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終末世界の創世記  作者: 言乃葉
Sniper 邦題:山猫は眠らない
68/83

挿話 Ⅱ

 ・この話はルナがゲアゴジャに居た期間中、マサヨシと水鈴の身に起こった出来事です。




 日中の強い日差しが街並みをカンカンに焼く。肌に感じる空気はカラカラに乾いて、後ろを見れば土埃が舞い上がっている。出発してから早十分。オレと水鈴だけではやっぱり会話が長続きする訳もなく、車中は沈黙がいよいよキツくなってきた。

 オレ達二人はジアトーに戻って来るまで一緒に行動していたせいで、ここのところ何かと組まされてきた。

 リーダーのライアさんの方針で大抵の場合は三人一組で行動するのだが、今日はいつも組んでいるトージョーが別の所に駆り出されている上、大きな作戦を前にして人手が足りないためにこうなっている。

 ついでに言い足せば、水鈴のお伴のキツネは拠点でお留守番だ。拠点の忙しさは猫の手どころかキツネの手まで借りたいらしい。

 トラックで活動物資を拠点まで運ぶだけの簡単なお使い任務というのもあって、二人で大丈夫だろうという判断が下されて今に至っている。

 協力者から指定された場所で物資を受け取って荷台に積み込んで後は帰るだけ。この間、事務的な会話以外に水鈴と言葉を交していない。元からルナさん以外とは口数が少ない方だったけど、彼女と別れてからは一層口数が減ってしまった。どうしよう、この空気。


 街中の小回りを重視して小ぶりなピックアップトラックが今日の足だ。そのハンドルを握っているのが水鈴。

 最初の頃は傍で見ていて危なっかしい手つきでシフトチェンジをしていたが、現在は結構スムーズに運転している。少なくともいきなりエンストを起こすような事は無くなっていた。

 街の幹線道路を順調に進むトラック。周りの風景がかなりの速度で後ろへと流れて、開けた窓から吹き込む風も強い。速度計を見れば時速七〇㎞と街中では飛ばしている方だ。

 飛ばしていても事故の心配はない。何せ他に走っている車が無いせいでガラ空きの道を突っ走っているのだから。


 帝国がジアトーを占拠して以降、住人の移動は制限されているせいで外を走る車両のほとんどは帝国軍の車ばかりになっていた。そしてそれもレジスタンスの活動のせいで燃料の調達が難しくなってしまい、めっきり数を減らしている。

 現状ジアトーの道路を往く車は馬車が多数派だというのだからスゴイ。この世界基準だと一体何年ぐらい時代が逆行したのやらだ。こうしている間にもトラックは路肩を進む馬車を追い抜いた。

 地球でも見慣れたコンクリートとアスファルトの街並みに馬車というのが何とも言えないミスマッチを感じさせる。


 流れる街の風景も最初の大崩壊ぶりと比べると見違えるようにはなっていた。

 転がっていたガレキはキレイに片付けられているし、壊れて人が住めなくなった建物は撤去されていて、被害が軽いものだったら補修され表通りではもう目立って壊れた場所は見あたらない。

 だけど、それだけだ。オレが一番最初にこの街を見た時のような活気は戻ってはいない。吹き込む風は暑く乾いているはずなのに、雰囲気で語るととても寒々しい光景が窓の外を流れていた。

 そんな雰囲気もいけないのだろうか、ピックアップトラックの中は悪い意味で静かだ。


「……」

「――おおう」


 聞こえるのはトラックのエンジン音と窓から吹く風、後はやけにハッキリ聞こえるお互いの息づかい程度だ。

 普通だったら可愛い女子と一緒にドライブなど「リア充爆発しろっ!」と叫ぶようなシチュエーションだ。それが何でこうもヒドい空気になるのだ。

 って、原因は一つしかないよな。


「ルナさん、どうしているっすかね」

「っ! さ、さあ……でも、ルナって何かと逞しいから何処ででも生きていけそうじゃない。きっと大丈夫よ」

「だけど水鈴は気になると」

「気になった人の身を案じるのは人として当然の心理でしょ。何もおかしなところはないわ」

「そうか」

「そうよ」


 試しにルナさんの話を切り出してみたら案の定、すぐに反応が返ってきた。やっぱり彼女の事が原因なんだよなぁ。

 アストーイアの街で別れた黒が似合う月詠人の女の子。細身で華奢に見えても実際には非常にタフな肉体と精神を持っていて、同時にとても現実主義者。場合によっては人を切り捨てるのも躊躇わない女性だ。

 同時に冷たいばかりの人じゃないのも分かっている。黒い色とコーヒーに変なこだわりを持っていたり、人に頼られると困った顔をしつつも引き受けたり、レイモンドのオッサンが昔ボクシングのチャンピオンだった事に目を輝かせていたり。

 総じて、少し変わった趣味嗜好と厳しい考えを持っているけど悪い人じゃあなかった。叶うならもう一度会いたいし、それに個人的にはもっとルナさんの事を知りたいと思う気持ちもあったりする。

 別れ際に大声で気持ちを出してみたけど、あれは聞こえていなかっただろうな。あの時何で念会話が思い浮かばなかったのか我ながら情けない。

 そう、水鈴もそうだろうけどオレも別れて以降もルナさんが気になっていた。


 オレがどんな顔をしていたのかは自覚はない。ないのだけど、運転席から水鈴がよそ見運転上等でこっちを見ているのを考えると、よっぽどの変顔だったのかもしれない。


「おい水鈴、前見ろよ」

「なんか、私にとって不穏な事を考えていた気配がする。何考えていたの?」

「言うか。つーか、前見ろ事故るぞ」

「大丈夫、私は耳が良いから前の様子は分かるし。それよりマサヨシの考えていた事が気になる。まさかルナの事が好きとかどうとか……」

「言うか馬鹿。それより前見ろ、大事なことだからここまで三回言ったぞ。耳で分かる? お前はコウモリか、無理すんな」


 さっきまで嫌なくらいに静かだったのに、今度は嫌なくらいに賑やかになってしまった。

 女子と和やかに話を楽しみながらエンジョイドライブ、が夢で理想だったのに何を間違えればこうなる。オレが持っている夢の一個が確実に潰れた瞬間だ。

 色気も益体もない話で水鈴とぎゃいぎゃい車内で言いあって、そのせいで目の前の光景に反応が遅れてしまった。

 最初に反応したのは水鈴。耳が良いと言ったのは伊達じゃないらしい。言い合いの最中に耳が大きく動いて前を向き、続いて首を前に向けて異常を察した。


「あ、マズ。軍の検問」

「マジで? ここのところずっとザルパトロールだったのに何で急に」


 フロントガラス越しに一〇〇m先、幹線道路の広い道幅をコンクリートブロックで塞ぎ、装甲車で壁を作った即席の関所が見えていた。



 ◆



「はーん、町内会の予算で炊き出し用の食料の買い付け、か」

「そうっす。人間何もしなくても腹は減るもんだ」

「で、トラックを使って郊外の街へね。よく燃料があったな」

「家のガレージに買い置きした燃料があるの。買い付けにしか使っていないし、車も燃費が良いものだから今まで持っていたの」

「ほうほう」


 結論から先に言うとオレ達は検問を穏便に抜けようと決めた。あの場面で急に方向転換したら怪しまれる上、ドンパチは出来るだけ避けたかった。

 帝国軍の兵士にトラックを止められ、車を降りるように指示された。何気なさを装って検問の様子を目だけ巡らすと、見える限りだと兵士の数は十人前後。人から教わった軍隊の規模で言えば一個分隊程度だろうか。

 いくらプレイヤーの身体能力が凄くても、この人数の武装集団と装甲車では戦いたいとは思わない。数的な意味でも精神的な意味でもだ。この辺りはオレも水鈴も共通した思いだ。

 水鈴の方を見やると彼女は厳しい顔つきで軽く頷いた。覚悟は出来ているって顔だ。そしてオレも腹を括った。


「まあ、こっちも規則だからさ荷物とか見せてくれ」

「積み荷は荷台っす。見たければご自由に」

「ほいよ、ありがとさん。ついでにちょっと通行料も貰えると嬉しいけどな」

「……好きにすれば?」

「へへっ、話が分かるねぇ。ああ、後一応コレ検査だから君達はここから動かないように。――おい、この二人を見てろ。その代わり良いもの見繕ってやるから」

「了解。頼みますよ軍曹」


 映画で見た昔のドイツ軍みたいな格好の帝国兵が二人オレ達の見張りで、残りはトラックの荷台に群がるように集まりだした。

 補給が途絶えがちになっているせいで彼らの食糧事情が厳しくなっているのはオレも知っている。時折民家や商店にやって来て堂々と略奪していく話も聞いた。こいつらも道を塞いで通りかかった人から金品をせびっている。インネン付けて物を脅し取るなんて、やっていることはほとんどヤクザと変わりない。

 だからといってここでこいつらを殴り倒してしまうのもアウト。事態が面倒臭い方向に行くのはオレの頭でも分かる。

 こいつらは街の住人とプレイヤーの区別がつかないし、オレも水鈴も住人達に溶け込めるよう普通の服を着ていて、車だって街で調達した中古のトラックだ。偽装としては充分だと思っている。

 問題があるとしたら協力者から受け取った物資の偽装だ。


「おい、酒なんかが出てきたんだがよ。コイツは?」

「はははっ、炊き出しといっても飲み会になる事もあるっす。それに酒が出ると人の集まりが良いっすから」

「ラベルは無いな。中身はドロッとしている」

「オリジナルのカクテルみたいなものよ。モロトフカクテルっていうの」

「聞いたことがない名前だな」


 偽装もクソも無かった。トッラクに貼り付いた兵士が真っ先に見つけたのは密造された火炎瓶だ。しかし幸いなことに使われているビンが酒瓶で、着火用のボロ布が付けられる前の栓がしっかり閉めてあるものだった。お陰で火炎瓶だとバレていない。

 水鈴もなんか適当なカクテル名を騙って誤魔化している。彼女は兵士から向けられる視線が嫌のようで、オレと話している時以上にぶっきらぼうな口調だ。そういえば、男が苦手で嫌いだったんだよな。

 このままバレずに盆暗兵隊どもを誤魔化せるかと思った。でも、偽装がなっていない積み荷を見逃すほど連中はバカじゃなっかった。呪うべくはロクな偽装もしなかった協力者か。今度会ったら殴らせろ。


「てめぇ、これは何だ? 手榴弾って言わないか」

「いいえ、パイナップルよ」

「嘘つけ! どう見ても首長国製の手榴弾じゃねえか」

「チッ……ダメね」


 ダメに決まっている。いくら何でもそれはない。

 兵士の一人が木箱を強引に開けて中身を物色して出てきたのは補給物資の手榴弾。これまた昔の戦争映画で見たことがある四角い網目が特徴の手榴弾で、パイナップルに見えないこともない。けどやっぱり言い訳としては苦しい。

 連中が盆暗揃いであっても流石に果物と爆弾を間違えたりはしない。兵士達が抱えている銃をこっちに向けてきて、同時に敵意ある視線も向けてきた。オレ達は臨検対象から一気にエネミー認定されたみたいだ。


「動くなよ。お前ら、レジスタンスのメンバーか」

「拘束して庁舎で取り調べだったな」

「いや、面倒だ。この場で処理してしまおう」


 兵士達の口から出てくる言葉がどんどん不穏当になっていく。逮捕するより手っ取り早く殺してしまえって、これはマズイなぁ。

 補給ラインがレジスタンスの活動で途切れがちになっていたせいで、下っ端に回ってくる食料はお寒い限りになっている。だから最近の帝国兵のモラルは低い低い。しかもふとしたきっかけで簡単に暴走する。

 もうこいつらも街にいた暴徒連中と変わりが無いようになってきている。


「この大男はぶっ殺すのは当然として、妖狐族の女は犯るか?」

「獣臭い女は好かん」

「グルメだねぇ」

「――っ!」


 捕らぬタヌキの何とやら、じゃないだろうがもうオレ達の処遇を話だしている。まだ銃を向けただけなのに余裕のある事だ。

 偽装のために武装はほとんど無い。手持ちの武器は背中に予備だったハンドアクス、腰のポーチに閃光弾と手榴弾。車に戻れば定番の装備がバッグに入れてある。この状態を切り抜けるには充分と思える。

 後は隙とかが出来れば水鈴と一緒にタイミングを計って動きたい。横に並んでいる彼女に目だけ動かして様子を窺うと目が合った。


『隙は私が作る。動くタイミングはいつでも良いよ。後、逃げる前にゲスな事言った奴は焼くけどいいよね』


 わーお。男嫌いとしてはさっきの発言は万死に値するみたい。念会話で届く思念の声でも怒りが伝わってきていた。

 オレとしても今のはアウトだと思っているので『どうぞ』とだけ伝えて、背中のハンドアクスを何時でも取り出せるように身構えた。隣では水鈴が魔法を準備する気配が感じられる。対して兵士達は銃口を向けただけでこちらに意識が向いていない奴が多い。素人に毛が生えた程度のオレにも分かる緩みっぷりだ。

 これでも転移からこっち色々と巻き込まれてきたんだ。ちょっとやそっとのトラブルははね除けてみせる。

 水鈴の手が兵士達の意識の隙間を縫うようにスルリと前に差し出される。手には握り拳大の火球。その狙いを手近にいる一人に向けて、


「がはっ!!」

「何だ!?」

「後ろで何が」


 撃ち出される前にまた別口でトラブルが起こってしまった。取り囲む兵士達の後ろ、検問の向こう側から人の悲鳴が聞こえ、続いて銃声が鳴る。

 当たり前だが、こんな好機を見逃すほどオレ達はボケちゃいない。水鈴に目をやり、どちらともなく頷き合った。動くなら今だ。

 背中に手を回す。手が伸びる先は背負うように取り付けて、上着で隠しているハンドアクスの柄があった。それを握り一気に抜き出す。

 抜き出す勢いそのままに、見張り役だった兵士の一人の顔面にハンドアクスを叩きつける。いきなり殺すのも気が引けたので斧の腹の部分で殴りつけた。

 後ろの事態に気をとられていた相手は無防備に一撃を受ける。硬いものを叩いた手応えと、何かが潰れたような手応えがして、兵士が鼻血を吹き出しながら倒れる。潰れたのは鼻か。


 横では火が爆ぜる音が鳴って、もう一人の兵士の頭がマッチのように燃えた。気の毒な彼は頭を抱えて走り回りだした。水鈴は本当に容赦がねえのである。

 水鈴の攻撃はまだ終わらない。火球を撃った手とは反対の手からももう一発火球が放たれ、こっちの様子に気付いて振り向いた兵士に直撃した。

 しかも良く見たら水鈴の狙いは兵士本人じゃなく兵士が持っていた酒瓶、火炎瓶だった。


「ぎょおおおおおお……」


 火炎瓶が破裂して着火、中の燃焼材を全身に浴びた気の毒な兵士は火球の火を全身で焼かれる。獣の断末魔みたいな絶叫を上げて兵士が倒れて転げ回る。しかし、火炎瓶に使われている燃焼材のせいでそう簡単に消火できない。その上、水鈴の火球は対象を焼き尽くすまで消えないよう調整していると聞いたことがある。水鈴の徹底した容赦無さに顔が引きつりそうだ。

 この間もオレは遊んでいる訳がない。一人目を殴り飛ばした後は、燃やされる兵士の脇を通り抜け変化について行けない別の兵士を殴り飛ばした。これでトラックの周りにいる兵士はいなくなった。

 こんな所は早々におさらばするに限る。水鈴に声をかけて運転席へ、オレはトラックの周りを守る姿勢をとった。


「くそっ、貴様ら待て!」


 トラックの前にようやく立ち直った兵士が立ち塞がり、銃口を向けてきた。助手席に乗り込む前にこいつをぶっとばしておくか。

 拳を固めて兵士に向かい合う。銃器を相手に正面から殴りつける。元の世界だったら無謀な真似なんだろうけど、今のオレ達にはそれが出来る。

 反応させる暇も与えずに顔面を殴りつける。ワンパンで済む作業だ。

 間合いを詰めて殴りつけようとする直前、上から影が降ってきた。


「――がっ」


 影が兵士の上に乗っかり、兵士が苦しそうな顔をしたかと思えば前のめりに倒れる。程なく地面に血が広がって動かなくなったのを見るに死んだらしい。

 影が兵士から離れて起き上がる。影は人だ。その手には鉤爪のような形をしたナイフが握られている。たぶん、上から飛びかかって首筋に刃を突き立てたんだろう。

 オレより何歳か年上の男だ。欧州風の彫りの深い顔立ちは楽しそうな笑顔を浮かべている。なんか、帝国兵以上にヤバイ感じ。


「ヨウヨウヨウッ! 大丈夫かい青年。素敵なポエマー殺人鬼のアルフさんが気まぐれに助けてやったぜ。お礼? いらないよ、良い感じに荒んでいるこの街に来れて気分がいいからねぇ」

「なに、アレ」

「シラネ。でもヤバい」


 顔を合せるなり朗らかな顔で陽気にお喋りを始めやがった。手にしたナイフはルナさんが持っているのと同じタイプらしく、男は柄に付いているリングに指を通してクルクルと回して付いていた血を落とす。

 血をあらかた落としたナイフは、彼が手の平を翻しただけで手品のように消えた。その手品に見入ったのが分かったのか、オレと目が合った彼はニカリっと笑いかけてきた。

 彼の背後、検問の中に目をやると他にも倒れた兵士の姿が幾つも見えた。あの短時間であの数の人間を殺してのけたのか。


「あ、ドン引き? ドン引きなの。傷つくわぁ、せっかくお近づきになりたいのに引かれるのは無しにしてくれよ」

「お近づき?」

「そう! 今回の俺はレジスタンスに参加しようとやって来たのさ! 殺人鬼はしばらく廃業、まじめに殺しをしようかなってさ」

「人殺しに真面目も不真面目もあるのかよ」

「あるんだなぁ、青年それと少女。少女は色々と容赦ないのが気に入ったよ。だけど青年、殺る時に殺らないと後できっと痛い目に遭うぜぇ。こんな風に」


 こんな風に、という言葉一緒に手にまた別のナイフが現れ、それが凄い勢いで翻ってオレのすぐ横の空間を飛んだ。反応する間もない早業。飛んだ先はオレの後ろ。


「ぎゃぴ」

「あ……」

「油断大敵ってな」


 オレがさっきハンドアクスで顔面を潰した兵士が倒れたまま銃を撃とうとしていた。それをこの男は察してナイフを投げつけたのだ。刃は兵士の額に突き刺さり、そいつは二度と動かなくなった。

 ここまで当然の様に見てきた人死にがまた一つ増えた。もう慣れてきた光景だけど、慣れてきたこと事態が苦い気分だ。

 兵士の死に目がいっていたのが隙だったらしく、男の姿はもう移動していた。


「さあさ、俺をレジスタンスの拠点へ案内しておくれ。頼んだぜ可愛い運転手。火炎瓶と手榴弾、素敵な危険物と一緒の旅、ワクワクするアルフさん。盛り上がってくるねぇ」

「何時の間に。マサヨシ、どうしようかコレ」

「え、ええぇ。ホントどうしようっか?」


 どんな移動速度をしているのか、音もなく男はトラックの荷台に乗っていた。強引にでも彼はオレ達について来るつもりだ。

 断ろうとすれば最悪敵対しかねない。かといって、こんな訳の分からない奴をみんなのいる拠点に連れて行って良いものだろうか? オレと水鈴はお互い困惑した顔を突き合わせた。

 周囲は静かなものだ。銃声と悲鳴がしたので近付いてくる人は居ない。だけど異常を察知した帝国軍がやって来るのは時間の問題だろう。

 早く判断しないと……ええい、ままよ。


「水鈴、車出してくれ。コイツについては拠点に着いてからにすれば良いだろ」

「撤収が優先ね。分かった。車出すよ、振り落とされても知らないから」

「オケオケ。飛ばせ飛ばせ、アクセルベタ踏みだ。エンジン焼けるほどにブン回せ」

「何なの、コイツ」

「シラネ。知りたくもねえ」


 オレが助手席に飛び乗ると、トラックは急発進して検問を突破した。荷台にはしゃぐ正体不明男を乗せたまま、トッラクは拠点へ戻る道を大急ぎで走った。

 常時ハイテンションの自称ポエマー殺人鬼アルフ。彼がオレ達のレジスタンスに参加してきた経緯はこんな唐突な出来事からだった。こいつがルナさんと変な因縁があると知ったのはもっと後の話で、こいつがどういうつもりで近付いて来たのか知るのはさらに後の話になる。

 この時点でオレが思ったのは、変でヤバくて対処に困る野郎が付いてきた。という困った気持ちだけだった。


「あ、投げたナイフ忘れた。なあ、戻ってくれない?」

「却下に決まっているでしょ」

「オーノウ、調子こいて格好つけはするもんじゃないな」

「何言っているんだコイツ」


 後、おかしな位に陽気すぎる奴だと思ったのだった。




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