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しがない文学同好会の日常  作者: 間島健斗
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 顔を少し赤らめている日野は、傍目からでも肩で息をしているのが伝わってくる。

緊張しているのだろう、肩口で切りそろえられた髪が浅い呼吸をするたびにかすかに揺れる。

何らかの言葉を形にしようとしては口を噤むという動作を何度か繰り返した後に彼女はついにそれを言葉にした。


「私と友達になってください」


 文学同好会の部室での出来事だった。

日野は頭を下げて伸ばされた手は城崎の方を向いている。


「一緒の同好会だからって無理に仲良くする必要なんてないのよ、私と日野さんでは趣味や性格が合わないじゃない」


 城崎は感情を乗せるのを恐れているように極めて平坦な口調で言う。


「性格が違うから、趣味が違うから一緒にいて楽しいんじゃないかな」


 「同好会が同じとか関係ないよ」と言って日野は笑う。

手は差し出したままだ。


「楽しい経験がしたいだけなんだったら、私以外の他の人でもいいんだと思うんだけれど」


「私は、他の誰かとじゃなくて、城崎さんと楽しく過ごしたいの。一緒に旅行に行ったり、夏には花火をしたり、浴衣を着てお祭りに行ったり、人生で三年間しかない高校生活を一緒に過ごしていきたいの」


 日野は語り掛けるような優しい口調で続ける。


「あなたは自分に都合のいい人を作りたいだけじゃないの?」


「そんなことないよ、そんなこと考えたこともない」


 優しく放たれた言葉だったけれど、その意思は強く、絶対に引かないという気持ちが滲んでいる。


「私はあなたとそれほど一緒にいたいとは思わないのだけれど」


「じゃあ、少しだけでもいい、少なくとも私は城崎さんのことを友達だと思ってもいいかな?」


「クラスで孤立している私のことを憐れんでそう言っているんだったらやめてくれないかしら、そういうのが一番嫌いなの」


「私は思っていることをはっきり言う城崎さんのそういうところが好き、私はそういう城崎さんと友達になりたいんだ」


 まっすぐ見つめてくる日野に少したじろいだ様子の城崎、眉をひそめて困ったような表情になる。

迷惑だと思っているわけではなさそうだ、ためらっているような、あゆみ寄り方が分からない子どものようなぼやけた表情、城崎らしくないと言ってしまいそうになる顔だった。


城崎は目を瞑り、大きく息を吐きだすと、口角を上げていたずらを思いついた子どもみたいな笑顔を作った。


「あなたは卑怯ね、こんなところでそんなことを言われて断れる分け無いじゃないの」


 そう言って城崎は日野の手を取った。


「何とでも言うがいいよ」


 満面の笑みで日野は城崎の手を強く握っている。

大きくなるにつれて友達をどう作ったらいいかが分からなくなる。

友達になりたいと思う相手に「友達になってください」の一言が言えなくなる。

小さいときに簡単に言えたことがどんどん言えなくなっていく。

相手の気持ちよりも自分がどう思われるかという気持ちが強くなっていく。

相手に内心でバカにされていたらどうしようとか、恥ずかしいとかそんなことを考えているうちに機会を逃してしまう。

そんなことが僕にもあった。

日野は今日その機会を逃すことなく、一歩を踏み出した。

立会人は僕と日高先輩だ。

友達の儀を終えた日野はサンダルを足先で遊ばせながら嬉しそうにニコニコと笑っているし、城崎も少し頬を赤くしている。


「能登先輩、お茶淹れてください」


日野が手を高々と上げてわざとらしく主張する。

僕は、この部屋に新しく増えた、紅茶のティーバックとマグカップを取り出して、お茶を入れる準備をする。

ようやく少し落ち着くことが出来るのではないかという、予感がしていた。

この頃は少し、動きすぎているような気がしていた。



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