first conversation
「あ。
ごめんなさい‼」
忘れ物を取りに教室へ戻り、出くわしたふたりに思わずでたひと言。
教室の窓際に立つ二人に少し距離はあったけれど、クラスメイトの広澤悠が前に立つ女の子の顔を覗きこむようにしていたのをみて、邪魔をしてしまった、と咄嗟に思った。
「「え?」」
と、ふたりが同時に私の方を向いた。
「あれ、舞。どうしたの?」
女の子は小嶺桃。去年私と同じクラスだった。すらりとした綺麗な女の子。
「えっと、忘れ物、取りに来たの。」
「なに後ずさりしてんのー。早く入りなよー」
「う、うん。」
教室の中に足を踏み入れ、自分の席へと進む。
良かった~、私の席廊下側で。
窓際だったら気まずかった・・・
私の席は、廊下側の後ろから3番目。
あまり損も得も感じない席だったが、この時ばかりは有り難かった。
忘れ物が見つかり、ふたりがいた方を振り返ると、腕を組み、窓にもたれかかるように立つ広澤くんが私をじっと見つめていた。
「あれ?桃ちゃんは?」
「ちょっとでていった」
「そっか」
早くもそこで会話が途切れた。
「じゃあ私」
「一条さん」
帰ろうと切り出したことばに、広澤の声が重なる。
「一条さん」ともう一度呼ばれ、
「顔、赤いけど、具合でも悪いの?」
と問われる。
「えっ、ううん、大丈夫!」
舞は思わず自分の頬に手をあてた。
「そう?暑いの?」
「・・・うんっ走ってきたから」
「ならいいんだけど」
「ありがとう、心配してくれて」
「一条さん」
「ん?」
「『ごめんなさい』って、何に?」
「・・・え」
「悠、お待たせ~帰ろ~」
ふいをつかれた舞がぽかんとしていると、桃が鞄を手に戻ってきた。
「あ、舞。忘れ物、あった?」
「うん。えーっと…じゃあ、私行くね!」
「一条さん」
「一条さん。帰るなら、一緒に帰らない?」
「「え?」」
今度は桃と舞がハモった。
「舞、そうする?」
「え?あ、あの、私、部室に寄っていきたいから・・・ごめんね、ありがとう」
「そっか。じゃあ、悠。帰ろっか。」
「うん。じゃあまた明日ね、一条さん」
「うん、じゃあ、ふたりともまたね。えっと、先、行くね。」
「一条さん」
舞が教室からでる間際、再び広澤が舞を呼びとめた。
「俺、走ってくる足音、聞こえなかったかも。」
「え?」
「じゃ、またね一条さん。部活、頑張ってね。」
「う、うん」