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終末世界の創世記  作者: 言乃葉
3:10 to Yuma 邦題:3時10分、決断のとき
73/83

5話 クララ→ルナ




 ゲアゴジャ中心市街地から東に約五〇㎞、ここはコラッド河流域を開墾した田園風景が広がる一帯だ。渓谷が延々と続き、それに沿って道が伸びて集落が点在している。その一画にある土地がこれから始まる戦いの発火点だ。

 林を切り開いて、畑を潰してローラーで平らにならされた臨時で設えた発着場には、大小合わせて二〇に及ぶ数の飛行船、飛行艇が停まっている。全ての機体の機関はすでにアイドリング状態、いつでも飛び立てるように暖まっていた。

 山向こうから太陽が顔を出して間もない朝の空気に飛行船の出す機関の音が響き渡る。


 一機の中型の飛行船が機関音を大きくした。離陸のために出力を上げたのだ。ゆったりと機体は重力に反して空へと持ち上がり、充分な高度に達したらこれまたゆっくりと回頭して進み始める。高度と速度は徐々に増していき、やがて飛行船は北の空を目指して飛び立っていった。

 この最初の一機に釣られるように一機、また一機と空へ舞い上がる飛行船。それらも北の空を目指して飛んでいく。

 彼らが目指すのはジアトーに突入する前に陣形を整える集結空域。戦いの前準備はいよいよ最後の段階に移っていた。


 そんな風に次々と飛行船が離陸する臨時発着場、その片隅であたしは自分に出来る仕事をこなしていた。


「こっちの飛行船ってプロペラ回す部分が少ないからあんまり五月蠅くないけど、それでもこの数集まったら流石に耳にくるわ」

「耳栓あるけど使う?」

「いい。そうなると今度は客の声が聞き取れないから」

「分かった」


 発着場の隅を長机で区切った簡単なブースにあたしとルナが居て、さっきからとりとめの無い話を延々と続けていた。

 ブースの前には発着場に集まった沢山の人で雑踏が出来ている。みんな戦いを前にして緊張しているのか発する声は総じて抑え気味、それでも人数が人数なので周りは結構ざわついている。

 あたしは机を作業台にして客から預かったライフルをバラして部品を磨いて、その後ろでルナがさっきから自分の銃のマガジンに弾を込めている。作業の気晴らしにやっているお喋りも相手の口数が少ないせいで会話のほとんどがこっち担当だったりする。

 口を動かして手も動かす。部品に付着した火薬カスやススを落して稼働箇所はグリスアップ……ああ、これは随分手入れしていない銃だね。もしかしたら転移してからずっと手入れしていないのかも。よくジャムらなかったわねコレ。

 ロクに自前の武器を手入れ出来ない人間がこれから戦いに向う事に不安を覚えるけど、そのためにあたしのような職人がいるんだし、お金も落としてくれるので文句は無い。


「でも、もやっとするなあ。今はあたしのような職人に武器の面倒見て貰えるけど、この先この銃の持ち主ってこの世界でやっていけるのかな」

「やっていけないなら死ぬだけだよ。そうでなくても今回の戦闘で死ぬ可能性はある」

「ルナ、貴女時々恐ろしくドライだね」

「そう?」

「まあ、楽観しないのは良いことだけど」

「そう」


 銃を組み上げて最後に各部の動作を確認して終了。ボルトを前後に動かせば金属が滑らかに擦れる音がして耳に心地良い。騒がしい環境の中でもこういう音とガンオイルの匂いで気分が落ち着くとは、我ながら相当職人気質になったものだ。

 よし、銃の整備は完璧。後は客に渡して代金を貰うだけだ。少しだけ後ろの様子が気になったので振り返ってみると、ルナは木箱に腰掛けて次の作業を始めていた。

 砥石とオイルを取り出してナイフをタッチアップしている。カランビットにトレンチナイフか。両方とも特殊な形をしているから手入れが難そう。現にルナの顔は眉根を寄せた難しい顔になっている。この分だと声をかけても返事は返ってこないかな。

 後ろの様子に苦笑しつつ、銃に付けた整理番号のタグを確認してから拡声器メガホンを手に取った。


「えー、整理番号32番の人ー! 整備が終わりましたので取りに来て下さーい!」

「あ、はーい! オレです! 32番!」

「整理券を出して下さい。――はい、確認しました。こちらの銃で間違いないですね?」

「うん、間違いないです」

「じゃあ料金は80クレジットですのでよろしいですか」

「80か、うんこれで」

「まいど~」


 銃を取りにきた人から料金を受け取って引き渡す。こうして手さげ金庫にまた紙幣のお金が増えた。

 あたしに行く末を心配された相手は、一〇代後半の少年の姿をしていた。もちろん外見だけかもしれないけど、受け答えから鑑みるに中身もそう変わらないと思う。

 果たして彼はこれから向かう戦場をどう思っているのだろう? まだゲーム感覚が抜けないのか、それとも悩み抜いて銃を手にしたのか。遠ざかる背中を見ただけじゃ分かりそうもない。

 それに時間は限られている。飛行船の出発に間に合うよう次の客の物に取り掛からなくてはいけない。思考を切り替えて次に整備する銃を手に取った。


 ここまで来るとあたしが置かれた状況をいちいち説明するまでもないと思う。けど念を入れて分かりやすくしよう。

 この世界に転移してきた人のほとんどは元は日本人だ。少なくともあたしが出会った元プレイヤーはそうだった。これはゲーム『エバーエーアデ』が日本国内限定のネトゲだったのと無関係じゃないはず。

 で、日本という国は武器の所持に色々と規制がかけられている。例えば国内で銃を合法的に持っている人は、公務員か射撃競技の人か猟師ぐらいしかいない。銃に限らず大型の刃物もそうで、およそ武器と言える物は日本の一般家庭には無い。

 当然といえば当然な話だけど、そうなるとこの世界にやって来た人達はロクな心得も無い武器を手に戦わなければいけない。育てたキャラの能力で戦闘中の扱いは大丈夫でも、それだけで問題無しとはならないのが現実だったりする。

 日頃の手入れ、戦闘以外での扱い方、保管のしかた、そういった細かいテクニックは日常的に慣れないとまず身に付かないらしい。

 人からの又聞きだけど、ここに来る客の何割かが扱い方を誤って大小色々な怪我を負っているそうだ。そうでない人も武器の手入れを怠けたせいでサビ付かせたのもあった。

 だからあたしのような職人が動く。戦闘を前にして消耗する弾薬の供給と一緒に、武器の整備サービスも有料で提供するのだ。


 横に視線をやると、あたしのところの様な長机で囲ったブースが幾つもある。これに一番近い光景で思い浮かぶのは同人誌即売会だ。

 隣のブースでは会議でも隣の席になっていたエルフの子が長柄武器の手入れを一生懸命やっている様子が見えた。あれは槍、いやグレイブかな。小柄な体格でよくやるもんだ。

 さらにその隣では、防具のメンテナンスをしている若い青年が裾の長いコートをミシンにかけている。意外とミシンを使いこなしており、あちこち破れていたコートが見る間に修繕されている様子は一種大道芸を見ている気分になる。ゲームの技能が反映されている事を加味してもアレは上手い。プロとか?

 ともあれ、この臨時整備処は狙い通りに盛況だった。この売り上げも別の土地に店を開く資金の足しになるだろう。

 商売の繁盛ぶりに満足すると、次の作業に取りかかるべく整理番号のタグが付いた武器を手に取った。次は四挺のハンドガンか、壱火の十挺拳銃に比べればカワイイものだけどこの客も大概だわ。


「そういえば迎えの人って何時来るの?」

「まだみたい。すまない、迷惑だったか」

「いえ、迷惑とかじゃないから気にしなくていいよ。けど、出発する飛行船の数も増えてきているし、そろそろ声がかかっても良い頃合いだと思うんだけど」

「そう、だね」


 作業する手を止めずにまた後ろのルナとお喋りを再開する。横目で見ると手入れしたナイフの刃に指を当てて斬れ味を確かめている。満足いく出来だったらしく、そのまま腰の鞘にしまった。

 彼女くらい装備のメンテナンスが出来る人が多ければこんな整備処は不要だったろうな。まったく益体のない考えが頭をよぎった。

 そんな彼女は現在人待ちで、ここのブースを待ち合わせ場所にしていた。


 ルナもこの戦いに参加するのは見ただけで分かる。けれどもここに来る他の人達と違って興奮した様子もないし、逆に怖がっている様子もない。緊張している空気は薄く、淡々と出番を待って準備をしている彼女の様子は奇妙な凄みさえ感じる。

 ブーツの靴紐を結び直し、ベルトとサスペンダーを締め直し、服装を整える。ただそれだけの何気ない動作なのに、ルナの周りの空気が徐々に重くなっていく気がした。

 戦いに向う彼女を見るのはこれで二回目。前回とは何かが違っていた。


「気合い入っているみたいだね?」

「そう?」

「うん、ちょっと声かけにくいかも。そういえば、あの使い魔の黒猫はどうしたの? 見かけないけど」

「ジンは少し出ている。周りの様子を見ておくそうだ。――あ、戻って来た。それと、時間だ」


 ルナの顔が上がって人混みの向こうに視線を飛ばす。釣られてその視線を追ってみると知った顔の女性がこちらに向ってくるのが見えた。足元にはルナの使い魔の黒猫が女性を先導するようにしている。

 武器防具を身につけた人でごった返す中、一人だけスーツを着ている姿は結構目立つ。着ている人物が美女なら尚のことだ。周囲の人目を集めながら、当の本人は集まる視線を一切気にかけず真っ直ぐにこっちにやって来た。

 スーツ姿なのに下手な武装よりも威圧感を発していて、女性の行く場所に道が出来ていた。綺麗な猛獣、なんてフレーズが頭に浮かんでくる。確かエカテリーナっていう名前だったけ。アストーイアでの一件以来の再会だ。


「ルナ様、お迎えに参りました」

「主、迎えの者を案内した。準備は出来ているな」

「ジンはご苦労様。準備は出来ている、何時でもどうぞ」


 エカテリーナはすぐ前にいるあたしの事など目もくれずルナに声をかけてきた。大概に失礼なんだけど、威圧感ある美女の姿だとこんな失礼な態度でも様になってしまい文句も出てこない。

 で、あたしの存在はガン無視なんだけど、ルナに対しては王侯貴族を相手にしているがごとくに恭しい。もう何、この格差?

 色々とツッコみたい点が二、三あるけどあたしは開きかけた口を閉じた。いよいよルナが出発する場で空気ぐらいは読めるつもりだ。

 戦闘態勢になったルナが立ち上がる気配。本当に何の気負いもなく立ち上がるんだねこの子は。


「じゃあ、一足先に行ってきます。待ち合わせ場所にスペース貸してくれてありがとう」

「うんや、このくらい別に気にしなくても良いよ。それと預かった対戦車ライフルなんだけど……」

「それはそっちが貰って売り物にしてもいい。生還できるかどうか今一つ分からないから」

「……」


 ルナはここに来た最初に一挺の対戦車ライフルを持って来た。何発か銃弾を受けて損傷しているそれを修理して欲しいと前金と一緒に渡してきて、今は後ろのスペースに立て掛けている。

 レシーバー部分にも銃弾が食い込んでいるから修理には日数がかかり、部品の都合もあるから一週間以上の時間を見込んでいる。この作戦にはどうやっても間に合わない代物なのに、どうしてこんな物の修理を依頼するのかあたしには不可解だった。

 不可解だったけど深く聞く気にはなれない。この世界で武器職人なんてしていると因果な話は勝手に耳に入ってくる。多分、ルナとあの対戦車ライフルの関係もそういったものの一つだと思えたから聞かなかった。

 ただ一点、気に食わない事がある。


「必ず帰ってきて。人に物を押し付けて死なれるのはもうゴメンだから」

「分かった努力する」


 これ以上ウチの店に依頼品を置いたまま、消えたり死んだりされるのは辛い。使われることなく死蔵される武器を見ていると何とも言えない無情さを感じてしまう。こんな気持ちは何度も味わいたくはない。

 だからルナには必ず帰ってきて貰い、預けた荷物を引き取ってくれないと困る。


「じゃあ、行ってくる」

「うん、またね」


 ルナの小柄な体は人混みの海に飲まれてすぐに見えなくなった。見えなくなる直前、後ろ手に手を振っていたのが妙に印象に残る。

 必ず帰ってきて欲しい。客以上に親しくなった友人として純粋に願う。

 不意に強い光を感じて見上げると、太陽が高さを増して陽の光を発着場に投げつけてくる。早朝の空気は朝のものになっていた。


「あの、僕の銃はまだですか?」

「あ、ゴメン。ちょっと待って」


 すっかり手が止まっていたのを客に指摘されてしまった。

 あたしはあたしの出来る事をしよう。他の誰でもない己のために。



 ◆



 デッキには強風が吹きつけて髪が乱暴にかき回される。視界もふさがれるので手で押えつつ、反対の手にはライフルを抱えて流れる風景を視界に入れた。

 高度およそ一〇〇〇m、速度は周囲の船に合わせて時速三〇㎞とゆったりとしたものではあっても高度がある上、デッキの上は遮るもののない吹きさらしだ。

 絶景ではあっても、数歩横にズレるだけで一〇〇〇m下までまっさかさまなのは精神的に優しくない。いくら身体能力に優れたプレイヤーの肉体であっても、この高度から落ちれば真っ赤なトマトになってしまうだろう。


 下に広がる光景はゲアゴジャ-ジアトー間の荒野と平原、それと一本のラインのように見えるのは自分がジアトー脱出の時に通った街道だと思われる。目を上に移せば、空に浮かぶ白い雲が近くにある。天と地の狭間。そんな言葉が浮かんできそうな場所だ。

 視線を前、同じ高度にしてみると空飛ぶ船が幾つも宙に浮かんでいる。進行方向は皆同じ、足並みも揃えて隊列をなしている。それぞれの船からは低く唸る機関音の多重奏は、突撃の号令を待つ兵隊の息づかいを連想させた。

 エカテリーナさんの案内で小型の飛行艇に乗り込んで十分、自分は飛行船団の集結空域に身を置いていた。


「艇内各員配置に着きました。各部からの報告では武器弾薬、機関共に問題なしとのこと」

「了解した。我が艇も準備完了と司令船に伝えてくれ」

「了解」


 デッキのすぐ近くにあるブリッジ――ここまで狭くて小さいと操縦室の方が適切な言葉か――では狭い室内を三人程の人員が詰めている。

 操舵に通信と航行、そして船長ならぬ艇長だ。操縦室以外でも連装式の機関銃と機関砲のターレットが飛行艇の前後にあってそれぞれ人員が配置されている。乗る時にちらりと見ただけだがデッキ下の機関室らしいところにも人が居て、この小型艇でも十人前後の乗員がいるようだ。

 飛行艇の形状といい、乗員の数といいまるで昔のアメリカの魚雷艇と似ている。違う点は海の上を滑るか雲の上を滑るか程度だ。


 この飛行艇の乗員全員が首長国の軍人で、クリストフの息がかかっているらしい。他のプレイヤー達を差し置いて自分がこんな場所で乗客をやっていられるのは間違いなく彼の根回しだろう。

 兵員が座るデッキ上のベンチに自分は腰掛け、その足元で出航から丸くなったままのジンいる。彼も艇内の環境を気にしているのか喋る様子は全く無かった。

 首長国の軍人の練度は結構良いものらしく、ここから見る限り動きに無駄がない。この手の空気からは長らく離れていたけど、よく訓練が積まれているのは察せられた。この分ではジアトー攻略は自分の出番なしで終わってしまうかもしれない。

 そんな考えに苦笑と自嘲を混ぜていたところ、操縦室の艇長が振り返ってこちらに目を向けてきた。


「エカテリーナ女史から話は伺っています。この船は作戦中、遊撃任務に就き地上部隊を上空から支援します。通常はこの船の.50口径か37㎜で仕留められるでしょうが、例の化け物が出てきた時は……」

「私の出番ですね」

「よろしくお願いします」


 形だけの礼を軽くしてまた正面に向き直った艇長。外見は元の自分と同年代の男性が、十代半ばに見えるこちらに対して丁寧な口調をしている。

 おそらくエカテリーナさん辺りから何か言い含められたのだろうが、自分にも分かるレベルで彼が不満そうなのが分かった。必要な事以外は口にしそうにない様子だ。正直言ってここにいると疎外感を感じてしまう位で、この艇内は完全にアウェーとなっている。

 自分自身お喋りなどはガラではないと自覚があるので沈黙は苦にならない。精々大人しくして、問題を起こさないお行儀の良い客として振る舞おう。艇長も言っていたように自分の出番は作戦中に魔獣が出現した時からだ。


 ジアトー側には『S・A・S』がいる。アストーイアに魔獣で攻撃をしかけた一件もあるし、防衛用にも魔獣を使ってくる可能性は濃厚だ。

 そして魔獣を相手にしてはこの世界純正の兵器はあまり効果がなく、出番となるのが自分のような元プレイヤー達となる。首長国の軍人からすると素人に毛が生えたような集団だろうが、陽動兼弾避けにはなるだろうと考えているみたいだ。

 軍を整えての進撃。その中にあってプレイヤー達は異物、快く思われていないのは予想どおりだった。


 そのまま誰とも言葉を交すことなく、ライフルを抱えてデッキに座ること五分。体感だったら今までの人生で上位に入るぐらいに長い五分間だった。

 艇内の乗組員達は、これから起こる戦いを前にして緊張しているのかとても静かだ。私語を口にしている兵はおらず、見える限りでは持ち場で身じろぎひとつしていない。

 艇内も外も人が数多くいるはずなのに静まりかえっていた。みんな揃って息を潜めて、風鳴りと機関音だけが耳に入る。

 そうして五分の時間が流れて、沈黙を破る報せが艇内にやって来た。


「司令船より発光信号。全艦進軍開始せよ、反撃の時だ。以上です」

「よし、総員進撃体勢。往くぞ」


 艇長の声の後、艇内の乗組員全員が声を揃えて威勢の良い返事を返した。外様の自分はその輪に加わらず、目線を艦隊の中央に浮かぶ大型の飛行船に移す。

 目算で全長およそ一三〇m、旧い時代の戦艦を思わせるデザインをしていて、一応は空気抵抗も考えてか全体的に曲線が目立つシルエットをしている艦船だ。甲板の上に小ぶりな二連装の主砲、舷側からは副砲らしい物も見えた。あれが司令船だと事前に聞いている。

 海軍関係に詳しい人ならドレットノート以前の戦艦と言えばピンとくるだろう。そうじゃないなら日露戦争期の軍艦といえば良いかもしれない。そんな形状の船が宙に浮いて機関を唸らせている。距離はかなり離れているが、空飛ぶ軍艦というのは異様な光景だ。

 司令船のブリッジからは強い光が出て、一定のパターンで瞬いている。この世界、電話も無線も発展途上で船上で扱うには信頼性は今一つらしい。だから有視界ならああいった発光信号か、信号旗を掲げて艦隊の意思を疎通させているのだろう。

 発光信号から数分、この小型艇を含めて艦隊全体が一段賑やかになる。全ての船で機関の出力を上げて、音が大きくなったのだ。それは艦隊全体が速度を上げる事を意味していた。


 デッキを吹きつける風が強くなった。髪が一層乱暴にさらわれて、肌に圧迫感を感じるくらい。風景はハイスピードにスクロールした。

 足の速い小型艇が艦隊の前に出て、陣形を組み始める。艇長から船員へ指示が飛ぶ。「アロウヘッドの右に着く。四号艇の隣、いつも通りにやれ」聞こえてくる言葉から察するにこの日のために訓練を積んできたのが窺える。

 組み上がった陣形はVの字、渡り鳥のように編隊した。大型の船は後ろで司令船を固める形になり、これで進軍の体勢になった。

 風景が流れ、雲が流れる。太陽はまだ低い位置で、空気は冷えた朝のもの。幻覚でなければ機関音が高鳴ると同時に艦隊を包む空気に熱を感じた。首長国とプレイヤー達の反撃の部隊は今まさに進撃を開始したのだ。


 ライフルを抱える手に力が篭る。視線を舳先、進行方向に向けると吹き付ける風が正面から体を襲って風鳴りの音が一段と強く耳に入る。

 進撃速度を出した小型艇は速度を増し、機関から聞こえる音はより一層の大音量になっていた。

 この船の行く先に戦場がある。そして助けに行く友軍がある。水鈴さんにマサヨシ君、頭に浮かんだ二人の顔を思った。


「……今往く」


 気付けば聞こえるはずもない二人に向けて話しかけるように声を出していた。

 空中の進軍は速く数時間もせずにジアトーが見えるはずだ。体調は問題なし、心も落ち着いていて、武器弾薬も一応揃っている。相方のジンも見た限りは大丈夫。確認は思いの他あっさりと終わった。

 気負わず自分に出来る事を出来る範囲でやれば良い。これから周りの人間は賑やかになるだろうが、無理に付き合う必要は無い。マインドセットはマイペースに。撃つべきものは撃ち、為すべき事を為せ。


「さて、往こう」


 今度は自分に言い聞かせるように呟いた。




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