表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しがない文学同好会の日常  作者: 間島健斗
27/35

27

 


 空高くまで伸びている竹林の間の二人並んで歩くのがやっとと言えるくらいの道を歩いていくとそこには身を屈めるようにしなければ通れないような小さな木製の鳥居があり、その先には石畳の一段一段が少し狭くなっている階段があった。

 鳥居もかなりそこら中に茶色い苔が生えていて年期が入っていたけれど、階段を上っていったその奥に見えた本殿はもっと年期が入っているものに見えた。

 これで空が厚い雲に覆われていたら、おどろおどろしくて、さぞ、雰囲気のある肝試しになったのだろうけれど、あいにく、満月に近い少しだけ欠けた月が辺りを照らして、目的地である神社も月明かりに照らされて懐中電灯なんかなくても、計算されたように照らされて美しく、神々しいと感じるほどだった。

 城崎と少し話をしてそれ以降はほとんど二人とも何も話すことなく肝試しというより、夜の散歩は終わっていった。


「やっと帰ってきましたね、何かあったんじゃないかって心配だったんです」


 大きな居間にちょうどいいくらいのソファーの端っこに体育座りをして居心地の悪そうにしていた日野はそう言った。

 首だけをひねって、こちらを向いている。


「そんな時間かかってたかな?確かに日野達に比べたら、時間かかってたかもしれないけど、それでも5分か10分ぐらいしか変わらないでしょ?」


「何言ってるんですか、先輩たち私たちよりも30分くらい時間かかってましたよ、時計ちゃんと見てくださいよ」


 そう言って指さした壁にかかった時計の針を見ると、確かに思ったよりも時間がかかっていた。

 スマホを持って行っていなかったし、僕は時計をしてないから、時間を確認するすべがなかったから思っていたよりも時間がかかっていたらしい。


「そっか、まあ、行って帰ってきただけなんだけどな」


「さては、サキと私のいないところでイチャイチャしてましたね、隠してもダメですからね、あんな、堤防沿いの道から少し入っただけのところに行って帰ってくるだけじゃなくて、堤防から海を見ながら、積もる話でもしてたんでしょ」


 間違いないでしょ、みたいな顔が微妙に腹が立つがそれよりも、日野の言っていることへの疑問の方が大きかった。

 堤防沿いの道を少し入っただけのところ?すこしどころか、僕たちは間違いなく、周りを竹林に覆われた細くなっていく道を歩いて行ったはずだった。


「それに、肝試しとは言ったはいいものの、小さな(ほこら)みたいなのがあるだけで拍子抜けでしたね、小さな神棚があるだけで神社って感じはしませんでしたもんね」


 ため息を日野はため息をついてそう言った。

 (ほこら)?小さな神棚?僕は確かに、古びた鳥居とその奥に寂れてはいたけれど立派な本殿を見たはずだ。

 日野は僕のことを驚かそうとしてわざと嘘をついている様子もない。


「……そうだね、確かに肝試しというよりただの散歩だったね」


 別に部屋の中は暑くないのに汗が流れ出てくる。

 僕が見たものは何だったんだろう、考えることを辞めることにした。

 僕は幽霊や超常現象なんて信じない、絶対に。


「どうしたんですか、顔色悪いですよ、もしかして、昼間のアレ、痛みます?」


 日野は、心配そうに僕の顔を見る。

 実際は、日野との会話に食い違いに肝を冷やしているわけで、日野の検討は、「そういえばそんなこともあったな」と思ってしまうほど、明後日の方向を向いているわけだけれど、そう思うのも無理はなかった。


「いや、もうほとんど何ともないよ、何なら忘れてたくらいだし」


 そう言うと、「そうですか」とか「よかったですね」とか言ってくれると思っていたけれど、そんなことは無くて、日野は何かを言いたそうにしているだけだった。


「どうしたの?」


「えっと、その……、蹴られたところがどんな感じになっているか見せてもらうことできないかなーって」


 日野は目を泳がせながらそう言った。

 人に見せることが出来るほど自身のある体つきではないし、人に裸を見られて興奮する癖も無かったけど、だからと言って、特に断る理由も無い。

 Tシャツを無造作にたくし上げると日野は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 見られているのは僕なのになぜ日野が恥ずかしそうにするのか。

 少しいたたまれない気持ちになる。


「先輩、うわぁ、肌白いですね、じゃなかった、……青あざになってるじゃないですか、少し触ってみてもいいですか?」


「いいよ、減るようなもんでもないし」


 日野の長く細い指が肌に触れるのを感じる。

 指先はひんやりと冷たく、自分で触るのとは違って、人に触られるのは、なんだか少しくすぐったい。


「先輩がこうなったのって、私たちを庇ったからですよね、なんでそこまでするんですか?」


 あざになっているところに沿うように指を這わせながら日野はそう言った。


「なんでだろ?わかんないや、でも後輩たちに恰好を付けたいのは確かだね」


 日野は笑って「格好悪いですね」と言った。


「痛いの痛いの飛んでけ、なんてね、どうです?痛くなくなりましたか?」


 日野は顔を近づけながら、ニヤニヤしている。

 自分も恥ずかしかったのだろうか、顔を真っ赤にしている。


「陽菜、いつまでイチャイチャしているの?早くお風呂に行くわよ」


 玄関に繋がるドアの近くで城崎は落ち着いた声でそう言った。


「い、いつから見てたの?」


「安心して、あなたがその男に触りたいと言ったことなんて聞いていないから」


「聞いてるじゃん、ばっちり聞いてるじゃん!」


 日野は、見られていないと思っていたことが見られていた恥ずかしさからなのか、テンションと声量がおかしくなっている。


「痛いの痛いの……何だったかしら?ごめんなさい忘れてしまったからもう一度やってくれないかしら?」


「良いの良いの思い出さなくて、さ、さ、早くお風呂入ろ」


 日野は、逃げるようにリビングを後にして、城崎もそれを追いかけるように部屋を後にしようとする。


「ねえ、城崎」


「なんですか、先輩?」


「肝試しで行った神社は古くなっていたけれど、立派な神社だったよね?」


 城崎は怪訝そうな顔をしたけれど、「そうでしたね」と言った。

 少し後になって日高先輩から、何十年も前に失火で焼けてしまった神社があったところに今は小さな祠が最近になって設置されたとのことだった。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ