萌え村
タグ通り「誰得」の塊です。
「やってはいけない萌え要素」のごく一部を形にしたともいう。
斬新すぎて誰も萌えないと思います。
ある所に変わった集落がありました。
集落の人間たちは誰彼構わず「萌え要素」を追求し、己が信ずる萌えの道を追求するという一風変わった集落です。
そして、私――――このお話の語り部は、今日、その集落の取材に訪れたレポーター。
事前に隣の集落の方々にお話を伺っており、事前知識は十分です。
隣の集落の方からは「誰得村」「見てはいけない者の集まる場所」「魔境」「悪魔の巣」などなど、様々な評価が聞けており、想像するだけでも楽しい場所のようですね。
これは取材のしがいがありそうです。
「というわけで、やってきました噂の集落「萌え村」! 混沌大好きレポーター、上坂がお送りいたしますよ!」
魔境と聞いてワクワクが止まらない私のテンションは上がります。
カメラマンは何とも言えない表情をしていますが、私はそういう魔境などは大好きですよ。
さあ、張り切っていきましょう!
まずは――――第一村人! そこの貴方ですよ、道を歩いているお婆さん!
「こんにちは! 集落の取材に来たレポーターの上坂と申しますが、少しお話聞かせていただいてよろしいでしょうか?」
「何? 取材!? ふん……そう、中々いい度胸じゃない。高貴なこの私の取材に来るなんてね」
……おかしいですね。
今、お婆さんと話しているはずなのに、高飛車お嬢様の幻影のような錯覚が……。
「今日は特別ですのよ、特別! ほら、美しい私が取材に応じてあげるんだから、じゃんじゃん良いのを撮りなさい!」
「それはまた嬉しい事を言っていただけますね」
……うーむ、やはり目の前のお婆さんから幻影が見えるような……。
高飛車お嬢様な口調のお婆さんとは斬新ですね。
しわしわの顔に曲がった背中、そして白髪。
ここまでやってるのに、口だけは見事に高飛車なお嬢様そのものです。
お婆さんの描写を抜いて会話だけにすると一切違和感がありませんね。
後ろのカメラマンさんは拒絶反応でも起こしてしまったのか口から泡を吹いていますが、必死にカメラを持っています。
仕事人ですね。実に頼もしい。
「この村に関する噂を聞いてきたのですが、貴方の他にも似たような方が居ますか?」
「ああ、あの方々や彼女たちの事? 私とは目指す道こそ違いますが、共に精進する同士ですわ。特別にこの私が案内してあげてもよろしくてよ?」
「本当ですか? それは有難いです」
歩き出したお婆さんについていき、萌え村の中を移動します。
カメラマンさんは村のあちこちに立てられた「時代はツンデレ美少女よ!」と叫ぶ太ったおばさんの描かれた看板や「萌えは世界を救う!」と叫ぶお婆さんが厚化粧とカツラで美少女になろうとする漫画の描かれた看板を見て「萌えとは一体……うごごご……」と呻いていますが気にしないで行きましょう。
しかし、予想以上の混沌ですねえ。
周囲の方から見れば「魔境」なのでしょう。
混沌大好き上坂レポーターには、カオスコメディーな劇をタダで見せてもらっているような感覚なのですが。
「あそこですわ」
お婆さんが指さした先には井戸があり、井戸の周囲には二人の人がいます。
なるほど、あそこですね。ありがとうございます。
「礼には及びませんわ。では、これにて」
「ええ、案内ありがとうございます」
お嬢様口調のお婆さんと別れ、井戸の方に向かうと、井戸の近くにいる人の様子が明らかになってきます。
最初に目についた人。遠目には一見セーラー服の少女っぽく見えますが……?
「な、何よ!? 人の事をじろじろ見て!」
振り返ったらなんとおばさんです。
似合わないセーラー服とスカートを無理やり着込み、分厚い化粧で何とか少女に化けようとしているようですね。
そもそも体型からして太っているのでぶっとい足と横に太い身体、とくにお腹辺りが明らかに危険ですが。
これに加えてまさかのツンデレみたいな口調とは。
口から吹いている泡がシャボン玉のように空へ飛んで行っているカメラマンさんは、ちょっと正気度をチェックしないといけないかもしれません。
「ちょ、ちょっと! 何とか言いなさいよ!? あんた一体何なのよ!」
これは凄い物を見ました。
上坂レポーター、番組作成が楽しみになってきましたね。
朝のお茶の間にカオスをお届けすることができるかもしれません。
「おっと失礼。私、レポーターの上坂と申します。なかなか斬新で美しい物を見た物で、感動のあまりつい言葉を失ってしまいました」
「う、美しい!? な、何よ! 褒めたって何も出ないわよ!」
これが美少女なら絵になるようなテンプレ的な照れ隠しの言葉。
目の前に居るのは太った体型で無理してセーラー服の上下を着た厚化粧のおばさんです。
厚化粧のおばさんが頬を染めてこんな言葉を言ったところで効果は無いでしょう。
「カメラマンさんー? 私の事撮ってー」
文面だけ見たら可愛い口調でカメラマンさんに自分を映すようせがんできたのは案の定腰の曲がったお婆さん。
もちろん、口調だけは少女っぽいです。
この村のお約束と言うかなんというか。
「ねえー。カメラマンさん~」
「……」
うーむ、私はもっと調べたいですが、どうやら帰った方がカメラマンさんのためになりそうですね。
この人たち適当にあしらって引きあげます?
(モウヤダコノシゴト……コノレポーターニツイテイッタラオレノセイシンガモタネエヨ……カオスダイスキモイイカゲンニシテクレ……)
「あー……しょうがないですねー」
カメラマンさんがこのままじゃ不味そうですし、残念ながらここまでですかね?
カメラ止めちゃっていいですよー。
精神的にアレなら撤収も……って、猛ダッシュで逃げましたねえ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 声をかけて来たと思ったら出番これだけなわけ!? ふざけないでよ!」
「カメラー」
「いえいえ。心配なさらずとも……」
私は大好きですので!
私が勝手にカメラ回せばいいですよね!?
番組は期待していてくださいねー!
後日、私の取材した萌え村特集が朝のお茶の間で放送された後、テレビ局には「朝のお茶の間が噴き出した飲み物や食べ物で滅茶苦茶になった」「頭から怪物の姿が離れない」「悪魔を公開してはいけない」といった励ましのコメントが多く寄せられました。
動画サイトに載っていたのを確認したのでタグを見てみましたが、腹筋崩壊やゲテモノ、見てはいけないなどのタグが。
反響がありましたし、インパクト的には成功ですね!
せっかくの萌え要素も、こんなのでやったら誰が得するんでしょうねえ。
外見だけでも美少女なら年齢詐欺でも素直に可愛いと思うんでしょうけど、外見がただのおばさんやお婆さんじゃあどうにもならない。