしまうくらいピカピカに磨かれている。

 気が付くと僕は、ここまで自転車で二人乗りをして送ってきた少女の自室に上がり込んでいた。

 こんな言い方をすると知らぬ間にとか、僕の意思とは関係なくといった意味合いが強くなると思うのだけれど、全くその通りなのである。

 そびえたっている高層マンションの見るからに高そうなエントランスを見て、顔が引き攣らないようにすましながら少女が家に帰っていくところを眺めていると彼女は途中で立ち止まって「自転車はここに停めておいて」と言った。

 あまりにも自然にそう言われたため僕は思わず、自転車を駐輪所らしきところに停めて彼女の背中を追って彼女が住んでいる家に上がり込むことになったのである。

 少女は、勉強机の椅子に座って僕はフローリングに座っている。

 二人とも体育座りをしながら、気まずい沈黙が流れていた。

 ここは年長者である僕が話を切り出さなくてはいけない。

 このままでは、少女が椅子に体育座りをしたオブジェと化したまま日が暮れてしまう。

 仕方がないから大人な僕が彼女の時間を進めてあげようじゃないか。


「……」


 しまった。

 僕は小学校の女の子と共有できるような話のストックを持っていなかった。

 というか、ろくに同世代と語りあえるような話もなかった。


「給食で何が一番おいしい?」


 結局、僕が少し考えて出てきたのはあたりさわりのなさすぎる質問だった。


「別においしいものなんてないよ、食べられて、お腹いっぱいになったらそれだけでいいし」


 この少女は一体何がしたいのだろう? 

 僕が気まずい沈黙を終わらせるための会話の糸口をやっとの思いで探し当てたのに投げ捨てるように会話を終わらせた。


「お兄さんはこの家を見てどう思った?」


 彼女は、重たい口を開いてそう言った。

 天井の高い自動ドアの有人エントランスにオートロック、指紋認証完備のこのマンションは率直な感想としてホテルみたいだと思った。

 家の中に入っても壁紙と家具が統一感があって、モデルルームと言われたらそうだと思ってしまうほど整頓された空間が広がっていた。

 だけど、この空間からは、誰かが生活している姿が想像することが出来ず、すこしさみしいような印象を受ける。


「あまりにも僕の家と違いすぎて、家にいる感覚が無いよ、なんかリゾートホテルにでも来たみたいだ」


「そっか、そうだよね、この家はかなり気味が悪い。リビング見たでしょ、あの、殺風景なテーブルで家族団らんしている様子の想像がつく?つかないよね、実際、あの三つの椅子がまともに全部埋まったことなんてないから」


 綺麗に整理がされているというより、そもそも物が移動しないから、部屋が散らかることが無いといった方が正しいだろうか。

 確かにこの家からはあるべき人間の営みのようなものが希薄であるような様子がうかがえる。

 不自然なほど部屋中が整理されているのだ。


「家族ってなんなんだろうね、親にとっての子供ってなんなんだろう」


「それにこたえることはとても難しいことだと思うよ。その答えは家族の数だけあると思うからね。君には君だけの答えがあると思う」


「じゃあ、お兄さんにとっての答えってなに?」


「僕にとっての答えか、僕にとっての家族は叔母さんってことになるんだけど、僕にとっての家族は自分と一緒くらい大切なものだよ。家族のためだったら、僕ができることは少しでもしてあげたい、そう思えるものだね、じゃあ、僕も聞くけど、君にとっての家族って何?」


「……そんなのわかんない、でもお兄さんが言っているようには思えないのは確かだよ」


「そっか、そんなのわかんないよな、僕だってわかんないもん、家族とか、子供とか親とかわからないよね、でも、君はつらいかもしれないけど、今の状況から逃げちゃだめだよ、そして早く大人になる、そしたら君は自分でどこへだって行くことが出来るんだ」


「大人になるってどういうことなの?」


「そんなのは単純だよ、自分のことを自分で責任を取ることが出来たらそれはもう大人だ。別に年齢なんかは関係ないんだ」


「すごい決まった、みたいな顔してるけど、さっきからずっと口の端っこにソースみたいなのついているからね」


 そうって、彼女は僕を小馬鹿にしたように笑った。

 


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