表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の創世記  作者: 言乃葉
Sniper 邦題:山猫は眠らない
46/83

2話 魑魅魍魎



 荒川 優ことジャン・ジャッシュはこれから始める一大犯罪を前にして緊張していた。

 緊張から荒くなりだしている息をどうにか整えて、隣に座っている女性に視線を送る。佐山好香ことアリスも緊張で顔が強張っていて、手にしている拳銃が細かく震えていた。

 恋人の震えている様子は放っておけない。ジャンは彼女の肩に手を回して抱きしめた。


「大丈夫さ、俺達は絶対成功する」

「うん……」

「これが終わったら俺達は大金持ちさ。道で強盗したり、パーキングメーターから小金を盗むせこい真似をしなくてよくなる」

「うん」

「終わったら、どっかに旅行に行こうか。この国って今戦争中だろ、東海岸にでも行こうよ」

「……うん」


 手を握り返してきたアリスにジャンは安堵して、これから始まる犯行計画を振り返った。

 この二人は地球からこの世界に転移してきた元プレイヤーだった。カップルでゲーム好きだった彼らは、『エバーエーアデ』も二人でプレイしていた。

 プレイ期間は短く、プレイヤーとしては後発組だった彼ら。ゲームでの通貨の持ち合わせも少なく、こちらに転移してからも貧しさは変わらない。そこから数々の犯罪に手を染め出すのに時間はかからなかった。

 パーキングメーターから小金を盗むところから始まり、道行く人を襲って強盗、最近では停車中の車を狙って襲う真似もしていた。ゲアゴジャに来たルナ達を襲った路上強盗が彼ら二人になる。

 その強盗カップルが緊張して臨む犯行、それは銀行強盗だ。


「おい、いちゃつくのも程々しろよ。もうすぐ始まるぞ」

「リア充……もげて爆発してしまえ」

「ああ、始めるんだな。分かった」


 二人の席と向かい合わせに座る二人の男性が二人に文句を言ってきた。ジャンは軽く頷いて二人の文句を捌く。この二人もジャン達と同じ元プレイヤーであり、同じく今回の銀行強盗に参加する仲間だ。その境遇は聞いてはいないが、ジャン達と似たり寄ったりだろう。

 彼らがいるのはワンボックスタイプのバンの車中だ。しかも、車が停まっている場所は襲撃予定の銀行の前だったりする。

 フィルムが貼られて暗くなった窓越しでも石の重厚な造りを感じさせる銀行は、表に『フェーヤ銀行』という看板を出していた。


「すでに屋上から侵入した別働隊が建物のセキュリティを切る手筈になっている。向こうの合図を待ってこちらが中に押し込みをかければいいだけだ」


 前の助手席に座る人物が手順を軽く説明して、みんなの行動を促す。顔はピエロのマスクで隠れて、声から男だとしか分からない人物だ。便宜上『J』と名乗っているこのピエロの人物が、銀行強盗の計画を立案して人手を集めた首謀者だ。

 ジャンやアリス、二人組の男もJに誘われて参加したこの場限りの仕事仲間という訳だ。

 Jの言葉に後ろにいる四人は各々自分の武器を手にする。あとは機会が来るのを待つだけ。


 ジャンは自分の武器を握り、緊張に囚われないよう努めてリラックスしようとしている。

 彼の手にあるのは米軍の『M3サブマシンガン』をモデルにした『タイプ3・グリースガン』という短機関銃サブマシンガンだ。プレイヤーが手にする武器としては初期のものだが、この世界にあっては関係ない。銃弾に撃たれればみんな等しく死ぬのだから。

 恋人の持ち武器になる『コルト・タイプ1911』という拳銃と弾薬を共有できるのも強みだ。上位プレイヤーのように弾を湯水のように使えない身としては、弾薬の補給が一本化されるのは有り難い。

 向かいの二人組も銃と剣を出して何時でも出られる状態になった。


 ――終わった、仕掛けろ。


 脳裏に響く別働隊からの『念会話』が合図だった。Jはすでに助手席から飛び降り、運転席にいた一人も降りて後ろに回って後部のハッチを開け放つ。


「さてさて、みなさんお仕事の時間ですよ。キッチリ働いてガッポリ儲けましょう。モットーはどんな時も楽しく快適にってね」


 まるで場にそぐわない軽い口調の主は運転手、自ら『A』と名乗る男だ。こちらは小鬼ゴブリンの仮面を被っているが、口元が笑みの形になっているのは誰の目にも明かだ。

 Aの軽口に一瞬だけ後ろのジャン達は呆と固まったが、すぐに行動を始めた。開けられたハッチから次々と外に出て、素早く武器を手にして銀行の入り口を目指して走り出した。


「おうおう、無視かよ。寂しいねぇ。まあ、せっかくの大金のチャンスだし、頑張っちゃうよ」


 剽けた調子の声が後ろから聞こえるけれど無視、ジャンは手に持ったグリースガンのボルトを引いて初弾を薬室に込め、店内に乱入した。

 まずはこちらの存在を知って貰うために威嚇射撃。天井に銃口を向けて引き金を引いた。

 グリースガンの連射速度は遅く、一発一発が聞き分けられる銃声が鳴り響く。この遅い連射速度のお陰で連射のコントロールが利くそうなのだが、リアルの銃器知識はチンプンカンプンなジャンにとってはどうでもいい。目の前に使える武器がある、それを知っているだけで充分だった。

 吐き出された銃弾が銀行の天井に穴を開けて、何発かは天井にある照明に当たってガラス片が降ってきた。


「おらっ! 動くな、強盗だ」

「死にたくなければ動くんじゃねぇ!」


 先行した二人が銃と剣を振り回して銀行の客、行員関係なく脅しつける。すぐに上がった女性の悲鳴は石造りの建物のせいで良く響いた。

 客はどう動いたら良いか分からず腰を浮かせたのと、すぐさまその場で伏せたのと二通りの動きを見せる。行員も伏せようとしているが、非常用のボタンの存在を知っているジャンは銃口を彼らに向けて動きを牽制した。


「そっちの行員達は手を頭の後ろで組んで立っていろ! 変な動きを見せたら撃つ!」


 本音を言えばゲームと違ってジャンは殺しなどしたくない。今まで路上強盗などで人を傷付けてしまったことはあっても殺しは未経験だったりする。殺しは怖いものだと彼は考えており、まだ上手く割り切りが出来なかった。

 だから本音はお願いだから下手に動いてくれるなよ、という少し情けない心の声があったりする。

 そのような本音を必死に隠してジャンはグリースガンを行員達に向けて威圧する。となりではアリスもコルトを行員達に向けていた。一先ずの出だしは順調だ。

 そう思っていたのが油断だったのか、視線を向けたアリスが何かに気が付いてジャンへと声を飛ばした。


「優! うしろっ」

「うし……ろ!」


 切迫していたせいでつい元の本名で呼びかけたアリス。ジャン自身も何かの気配を感じて振り向くと、制服を着た警備員が拳銃を構えていた。銃口はすでにジャンに狙いをつけている。


「おいっ! よくも――がっ」


 野太い銃声がまた銀行内に響いた。警備員が撃ったのではない。横合いからやって来たJが手にしたリボルバー拳銃で警備員を撃ち殺したのだ。

 至近距離、しかも大口径のマグナム弾で頭を撃たれた警備員は即死。脳漿と頭蓋骨を床にぶちまけ、頭の形状を崩してその場に倒れた。客の悲鳴がまた上がる。

 相手の頭を吹き飛ばす凄惨な方法で人を殺したJだったが、彼本人は平然とリボルバーを腰のホルスターに戻してジャンに注意する。


「油断するな」

「あ……ああ、悪い」

「もうすぐ金庫も開く。金を運ぶのを手伝え」

「分かった」


 金庫の方を見れば、屋上から降りてきた仲間がすでに金庫を開け始めている。強盗開始から数分も経っていない早業だ。

 別働隊は鍵開け専門、ジャン達は客や行員を黙らせる威圧専門という役割分担となっている。事前に聞かされてはいた彼だが、こうも早い展開とは思わなくて少し戸惑ってしまいそうだった。

 程なくして金庫は開き、中に入った仲間は大きなバッグを何個も抱えて出てきた。中身は言うまでなく札束だろう。プレイヤーが使うバッグだけでは足りず、普通のバッグも使用しているらしく何個かパンパンに膨れている。

 この手の強盗は早さが肝心。これまでの犯罪経験からそれを知っているジャンはアリスを促してバッグを運ぶのを手伝おうとした。

 けれどここでも不意の出来事が起こる。


 さっきJが撃ったリボルバー拳銃より野太い銃声が響く。今度倒れたのはバッグを持ち出そうとした強盗仲間の一人だ。

 強盗メンバー全員が撃ってきた方向を見ると、店長席にいた男性がショットガンを構えてジャン達に向けている。彼だけではない。強盗メンバーが金に気を取られている隙に店内の行員全員が銃器を取り出して構えているのだ。

 老若男女問わず、店内にいる従業員全員が武装している。そんな一種シュールな光景にジャンとアリスは呆気にとられた。


「伏せろ! 隠れろ!」


 Jの言葉に我に返ったジャンがアリスの手を引いて客用の机の下に潜り込む。間一髪だった。すぐに銃声が幾つも重なって連なるけたたましい音が銀行のホールを支配した。

 メンバーの何人かが銃弾の雨を浴びてバッグと一緒に床に倒れる。二人が隠れた机にも銃弾が幾つも食い込み、木くずを無数に散らす。銃弾がバッグに当たり、中身の札束が空中に舞い散る。このバッグを抱えていた強盗メンバーの一人はお札の敷かれた床を臨終のベッドにした。


「襲う銀行を間違えたな! よりにもよってフェーヤ一族が経営する銀行を襲うとは、馬鹿めっ」


 店長の男性が強盗達を嘲る声を出してショットガンをさらに撃つ。フォアグリップをスライドさせてさらに撃とうとするけど弾切れ、乾いた金属音が鳴る。

 店長は慌てて机の引き出しから予備の弾薬を出して弾を込める。その隙を突いたのがJだった。

 隠れていた客用の長いソファから顔を出すなり、隙を見せた店長に向けて銃を撃つ。彼の狙いは違わず店長は体から血を噴いた。

 机にぶつかり、力なく床にずり落ちる店長。彼がやられた事で武器を持っていた行員達に動揺がはしり銃撃が止まった。


「さあ、引き上げるぞ。A、怪我がないなら運転しろ」

「あいあいさー、尻に帆をかけてすたこら逃げろや逃げろ。生きているヤツは表に出ろー」


 Jの呼びかけにAは例のごとく軽薄な調子で応えてバッグを抱えて真っ先に外へと飛び出していった。ジャンとアリスも机から飛び出して走りだし、すぐ後にJが続く。そして再開された行員達の銃撃が強盗達の後を追いかけたが、もう誰も弾に当たりはしなかった。

 Jは最後の仕上げに腰のポーチから円筒形の物体を手に取って、付いていたピンを引き抜いて店に投げ入れた。これを三回繰り返して乗って来た車に走る。間を置かず、銀行からは黄色く濃い色をした煙が立ち昇りだした。ゲームでも使用されていた発煙筒スモークだ。これは逃亡の時に行員達の目を潰すために用意された代物になる。

 銀行の中から咳き込む声が聞こえてきた。これを背にしてJは車に飛び乗る。


「出せ。どうせ残りは死んでいる」

「ういうい、飛ばすから全員どっかに捕まりな」


 ハンドルを握るAは一切の反論無くアクセルを踏み込んで急発進、車はタイヤを鳴らしてゲアゴジャの街を疾走を始めた。


「……とんでもないな、この仕事」

「うん」


 後部座席に戻ったジャンとアリスの二人は、さっきの銃撃戦のショックが大きく放心して座席に座り込んでいた。

 向いに座っていた二人の男はいない。さっき銃撃にやられた場面を見たのでおそらく死んでいるだろう。別働隊のメンバーも居ないところを見ると彼らも同様だと思われる。

 開始時から大幅に人数を減らした強盗達。それでも目的の金を手にした彼らは逃亡を始めるのだった。



 ◆



 彼らが逃げ込んだのは河沿いにある倉庫街の一画、空き倉庫の一つだった。

 河を利用した水運も盛んなゲアゴジャにあっては河沿いに物資を保管する倉庫はよく見かける建築物になる。数も多く、どれも似たような形状で、そこに出入りする人も限られて人気が薄い。強盗達の一時的な拠点としては及第点の場所だ。

 Aが運転する車は倉庫と倉庫の間を滑らかに走り抜け、拠点として確保した倉庫に車ごと入って停まった。

 ここまで追跡してくる警察の車両はない。手早く仕事を終わらせた甲斐があったらしく、捜査の手がこの倉庫に及ぶのにも時間がかかる事だろう。


「いやぁ、スリル満点だったねぇ。下手なテーマパークよりもグッとくる辺りがなんとも言えず」

「……」

「……」

「オーノウ、みんな黙っちゃて気分はだだ下がり。参ったね」


 車から降りても元気なのはAだけだ。残るジャンとアリスはあまりの経験に言葉が出てこなくなっている。二人も充分に犯罪者の分類に入るが、それでも人の生き死にが当たり前の鉄火場は不慣れだった。平和な国で平穏に暮らしてきた二人にはさっきの銃撃戦はハードルが高かったのだ。

 Aは二人のその様子を知ってか知らずか、車からバッグを次々と下ろしていく。その内の一つ、ドラムバッグのジッパーを開けばギッシリと詰まった札束が姿を現わした。あの金庫に入ったメンバーは短時間で相当効率良くお金を詰め込んだらしい。


「わおっ! 成果は上々じゃないか。ほらあれだ、分け前が増えてラッキーじゃないか。ねぇ?」

「……そう、だな。ああ」


 ジャンは目の前の札束を見てどうにか放心状態から復帰した。

 そうだった。目の前の金を見ろ、これが成果じゃないか。これで好香と一緒に安全な場所で一生何不自由なく暮らせる。あの撃ち合いは確かにショックだったけど、倒れたメンバーの分だけ分け前が増えると考えればプラスの出来事じゃないか。よし、後は上手いこと遠くに逃げおおせれば完璧だ。

 そこまで思考を進めたジャンは、顔に喜色を浮かべてアリスに顔を向けた。彼女と過ごすこれからの未来を思えば喜びが自然と湧いてきたのだ。

 バラ色の人生を思い浮かべて恋人に顔を向けたジャン。その夢は一発の弾丸でわずか一秒で砕かれた。


「――かふっ」

「――え?」


 響いた銃声、それと一緒に口から血を吐いて倒れるアリス。彼女の後ろに立ったJが手にした拳銃で無防備な背中を撃ったのだ。

 ジャンは思考が止まって、理解が追いつかない。一度緩んだ気持ちは中々張りつめられない。急激な展開に反応が間に合わない。そうしてジャンに銃口が向いても、彼にはどうすることも出来なかった。

 そして二発目の銃声。ジャンは頭を撃ち抜かれ、困惑した顔のまま殺されてしまった。


「残りはAだけか。……ちっ、逃げ足が速い上に手癖も悪いな」


 ジャンとアリスを射殺したJは、手にした回転式拳銃のシリンダーを出して残弾を確認すると再装填リロード、空薬莢を出して弾薬を込め直す。体勢を整え終えた彼はAを殺すために足を進めた。

 Jは初めから強盗メンバー全員の殺害を考えに入れて計画を練っていた。襲う銀行も強盗には危険なフェーヤを選び、途中でも死人が出るような工夫までしていた。けれど行員達の予想以上の奮闘がJの手間を減らしてくれたのだ。ここまで人数が減れば後はJ自身で始末できる。

 だが、最後の一人のAは軽薄な態度の割りに隙が少なく抜け目がない。ジャンとアリスに気を取られている間に姿を消して、その上金の入ったバッグの一つまで取られていた。


 ――チームの計画だと不安があるからって、アドリブを利かせすぎたか? このまま逃がしてリーに笑われるのも癪に障るし、確実に始末しよう。

 内心で決意を固め、銃を握り直すJ。彼はS・A・Sのメンバーの一人になる。この強盗劇はチームの活動資金調達と聞いており、チームの存在を臭わせないため強盗メンバーは全員抹殺もチームの方針だった。

 ここで失敗して一部とは言え金を持ち逃げされたのではチームの笑いものになってしまう。プライドの高いJはそれだけは避けたい。


 この短時間では元プレイヤーの身体能力であろうとも外に出ている暇はない。Aはこの倉庫の中にいる。Jはそう思考をまとめると拳銃を手に油断無く倉庫内を見渡した。

 空き倉庫なので中に貨物の類は無くてガラガラ。隠れる場所なんてほとんど無い。唯一隠れられる場所は車だけだ。

 Jは試しに車に向けて一発撃つ。隠れている敵をいぶり出す探り撃ちのつもりだったが、反応はなし。銃声が倉庫に残響を残して消えていく。

 警察の捜査から逃れることも考えれば長居はできない。早々に片付けたいと考える思考がJの心に焦りを生じさせる。


 焦りは心を狭め、視野も狭めた。そして相手はそれを知り抜いていた。

 Jの敗因を挙げるならひとえに経験の差といえた。踏んだ場数、殺してきた敵の数、積み上げてきた修練の数、そういったものだ。

 それらの差によってJ――元の世界で田中淳司だった大学生の男性――はこの時点で負けが決まってしまった。


「ばあっ!」


 まるで子供が人を脅かす時のような巫山戯た声と一緒に、Jの視界の下から相手が生えてきた。

 吐く息がかかるぐらいの近さにいきなり小鬼の仮面が現れる。慌てて拳銃を構えようとしたJ。でも、体に力が入らない。


「が、がふっ!?」


 何か言おうとしたが、代わりに血反吐が口から出てきた。さらにノドが熱くなって、視界の下側では赤い血が勢い良く体から出ているのが見えた。

 頸動脈を斬られた。そう理解が及んで、手で傷口を押えようとしてもすでに手遅れ。Jの視界は急速に暗がりに落ちていって、手に持った拳銃が床に落ちる音も遠く彼方に消えていく。

 ついには体が勢い良く床に倒れたJだったが、その時には彼はもう何も感じることができなかった。


 最後に残ったのはAと名乗った小鬼の仮面の男一人。Jの首を斬ったナイフをクルクル回して血を飛ばす。彼のナイフは鉤爪の形状と指を入れるリングが特徴のカランビットナイフである。リングに指を入れてナイフを回す様は西部劇に出てくるガンスピンのようだ。


「うん、さすがルナちゃん御用達のナイフ。戦闘用だったらマジ使えるわぁコレ。クールに決めるのがポイントだね。実戦初使用だけど一発で気に入ったよ、うんうん」


 はしゃいだ調子でさらにナイフを回して、ひとしきり満足すると鞘に戻して仮面を外した。小鬼の仮面の下からは、欧州系の彫りの深い端正な顔立ちが現れる。ただし、せっかくの端正な顔立ちも本人の戯けた表情で色々と台無しだ。

 彼はアルフレッド。この世界の元からの住人で、同時に大陸各地を巡り歩く連続殺人鬼だった。

 その殺人鬼の彼がなぜ強盗なんかやらかしているかと言えば理由は実に簡単、単純に路銀が尽きたのだ。

 大陸を放浪しては殺人を繰り返す彼の収入源は主に二通り。一つは殺した相手から頂戴する方法。もう一つは普通に仕事口を見つけて働く方法になる。今回は後者寄りだったが、最後には前者寄りになってしまったようだ。


 アルフはバッグを一つだけ持ち、他のバッグや死体には目もくれず倉庫を立ち去る。残ったのは車が一台と大金が詰まったバックが数個、そして死体が三つ。これらが警察に発見されるまでしばらくの時間を必要とした。

 後日、この事件がこの世界に転移してきたプレイヤー達の境遇を悪くする要因の一つになる。

 要因、遠因は今や山のように積み重なっている。後は一本のマッチで火は簡単に点いてしまうだろう。その火が投げ込まれる時はそう遠くない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ