表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約解消シリーズ(仮)

正しい婚約解消の仕方。

作者: あかね


 公爵家令嬢と第二王子の婚約は彼らが10の時に結ばれた契約だった。

 既に没落の兆しを見せていた公爵家に王子が入ることにより、古くからの名家はその名を継いでいく予定だった。

 資金援助、新しい技術の提供、人的支援。それらと引き替えの婚姻であり、当主は王子となる予定だった。


 王子が学院で恋に落ちるまでは。


□ ■ □ ■ □ ■ 


「ねえ、殿下。節度ある対応をしていただきたいの。苦言を呈されるほどに近寄られるのは困るのよ」


 薄く赤に色づいた髪。困ったような上目遣いは可愛らしい。少女と女性の境目の危うい色気がこぼれるが、本人はそんなつもりもないことを知っている。


 レリオはそれを見ながら、首をかしげた。


 この少女を恋人にする。

 政略結婚をする。


 彼の立場では両立は可能だ。仲の良い夫婦であることは理想だが、現実的に政略上の利害関係であり、現在も疎遠である婚約者との仲を深める事も難しい。

 ならば気持ちの上の癒しがあっても良いと思っていた。


 しかし、彼女は違うらしい。


 今までの愛人候補の女性はどちらかと言えば、婚姻など望んではいない。贅沢と地位と装飾品のように彼を連れて行きたいという気持ちが見えた。


 別にそれを責めるつもりもない。おう、肉食系だな、と少しびびっただけだ。少々女性が苦手な理由になったりしていない。


 彼女はそういう性格ではない。他に声をかける男がいてもどこか困ったようで、少し怯えていたように見えた。


「私を口説くなら婚約を解消してからおいでください」


 出来ないでしょうけど。

 そう言って笑われた気がした。


 確かに女性を口説くには、婚約者がいるという状態は良くないだろう。誰も彼も傷つけたいわけではなかった。


「わかった」


 正しく婚約を解消しよう。



□ ■ □ ■ □ ■ 



 まず、レリオは父である国王を交えて会談した。情報収集の結果、驚愕の事実に打ちのめされたのは些細なことだ。

 そして、婚約者であるデルフィーナと公爵家当主へと会う約束を取り付けた。


 久しぶりの公爵家は良く整っていた。かつての荒れた雰囲気はない。兄妹仲も良く、両親も色々あって仲睦まじく生活しているらしい。

 デルフィーナは幼い頃のわがままはなくなり、淑女になった。いや、才媛と言った方がよい。

 領地への実験的施策のうちいくつかが彼女の提案だという。

 新しく商品を開発し、流行を作っていくことが彼女の流儀なのだろう。


 忙しくしているせいか約束の面会回数は減らされ、手紙も素っ気なくなり、季節ごとの贈り物も決まり切ったものになっていった。


 最初のころの熱心さと比較すれば、詐欺のように思えたものだ。


 応接室へ通され、決まり切った挨拶を交わし椅子に座る。

 向かいには当主とデルフィーナが座る。飲み物が配され、菓子が置かれ、侍女が下がった。

 それにあわせて護衛も部屋の外へと出た。

 これには公爵家の親子も目を見張ったようだった。

 レリオにしてみれば、ここからの醜聞はここだけの話にしておきたい。少しの噂でも面倒な事にしかならない。


「婚約解消をしようか」


 彼は笑顔で、そう切り出した。

 久しぶりに婚約者に会っての話ではない。公爵は何を聞いたのかわからないように目を瞬かせていた。

 デルフィーナはにこやかな表情のまま。


「殿下、それはどういうことでしょうか。殿下のお気に入りの娘ならばそのままでも問題ありません」


 そう言った公爵は困惑した表情だった。

 彼は娘が乗り気ではないと知っていた。しかし、義務くらいは果たすだろうし、自分たちのように婚姻してから良好な関係を持つこともできるだろうと考えていたのだろう。

 それに一時の恋など躍起になって引き離せばろくな事にならないと身をもって知っている。


「約束しただろう? 好きな子が出来たら、解消しようと」


 レリオはデルフィーナとの契約書をしっかりと確認してきた。その写しはこの家にもあるだろう。


 この婚約は婚姻を結ぶまでの間、有効であること。

 どちらかに好意を持つものがあられれば破棄できること。

 その場合、破棄を申し出た側が慰謝料を払うこと。


 主にこの3点である。


 その他、規定の贈り物の回数などあるが些末なことだ。


 慰謝料については、レリオは既に払い終えていると言える。

 破棄までの間の資金援助、新しい技術の提供、人的支援がそれにあたり、破棄後は全て終了する。

 これは父親同士で決めたことで、もしかしたら彼女は知らないかもしれない。


「はい。殿下」


 デルフィーナは少し固い声で答えた。

 おや、とレリオは思った。彼女ならば、すぐに応じてくれると思っていたのだ。まだ、小さな噂であるうちに終わらせた方がお互い良いと。


「でも、君もちゃんと教えてくれなければいけなかったよ。

 好きな人がいるのに、婚約を継続しようなんて不誠実なことをしてはいけないと君は教えてくれたのに」


 もっとも、ちょっと前までは同じように見ない振りをしていようとしたのだけれど。

 自分がドロを被るなど誰だって嫌だろう。


「デルフィーナ?」


 公爵は怪訝そうに娘を呼んだ。


「ち、違います。彼はただのお友達です」


 真っ赤な顔をして言っても信じることはできないだろう。

 レリオは白けたような顔で彼女を見た。

 王とその側近、そして、自分を絶望の淵に追い込んだという自覚はなさそうだ。


「そんなんじゃないんです」


 消え入りそうな声にいじめているような気分になる。彼は公爵へ視線を向けた。


「彼女は、僕よりも兄の方がよいのだそうです。これでめでたく、継承闘争再開です」


 尚、レリオはそんなのに付き合いたくない。


 レリオの母は第一妃であり、兄の母は寵姫である。

 王位継承にも順位があり、基本的には長子相続だった。慣例として、第一妃が子を持つまで、あるいは婚姻後、5年立っても子が無い場合他の妃にも権利が生まれる。


 寵姫は第一妃の婚姻前に子を産んでいる。王が王太子であった頃の恋人だったが、第三妃までの間にも入れないほどの地位であり王太子の寵姫とするのが精一杯だった。

 基本的には寵姫の子は継承権を持たない。神殿から配偶者として認められないからだ。


 基本的にとなるのはそれが発覚してから5年ほど第一妃は子供を授かれなかった。

 その間に王太子は王になり、空白だった王太子を埋めるのにちょうど良かった。幼いながらも天才的と言われていたことも後押しとなり、後に子が生まれた場合変更するという約束のもと王太子に指名された。


 しかし、レリオが生まれた。

 兄との年齢差は8才。


 生まれたばかりの第一妃の息子を王太子にすべきか、既に王太子たる寵姫の息子を選ぶべきか。


 宮廷は荒れた。

 大変荒れた。

 どちらにつくかなど言えないほどに。


 レリオは生まれた時からそんな中にいた。婚約といずれは臣下になると確定するまで、暗殺は日常茶飯事。毒など普通すぎて驚くほどだ。


 彼の処世術と言えば、バカの振りをすることくらいだろうか。劣った可愛い弟の振りをするのを兄は怪訝そうな顔でよく見ていた。


 第一妃はにこにこ笑う毒にも薬にもならぬと思われている。毒舌のきっつい、武闘派とは身内以外は格闘したことのある暗殺者くらいしか知らないだろう。


 その臣籍降下する予定の王子が婚約解消なんてしたら、第一王子派に宣戦布告と取られてもおかしくない。

 双方、それなりの年齢になっているものだから、以前の比ではないほど荒れるだろう。

 最悪国が真っ二つに割れる。


 話を聞いた国王も頭を抱えていたが、おまえのせいだ、ハゲとレリオに罵倒されて白目を剥いていた。


 良かれと思ったことが裏目に出たとしか言い様がない。傾きかけた公爵家も救えて、息子も安息の地が出来ると思ったのだろう。

 残念ながらムリだった。


 二代続いて恋に祟られているとしか思えない。

 被害者はレリオ。

 全く笑えない。


「さて、その後のアレコレはさておいて、婚約は解消でよいですね。公爵閣下」


「しかし」


 公爵は今後のことを考えてすぐにはうなずけないだろう。

 彼抜きで既に王宮での主要メンバーで議論はされており、誰もが妙案を出せずに解消やむなしと結論が出たのだ。

 その後の対処については議論中だが、さっさと婚約を解消しないと問題があるのでレリオだけ別行動をとっている。


「僕は、さすがに生まれた子供にも同じような境遇を用意したくはない」


 彼女が第一王子に思いを寄せている。


 婚約を正式に解消するにあたって、お互いの現状を確認しようと調べた結果だった。


 王もデルフィーナの思い人、あるいは、第一王子の思い人を知らなかった。しかし、総合的に情報をあわせていけばその結果が出てきた。

 よく見ていれば気がつくほどのこと。


 他にも気がついている者はいるだろう。今後接触もなくてもこのまま婚姻してしまえば、生まれた子供の父親が誰かを疑われることになる。

 継承権でさらに揉めに揉めるだろう。


 もはや解消するしかない。


 婚約者のいる男に近づくなと警告する前に自分の行いを振り返って欲しいとレリオは切実に思う。

 よりにもよって兄でもなくて良いだろうに。

 無意識にたらし込む兄に言っても仕方がないが、デルフィーナには良識を持って欲しかった。


「私たちの間にはなにもありません。邪推しないでください」


「うん。それで? 君は、僕の兄に会ったことを伝えてくれた? 僕も交えていたのだったら違ったのだよ。僕からの紹介ならば、数回くらいあった程度で疑われることはない」


「偶然です」


 あくまでデルフィーナはそう言い張った。

 レリオは知っている。兄の方は偶然ではなかった。と。毛色の変わった令嬢を見に言っていた。ご丁寧に変装してまで。

 レリオは自分の理解の範疇外にある兄は兄というセイブツだと思っている。同じ人間の枠にいれていない。


「君が、ご執心なヒトがいるというのはね、噂で知っていたよ。君が僕について知っていたように」


「何故、黙っていたのです」


「僕も言えば良かったんだね。君は婚約者のある身でありながら、他の男と会うなんて、ってさ」


 そう言ったって、鬱陶しく思うだけだっただろう。

 レリオとデルフィーナはある意味似た者同士と彼は思っている。恋にうつつを抜かしている間に意味のある言葉など必要ない。

 むしろ、激化して手に負えない。


 思いあまって、公式な場で婚約破棄なんてしなくて良かった。

 彼女が婚約解消してからと言わなければそうなった気がする。


「まあ、この話はお互いが悪いって事で良い。兄と会っていたのが、学院に入る前からだろうが些細な事だろう」


 レリオが恋している少女にあったのは学院に入ってからだ。それ以前は物理的に遭遇が不可能だ。そして、その頃はまだデルフィーナと関わりを持とうとそれなりにあっていた頃だ。


 健気だった当時の自分を労いたい。


「そちらの慰謝料は払える見込みは?」


「相殺できるのでは?」


 やはり、慰謝料についての詳細は聞いていなかったのだろう。

 彼女の身分はレリオと婚姻しても基本的には変わらない。故に身分に応じた淑女としての教育以外の特別の教育を施さず、自由にさせていたと聞いている。

 王妃になるように育ててはいないし、臣下にならない王子に嫁げるほどでもなかったということだろう。

 公爵に視線を向けると詫びるように頭を下げた。


「王家からの援助は僕との婚姻及び、当主となるための費用として支払われたものだ。

 その費用は王族の直轄地で僕の管理している地から用意したものだ。

 破棄した場合はそれが慰謝料とされる。僕は、もう、払っている」


「そんな」


「事業の利益で分割としてとなります」


「待ってられませんね。事業売却で一括。それでよしとしましょう」


 青ざめた顔のデルフィーナを一別する。

 そんな顔をするならばこんな条件つけなければ良かったのだろう。自分が、そんな立場になると思っていなかったのだろうか。


 レリオは公爵と話しを詰めていく。

 本来であれば公爵領にあるものを根こそぎ奪っても足りない。しかし、デルフィーナが育てた事業のみで損害賠償を終わらせるつもりだった。


「解消は認められません」


 固い声でデルフィーナは話を覆しにかかった。

 レリオは首をかしげた。

 彼女にとっても悪い話ではない。第一王子妃になれる可能性が出てくるのだ。

 多少、外聞が悪いかもしれないが、あの兄が気にすることはないだろう。案外性悪な兄ならば寵姫止まりにしてしまうかもしれないが。


「殿下は恋人を大事にされれば良いでしょう」


「お断りだよ。彼女に言われたんだ」


 笑顔で、レリオは言った。


「私を口説くならば婚約解消してからって」



□ ■ □ ■ □ ■ 




「……ってことなんだけど」


「……貴方が底なしのバカだとわかりました」


「知ってたでしょう?」


「ええ、本当に。貴方、どこまで知ってましたの?」


「まあ、ともかく。一緒に国外逃亡しよう。そうしよう」


「血で血を洗う闘争するんじゃないんですか」


「しないよ。母さんも逃亡するから、護衛は心配いらないよ」


「……陛下は、お許しに?」


「マジ切れした母さんが大変だった」


「……詳細は聞きたくありません。わかりました。我が国においでください」


「入り婿っていいよね。うん。優雅そうだ」


「働け」


「姫君の仰せのままに」


婚約破棄もののアレンジとして。

婚約破棄は手順を踏めとよく言われているので、手順を踏んでみた。

好きな人が出来たら解消とか、慰謝料とかもよく言われるので入れてみた。


どこかに転生者がおります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ