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しがない文学同好会の日常  作者: 間島健斗
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 対面通行ではあるけれど、横に広くなっている暗がりの一本道を城崎は淡々と歩いている。

 肝試しというより、夜の散歩という方がしっくりくる。

 日高先輩が買い出しに向かった際に偶然見つけたらしい寂れた神社まで、肝試しをすることになった。

 くじ引きの結果僕と城崎、日高先輩と日野というペアで肝試しを行うことになり、懐中電灯一つを持って別荘を出発した。

 舗装されたアスファルトが道を進むにつれてところどころに轍があるのが、足の裏で感じることができ、ひび割れも目立つようになってきた。

 そんな中でも、城崎は灯りが無いことも、結構な雰囲気のある林の中を歩くことになっても、全く動じることなく、僕の少し前を歩いている。


「こうやって、二人だけで話すのは久しぶりな気がしますね」


 城崎は後ろを見ることなく、そう言った。


「そうだね」


 部室には三人だったときは、日高先輩が来ないこともしょっちゅうだったし、城崎と二人になることは珍しくなかった。

 でも、今は日野がいる。


「城崎は日野とうまくいってるの?」


「どういう意味ですか?別に私と陽菜は付き合ってませんけど」


「そういうことじゃなくて、仲良くやってるのかってことだよ」


「わかってましたよ、ちょっと言ってみただけです」


 そう言って、城崎は笑った。


「陽菜とは仲良くやれてますよ、私とは考えかたとか価値観とか全然違いますけど、自分の好きなものを好きって言ったり、自分のためにも人のためにも頑張れるところとか好きです」


「そっか、それはよかった」


「なんですか、それ、先輩は私の何なんですか?お母さんみたいですよ」


「お母さんか、僕は親がいないからわからないけど、お母さんはそんな感じなのかな?」


「すみません、先輩のこと何も知らないのに無神経なことを言いました。家族形態なんて家族の数だけありますもんね、本当にごめんなさい」


 うかつな発言だった。

 思ったことを考える前に言ってしまった。

 こんなことを言われても困るだけなのに、現にさっきまで明るかった城崎の声は沈んでしまっている。


「ごめんね、こんなことを言われても困るよね、大丈夫気にしてないんだ。それに僕には、親がいない代わりに、僕にたくさんの愛情を注いでくれた叔母さんがいるから」


 そう言うと、城崎は安心したように笑った。


「ある女の子の話をしましょう」


 城崎はそのままの柔らかい表情で言ったんだと思う、細かい表情はこの暗闇の中でははっきりとは分からなかった。

 けれど、その声色には温かさがあった。


「その女の子は、お金持ちの家の一人娘として生まれました。父親も母親もともにエリート思考が強く、物心ついた時には、母親の監視のもと徹底的な管理教育が行われていました。弱音を吐くと烈火のごとく叱りつけられ、一切の甘えを許されることなく、自分の心を殺し、ただただ機械的に言われたことを繰り返し、女の子は勉強だけはできるようになっていきました。しかし、彼女ができるようになったのは勉強をすることだけでした。素直にごめんなさいを言うことも、ありがとうを言うことも、誰かに自分の持っているやさしさを分け与えることも、誰かのことを考えて行動することもできなくなっていたのです。そんな誰のことも想うことが出来ない女の子のことを思ってくれる男の子と女の子が現れました。独善的な男の子は人に言われるのを待って動くのではなく、自分で考えて動くことが出来る素敵な男の子でした。女の子は拒絶しても歩み寄ってくれる強い女の子でした。悲しい女の子はそんな人たちと仲良くなりたいと思うようになりました。しかし、いろいろあって女の子は友達とは何かが良くわからなくなってしまいました。どうすれば男の子と女の子と仲良くなることが出来るのでしょうか?」


 城崎には、嫌われていると思っていた。

 城崎は強い女の子だと思っていた。

 けれど、それはただの幻想だった。

 城崎はただの美人な一つ年下の女の子でそれ以上でもそれ以下でもなかった。

 嫌われていると思っていたのは、思い違いだった。

 城崎が何を考えていたかなんて表情や言葉からは分からなかった。

 僕が城崎との距離を測りあぐねていたように城崎もまた僕との距離を測りあぐねていたのだ。


「素直になればいい、なんて言うのは簡単だし、僕にとって素直でいることは難しいことではないけれど、城崎にとっては難しいんだろうね、でも、だからこそ、城崎には素直になってほしい、結果できなくてもいい、とりあえずやってみてほしいんだ。僕は城崎が素直にありがとうを言えてるように思えるけど、城崎自信が納得できないんだったら、納得できるまでやってみればいい。安心してほしい、僕は城崎のことを大切な友達だと思ってるから、城崎のことをバカにしたりなんかしない」


「能登先輩、助けてくれてありがとうございました。一人だった私のそばにいてくれてありがとうございます。一緒にご飯を食べようって言ってくれたの嬉しかったです。もしよければ私の、友達になってくれませんか?」


「もちろんだよ、城崎は僕の大切な友達だ」


 嬉しかった。

 報われたような気がした。

 報われたくて城崎に何かをしたというつもりはないけれど、自分の中のやさしさみたいなものを誰かに与えられたような気がして、それが押し付けなんかじゃなく、本当に誰かのためになったことが証明されたような気がして温かい気持ちになった。


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