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第2話 White and Black

私が鈴に出会ったのは、両親に勧められた通信制の高校に進学してから、少ししてからのことだった。

極度に人嫌いが進んでしまって、部屋から出るのも拒み続けていたけど……


何か、このままでは良くないと思っていたのも事実だった。


世の中を、世界を拒絶し続けて、色を持たない、自分の存在すら否定したくて……

堂々巡りの思考の末に、私は本当に一縷の望みをかけて、その校門をくぐる決意をしたのだ。




「――ねぇ、名前を聞いてもいいかしら?」

「……柊雪白ひいらぎゆきしろ……」

「雪白さんね……綺麗な名前。私は高梨鈴たかなしすず。よろしくね」

「……よろ、しく……」


行き交う人たちの、私を見る目に怯えながら……つばの広い大きな帽子と色の濃いサングラスに、私の髪も瞳もすべてを隠して、案内をしてくれる先生の後ろについていく。

そして、恐る恐る教室に入ると、すぐに隣の席に座っていた、黒のフリルがたくさんついた、まさに私と正反対のようなゴシックロリータに身を包んだ可愛い女の子が、そう話しかけてきたのだ。


何年振りかに、親しみすら感じる口調で話しかけられて、単語でしか答えられなかったが――


何故か、真夏なのに長袖を着て、素肌を一切見せない彼女に、一瞬、不思議な印象を抱きながらも……

私は彼女からは、今までの人たちと違って、好奇心を隠そうともしない視線も、何か言いたげな気配も何も感じなかった。


ただ、ごく自然に――私が、何色であっても重要ではないような口調で、私に話しかけてきた。


私は、彼女が他の人には無い、何か別のものを感じた気がして、彼女には気を許せる気がした。


それが、私と鈴との、友情の始まりだった。


――――――――――――


鈴との出会いによって、私の気持ちは大きく変わってきた。

彼女はすごく知的で、学校に全く通っていなかった私とは、比べ物にならないくらい博識だった。

夏でも冬でも関係なく、肌を見せることなく、一貫してゴスロリを貫いていること以外は、何にも感じなかったし――正直に言うと、私の真逆の存在のような気がして、彼女にひどく憧れを抱き始めていた。


だから、週に1回しか登校する必要がない通信制であっても、鈴とただおしゃべりするためだけに学校に顔を出したし――彼女と過ごす時間が、私が失くした時間を、埋め合わせてくれているように感じた。



通っている生徒は、みんなが私のような、どこか心に闇を抱え込んでいた。

だから、みんなが他の人たちにすごく寛容で……この場所にいる限り、どんな存在であっても、認めてくれる気がした。


楽しかった。そんなみんなといると、私が今まで作ってきた、私自身を守るための壁が、少しずつ壊れていくのを感じた。


何よりも、鈴と一緒にいると、私は本当に楽しかった。彼女の傍にいると、勉強することすら楽しいと思えた。通分することすらできない私に、根気強く教えてくれたり、すごく綺麗な発音で英語を教えてくれたり……。


そんな鈴が、私の何よりの支えであり、誇りだった。


鈴の傍にいてもいい――


色の無い、存在すら許されなかったアルビノの私が、初めて『柊雪白』という個を許されたのだと、そう思った。



ただ、時折彼女が見せる、空っぽの瞳が――

その空虚な瞳の、漆黒の闇の中に、真っ白な私がそのまま吸い込まれそうな、その瞳が、だんだんと私の心を占め始めていた。



ある時、私たちはいつものように学校で先生たちや他の友達と交っておしゃべりをして、時々勉強していたら――

ふと隣を見ると、鈴が頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。


相変わらず季節に関係なく全身をゴシックロリータで武装した彼女だけど、彼女が纏った黒が、あまりにも美しく映った。


あまりにも綺麗な黒が、私の心を捉え――



私はその時、つい手を伸ばしてしまった。

彼女に触れたくて、彼女のその綺麗な黒に触れたくて。


彼女の、帽子に。

そして髪に。



真夏で暑苦しいのに、まして室内なのに、


「正装だからよ」


と言って、いつも絶対に取ろうとしない漆黒の帽子に隠されているはずの、私にはない『艶やかで美しい黒髪』を、この目で見たくて――。



――でも。


「――やめて!!!!!」

「――っ!!」


彼女の髪に、私の指先が、ほんの少し触れた途端――

鈴から、今まで聞いたことがないような、大きな声が聞こえた。


それは、明らかな「拒絶」の意思。

それを私に向けて、必死に――そう、必死に鈴は、自分の髪を守るようにして背を私に向けないように立った。


初めて鈴から向けられる感情に戸惑い、だんだんと大きく波紋を広げていくように、私の心がざわめき始める。


いつもとは全く違う様子の彼女の方を、じっと見つめた。


震える鈴の、後悔の色を帯びた、小さな……本当に小さな、「ごめん」という声が聞こえたかと思うと、そのまま彼女は教室を飛び出していって――


それから、しばらく学校に顔を出さなくなった。


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