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エンドリア物語

「北の地へ」<エンドリア物語外伝108>

作者: amamitsuboshi


 目が覚めたら、牢屋にいた。

 上半身を起こして、周りを見回した。

 正面には鉄格子。右を見た。漆喰の塗り壁。左を見た。漆喰の塗り壁。後ろを見た。漆喰の塗り壁。床を見た。白いタイルが敷き詰められている。

 清潔な白い牢。貴族用だろう。

 部屋にあるのは、後ろ左隅に蓋のついた陶器の壷。おそらく、便器。あとは、ふわふわの羽布団が1枚。

 顔が冷え切っている。室温は低いが、ふわふわの羽布団がオレの寒気から守ってくれたようだ。

 もう一度、周りを見た。牢内にいるのはオレだけ。

 上半身が羽布団から出たせいか、寒くなった。

 慌てて羽布団に潜り込んだ。

 目をつぶる。

 人生の至福の時間のひとつ、二度寝だ。

「起きろ」

 鉄格子の前にいた人間が声をかけてきた。30歳くらいの男性で黒いローブを着ていた。小柄で丸顔、童顔。渋い声からすると、もう少し上かもしれない。

「起きろ」

 オレには起きる理由がない。

 無視して眠ることに没頭した。

「起きろ!ウィル・バーカー!」

 大音量が狭い牢内に響いた。

 オレは布団をわずかに開いて、外を見た。

「うるさいなあ。寝かせてくれよ」

「私に何か聞くことないのか?」

 男の丸い目が、爛々と輝いている。

 輝く目に、大事なことを思い出した。

「ムーはどこにいる?」

「ムー・ペトリは、地下書庫だ」

「地下書庫は近いのか?」

「徒歩5分ほどのところにある」

 ムーが近くにいない。

 オレの心は、花で満開になった。

「教えてくれてありがとうございました」

 布団の中でおじぎをした。

「では、おやすみなさい」

 寝るなら今だ。今しかない。

「起きろ!」

 命の危険にさらされずに眠れるのは久しぶりだ。今なら、意味不明な魔法生物にも、理解不能の異次元モンスターにも襲われる心配がない。

 布団は暖気を含んで気持ちよく、室内だから風もない。

 安全に眠れる幸せを、オレは噛みしめた。

「起きろ!」

 鉄格子をつかんで、ガタガタ揺すっている。

 うるさいが、眠れないことはない。

「起きろ!」

 ウトウトしながら、羽布団の暖かさに埋まっていた。

 ガタン!

 布団が引っ張られた。

 オレは放すまいと、さらに丸まった。

「ここがどこだかわかっているのか!」

「………牢屋」

「私が聞いているのは」

「リュンハ」

 男が羽布団を放した。オレは眠りに戻るべく、しっかりと身体に巻き付けた。

「わかっているならば………」

「おやすみなさい」

「寝ている場合ではないだろう!」

 オレは布団の中から怒鳴った。

「逆だ!寝られるから寝ているんだ。牢屋はオレの夢だったんだ。放っておいてくれ」

 静かになった。だが、男の立ち去る気配ない。

 オレが再びウトウトし始めた時、男がつぶやいた。

「出てくれば、肉を焼こう」

 オレは動かなかった。

「厚い肉を10枚、サラダもつけよう」

 肉。

 オレは布団から顔を出した。

「パンとスープもつけてくれるなら、考える」



「なぜ、返事をくれなかったのだ」

 男に聞かれたが、オレは答えられなかった。口の中にぎっしりと肉が詰まっていたからだ。

 オレが牢屋からでることを拒否したので、焼いた肉、パン、サラダ、スープをトレイに乗せて持ってきてくれた。牢屋の床に置いて、食事中だ。

「父上は………」

 そこまで言うと男は黙ってしまった。

 肉を飲み下したオレは、パンを口にする前に聞いた。

「もしかして、爺さんの子どもなのか?」

 桃海亭に居候しているハニマン爺さんはリュンハの前皇帝だ。

 だが、爺さんの子どもにしては、男の年齢が若い気がする。

「私は7番目で最後の子だ」

「リュンハは、末子相続なのか?」

「違う」

 吐き捨てるように言った。

 触れられたくない話題らしい。

 オレはパンを頬張った。見た目は白いパンだが、もっちりしている。使っている小麦が違うのかもしれない。

「父上はご壮健であらせられるか?」

 静かな話し方だったが、相当怒っている。

 オレはスープの皿を持ち上げ、口につけて流し込んだ。

 異国の味だが、辛みがきいてうまい。

「なぜ、返事をしない」

 フォークで肉を一枚刺したところで、その手を上から押さえられた。

「父上のことを聞いている」

「昨日までは元気だった」

 オレは男の手を振り払い、フォークの肉を口に放り込んだ。肉汁が口に広がる。

「なぜ、父上は国に戻らない」

「爺さんは『勘当された』と言っていた」

 残りの肉を丹念に積み上げた。まとめて、上からフォークで突き刺す。

 オレの不作法な食事に、男が眉をひそめた。

 オレは残った肉を、全部口に詰め込んだ。咀嚼するたびに肉汁が喉から胃へと流れていき、動物性タンパク質が体に染みていく。

「勘当すると言えば思いとどまってくれると思ったのだ」

 男は小声で言った。

「父上はリュンハ帝国を大切に思っていられる。この国から捨てるようなことはなさらないと信じていたのだ」

 オレの頭に疑問符が浮かんだ。

 末子で7番目だと言った。他に6人の子供がいるはずだ。爺さんはいつも『息子たち』という。だから、他にも男子がいるはずだ。

 それなのに、なぜ、この男が皇帝なのだろう?

 オーラがない。覇気もない。大帝国を導いていく覚悟もない。末子なのに皇帝についたには何かがあるのだろうが、オレにはそれが何かわからなかった。

 オレの疑問を読んだかのように、男は答えを口にした。

「あみだくじだ」

「アミダクジ?」

 男はうなずいた。

「父上は、紙を縦に線を7本引いた。その一本の先端に丸をつけた。次に横に数本引いて、丸のついた部分を折って隠した」

「はぁ」

 話の先は予想がついた。だが、男のどんよりとした生気のない様子に、話を遮ることをためらった。

「父上は7人の子供に順番に、縦線に名前を書かせた。私は最後だった」

 男は『最後』を強い口調で言い、いかさまをしていないことを強調した。

「当たったのは私だった」

 男はうつむいたまま呟いた。

「そして、皇帝になることになったのだ」

 クジで選ばれた無能な皇帝。

 男は自分をそう評価しているらしい。

 オレは男が羨ましくなった。

 リュンハ帝国の前皇帝であり、自分の父親であるナディム・ハニマンを心から尊敬しており、信頼しているのだろう。

 オレはナディム・ハニマンとは、短い付き合いしかないがわかっていた。

 あのクソ爺。次期皇帝指名のくじ引きで、イカサマをしたのだ。

「私は生まれたときから、長子のジャリルがなると信じていたのだ」

 男が顔を上げた。

「それが正しいとは思わないか?」

 問いかけてきた男に、オレは笑顔で言った。

「次は甘いものが食べたい」



「私には人を束ねることなどできないのだ」

 オレがフルーツを頬張っている隣で、男は愚痴を垂れ流していた。

 男の名前はナーデル。爺さんの七番目の子供で末子。

 最初の4人が男。次の2人が女。長女は嫁に行っておらず、国にいる5人が重要な部署について、ナーデルの支えているらしい。

「ジャリル殿か、カリム殿がやればいいものを」

 ジャリルが長男、カリムが次男。

 どちらも爺さんと一緒に戦役に出ており、民の人気が高いらしい。その関係で、現在のリュンハ国軍はジャリルが束ねているらしい。

「私では役不足だ」

 銀のフルーツ皿に盛られているのは、こぶしほどの大きさの濃赤色の柑橘類。隣には瓶に詰められたチョコレートと砂糖をまぶしたクッキーが置かれている。

 チョコレートとクッキーは甘いだろうから、先に柑橘類から食いはじめた。酸味が強いが濃厚な味で非常にうまい。オレがむいた皮が床にどんどん積み重なっている状況だ。

「ウィル・バーカー」

 弱々しく言った。

「頼みがある」

 オレにできることはなさそうだが、一宿一飯の恩義はある。

 うなずいた。

「私の代わりに皇帝をやってくれ」

 果汁を吹き出した。

 オレの吹いた汁で、現皇帝陛下の顔が半分赤く染まった。が、気にする様子もなく話を続けた。

「父上は思慮深いお方だ。ジャリル殿を皇帝にしなかったのには理由があるのだと思う。だから、ジャリル殿には頼めない」

 オレは首を横に大きく振った。

 大陸の片隅にある小国エンドリアの平民で、王立兵士学校を赤点スレスレで卒業したオレに、大帝国リュンハの皇帝ができるはずがない。

「父上がウィル殿を送ってきたのは、私の代わりに皇帝にするようにというメッセージだとしか考えられないのだ」

 その件については絶対に違うと言い切れる。

 爺さんが前からオレに『リュンハに行け』と言っていた。色々理由があるのだろうが、今回オレをリュンハに飛ばした理由は別にある。

 オレは果汁にまみれた口を袖で拭った。

「昨日の夜、オレは爺さんに言ったんだ」

「爺さん?父上のことか?」

 オレはうなずいた。

「『明日から、桃海亭の閉店時間を10時にすることにした』ってな」

 ナーデルは黙ってオレを見ている。

 オレはナーデルにわかるように事情を説明した。

「桃海亭の閉店時間は夜8時なんだ。8時に店を閉めて片づけていると、爺さんの知り合いが店になだれ込んできて、チェスを打って楽しむんだ」

 ナーデルは、ぼんやりとオレを見ている。

「毎晩夜遅くまで騒ぐんで、うるさくて眠れないんだよ。爺さんは朝遅くに起きるからいいだろうが、オレは仕事があるからのんびり寝てられないんだ。閉店時間を遅くすれば、チェス仲間が集まってこないだろうと思って、昨日の夜、閉店時間を10時にすると言ったんだ」

 言ったとたん、リュンハに飛ばされた。

「わかってくれたか?」

 ナーデルは覇気のない様子で、呟いた。

「それで、いつから皇帝の仕事をやってくれるのだ?」

「誰が?」

「ウィル殿が」

 よっぽど皇帝をやりたくないらしい。

 この手の人間の相手をするとろくなことにならない。

 オレは瓶の蓋を開けて、クッキーを口に放り込んだ。

「ウィル殿」

 ナーデルがオレを呼んだ。

 先ほどに比べて、声がしっかりとしている。

「先日、リュンハの地方に住む名門貴族の者が私に言ったのだ。『桃海亭に前皇帝に似ている人がいる』」

 爺さん、超有名人なのだから、バレるのは時間の問題だった。これで爺さんが諦めてリュンハに戻ってくれれば、桃海亭も少しは平和になる。

「『前皇帝に顔が似ており、姓も同じハニマンでしたが、別人でした』」

「別人!?」

 思わず、聞き返した。

「詳しく話を聞いたところ、『ニダウに住むハニマンさんは、前皇帝とは違い、陽気で話好きのご老人で、ニダウの町では子供まで知っている人気者でした』と言われた。言われた私の気持ちが分かるか?」

 オレは返事をしなかった。

 しようと思ったのだができなかったのだ。

 急激な目眩。

 クッキーに薬が入っていたらしい。

「私の苦労を少しは味わってみるがよい」

 オレには関係ないだろ、という心の叫びは、誰にも届かなかった。




「起きろ」

 目を開くと、30歳くらいの女性がいた。豪華な布でできた黒いローブ。リュンハ皇族のひとりらしい。

「起きて私に説明しろ」

 ふわふわの掛け布団。それだけじゃない。前回と違い、今回は柔らかいマットレスの乗ったベッドの中にいた。部屋も金がかかってそうな立派な部屋だ。

 金箔をふんだんに使った豪華な壁紙。柱には彫刻が施されており、天井には緻密な絵が描かれている。

 2択。

 このまま寝る。

 起きて、説明する。

 そこまで考えて、間違いに気がついた。

 オレの場合は1択だった。

 掛け布団を頭の上までひきあげ、目を閉じた。

 掛け布団を引っ剥がされた。

「起きろ」

 同じ台詞だが、音量が大きくなっている。

「ナーデル!」

「へっ?」

 オレは目を開けて、女性を見た。

 女性の後ろの壁に、巨大な姿鏡がかかっていた。写っていたのは、掛け布団から顔をのぞかせているナーデル。驚いた顔で女性を見ている。

 ただの薬入りのクッキーだと思っていたが、魔法がかかっていたらしい。

 女性はオレをマジマジと見ると、右手で額を押さえた。

「なんということだ」

 沈痛な表情をしたのは数秒。再び怒鳴った。

「ナーデルはどこに行った?」

「知りません」

「お前は誰だ」

 ここでウィル・バーカーだと名乗った場合、望まない悲劇がやってくるのは確実だ。だが、嘘の名前を名乗ると、あとの会話でバレる可能性が高い。

「オレはワット・ドイアルというものです」

 オレのよく使う偽名を名乗った。頻繁に使うから、オレも普通に反応できる。すぐに嘘だと見抜けないだろう。

「起きろ」

「はい?」

「起きて、飯を食って、会議に出ろ」

「オレがですか?」

 外見がナーデルで、中身がオレ。

 中身を入れ替える魔法か、外見を変える魔法か。

 今回はおそらく後者だ。

 そうなると、いつ元のウィルに戻るかわからない。もちろん、リュンハの政治についての知識などない。

「黙っていればいい。兄上達は気づくだろうが、重臣どもはわからない」

 そういうとローブを翻して、部屋を出ていった。

 飯が食える。

 起きあがった。

 鏡に映ったのは、黒いローブを着たナーデル。わざわざ着替えさせてくれたらしい。

「よっしゃ、飯を………」

 足元がスカスカする。ローブを着たのは生まれて初めてだ。逃げる時、履き慣れたズボンでないは心許ないが、飯が食えるなら、これくらいは諦めだ。

 部屋を出ると初老の男がオレを待っていた。オレと同じ黒のローブを着ているが、デザインと布の素材が違うようだ。明らかに動きやすさを考えて作られている。

 オレは男に笑顔を浮かべた。

「ローブを交換してくれませんか?」

「食堂にご案内します」

 オレの願いを無視した男は、床を滑るように歩き始めた。オレもすぐにあとを追ったが、初めて着るローブで、裾が足に絡んで歩きにくい。徐々に男と離れていく。この巨大な宮殿で迷ったら、飯にたどり着けない。オレはローブの裾をたくしあげ、駆けて追いついた。

 男は振り向かずに言った。

「食堂に入られたあとは、ナーデル様のふりをしてください」

 男はオレが偽物だと知っているらしい。

「真似はできない。オレはナーデル様のことを何も知らないんだ」

「始終うつむいていてください。発言はする必要はありません。常にうつむいて、何か聞かれたらうなずいてください。それだけです」

 うつむいて、聞かれたらうなずくだけ。それだけで、飯が食える。うまくいけば、今夜もムーを心配することなく、ふかふかベッドで眠れるかもしれない。

「それから、ローブの裾をたくしあげないようにしてください。マナー違反です」

「ローブの裾、あげたらいけいないのか?」

「脛が見えてはいけません」

 オレは魔力がないが、魔術師の知人はたくさんいる。オレの店、桃海亭の店員も魔術師だ。店番だけでなく、商品の手入れ、掃除、料理、と忙しい。だから、普段は動きやすい丈の短いローブを着ている。

「丈の短いローブを着ている魔術師を知っているぞ」

「見苦しくなければ、クルブシまでは認められています」

 思い出してみた。シュデルのピンクのローブは、どれもぎりぎりクルブシの長さだ。

「クルブシまでなら…………」

「ローブの裾を持ち上げるのはマナー違反です」

 持ち上げていたロープの裾を放した。歩きにくくなった。

「あちらが食堂です」

 見上げるばかりの巨大な観音開きの扉。左右には警備の魔術師。

「そういえば……」

「まだ、何かございますか?」

「食い方のマナーを知らない」

「ご安心ください」

 男性が振り返った。

 笑顔だ。

「ナーデル様はほとんど召し上がりません。お茶を飲まれるだけでよいと思います」

 オレは笑顔を浮かべた。



「ナーデル、どうしたのです」

 先ほどナーデルの部屋に来た、ナーデルの姉らしき女性がオレを睨んでいる。

 オレは目の前にある焼きたての厚切りベーコンを口に放り込んだ。溶けだした油が甘い。よく噛んで、じっくりと油を堪能してから、半熟卵にスプーンを入れた。

「ナーデル!」

 イライラが言葉に滲んでいる。

 オレは女性に笑顔を向けた。

「今日の会議に備えて栄養をつけなければなりません」

 スプーンを口に運んだ。

 濃厚な黄身だ。高級食材店にしか売っていないような卵なのだろう。食べたことがないので、断言できないが。

「珍しいこともあるものだ」

 右側に座った男性がイヤな笑みを浮かべた。

 話をすでに聞いているのか、それでなければ、オレがナーデルでないことが予想ついているのだろう。

「食べられるのでしたら、よいことではありませんか」

 オレの真正面に座った女性が言った。

 20代半ばの綺麗な女性だ。テーブルについている他の面々と顔立ちが違う。血族でないとすれば、ナーデルの嫁と考えるのが普通だろう。

 心配しているというより、他人事だからどうでもよい、という感じだ。

 ナーデルの置かれた環境はなかなかハードらしい。

 バレているのだからと、オレは遠慮なく豪華な食事を食べた。

 食べながら違和感を覚えた。

 この豪華な食事、爺さんのイメージと合致しない。

 爺さん、桃海亭の貧しい食事も嫌がったことはない。スープの最後の一滴まで残さず食べる。食わなかったのは、孫娘のアテフェの激マズスープだけだ。それも、捨てずにオレの皿に投げ込んだ。

 外でも同じだ。オレとムーと爺さんと3人でサバイバルしたことが何度かある。ほとんどが腹一杯になればいいだけの食事だったが、戦の食事に比べれば豪華だと喜んで食っていた。

 オレは顔を上げた。

「なあ、今日のメニューは誰が決めたんだ?」

「私です」

 正面にいる女性がつまらなそうに答えた。

 オレはテーブルに置かれたフルーツの皿から、うまそうなフルーツをいくつか取った。それをかじりながら、考えた。

 いつまでもリュンハにいるつもりはない。だが、このまま逃げ帰るのも癪に障る。

 いくつかやってみたいが、それには魔術師の力が必要だ。

 爺さんはできた。

 ムーにできるか?

 天才という呼び名は伊達じゃない。

「ごちそうさまでした」

 オレはナプキンを置いて立ち上がった。

「陛下」

 オレを迎えにきた初老の男性が、とがめるように言った。

「会議は何時からだったかな」

「10時です」

 リュンハ帝国はエンドリア王国より北にある。そこを計算に入れ、窓から差し込む日差しの長さから推測すると9時過ぎ頃だ。

「会議には出る」

 初老の男に言うと、オレは食堂を出た。

 初老の男はオレに離れず、ぴったりと後ろを歩いている。

「予定外の行動は困ります」

 小声でオレに文句を言った。

「地下書庫に案内しろ」

「時間がありません」

「案内しろ。する気がないならついてくるな」

 オレはローブの裾をたくしあげた。廊下を歩いていた貴族らしき魔術師が目をむいた。

 走り出したオレの後ろに初老の男が追いついてきた。

「わかりました。ご案内します」

 オレの前に回ると、ゆっくりと歩き始めた。オレはローブを元に戻して、男の後ろを歩き始めた。



「できるか?」

「ボクしゃんの書いた魔法陣に入れば、できるしゅ」

「魔法陣はいつ頃できる?」

「2時間くらいしゅ」

「かなり、かかるな」

「一発で決めるしゅ」

 ムーが鼻息を荒くした。

「そうだよな。失敗したくないよな」

 オレは後ろには初老の男が立っている。何度も『あっちに行ってくれ』と頼んだのだが、後ろから離れない。しかたなく、オレはムーとの会話を意図的に変えた。

 オレがムーに頼んだのは『別の場所にいる人物と人格を入れ替える方法』

 人格交換の魔法が存在することは知っていた。ハニマン爺さんの魔法で、オレと爺さんの中身が入れ替わったことがある。オレは爺さんの身体で爺さんの仕事をして、爺さんはオレの身体でニダウを遊び回った。

 初老の男が後ろにいたので、ムーには『いなくなったナーデルの人格を、ナーデルの容姿をしているオレの身体にうつせば、中身も外見もナーデル本人になる』と説明した。

 そして、ムーの手に書棚に置かれていた【黒い王族】という題の本を渡した。ムーならば、これでオレの伝えたいことをわかってくれるはずだ。

「会議が始まります」

 急かされてオレは地下書庫をあとにした。



 満腹で日差しは暖か。

 眠くなるのは必然だ。

 ガン!

 額に痛みを覚えて顔を上げた。

 見慣れない顔が並んでいる。

「皇帝陛下、いまの方法で進めてよろしいでしょうか?」

 恰幅のいい男がひとりだけ立っていた。手に分厚い紙束を持っている。

 席に着いていた数人が、オレを冷たい目で見た。

 うなずけということらしい。

 軽蔑や侮蔑が混じった目。

 オレは小さく咳払いをした。

「もう一度説明したまえ」

 話し方が正しいかわからないが、反逆ののろしはこれでいいはずだ。

 空気が変わった。

 不可解と不快を足して2で割った空気が、部屋に広がっていく。食堂のテーブルについていた面々は苛立ちや怒りを隠しながらオレを見ている。

 そして、その中のひとりが何かを呟いた。呟いた内容は聞こえなかった。内容はどうでもいい。呟くという行為がオレにとって重要だった。

 オレは立ち上がると、テーブルをバンと叩いた。そして、呟いた人物を指でさした。

「もう一度言ってみろ!」

 その人物は顔色を変えた。

 ナーデルの妃と思われる女性だ。妃の立場で会議にでている理由も不明。オレとしては、テーブルについていた面々であれば誰でもよかったのだが、引っかかったからには遠慮なく利用させてもらう。

 オレは声を張り上げて言った。

「皆に聞こえるように、もう一度言いなさい」

 威厳がない。

 立派な衣装をまとっているのに、野良犬レベルだ。

 妃らしき女性はブルブルと震えてオレを睨んでいる。

「ナーデル。いまは会議中だ」

 ナーデルの長兄らしき人物が、重々しく言った。

 オレは長兄らしき人物を睨んだ。

「会議の最中に名を呼ぶとはどのようなおつもりか。即刻、やめていただきたい」

 長兄らしき人物が目を見開いた。次に凄い目で睨んだ。怒りで背後に立ち上るオーラが真っ赤に見える。

「もう一度説明を」

 オレが説明を促したが、会議室は静まりかえっている。

 誰も何も話さない。

 窓から差し込む日差しが短くなっている。

 日差しの長さからすると、そろそろ2時間だ。

 オレは席を荒々しく立った。

 そして、部屋を出た。

 誰かがついてくるかと思ったが、誰もついてこない。ローブの長い裾が歩きにくいが、急ぐ必要はない。

 オレは地下書庫に向かって歩き出した。



「どうだしゅ!」

 鼻から息をフハフハさせて、ムーが自慢した。

 1メートルほどの魔法陣はぎっしりと細かい文様が書かれている。

 地下書庫にいるのはオレとムーだけだ。気を使わず、ウィルとして話せる。

「うまくいくのか?」

「バッチしゅ」

「どうやるんだ?」

「この中に入るだけで、バッチしゅ」

「入るだけか」

 入れるのは誰でもいい。注意すべきは、誰にも見られないこと。

 どうやって、入れようかと考えているオレは、地下書庫の扉が開いたのに気がついた。

 光沢のある黒い布地でできた裾の長いローブ。

 ナーデルの嫁らしき人物だ。

 オレをにらみながら、ゆっくりと近づいてくる。

「下郎が」

 吐き捨てるように言った。

 頭に血が上っているのだろう。ムーの魔法陣には気づいていない。

 オレは笑顔で言った。

「ムー、ぶさいくな婆だろ」

「ほんとしゅ、変な顔しゅ」

 女性の目がカッと見開いた。

 オレをつかもうとダッシュする。

 光の輪が出現。

 女性は円筒状の光に閉じこめられた。

「何が…………」

 女性は驚愕した。

 そう言うと、力を失って床に崩れた。光で囲まれているので、光の壁にもたれている状態だ。

「おい、大丈夫か?」

「2分で消えるしゅ」

 ムーの説明どおり、筒状の光の輪は、徐々に薄くなった。横に倒れそうになったところで、オレが受け止め、床に横たえた。

「これで中身が入れ替わっていたら、成功だな」

「ボクしゃん、天才しゅ」

 ムーが胸を反らした。

 オレがムーに渡した本の題名は【黒い王族】

 魔法が成功すれば、女性の中身は【黒の帝国の前皇帝】ナディム・ハニマンになるはずだ。

 爺さんがくれば、事情がわかる。

 女性が顔をしかめた。目覚めそうだ。

 目を開くとぼんやりした顔でオレを見た。

 そして言った。

「店長、ここはどこですか?」




「なんで、シュデルなんだよ!」

「黒いしゅ!王族しゅ!」

「シュデルはネクロマンサーだ!黒魔法は使えない!」

「髪が黒いしゅ!」

「爺さんだって………昔は黒かったと思う」

「いまは黒くないしゅ!」

「とにかく、やり直せ!爺さんにしろ!」

 ムーが怒鳴った。

「できないしゅ!」

「できない?」

「中身が変わっているしゅ。戻してから、別の魔法陣に入れるしかないしゅ」

「どうやったら、元に戻るんだ?」

 ムーが黙った。

 手を組み合わせて、指をいじっている。

「どうやったら、戻るんだ?」

「…………時だしゅ」

「時間が経てば戻るのか?」

 ムーがうなずいた。

「何時間くらいで戻るんだ?」

「72時間しゅ」

「3日もかかるのか」

 予想以上に長い。

「店長」

 窓を鏡代わりにして、女性の身体を動かしていたシュデルがオレの方を向いた。

「なんだ?」

「この女性、顔のバランスが狂っています」

 オレとムーの目が、点になった。

 それよりも、重大な問題がいくつもあるだろう。

 オレとムーの反応を、シュデルは完全に無視した。

「靴の踵が高いですが、これくらいならば歩けると思います」

 数歩、歩いて見せた。流れるように歩く。

「記憶は見えません。でも、黒魔法は使えるようです」

 指先に黒い炎を灯した。

「ボクしゃんもでき………」

 ゴン!

「痛いしゅ」

 両手で頭を押さえた。

 オレはムーの頭を殴った拳に息を吹きかけた。

「オレだって痛い。が、いまお前を止めなければ、全員死亡していた」

 自他とも天才と認められているのに、いまだに魔力調節ができないことを学習しない。

「それで、僕は何をすればいいのでしょうか?」

 シュデルが静かに聞いた。

 いきなり女性の身体に転移されたというのに、動じていない。

 オレとムーは顔を見合わせた。

 そして、現状をシュデルに向かって話し始めた。



「つまり、この身体はラモーナ様の可能性が高いのですね」

「ラモーナ?」

「ナーデル殿の正妃です」

「知っているのか?」

「直接会ったことはありませんが、キデッゼス連邦の小国から嫁がれた方なので、多少は存じています」

「小国?リュンハに嫁ぐとしたら、大国からじゃないのか?」

「ナーデル殿がリュンハ帝国を継がれると誰も思っていませんでしたので、形だけの政略結婚です」

「王族も色々と大変だな」

「はい、王妃になる予定がありませんでしたから、王妃教育を受けられていません。リュンハ皇帝の妃となってからは、色々と問題をおこされているようです」

 オレは「うんうん」とうなずいた。

「それで、店長は何をしたいのですか?」

 オレは頭をポリポリかいた。

「正直いうと困っている。爺さんが来ると思っていた。詳しい事情がわからない

「店長が元の姿に戻る方法はわかっていますか?」

「ムーに聞けば………おい」

 ムーは床に座り込んでいるうつむいていた。ヨダレが床に溜まっているとこをもみると、寝ているようだ。

 起こそうと屈んだところで、足音に気がついた。

 近づいてくる。

 シュデルが早口で聞いてきた。

「店長はこの城で何をしたいですか?」

「うまいものをいっぱいたべたい」

「わかりました。好きに振る舞ってください」

「お前はどうする?」

「ムーさんをサポートして、桃海亭に戻れるよう努力します」

 足音が扉の前まできた。

「頼む」

 オレは立ち上がった。

 扉が開き、長兄らしき男が怒鳴った。

「ナーデル、会議を放り出すとはどういうつもりだ!」

 オレが口を開く前に、シュデルがオレの前に立った。

「ここにおられるのは皇帝陛下です。ジャリル殿も、そのことをお忘れなきようお願いいたします」

 凛とした声。

 迫力満点で、長兄が気圧された。

 さすが大国ロラムの王子。

 桃海亭で店番をしているシュデルとは別人のようだった。



「はぁ………」

 会議の最中だとわかっていたが、ため息を止められなかった。

 長兄もシュデルに気圧されたものの、すぐに立ち直った。

 自分は皇帝の兄であり、この国の重鎮であることを、ラモーナに諭すように言った。本物のラモーナならば、素直に聞いただろう。中身が【キケール商店街で一番口論したくない人物】でなければだ。

 シュデルは笑顔を浮かべて応戦した。最初は優しい言葉の応酬。ボクシングでいえば、ジャブの撃ち合いだった。やがて、本格的な殴り合いになった。途中から一方的な試合展開になり、最後は強烈なストレートで床に沈めた。

 長兄のプライドはズタズタだろう。いまもオレを見ず、ラモーナを睨んでいる。

 オレが憂鬱なのは、長兄が怒っていることじゃない。リュンハ帝国はオレには関係ない国で、魔法が解ければ、オレは古魔法道具を売る日々に戻るだけだ。問題なのは微笑んで会議の席に座っているラモーナの中身だ。

 シュデルの強さのひとつに、記憶が見える、記憶と話せる、がある。特殊な補助脳があるのだと思えば諦めもつく。だが、いまはその補助脳はついていない。長兄とのささやかな諍いに補助脳は使えなかったはずだ。それなのに、リュンハ帝国についての膨大な知識、多種多様な口喧嘩殺法。【キケール商店街で一番口論したくない人物】は、ほどなく【ニダウで一番口論したくない人物】に格上げしそうだ。

 オレには、さっぱりわからない会議が終わった。

 部外者のオレにはどうでもいい会議なのだが、出席者にシュデルがいる。あとでシュデルに強制的に要点を聞かされるだろう。

 間違ったムーを呪いながら、昼食を食べた。

 昼食後は謁見。あと、わからないことだけの政務が終えた。常に誰かが側にいて小声で『○○をしてください』と言うので、問題はなかった。

 夕食は朝食と昼食とは感じが違った。肉が減って、野菜が増えた。料理の味は悪くなかった。夕食後は自由時間だというので、ムーに会いに行った。

 ムーの目が据わっていた。

「どうしたんだ?」

「ゾンビが鬼になったしゅ」

「はぁ?」

 片隅に置かれた大量の書類を指した。

 ここ数年分のリュンハ帝国の書類らしい。軍事から財政、各種政務まで分類され、積み重なっている。

「爺の目的を探せ、だしゅ」

「爺さんが、オレ達をリュンハ帝国に送った理由がここにあるとシュデルが考えているのか?」

 ムーがうなずいた。

「ムーはどう思う?」

「ウィルしゃんが、閉店を遅くしたからしゅ」

「だよな」

 正解は見つかっているのに、別の正解を探せと言われても困るだろう。

「まあ、探せばひとつやふたつは見つかるだろうけどな」

 屁理屈、こじつけ、重箱の隅をつっつけば、何かは見つかるだろう。

「ボクしゃん、読んで、考えたしゅ」

 ムーがオレを指した。

「ウィルしゃんに、王様を探して貰いたいんだしゅ」

「王様?」

「間違えたしゅ。皇帝しゅ」

「リュンハ皇帝は、もういるだろう」

 ムーが政務の書類を数冊持ってきた。

「王族の腐敗で国が溶けちゃいそうしゅ」

「そんなにひどいのか?」

「爺の子供で腐敗に関わっていないのはナーデルだけしゅ」

「それでイカサマをしたのか」

「はいしゅ。たぶん、ナーデルを王様にして、その間になんとかしようと考えたしゅ。でも、失敗したしゅ」

 持ってきた1冊のを数ページをめくった。

「ここしゅ。リュンハ帝国の法律が邪魔をしたしゅ」

 差し出されたがリュンハ文字だ。オレには読めない。

「爺は考えたしゅ。自分の腹心の部下がまだ国の中心にいる間に、ナーデルに良き王になる努力をして貰おうと。でも、ダメだったしゅ。ナーデルは兄弟達のいうままに、ダメダメと交代させたしゅ」

「爺さんの影響力、かなりありそうだけどなあ」

 ムーが別の書類を取ってきてオレに見せた。

 もちろん、読めない。

「影響力が残っているのは軍だけしゅ。軍の最高司令官はナーデルしゅ。でも、いまでも爺の命は絶対しゅ」

「そんなんで桃海亭に来ていて大丈夫なのか?」

「こっちは推測しゅ。爺、ナーデルをギリギリまで追いつめて、王としての自覚を持たせたかったんだと思うしゅ。これを読むと、自分の手に余るとすぐに爺に泣きついていたしゅ。自分でやれと爺が突き放すと今度は兄弟に泣きつく。国政が悪化していったしゅ」

「爺さんがいなくなってからは、どうなったんだ?」

「兄弟達が好き勝手しているしゅ」

 オレは考えた。

 何をできるのか?

 知識はない。経験もない。

 ムーの考えが正しいとしても、探すべき皇帝がどこにいるのかもわからない。

 オレは立ち上がった。

「ムー、あの手でいくか?」

「あの手だしゅか」

 ムーの眉が寄った。

「間もなく、シュデルが来るだろう。頼む」

「ボクしゃん、イヤしゅ」

 ムーの頬が膨れていた。

 オレは大きなため息をついた。

「そうか、できないんだな。オレはお前を天才だと思っていた。残念……」

「できるしゅ!」

 ムーの鼻息が荒い。

「できるしゅ。ウィルしゃん、明日の朝、早く起きるしゅ」

「わかった」

「持って歩いて、間違えないしゅ」

「わかった」

「正確に、確実に、やるしゅ」

 目がランランと輝いている。

 オレは笑顔で言った。

「さすが、天才だ」




 オレはフカフカのベッドで気持ちよく眠った。

 翌朝、オレが目覚めたときには、枕元に数枚の紙が置かれていた。

 オレはそれを読んで、覚えて、間違えないように、畳んでポケットに入れた。

 昨日、オレに付いた黒いローブの男は現れなかった。ひとりでローブを着て、食堂に向かった。

 食事の内容がガラリと変わっていた。野菜中心の食事だ。量は少なかったが、味は極上、栄養バランスも良さそうだった。だが、オレは不満だった。食事に肉がないなら、オレがリュンハ帝国にいる意味がない。

「私を山羊だと思っているのかな」

 食事が始まって少ししたとき、太った男が言った。兄弟ではなさそうだが、皇帝と同じテーブルについているのだから、偉い人なのだろう。

 オレはメモの内容を思い出した。

【食事に文句を付ける着席者がいた場合。「我が妻のメニューが気に入らないのかな」と相手を見ながら言う】

「ええと、我が妻のメニューが気に入らないかな?」

 真向かいに座っているシュデルから、射るような視線が飛んできた。

 たぶん『ええと』がいけなかったのだろう。

「野菜は苦手でしてね」

 投げ出したフォークが皿に当たって、カランと音が響いた。

【それでも文句を言った場合、右手を開いた状態で顔の横にあげる】

 右手?

 わからなかったが、右手をあげた。

 壁際にいた給仕のひとりが、素早い動きで太った男のところにいった。椅子の背もたれに両手をかけた。

「私にでていけと言うのか!」

 太った男がオレを睨んだ。

【そのあとは何があっても、微笑んでいること】

 オレは笑顔を浮かべた。

 椅子はひかれ、太った男は部屋から出ていった。

 部屋の雰囲気は最悪になった。

 兄弟達はオレを食べながら、睨んでいる。何か言うかと身構えたが、何も言わず、食事は終わりとなった。



 午前中の会議についてのメモは、オレの頭では覚え切れなかった。

 メモをローブの袖に隠して、のぞきみすることにした。

 最初の議題は北部地区の水利権の紛争について。聞いたことのない地名と氏名、さらには法律、力関係、などなど眠くなる内容が満載だ。テーブルのあちこちから、発言があり、激論が繰り返されている。

 メモの太字で書かれていた。

【会議中、眠らないこと】

 オレのことをよくわかっている。

 意味不明な話が続いている。

 寝たい。

【聞いているふりをすること】

 しかたなく、口が動いている人間を見ていた。

 あっちに移動、こっちに移動。

 知らない人が、知らない話をしている。

 あくびとの戦いだ。

【許可を求められたら、素直にうなずくこと】

 何度か許可を求められた。その度にうなずく。

【クッブベの話が出たら、わからなくても内容を理解すること】

 わからない話を理解できる人間がいたら、会ってみたい。

「次はクップベの件ですが……」

 説明、意見の応酬。

 まったく、わからない。

 唯一、わかったのは、獣人とトラブルになっているらしいことだけだ。

【クップベだけは、皇帝としての許可を求められたら、断ること】

「陛下。許可をお願いします」

「許可しない」

 オレに聞いた偉そうな男は、許可されると信じていたのだろう。

 話しを進めようとして、部下に指摘され、オレに聞き直した。

「陛下、許可でよろしいのですね?」

「聞こえなかったのか。不許可だ。認めない」

 部屋全体がザワメいた。

 とんでもないことを言っているのだろうが、オレにはさっぱりわからない。

「陛下。失礼を承知でお聞きします。なぜでしょうか?」

 この質問への答えはメモに書いてあった。

 オレは袖口に隠したメモを見た。

【ヌニペチョーシゲニュソオ条例の第2条に抵触する】

 オレの沈黙を勘違いしたらしい。

「許可でよろしいですね?」

 再び、聞かれた。

 腹をくくった。

「むにぺちょしげしょお条例の第2条に抵触するからだ」

 部屋がシーンとした。

 オレは叫びたかった。

『初めてみる長いカタカナ文字なんだ。少しくらい間違えたっていいだろ!』

 末席に座っていた若い男が言った。

「発言の許可を求めます」

 進行役の男が言った。

「許可する」

 若い男がオレを見た。

「陛下のおっしゃるとおりです。このままだと、ヌニペチョーシゲニュソオ条例の第2条に抵触します」

 おぉーーーという声が部屋に満ちた。

 上席に座っていた白髪の男性が、若い男に聞いた。

「どうすればよい」

「根本から見直さなければなりません」

「時間はどれくらいかかる?」

 勲章のようなものをつけた壮年の男性が、若い男に聞いた。

「1週間は必要かと」

「3日でやれ」

「できません」

 あとは怒鳴りあいが続いて、まくしたてた若い男が勝利。1週間をもぎとった。

 そのあとは、また説明、議論、許可。

 お昼の少し前に終わり。

 座りっぱなしで、尻が痛い。



 昼食は野菜がメイン。味も、栄養も、コストパフォーマンスも、いい食事だ。オレを含め、全員がラモーナ妃をにらんだが、ラモーナ妃(中身シュデル)は、動じなかった。笑顔で優雅に食事を終えた。

 昼食後、散歩だと周りにいい、ムーに会いに行った。大量の書類に埋もれたムーは目が据わっていた。

「なにをしているんだ?」

「修正プログラムしゅ」

「王様の方はどうだ?」

「そっちは、自動的に出現するしゅ」

「自動的?」

「ゾンビに聞くしゅ」

 髪はボサボサ。床には食い散らかしたサンドイッチの屑に汚れたコップ。キャンディの包み紙。

 地下書庫の扉が開いて、シュデルが入ってきた。

「女性は体力がないですね。不摂生もあるようですが」

 いきなり、文句を言った。

「疲れているようだが、徹夜か?」

「はい。ですが、3日で帰るのです。この身体を使い潰しても問題ありません」

 サラリと恐ろしいことを言う。

「ナーデル皇帝陛下の隠れ場所がわかりました」

「もう、わかったのか!」

「ムーさん、どうしますか?」

「どこにいたしゅ?」

「ムーさんの予想通り、ドノキの廃屋です」

「ドノキ、って、どこだ?」

 ムーが指を髪につっこんだ。くしゃくしゃとかき混ぜる。

「関わった近衛隊員はどうしているしゅ?」

「王宮内に2名、廃屋に2名」

「気づかれずに、捕縛は可能しゅ?」

「現在、使用可能な駒は6名ですから、近衛隊員だけならば可能です。陛下を確保するのでしら、あと2名は欲しいところです」

 ムーとシュデルが顔をつきあわせて話している。

「ここに連れてこれるしゅ?」

「いなくなっても大丈夫そうな兵士ですよね。夕刻の交代後ならば」

 オレは二人の側に座り込んだ。

「ドノキ、って、どこ………」

「店長はおとなしく、皇帝をしていてください!」

 シュデルの目がつりあがっている。が、ラモーナ妃の顔なので、あまり怖くない。

「オレだって、情報が欲しい」

「時間がないんです。店長が理解できるだけの基礎的情報まで含めたら、どれだけの量になるか、考えてから言ってください!」

 床に積み重なっている書類の中から、小冊子をひとつ選んで、オレの手にのせた。

「王族の名簿です。読んで、気に入った名前があったら教えてください」

「気に入った名前?」

「次の王様にするしゅ」

 ムーが床にあった食べかけのサンドイッチを手に取った。

「ちょっと、待て!リュンハ皇帝を名前で選ぶ気か?」

 サンドイッチをかじったムーが、シュデルに言った。

「4人連れてくるしゅ」

「4人ですか。まあ、なんとかなるでしょう。7時頃に連れてきます」

「ロッシャはどうなったしゅ」

「至急調べさせています。この女、魔力が少なすぎます。あとで魔力蓄積用クリスタルを持ってきますので、補充をお願いします」

「例の方は進んでいるしゅ?」

「店長が思惑通りに動けば、可能かと」

 悪巧みの相談をしている悪代官と部下に見える。

 ムーが書類の山から一枚の紙をシュデルに渡した。

「必要になる黒魔法しゅ」

 シュデルが目を通している。

「これとこれを修得していません」

「どっちも魔法大事典23巻に載ってるしゅ」

「わかりました。明日までに修得しておきます」

「あの、オレは…………」

 シュデルが振り向いた。

 ため息をつくと、オレに言った。

「店長に必要な物は、夕食の後までにここに揃えておきます」

 午後の謁見、政務のあと、野菜中心の夕食を食べ、地下書庫に戻った。

 オレの必要なもの。

 豪華な肉料理が並んでいた。

「文句ありませんね」

 腕組みをして、オレを見下ろしたシュデルが言った。

 肉を口いっぱいに詰めたオレは、笑顔でコクコクとうなずいた。



 翌朝も起きるとメモが置かれていた。

「ムーかよ!」

 昨日はシュデルが書いていたので読みやすかったが、ムーの字はオレより汚い。

「ええと……らふぉんて、ろす、けろ………って、わかるか!」

 ベッドのたたきつけたら、裏面にシュデルが書き直してあった。

【朝食後、会議室に行くとき、机の上の書類を持参すること】

 ベッドサイズの机の上に、書類が積まれていた。その隣には、昨日オレが地下書庫にわざと置き忘れた小冊子。

【昼食後までに、王族名簿から一名選んでおくこと】

 昨日と同じく誰も来なかったので、自分で着替えて、食堂に行った。

 兄弟も側使えの従者も、オレを偽物だと知っているからだろうが、利口なやり方には思えない。

 次に打つ手が【ナーデル陛下のご乱心】というのが見え見えだ。ナーデル自身もそれを願っているのかもしれないが、ムーとシュデルは違った未来を描いているようだ。どんな未来かわからないが。

 野菜中心の食事を終え、自室に戻り、書類の山を持って会議室に行った。

 テーブルにドンと音を立てて置いた。

「陛下、その書類はどのような種類のものでしょうか?」

 知らない男に聞かれたが、オレは黙っていた。

【会議室に入ったら、何も話さないこと。会議室を出るまで、上の唇と下の唇をくっつけておくこと】

 答えが貰えなかったことに不快を表すと思ったが、以外にも不安な表情を浮かべた。

 長子のジャリルが一番上の置かれた書類をのぞき込んだ。

 顔色が変わった。

 何かすごいものなのかもしれないが、書類は全部リュンハ文字で書かれている。オレには、一文字も読めない。

 ジャリルが隣に座った次子のカリムに囁いている。カリムの顔色も変わった。

 2人の顔が並んで、オレを不安そうに見ている。

 会議が終わり、書類を抱えたオレが部屋を出ようとすると、カリムが近づいてきた。

「手伝おう」

 いらないと答えようとして、メモに書かれていた【会議室を出るまで、上の唇と下の唇をくっつけておくこと】を思い出した。

 オレは何も言わず、書類を抱え、会議室を出た。

 オレが部屋を出るとき、カリムが何か言おうとしたのを、ジャリルがとめた。

 昼食後、地下倉庫に行くと王族の名簿を要求された。目をつぶって、適当に開いて、ペンをつきたてた名前を指した。ムーは黙ってうなずいた。

 厚切りハムをはさんだサンドイッチとジュースを持って、シュデルが現れた。男を6人引き連れてきている。

「成功しました」

「わかったしゅ」

「次のミッションは午後3時に行います。それまで、ここに置かせてください」

「餌とトイレはやっといてしゅ」

「わかりました」

 ムーはサンドイッチを食べながら書類を読んでいる。

 壁際に並んで立っている6人の男達は無表情だ。何かの魔法がかかっているのは間違いない。

「こんなことをして大丈夫なのか?」

 シュデルに聞いた。

「何を悠長なことを言っているのです。敵は既に動き出しています。こちらの動きはムーさんと僕で押さえられますが、ニダウの方はハニマンさんを信じるしかありません」

「やっぱり、オレ達の正体はバレているのかな」

「店長はともかく、ムーさんは目立ちすぎます。100パーセント桃海亭だとわかっています」

「店、壊されると困るんだけど………」

「ハニマンさんがいます。僕の身体もありますから、簡単には手出しできないでしょう」

「オレとムーがいないのは、知られているよな?」

「おそらく。まあ、ムーさんは研究のために閉じこもっていると言えばいいですし、店長は身代わりを置いておけばいいことです」

「オレの身代わり?」

「僕でしたら、ブレッドさんをカウンターに置いておきます」

 ハニマン爺さんに頼まれたら、ブレッドは絶対に断れない。

「ハニマンさんがいますから、命くらい残ります」

 命以外はどうでもいいようだ。

 その後は、6人の男達に持ってきた食事を配ったり、トイレに行くよう命令したり、キビキビと動いている。シュデルに疲れている様子はない。

「元気だな。今日はたっぷり寝られたのか?」

「寝る暇などありません。魔法で体力を維持しています」

「魔法って、そんなこともできるんだ。便利だなぁ」

「昨日も言いましたよね。この身体は使い潰しても問題ないと」

 桃海亭にいるラモーナ妃の中身に祈った。

 文句がありましたら、シュデルに言ってください。それでもなければ、召喚を間違えたムーにお願いします。

 ムーの白いくせっ毛の間から長い毛の束が突き出ている。髪に見えるが魔法道具の補助脳だ。頭を酷使しているときに、立ち上がる。

 ムーの補助脳の上に魔法陣が展開した。その上に、幾層にも重なった魔法陣。

 何かと問いかけようとしたオレの肩をシュデルが掴んだ。

「いまはダメです」

「へっ?」

「ムーさんの邪魔をしないでください」

 シュデルが真剣な目をしている。

「店長、人を迅速に動かすには、どうしたらいいと思いますか?」

「肉」

 シュデルは指で額を押さえた。

「この状況で冗談を言える店長を、僕は心からスゴいと思います」

 半分、本気だった。

 若者に肉は大事だ。

「恐怖、悪意、金、これで大抵の人が動きます。僕がいいたいのは、お人好しの店長はここでは邪魔な存在です」

 きつい口調で言っているが、ラモーナの顔なので怖くない。

「店長。午後はメモ通りに動いてください。夕食後は、自室に戻って寝てください。肉とおやつは届けます。明日、メモはありません。何もしないでください。いいですね、何もしないでください」

 オレはコクコクとうなずいた。肉をくれれば、文句はない。おやつまでくれるなんて、いつもシュデルとは思えない優しさだ。

 シュデルはドアを指した。そして、優雅な仕草でお辞儀をした。

「では、店長、お元気で」




 大国が、ひとりやふたりの行動でなんとかなるとはオレは思っていない。皇帝の首をすげかえて、なんとなかる簡単な国は存在しない。世界は制御不能な複雑な構造体で、人は制御不能な複雑な生き物だ。

 歴史ある大国の澱は膨大で、天才だろうが凡人だろうが、動かせる範囲は限られている。

 だから、ムーとシュデルが何をやっているのか興味はなかった。

「ナーデル・ハニマン。我々に同行して貰おう」

 早朝、寝ているところを起こされた。

 偉そうな魔術師と強そうな兵士が5人。

 オレは素直に従った。

 行き先は、オレが目覚めた牢屋。

 振り出しに戻る。

 逃げるということは考えなかった。

 シュデルが昨日言ったからだ。

『何もしないでください』

 一時間もしないでムーが連れてこられた。

 一緒の牢屋に入れられた。

「寝るしゅ」

 過労と睡眠不足で目の周りを真っ黒にしたムーが、オレの隣に転がった。すぐに寝息をたてた。

 オレも横になった。羽布団がないのが寂しいが、眠れないほどの寒さじゃない。

ーー 迎えにきた ーー

 モジャの声に目覚めた。

 ムーは爆睡中。

 モジャは壊れ物扱うように、寝ているムーをモップでくるんだ。オレは慌ててモジャに掴まった。

 直後、桃海亭の店内に出現した。

 窓辺で薬草茶を飲んでいたハニマン爺さんが会釈をした。

「モジャ殿、お疲れさまでした」

 モジャも挨拶を返したあと、2、3言交わすと

ーー ムーを二階で休ませくる ーー

 そう言って、モジャはムーを連れ、2階にあがっていった。

 ハニマン爺さんは、再び窓辺の椅子に腰掛けると旨そうに薬草茶をすすった。

「ナーデルの容姿は似合っとらんな」

「誰のせいで、こうなったと思っているんだ」

「いつもの姿よりもマシではあるがな」

「あのな、爺さん」

「その話し方は、ウィルか?」

 声の方を見た。

 カウンターにミイラ男が立っていた。

「爺さん、ミイラ男がいる」

 爺さんが答えるより、ミイラ男が吼えた。

「オレだ!ブレッドだ」

「魔法協会のブレッドか?」

 シュデルの予想的中していた。

「お前の代わりにカウンターにいろと言われて………」

 ミイラ男が鼻水を啜った。

「……いきなり、戦士に殴られたり、剣で首を切られそうになったり、魔法で撃たれて…氷漬けになったり………」

「良かったな。生きていて」

「オレのこの姿を見て『良かった』と言うのか?」

「それより、シュデルを知らないか?」

 中身がラモーナ妃のはずだ。

「その前に感謝とか謝罪とかないのか!」

「身代わりをしてくれてありがとう。オレの命の危険をたっぷり感じてもらえたと思う。今後も頼むことがあるかと思うが、よろしく」

「誰がするか!」

「で、シュデルは?」

「食堂にいる」

「わかった」

「気をつけろよ。その………ショックかもしれないが…」

 オレはうなずいて、食堂に移動した。

「陛下!」

 持っていた皿を床に落とした。

「あ、オレ、別人だから。この店の店主。ウィル、っていいます。よろしく」

 話し方で別人だとわかったのだろう。すぐに落ち着いた。

 皇族の女性が、男のシュデルの身体に入って、さぞ困っているだろうと思っていた。

 髪は凝ったデザインに結い上げられ、飾り紐で留められている。唇には、紅をさしている。

 ピンクのローブはいつもと同じだが、可愛いエプロンをしており、どこからみても女性にしかみえない。

「私はラモーナといいます。よろしくお願いいたします」

 はにかんだような可愛い笑みを浮かべた。

 リュンハで見た時とは別人のようだ。

「いきなり、こんな店の男の身体に入れられ驚いたよな。手違いだったんだ。ごめんな」

 ラモーナは首を横に振った。

「最初は驚きました。でも、ここに来て良かったです。お義父さまとゆっくりお話しする機会ももてました。朝起きて、お料理をして、お洗濯とお掃除をして、私、とっても楽しかったです」

 家庭的なお妃様だったらしい。

「なにより、暖かくて花がいっぱいあって……」

 そこで気がついた。

 食堂中に花が飾られている。それも、鉢植え。

 どれも世話がされているようで綺麗に花を咲かせているが、数が半端じゃない。狭い食堂に30鉢以上ある。

「フローラル・ニダウのリコさんとお友達になりました。リコさん、花のことがとても詳しいんですよ」

 花屋で働いているんだから詳しいに決まっているだろ、と、言える雰囲気じゃない。

 幸せそうなラモーナ妃には悪いが、オレは残酷なことを告げなければならない。

「そろそろ、戻るから」

「何が戻るのですか?」

「リュンハの身体に」

 ラモーナ妃が停止した。

 数秒後、叫んだ。

「イヤーーーー!」

「あっちが本体だから」

 シュデルが乱暴に扱っていたから、疲労度マックスの可能性があるが。

「イヤです。絶対にイヤです。このままがいいんです」

「悪い。勝手に戻るみたいなんだ」

 戻ってしまうとわかったのだろう。

 涙をポロポロと流すと、床に座り込み、そばの鉢を抱きしめた。

「この子だけでも、連れていけませんか?」

「悪い」

 オレの返事が終わる前に、ラモーナ妃の力が抜けた。

「……ん……戻れたようですね」

 シュデルが顔を上げた。

「わっ!」

 抱いていた鉢を放り投げた。

「おっと」

 オレが受け止めた。

 小さな白い花がたくさん咲いているエンドリアでは庭先によく植えられている多年草だ。

「なんですか、この植物は!」

「ラモーナ妃が育てていたみたいだ」

「植物は生きていますから、捨てるわけにはいきませんね。リコさんに引き取って貰いましょう」

 シュデルが立ち上がった。

 壁の鏡に、シュデルの姿が映った。

「僕は着せかえ人形ではないのですが」

 冷たく言うと、結い上げた髪を解いて、いつものようにひとつに結びなおした。

「リコさんに引き取って貰うように頼んできます」

「こいつだけは、もらってもいいか?」

「かまいませんが、世話は店長がしてくださいよ」

 いつものシュデルの突き放したような言い方だった。



 翌日の昼過ぎ、ムーが目覚め、シュデルと一緒に爺さんに報告した。

 リュンハ帝国は前と変わらず、ナーデルが皇帝陛下をやっているようだ。ナーデル皇帝陛下にまつわる一連の事件は何もなかったことになっている。

 誰も何もしてない。

 結果は6ヶ月後だと言っていた。

 ムーが仕込んだ計画らしい。

 オレは鉢植えをリュンハに送った。陸送だと枯れる恐れがあるので、魔法協会の大型飛竜がニダウにきたときに頼んだ。魔法協会は運送業はやってないと言われたが、枯れずに運んでくれたようで、ラモーナ妃からお礼の手紙が届いた。温室で育てているらしい。

 オレにかけられた魔法はハニマン爺さんが解いてくれた。オレがウィルに戻るとブレッドが歓喜した。オレの身代わりは『灼熱の砂漠でイエティの集団に襲われる』より過酷だったらしい。

 ラモーナ妃のシュデルは、評判が良かった。人当たりがよくて、いつも楽しそうで、よく笑っていたそうだ。フローラル・ニダウのリコは『あっちに戻れ』とシュデルに面と向かって言っていた。

 ムーはいつものムーに戻った。腹を出して寝て、飯食って、怪しげな研究をして。

 ショッキングピンクの服で、キャンディを嘗めながら、キケール商店街を歩いている。








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