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終末世界の創世記  作者: 言乃葉
Once Upon a Time in the West 邦題:ウエスタン
5/83

4話 混乱




 時間は街路にあった時計では十時二十分とある。この世界でも地球の時刻が採用されているということだ。

 太陽も高くなり、どんどん暑くなるのが分かる。そういえばジアトーの街の周囲って荒野だか砂漠だがで、結構暑い気候という設定があったな。モニター越しじゃ分からなかった暑さがこうして感じられるとは、これが夢とかだったらリアルな夢を見るオレ自身に拍手を送りたい。

 こっちが暑さで参り始め、横目で見るとタカもちょっと顔色が悪い。対してココットさんは全く平気そうだ。汗すらかいていない。


「うぅん……やっぱり何か武装を持ってくるんだったかな」


 そんな事を言って思案顔をしている彼女。

 武装、か。それについてはオレもちょっと後悔し始めている。

 偵察に出るに当たって、装備をしていくか? という話があの集まりで出た。武装することで身の安全を図れるが、これだと周囲に威圧的で警官とかに目を付けられるだろう。武器を日常的に持ち歩く習慣がない日本人ならではの抵抗感があの時にはあったのだ。

 結局はサイトーさん他数名の人が各自の判断に任せたらと言いだし、決定された。すると、ほとんどの偵察メンバーは丸腰か、隠し持てる小さな武器を携帯して外に出るという結果になったのだった。街中での様子見なのだし、問題はないと思われていたのだ。


 それはオレ達も例外じゃない。

 オレのゲームでの基本的な戦闘スタイルは重戦士で、魔法や銃弾すら弾く全身甲冑で身を包み仲間の盾としての役割を得意とする訳だが、今は集会所にいた時のままジャケットとチノパン姿だ。タカもココットさんも普段ゲームで見た武器防具を一切持たず、武器と言えるのはタカが「念のため」と言って隠し持っているナイフぐらいだ。

 準備のために部屋に戻りゲームで『マサヨシ』が使っていた武器を見つけたが、持って出る気にはなれなかった。多分だが、法治国家日本という現在の環境が大仰な武装を嫌ったとなるのか? あるいはゲームでのルール『街中でのPK禁止』というものがあった安心感からか。

 外に出てしばらくはナイフ一本ですら持っていてはマズイだろ、って気分だったが、今は違った。


 ごく平然と鉄砲を肩に担いだおっさん達が二、三人で歩いているし、腰に剣を差している奴もいた。入った店の壁には自衛用と思しき銃がかかっている。

 プレイヤーではない街の市民が当たり前のように武装している光景は日本人のオレには新鮮な光景だった。同時に、タカが持っているナイフが急に心もとない代物に見えてくる。

 ココットさんの言葉は今のオレ達全員の考えかもしれない。


「じゃあ、まだ戻るのも何ですし武器買ってみますか。幸い僕達は当面のお金なら不自由ないですし」

「そうだね。わたしだって術専門って訳じゃないし、マサくんもそれでいいわね?」

「うっす。すぐに丸腰状態から脱出だ。今はゲームスタート時よりも無防備なんだしな」


 タカの提案で武器を買う。悪くない話だと思えた。

 オレ達の金はバックに入っていて、ゲームで最後に所持していた金額がそのままそこにあった。店で金が使えることも確認済み、その成果のチョコバー三本はすでに腹の中。

 中堅どころのオレらだったら贅沢を言わなきゃ人数分の武器を揃える事は余裕だ。


 そうと決まったら早速移動。確かゲームでの知識が正しければ、この通りの裏手に武器を扱っている店があったはず。

 タカもココットさんもその店で良いと賛成してくれた。店がなかったら人に聞くとして、一先ずはそこを目指すことにする。

 けれど、どうもこの判断は少し遅かったのかもしれない。



 ◆



 花火や爆竹が出す音がすぐ近くで聞こえた。と、思っていたらオレ達のすぐ前を歩いていた通行人がいきなり倒れた。

 倒れた事で広がった視界の先に拳銃を片手に持った男がいる。ええっと、もしかしてコイツが人を撃った?


「へっへっへへえへ~ 死んだ死んだ。これで経験値どんくらい入るんだ?」


 そんな事をのたまって片手に持ったビンに口をつけてラッパ飲みする男。ビンの中身は間違いなく酒だ。でもって、正気を失ったプレイヤーでもある事が確定だ。

 つーか、酔っていたとはいえ道行く人を平気でやりやがったよ。


「んっく。酔えるゲームとは面白いもんだ。しかもやりたい放題だ……」


 酔いでふらつく男の足元。こいつ、今の状態をゲームでしかないと思い込んでいる。しかもやりたい放題とか言っている。

 目の前で起きた異常な事にオレ達三人が三人とも体が固まってしまった。なのに街の人たちは適確に動く。あっという間に距離をとり、逃げていくのだ。

 だから男の視界に入るのもオレ達だけ。濁った眼に捉えられる。


「ん~? プレイヤーか? うっしゃ! やったる!」


 酔っ払いとは思えない素早さで拳銃をオレ達に向ける男。この反応からしてゲームの時からPK行為をしてきた奴なんだな~と呑気にも思ってしまい、何にも行動が出来なかった。

 運動会のスタートピストルみたいな音が三度。

 レンガ敷きの地面に倒れたのはココットさんだった。ここで呆けたオレの体もようやく動けるようになった。


「ココットさんっ!」

「うっしゃっ! フェルパー娘撃破~」


 倒れたココットさんに手を伸ばそうと身を動かす、その前にまた男が銃を二発ココットさんに撃ちこんだ。景気づけのつもりなんだろう。昔から倒した魔物の死体に攻撃をするヤツはいるし、こいつもその一人のようだ。

 この二発でココットさんの頭の形が崩れて、血じゃない何かがトロトロと出てきた。あ、確かめるまでもなく死んでいるやコレは。


「次はお前たちじゃ~!」


 男が銃をオレに向ける。いやに現実味がない。これが終わったら部屋のベッドで目が覚めて、やな夢を見たもんだ、とか言うのだろうな。

 男の銃の引き金が引かれる。


 ――カチッ


「あん? なんで弾でねーんだ? まさか弾込めるのは手動とかか?」


 カチカチと手に持った拳銃をいじる男。こいつの銃はリボルバータイプの六連発だったようだ。

 ゲームだと弾切れになると自動的に弾込め動作をして続けざまに撃てるが、ここはやっぱり現実。キチンと自分の手で弾を込めないとダメのようだ。


 そんな男の情けない姿を見て、オレは初めてふつふつと沸く怒りを感じた。

 こんなのがココットさんを殺したのか。

 足元を見る。相変わらずココットさんが倒れたままで、体から出てくる血とかが地面に広がっていく。ゲームでは死亡扱いのプレイヤーはその場から消えて、プレイを開始した街に戻されるようになっている。けれどココットさんは消えない。何時までも死亡状態のままだ。

 ここじゃ死んだら終わりなんだ。


「おまえーーーーっ!!!」


 ココットさんを見ていた分、出遅れた。すでにタカがナイフ片手に男へ向かって駆けだしていた。

 ものすごく速い。元の隆士は陸上部でもないし、何か格闘技を習っていたわけでもない。けれどゲーム内での『タカヨシ』はカタナを手にして走り回り、斬りまくる戦い方をしているキャラだ。敏捷さと筋力に比重を置いたパラメーターはこの世界でも適用されているのかもしれない。


 弾丸のような踏み込み、そして上から下への斬り下ろし。あまりにスピードが速くて傍で見ているオレでもナイフがキラリと光ったようにしか見えない。

 レンガ敷きの地面に重い物が落ちる音。目で追ってみれば、男が持っていたリボルバー拳銃が落ちたのが見える。それも男の手がくっ付いたままだ。


「あ、ぎ……熱い……痛い。なんで?」


 手首を切り落とされて血が勢いよく出てくる腕、訳が分からないという顔で地面に落ちた自分の手と切られたところを見比べる男が妙におかしいものに感じられた。

 思わずタカGJなんて言いそうになる。

 怒れるタカはまだ物足りず、男に止めを刺そうとナイフの切っ先を相手の首に向ける。


 だけどその前に男は死んだ。地面に首を落として。

 最初は男が顔を俯けたかと思ったが、首から上が体を離れて地面に落ちるところでやっと斬り落とされたものだと理解した。

 斬り落とされた体は赤い血を噴水みたいに辺りにばら撒く。返り血がタカにかかり、血の臭いで一杯になる。場違いだけど、なんか小学校のときの体育の授業でやった鉄棒みたいな臭いを思い出した。

 タカがやったのかと思うけれど違う。血を噴き出しつつ倒れる首なし死体の背後に刀を持った男が立っていた。


「これで某≪それがし≫の人斬りスコアは七十と三。クククッ……アルトのスコアはまだ六十であるが、召喚獣はまだ呼んでいないから油断できないな」


 返り血を浴びる第二の男。黒い髪を伸ばし、頭の後ろで括り、袴に陣羽織とコテコテのサムライルックをしている。

 この男がココットさんを殺した男の首を斬りおとしたのは間違いない。けれど、礼を言ったり気を抜いたりはできなかった。刀男の目が物欲しそうな感じでタカを見つめるからだ。これって……

 まだ斬り足りないという顔だ。


「タカ! 逃げろっ!」

「はっ、え?」

「ふははっ! これで七十と四!」


 目の前で血の噴水を見てしまったからか、茫然としていたタカに刀男が刀を突き出した。オレは声を上げた、でも遅い、遅かった。

 タカの背中に刀が生えた。

 時代劇のようにブスリなんて効果音が聞こえないから、何が起こったのか理解できるまで数秒の時間が必要だった。


「がはぁ……あぁぁ」


 タカが刺された。

 刃を引き抜かれ、傷口と口から血を出して崩れ落ちるタカ。刀男は血に染まった刀の刀身をペロリと舐め、酔っぱらったような顔をしている。なんて分かりやすい殺人狂。

 五分としない内に知り合いが撃たれて刺されて殺される。とても現実のものとは思えない。さっきまでこの世界を認める気になっていた自分が遠いものに思える。

 血に酔った刀男は次の獲物だとばかりにオレに目を向ける。

 こっちを見る目は人を人と思っていない感じがした。そんな目を向けられているのにオレの口は自動的に言葉を出している。


「なんで、お前はこんなにあっさり人を殺すんだよ。おかしいだろ、変じゃないか」

「うん? その有様で某に言葉を放つか。面白い、その質問に答えてから斬ってやろう。とは言え、そう大層な理由などない。お前は食べ物を食べる時、なぜ食べるのかいちいち疑問に思うのか? 息をするのもなぜとか考えるか? それと同じさ、某にとって人斬りは今や生理現象に等しい当然の行為! ああ、この芳しい血の香が某の滋養なのだ」


 深呼吸して血の臭いを嗅ぐ変態刀男。訳わかんねえよコイツ。食べ物を食べることと人を殺すことが同じって、理解できない。

 同じ言葉話していても理解しあえない人種。目の前の変態はそう定義するしかない。

 こんな変態に殺されるのかオレは。怒りに続いて今度は嫌悪の感情もこみ上げてくる。何とかして一泡吹かせてやりたい気持ちが凍結気味だった頭の回転に加速装置を付けて回りだし、頭脳が導くままに腰に巻いたバックに手を入れた。

 確かに今のオレは武器を持っていない。だけどバックの中身にあるアイテムは何時もの狩りに出かける定番が詰め込まれている。

 バックの中を探る手が目的の物を捕える。


「では某の妖刀の滋養としてやろう。なに、すぐに楽になれる」

「お断り、だ!」


 バックに入れた手を抜き出して取り出した物を勢いよく地面に叩きつけた。

 クラッカーが破裂したぐらいの爆発、何より目の前が真っ白になるぐらいの光が目に飛び込んでくる。うわっ、ゲームでのエフェクトより強烈だ。

 カメラのフラッシュを何倍も眩しくした光を出す閃光弾。ゲームだと魔獣用だったが、ここではそんなもの関係ない。


「ぐぉ!? なん、だ?」

「おりゃっ!」


 予想外の眩しさだったがそれなりに準備の出来ていたオレと、まったくの不意打ちで目を潰された変態刀男。どっちがすぐに動けるかなんて誰にでも分かる。

 任侠映画で見たヤクザの喧嘩キックを真似て、思いきり変態男の股間目がけて蹴りを叩きこんでやった。


「おふぅぅ」


 情けない声をあげてその場にうずくまる変態。オレの蹴りは見事ヤツの切ない箇所にクリーンヒットしたようだ。

 このままコイツをフルボッコしてやるか? という考えが湧きあがる。でもそれ以上にこんな危険人物の傍にいるのはダメだと警告が出た。

 そうだ、今は情けなくうずくまってプルプルと震えているがコイツは人を何人斬っても構わないと思っている殺人狂だ。すぐに復活して今度こそ殺しにかかってくる。

 逃げろ! 自分の中から出た言葉にオレはすぐさま従った。


 変態に背を向けて逃げ出す、どう見ても死んだだろうココットさんや刺されてどうなったか分からないタカ。二人の事が頭にちらついたが逃げる足は緩めない、緩めてしまったらあの変態に追いつかれてしまう。今は逃げ切って銀月同盟のみんなに助けを求めよう。変態はその時にきっちりしめ上げればいいはずだ。

 仲間の助けを求めてオレは街を走った。



 ◆◆



 ずずん、と軽い地震が辺りを揺らして悲鳴が上がる。繰り返し聞こえる爆竹に似た音はリアル銃声だ。

 昼前に起こった出来事から数時間、午前中の悲劇なんて前座でしたと言わんばかりに街中に破壊が撒き散らされている。

 観光用のパンフレットに載ってもいいような景色をしていた街が今では戦場映画に出てくるような廃墟の集まりになっていた。数時間の内にあっという間にこうなったのだ。


 刀男から逃げて走っている最中、同盟の仲間連中に起こった出来事を『チャット』で伝えようと思い、リーダーのサイトーさんの顔を思い浮かべる。伝える相手の顔を思うだけで意思を伝えられるこの感覚はとても不思議なものだ。でも今はその不思議さがひたすらにありがたい。

 さっそく連絡、と思っていたらサイトーさんから一方的な連絡が飛んできた。


『銀月同盟リーダー・サイトーから外部に偵察に出ている各員に通達。同盟の本拠地が無法者の襲撃を受けている。各員は街に潜伏して機を見て逃げること。間違ってもこっちに来るんじゃない返り討ちに遭うだけだ! 敵勢力は高レベルプレイヤーの集団と思われる。すでに何名か……死んだ。リーダー権限で銀月同盟の解散を宣言し、各員は街から避難するように。以上、返信は不許可』


 思わず足を止めて同盟の本拠地がある方向を見た。黒い煙が上がっている。距離と方向からいって間違いなく同盟本拠地のある場所だ。

 これはあれか、ココットさんやタカみたいな事があそこでも起こっていると。この世界にはあの酔っ払いや刀男以外にも変態なプレイヤーが沢山いるのか?


「タガが外れすぎだろう、常考」


 いや、もうこんな世界にはオレが思っている常識なんていらないのか。

 じゃあ、こんな世界に迷い込んだオレはどこに逃げればいいんだ?

 ベッドで目が覚めてから変わり過ぎた世界、変化はオレの対応を待ってくれない。

 突如後ろで大きな爆発音が上がった。花火大会で特等席に座ったような大音量が振り向くよりもその場に伏せることを選択させる。


 その場に伏せて首だけで後ろを窺ってみると、白い軽鎧を着て同色のマントを羽織ったピンク色の髪をした女の子が通りにある店に火の玉を投げ込んでいた。


「あははっ! この店の宝石はみーんなアタシのもの! トゥースゴーレムのみんな、楽しく略奪だよ~」


 見た目はとても可愛いと思える少女が指で燃え盛る店を示すと、彼女の周囲にいた骨格標本みたいな物体が何体も動いて店の中に入っていく。

 たしかアレは召喚獣モンスター『トゥースゴーレム』だと思う。名前の通り魔獣の歯をベースにして作られるゴーレムで、『エバーエーアデ』の世界ではレベルが高いプレイヤーが良く使っているのを見たことがある。

 コイツも殺人変態の一人だ。店から飛び出て来た店員が火のついた体をゴロゴロと地面に転がしているところをゴーレムに殺させて悦んでいる。それもすごく無邪気に、楽しそうに。事情を知らなければ女の子の顔を見惚れてしまいそうになるぐらいだ。


「ん~ これでどのくらい殺したのかな? あんまりカウントしてないや。まいっか、どうせシンちゃんが細かくカウントしてくれるだろーし、気にしない方向でテキトーに魔法を撃っていきますか」


 実にお気楽極楽太平楽なことをのたまって道行く人に様々な魔法を浴びせかけていく女の子。火炎、雷撃、氷撃、呪殺、石化、毒殺とバリエーション豊かに人々を虐殺していくのだ。

 リアルな目でCGより鮮明な魔法をこの目で見ている。でも感動に浸れない。

 街の人だってアホじゃない。武器を持って抵抗したり、かなりの速さで逃げを打つ人もいる。それらすべてがこの少女には無駄だった。

 銃弾はなにやら透明で強固な魔法の壁で防がれ、接近してくる人はこれ幸いと魔法を叩きこむ。逃げる人にも誘導性が高い魔法の弾を撃ちこんで逃がさない。


 オレはこの女の子の魔法が出す騒音に紛れ、這いつくばった姿勢のまま路地裏に入り込んだ。

 殺戮の悦にでも浸っていたのか、女の子はすぐ近くにいるオレに気付くことはなく、無事に路地裏に入れた。

 ここにきてオレの運は不幸から幸に移ったのか、路地裏には隠れるには手頃な金属製のゴミコンテナが置いてあった。ガタイが良くなった今のオレでも十分入るサイズだ。

 蓋を開けてみるとゴミは少ないが、今までに溜まった臭いが鼻を刺激する。生ゴミの溜まった三角コーナーの臭いをキツクすればこうなる。どうする? 本当に入るのか?


 表の通りを窺って見ると、あの魔法乱射少女はまだまだ暴れている。いつ見つかるか分かったものじゃない。決断は早かった。

 手早くコンテナに足を突っ込み、体を入れて蓋を閉める。視界は真っ暗、鼻を刺激するゴミの臭気、触れるのは金属のゴミコンテナの内壁。これで後は周囲が静かになるまで隠れ続けていようと心に決めた。


 そして現在に至ってしまうまでに数時間、何を考える事もなくゴミコンテナに篭っていた。

 時折近くで大爆発が起こり、建物が崩れて瓦礫がコンテナに降り注いで潰されるかと思ったりと閉じこもるだけでも精神をすり減らす時間が過ぎていく。

 ほどなく周囲が静かに、少なくとも身近に危険を感じる音が聞こえなくなってからコンテナから外に出た。

 街の風景は一変していた。石造りの建物は軒並み破壊されて、レンガで舗装された道には大穴があいて、道端に置かれた車は焼け焦げて真っ黒、地下の水道管が破裂したのか水が噴き出ている。戦争映画に出てくる爆撃を受けた街の風景があった。

 これだけの範囲の破壊行為、あの魔法乱射少女一人でやれる所業ではないと思う。他にも何人ものタガが外れた連中がいなければ出来ない真似だろう。


 ゲーム『エバーエーアデ』にあるような壮麗さも甘さもない、どこまでも泥臭くてシビアな『もう一つの現実』が目の前にあった。

 そう感じると、今更のようにココットさんとタカを失ったのだと頭が理解して、遅れて気持ちが納得した。そうだ、オレはあの二人を見捨てたんだ。

 泣いてしまうのは簡単だけれど自分自身が許さない。それは酷く侮辱的行為のように感じられたからだ。


「オレ、これからどうしよう……」


 泣くのも許されず、行くあてもなくなり、やることもなくなった。オレの中身はからっぽになってしまった。もう座り込んでいた奴らの事は言えない。

 行くあてもないくせにオレの足は廃墟になりかけているジアトーの街をさまよい始めていた。




 11月29日 改訂


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