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横顔  作者: 水上実結
2/5

approach

今度こそ、舞は走った。

教室の扉を閉めた後、鼓動は次第に早くなった。全身が心臓になったかのようにドクドクとした音が身体中に響き、身体を駆け抜けるその衝動に、とても歩いてはいられなかった。


舞が去った後の教室では、彼女の足音を聞いた広澤がふっと笑みをこぼしていた。

幼馴染みである桃は、彼のその顔を物珍しそうにしげしげと眺めた。


「なに?」

「悠があんな風に言うの珍しいね。」

「なにが?」

「ううん。」

「なんだよ」

「なんでもなーい。さ、帰ろっか」


☆☆


部室のある別館まで舞は走った。

このまま部室に駆け込むのを躊躇う程度には、頭も働くようになった。


けれど、


ー広澤くん、ああ言ったってことは、私がなんで謝ったのか気付いてたんだよね。やっぱり私邪魔しちゃったのかなぁ。しちゃったんだよねきっと。

もう一回ちゃんと謝った方がいいかな。

え、でもなんて謝るの?「キスの邪魔してごめんなさい」?

・・・その謝り方、合ってるかな?


多少働くようになったせいで、ぐるぐると考えを巡らせ始める。


ーそんなに赤かったのかな、私。

しようとしてた方じゃなくて、見ちゃった方が赤くなるっておかしいのかな⁉

ふたりとも平然としてたし、たいしたことじゃない、とか?

いやいや、キスはたいしたことだよね⁉


気付けば足が止まっていた。


「おい、なにやってんの。」

「へ!?あ、遼ちゃん」

「急に立ち止まって動かなくなるから、何があったのかと思った。舞、俺を追い越していったのも気が付いてなかったでしょ」

「すみません」

遼ちゃんは中学からの友人。いつもちゃんと話を聞いてくれる、いい相談相手。


「で?どした?」

「わかんない」

「はぁ?」


でも今回は、今回はなぜか少し隠したくなった。


「いいの、もう。

遼ちゃんもいまから部室行くの?」

「うん、舞も?」

「うん」

「題材、決まったか?」

「まだ」

「大丈夫か?」

「がんばる」


☆☆


ーどうしようかなぁ文化祭の展示。

そろそろほんとに決めないと。


ーそういえば、広澤くんと初めて喋ったけど・・・名前、ちゃんと知っててくれたの嬉しかった。


お風呂の中で、のんびりと1日の出来事を反芻するのが舞の日課。

そして、見てしまったシーンを思い出して、ぼんっと顔が赤くなった。


ー広澤くん、すごく綺麗な横顔だったなー。一瞬だったのに、頭から全然離れない。


あ!

と舞の声がお風呂場に響く。


ー広澤くんに被写体になってもらいたい!あの横顔を撮ってみたい!!明日お願いしよっ!


気まずさをすっかり忘れ、興奮ぎみにお風呂から上がった舞は、撮りたいと思う被写体を見つけた喜びに、なかなか寝付けなかった。


☆☆


「嫌。」


翌朝、広澤にあっさりと断られた。

でも、ここはそう簡単には引き下がれない。普段はあまり押しが強くない舞も粘った。


「お願いします!」

「嫌だってば」

「私も嫌なの。どうしても・・・お願いします!」

思いっきり頭を下げた。


「ちょっやめてよ、」


「あれー?珍しい組み合わせだね。」


「歩」

「歩くん」

隣のクラスの坂本歩の声がふたりのやり取りをとめた。


「おはよう。朝からどうしたの?こんな廊下で。ふたりとも目立ってるよ。」


「あ・・・ごめんなさい広澤くん。」

広澤を見ると、首を小さく横にふられる。


「で、舞ちゃんどうしたの?」

「えっと、広澤くんにお願いを・・・」

「え、なになにー?」

「歩には関係ないよ」

「えー気になるー」

「あの、被写体になって欲しくて、」

「被写体?」

「一条さん、写真部だからでしょ。でも嫌。」


先程詳しい説明をする間もなく断られていたが、舞が写真部であることを広澤が知っていることに驚いて、舞は思わず目を見開いた。


すると、隣にいた歩も舞と同じように目を見開いていた。

だが、すぐににこっと笑い、

「いいじゃん、なってあげなよ被写体」と言った。

歩の援護に乗っかり、「お願いします!」と舞はもう一度頭を下げた。


「はぁ…嫌。」

「ね、舞ちゃん、なんで突然悠を被写体に?ふたりが話してるところ初めてみたんだけど。」

「えっ・・・」

「理由次第ではさ、悠も考えてくれるかもしれないよ?」

「・・・」

ここにきて、舞は唐突に昨日のことを思い出した。夢中になり、謝ろうとしていたことすら忘れていた自分を恥じ入り、顔が熱くなるのを感じた。


「一条さん?」

様子が変わり、黙りこんでしまった舞に広澤が声をかける。


すると舞は顔をあげ、真っ直ぐに広澤を見つめながら、

「ごめんなさい。横顔が・・・横顔がすごく綺麗だと思ったから。」

と言った。


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