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しがない文学同好会の日常  作者: 間島健斗
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 太陽は僕たちのほとんど真上を通り過ぎて、西に傾いてきている。

 夕方の海辺は、昼に砂浜が吸収した熱が十二分に残っていて、暑すぎるくらいだった。

 海の家にバイトに来てからの一週間は忙しかったこともあってか、あっという間に終わっていった気がする。

 すっかり息が合うようになってきた荻野さんとも今日で最後だった。

 最終日の今日は、仕事に慣れてきていたということもあってか、そこまで忙しく感じはしなかった。

 もともと一週間しかいないということを知っていたのか、荻野さんは、「今日はなんでも好きなもの飲み食いしていいぞ、金は俺が払っておくから」と何とも男前なことを言ってくれた。

 僕がお言葉に甘えて、海鮮焼き用の新鮮な魚介類をふんだんに使った海鮮焼きそばを作って食べようとすると、「少しは遠慮ってもんがあんだろ」と言って屈託なく笑った。

 

「三人とも今日までお疲れ様、お待ちかねの給料タイムだよ、まずは日野さん」


 荻野さんに手伝いが一区切りしたところで美晴さんのところまで行くように言われたので向かうとそこには日野と城崎もいて、美晴さんの手には、三人それぞれの名前の書かれたお年玉を入れるようなポチ袋が握られている。


「はいっ!」


 日野は歯切れのいい返事をして美晴さんの前に立った。

 さっきまで海の家の中を動き回っていたこともあって、熱が籠っているのか、Tシャツの(すそ)をつまんで中に空気を送っている。


「日野さんは毎日元気いっぱいに接客を頑張ってくれてありがとね、大変だったと思うけど、嫌な顔一つしなかったその心意気はきっと将来仕事をする上でも生きてくると思う、一週間お疲れさまでした」


「ありがとうございます。分からないことだらけでしたけど、お店の人はみんな優しかったですし、お客さんもいい人ばっかりで楽しかったです」


 日野はそう言うと、美晴さんからポチ袋を受けとってもう一度「ありがとうございました」と言って礼をした。


「じゃあ、次は城崎さんだね」


 「はい」っと言って城崎も日野がそうしたように美晴さんの前に行った。

 城崎は、日野とは対照的に汗をかいている様子もなく、紫外線を拒絶するかのごとく白い肌を袖口から覗かせ、背筋が伸びた美しい姿勢で美晴さんの前に立っている。


「城崎さんは仕事を覚えるのが早くて、一回ったことはほとんど完璧にこなしていたわね、周りもよく見れていたし、大いに助かりました、一週間お疲れ様」


 そう言って美晴さんは城崎にポチ袋を手渡した。

 「ありがとうございます、一週間楽しかったです」と簡素な言葉を添えて白い歯を少しだけ見せて笑った。


「最後は能登くんだね」


 返事をして美晴さんのところまで行く。

 少しは慣れてきたと思っていたけれど、一日中の立ち仕事ということもあって、踏み出す足が少し重たい。


「荻野くんが褒めてたよ、能登はあんな見た目だけど、仕事もできるし根性もある大したやつだってね、荻野くんが人を褒めることはほとんどないからびっくりしちゃった、男の子ってこともあってかなりの重労働になったと思うけど、よく頑張りました、一週間お疲れ様」


 荻野さんがそこまで僕のことを買っていてくれているのは予想外だったけれど……


「荻野さんに言っといてください、あんな顔は余計だって」


 美晴さんは声を挙げて笑いながら「わかった、伝えておこう」と言った。

 

 手渡されたポチ袋を大切にズボンにしまうとお世話になった従業員の人たちに挨拶をして回った後、海の家に来た際に乗せてきてもらった美晴さんの車に乗り込むことになった。

 日高先輩はもう少しだけ残って手伝いをしてからということでそこで別れることになった。

 夏の空は夕日が沈むまでの茜色の空の時間が長くて、最寄駅まで送ってもらったときでもまだ空は同じ色をしていた。

 僕たちが着替えのつまった荷物を降ろし終えると美晴さんは「また来年も手伝ってくれるのを期待しているよ」と残して、来た道を帰っていった。

 ポチ袋の中には貰いすぎなのではないかと思ってしまうほどのお金が入っていて、思わず変な声が出てしまった。

 日野と城崎には変なものを見る目で見られたけれど、そんなことは気にはならなかった。


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