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終末世界の創世記  作者: 言乃葉
First Blood 邦題:ランボー
41/83

20話 Ignition



 ルナ達一行が戦いに赴こうとしていた頃とほぼ同時刻、クリストフは自分の屋敷の一室でエカテリーナから連絡を受けていた。


「――うん、こっちは武器の受領はもう終わって警備の者に弾薬込みで配り終えたところだ。すでに一部の部下は外に出てもらっている。見込み通りあの職人は手が早くて良い仕事をしてくれたよ。彼女は? ……ああ、そっちに避難しているんだ。分かった、そっちにも人をやるよ」


 執務室にある重厚な机の上、送話器と受話器が別個になった古いロウソク型の電話機を手に部下の報告を聞き、今後の方針を素早く考えた上で指示を出している。

 見た目は一〇代前半の少年がアンティークで固められた執務室の中で人に指令を出している姿は突飛で奇異な光景に見えるだろう。しかし、実際にこの場にいればそんな感想は湧いてこない。クリストフの持つ人の上に立つ者としての気風が突飛さ奇異さを打ち消してしまうからだ。

 選挙で人員が変わってしまう議会議員や市長町長などよりも、アストーイアやゲアゴジャに根を張った彼こそがこの一帯の真の有力者。一地域を治める『王』でもあり、纏う気風は支配者のものだった。


 一通り秘書であるエカテリーナの報告を聞き、指示を出し終えると一度受話器をフックに戻して通話を切った。

 再度受話器を手にして別の相手に電話をかける。通話が繋がり、短いやりとりと申し送りで話をしたい本来の相手と電話が繋がった。


「やあ、僕だよ。そうフェーヤ。なんか普段より慌ただしいね、どうしたの? ――ふーん、戦車が一両行方不明なんだ。ああ、忙しい中悪いね。でも忠告をしておきたくて。例の化け物なんだけど、町が襲撃にあってさ。ゲアゴジャでも同じ? へえ……向こうは結構エグイ手を使うなぁ。ああ、部隊はそっち優先で構わないよ、こっちは撃退の目処が立ったそうだから。でも終わり次第こっちの様子も見に来てくれないかな? うん、ありがとう」


 通話相手はこの付近に駐屯地を置く首長国の陸軍部隊、そこの指揮官になる。陸軍の本隊こそ南に追いやられたが、アストーイア、ゲアゴジャが無事だったこともあって、彼らは本隊とは孤立しながらも相当数の戦力を残して健在だ。

 そんな陸軍の指揮官にクリストフは話をして、ある程度の戦力を町に回すように要請しているのだ。本来なら町長辺りの役割になるのだが、まともに連絡がつかない町長よりもクリストフが話を通した方が早く済むので先方は気にしていない。

 ほぼ二つ返事で部隊を回して貰え、礼を言って通話を切った。戦車が行方不明になったというのは気になったが、この事態を収拾してさらに未来を見据えるために頭を使っているのですぐに彼の中の優先度は下がってしまう。


 電話を終えたクリストフはしばらく椅子に深く腰掛けて動きを止める。一見小休止のように見えても、彼の頭脳は休まず先を見据えた一手を模索している。

 丸々三分間、彼は動きを止めていた。美麗な彫像のような彼の容姿は、動きを止めることでより印象を強めている。外からは魔獣の群れが立てる破壊音が響いて彼の耳にまで届いていた。

 影ながら治める町が壊される音は酷く神経に障っている。この音を一刻も早く止めなくてはならない。


「誰か」

「はい。いかがされました?」

「待たせしている客人をここに通して。それとお茶とお茶請けも」

「畏まりました」


 静止から動へ。外で控えていた使用人に命じて客間に居た人物をここに呼ぶ。

 実はルナとは別にこの屋敷を訪ねてきた人物が居た。この騒動が起こったがためにかなりの時間待たせてしまったが、クリストフの考える『この後』を話し合いたい相手だ。

 軽く深呼吸をして気分を切り替える。秘書の趣味で置かれている香が焚かれ、品の良い薫りが鼻をくすぐり気持ちが落ち着く。

 程良くリラックスできたところで執務室の重厚な扉がノックされる。


「お連れいたしました」

「通して」


 クリストフの許可の声に手入れされた扉は軋む音を一切立てることなく開く。その向こうには彼が信を置いている屋敷の使用人と客人の姿が見えた。

 使用人の促しもあって客人が一歩、緊張した面持ちで執務室に足を踏み入れる。それでも小柄な犬人族ドワーフの体躯で堂々と歩を進めており、緊張はしていても萎縮をしている様子はない。むしろこういう場に慣れている節すら感じられた。

 小柄で小作りな顔立ちの女性は見る人に愛らしさを感じさせる。そしてクリストフは彼女を実際に目の当たりにして気付いた事が二つあった。

 一つは彼女も人の上に立つ立場であること、もう一つはこの世界本来の存在ではないということだ。月詠人の中でも取り分け感性の強い彼だからこそ感じる微細な『ズレ』が、先程顔を合せたルナとの共通点を思い起こさせた。

 ――なるほど、禍福はあざなえる縄のごとしだったかな。これは少し面白い事になりそうだ。


「やあ、お待たせして申し訳ない。外を見ても分かる通りあの状態だ、しばらくこの屋敷で缶詰になって不自由な目に遭うだろうけど大丈夫かい?」

「いえ、大丈夫です。メイドさんの方達にも気を遣って貰っていますし、連れも退屈していないですし、言うほど不自由ではありません」

「そうかい、なら良いんだ。じゃあ、お話を始めようかライアさん」

「はい、よろしくお願いします」


 ジアトーの街からやって来た『幻獣楽団』のリーダーライアは、クリストフに接触してさっそく興味を持たれていた。

 帝国の占領下にあるジアトーでゲリラ活動を始めたライアは、後ろ盾を求めて危険な橋を渡ってここまで来ていた。面会相手が少年の姿であることや、月詠人という吸血鬼を相手に会談することも驚くに値しない。元の世界の常識は一度全て捨てた彼女には怖いもの無しだ。

 楽団員の未来、引いてはこの世界に転移してしまったプレイヤー達の未来を切り開くための会談がこうして始まった。



 ◆



 丘の上のホテル、その横合いにある従業員用出入り口に三つの人影が息を潜めて機を待っていた。

 ロビーは魔獣侵入を防ぐためにバリケードで塞がれているため、現在のところ建物の出入りは一般家庭のドアと同じサイズの従業員口からになっている。町から戻ってきたルナ達が建物に入った入り口もここからだった。

 三つの人影は従業員口から二〇m以内に陣形を敷くように展開して周囲を警戒している。彼らの服装は揃いのダークスーツ、手にはクララの手で改良が施されたAK突撃銃、その眼は夜半になり暗さを増した場所でも見通している。クリストフの私兵達が作戦に備えて周囲の警戒に当たっているのだ。

 彼らの後方、従業員口にも二つの人影が隠れるようにしてあった。黒服の私兵達とは別で全身鎧と鱗の体が目立つ二人、マサヨシとレイモンドだ。


 ――ぎゅっ、ぎゅっ、と感触を確かめるように柄を握りこむ。手にしたバルディッシュはいかにも重そうな外見に反して、今のオレにとっては棒きれのように軽い。意識していないと軽さの余りすっぽ抜けそうだ。

 今回の作戦には戦斧よりもより野外向きな長柄の武器が向くと考えての選択だったけど、これは少し慣れが必要なのかもしれない。

 こんなオレに対してすぐ隣にいるオッサンはどうなのか、と何気なく様子を窺ってみた。


 彼はまさしく正しく戦に臨む戦士の姿をしていた。格好にしても外から感じる威風にしてもだ。

 上半身裸で下にジャージというその格好は、フェイスオフの試合から変わっていない。それに加えて弓道用の胸当てを少し大きくしたような防具を着て、手には黒い手袋を持っていた。

 オッサンは手にした手袋を口に咥えると、おもむろに空いた手で白い布を巻いていく。ボクサーが良くグローブの下にやるもので、拳の保護のためとかがオレの知識にはあった。けどこうしてオッサンの姿を見ると考えが変わった。これは拳を固めて武器とするための下地作りだ。

 バンテージを巻き終えた手がぎゅっ、ぎゅっと握りこまれると、満足したようにひとつ頷いた。その後、オレの視線に気付いたのか顔をついと向けてきた。


「ボウズ、準備は良いか? ビビッてないよな」

「まさか、何時始まっても良いっすよ。オッサンこそどうなんすか? 魔獣と戦うのは初めてっすよね。緊張しているとか?」

「抜かせ」


 やたらと男臭く不敵に笑うオッサンに、オレも不敵に返していた。

 甲冑越しに伝わる夜の空気が昨日よりも熱く感じる。町で火災があったせいなのか、オレ自身の体が熱くなっているからかは分からない。

 バンテージを巻いた上に黒い手袋をはめるオッサン。微かに聞こえる音からして革で出てきているみたいだ。

 手袋も胸当てもゲームに出てきた武装であり、オレの知っている典型的なリザードマンのグラップラーがオッサンのプレイヤーとしての姿だった。


「おい、俺を見詰めても面白いことなどないぞ。自分の武器の点検は良いのか?」

「う、うっす」


 そうだった、そうだった。考え込んで呆けている暇なんてなかったんだ。

 まずは今回の主武器バルディッシュは良し、鎧も欠けたところやヒビもないから良し、消費系のアイテムもいつでも取り出せるように腰のベルトに差し込んでいる。動きに支障は無いし、体調も悪くない。メシも食ったし、何時でもいける。

 なんか不謹慎ではあるけど、迫り来る戦いを前に気分がワクワクしてきている部分があったりする。昔、台風が来たりすると意味もなくはしゃいでいた時期があったけど、あれに似ているかもしれない。


 気分が昂ぶって、今にもおっしゃ行くぞー、と言いそうになっていたタイミングで、従業員口の扉が開いた。

 エカテリーナという黒服達のリーダーをやっている女の人を先頭にして、水鈴、ジン、ルナさんの順番で外に出てきた。外にいた三人の黒服は現れたリーダーの下に集合して彼女の指示を仰いでいる。

 そしてルナさん達二人と一匹はオレ達のところに来ていて、何となく黒服組とオレ達とで組み分けがされているみたいになっている。


「あれ? 水鈴、あのキツネはどうした?」

「うん、あの子達にはホテルの警備をお願いした」

「ここの守備も必要ではあるしな、あの女史も部下を二人置くそうだ」

「使役獣はどこくらいの時間もつ?」

「えっと、半日は大丈夫だよ」


 あのヌイグルミみたいなキツネ三匹組、最初は一体どこから湧いたのかと思っていたが使役獣だなんてな。ゲームで見た光景が現実になっているのに違和感をほとんど覚えないのが不思議なもんだ。

 でもこっちの心情などはお構いなし、ここまで黙っていたルナさんはこの作戦の話を切り出してきた。今はこっちが最優先だと態度で語っている。


「目標地点はここからも見えるあの『コラム』。その頂上で私が『浄火』の呪紋を使用して魔獣たちの異常状態を解除させるのが作戦目標。移動経路はホテルのある丘から『コラム』のある丘までを繋ぐ尾根筋を進む。そこまでの道は存在するけど車両の通行が出来るほど広くはなく整備もされてないため移動手段は徒歩。以上が確認だけど、質問は?」


 戦闘を前にするとルナさんは本当に頼りなる。普段は口数が少ないのに必要と判断すれば幾らでも多弁になるし、起伏の少ない口調にも磨きがかかる。

 今だって作戦の確認で多くの言葉を口にしているが必要な事柄以外はまったく喋っていない。何か軍隊みたいな感じがする。

 ここで一緒に話を聞いていたオッサンが軽く手を挙げた。


「ルナ、隊列とかはどうなっているんだ? あっちのエカテリーナ女史と話はついたんだろ」

「はい。この作戦の要になっている私は後方からの支援役、水鈴さんは敵の前面を火力で制圧、マサヨシ君は前衛で敵攻勢の吸収、ジンとレイモンドは遊撃と水鈴さんの護衛、向こうの方々には私の周囲を固めるガードをそれぞれ行うと話がついています」

「んー……まぁ、向こうも四人と人数少ないから妥当だな」

「主の守りを任せられないのは不服だが、命とあれば」

「オレが前衛すか」


 オッサンが言うように装備を考えたらオレの前衛は妥当だ。嫌じゃないし、ますますやる気が出てきた。バルディッシュを握る手にも力が入る。

 このタイミングでルナさんはバッグから栄養ドリンクのような小瓶を取り出して、オレに差し出してきた。なんぞコレ?


「夜目を強化する飲み薬。私が持っていても仕方ないし、この作戦では君に必要なものだから。それとも持っている?」

「あっ『オウルアイ』っすか。そういえば手持ちにはなかったな。んじゃ、ありがたく」

「うん」


 そっか、ここはホテルや町の明かりがあるけど尾根道を進むとなれば明かりは無いんだった。照明を点ければ魔獣を引き付けるし、夜目対策は必須だ。オッサンや水鈴も夜目は利くらしいし、ここでコレを飲む必要があるのはオレだけみたいだ。

 金属のキャップを回して封を外してビンに口をつける。鼻や舌で感じる風味は外見通り栄養ドリンクそのもの、甘ったるい味付けと後を引く微妙な苦味まで一緒だ。

 薬液が胃まで落ちていって、変化はすぐに現れた。視界の明るさが変わったのだ。テレビの明るさ調整で補正をしたように周りの風景が明るくなって見渡せる。

 さっきここから見えると言われた『コラム』も実は黒い影のようにしか見えなかったが、今だとクッキリと石造りの灯台みたいな形が見て取れた。あそこまで行くんだな。


「どう? 視界は」

「良好っす。これなら暗闇の中でも見渡せ……ん?」


 夜目の利き具合を確かめようと周囲を見渡していると、ホテル近くの林から幾つかの影が近付いて来ていた。黒服三人組はリーダーの指示を聞いているから背中を向けているし、こっちの皆もオレに視線が集まっていて背後の様子は分からない。

 オレの変化にいち早く気付いたルナさんが、オレの視線を追って後ろを振り返った。

 その後の反応が凄まじく早い。手に持ったライフルを高速で影に向けながら叫んだ。


「敵襲!」

「っ! 応戦!」


 ルナさんの後に続いたリーダー役の声に黒服達も素早い動きを見せて隊列を整える。全員手に持った銃を影の方向に向け、あっという間にリーダーの号令を待つ体勢になった。


「撃てっ」


 直後に耳を叩く破裂音が幾つも連続して響いた。銃火が光って爆竹のものとも違う微妙に尾を引く銃声が辺り一帯に散らばりまくる。


『マサヨシ君、道は分かっているよね』

「あ、『うっす。なんとか』

『援護する。突撃を』


 銃声を考えてなのか、耳を介さない念会話で指示してきたルナさん。彼女はその場で身を屈めて膝立ちになって射撃を始めていた。

 ライフルの先端に取り付けた細長いサイレンサーのせいか、くぐもった音が何度も響いて薬莢が飛び出してくる。

 そうだ、もう戦闘は始まったんだ。いつまでも置いてけぼりを喰らっている場合ではない。バルディッシュを両手でガッシリと持ち、構える。


「エカテリーナさん! マサヨシ君が道を作ります、援護を」

「了解しました。彼の突撃を援護!」


 黒服達の援護も受けられるらしく、これはもう行くっきゃない。腹はもうくくった。えっと尾根道はあそこだから、そこまでの道に立ち塞がる魔獣を蹴散らせば良いのか。

 一歩を踏み出し、二歩三歩、後は怒濤の突撃として走り出す。

 一歩駆けるたびに鎧の具足が鳴り、後ろからは銃声と銃弾が飛んでくるピュンピュンした音がオレを追い越していく。

 走り出してすぐに目の前に魔獣が視界に入る。武装熊だ。銃弾を何発か受けてあちこちから血を流して弱っている感じだけど皆には脅威だ。当然、撃滅あるのみ!


「どっっけぇぇっ!」


 武装熊は立ち上がって威嚇の声を出してオレを迎え撃つ体勢になった。けど、いちいちガチンコする暇はない。一撃で決める。

 走った勢いをそのままにバルディッシュを振りかぶる。長柄の得物が重々しい風切り音を立てて唸るのが耳に入った。そしてスイング!

 向こうが前足を振りかぶっても、その前にこっちの一撃の方が早い。真横に振ったバルディッシュは、唸りを上げて刃を武装熊の腹へとめり込ませた。

 手に返る強い抵抗感、肉を斬る感触、吹き出る真っ赤で鉄臭い血、それら一切を無視して腕は勢いを殺さずに振り切った。

 手に感じた抵抗感や感触が薄れ、吹き出る血の量が一気に増えた。目には上半身と下半身に別れて血と内臓をばらまいた武装熊が、体を折るように倒れる姿が見える。

 倒した。そう確信して次の相手へと目を走らせる。


「次ぃ!」


 体を二つにして腸やら血やらがでろでろ出ている武装熊の横を通り抜けて、さらに道を前進して行く。視線の先には沢山の魔獣の影が見えた。こりゃ全部は相手できないな。

 ホテル正面にある道から脇に逸れた尾根道は舗装もされていないし、道幅も狭くすぐ近くまで林の木が迫っている。これでは悪路に強いジープでも厳しそうで、確かに歩きしか移動手段はない。でもこれが向こうまでの最短距離の道なのだ。

 バルディッシュを振り回してオレは作戦通りに壁役を務める。前で暴れ回るのがオレの今できる精一杯だったのなら、そいつをとことんまでやってやるまでだ。


「求めに従い現わせ、緑の槍」


 後ろからそんな詠唱が耳に入って、次いで走っている地面が少し揺れた。地震かと思う間もなく地面から鋭いものが何本も勢い良く突き上げられ、その上にいた魔獣に突き刺さる。

 突き上げられたのは杭だ。それも周囲の樹木の根っこが鋭く太くより合わさったものに思える。周りの木から軋むような音が聞こえてくるのが良い証拠だ。

 さらにエグいのは、突き上げられた魔獣の体から水分みたいなものが搾り取られて見る間に乾いてミイラになってしまった。これが一体や二体ではなく、見える限りで十体以上が同じ目に遭っている。


「森に栄養をたっぷりと与えられたね。秋辺り豊作かも」

「エグい攻撃だな、水鈴の嬢ちゃん」

「仕方ないんです。風は通り道が限られるし、火は山火事の元です。それに元からあるものを使った術式の方が負担も軽いのですよ」

「ほう、そうなのか」


 振り返ると、フワフワの毛皮がついた杖を地面に刺して魔法を使っている水鈴と、お喋りをしているオッサンの二人の姿。戦闘時なのにここだけ妙に和やかムードじゃないか。ハイキングか、ハイキングなのか。二人の横で近寄る魔獣をムチで牽制しているジンが良い対比に見える。


「オッサン、いい年こいてサボリか」

「そんな訳ないだろ。年とっているから力の入れどころを見極めているのさ。ボウズは若いんだからもうちょっと頑張れ」

「この不良中年、ズルイ」


 出たよ、年寄りがよく言う台詞「若いんだから」。若けりゃどんな苦労させても許されてしまいそうな名台詞だ。

 でもオッサンも単に遊んでいるだけじゃない。水鈴に近付く動きの素早い魔獣をパンチで叩き落としていた。

 ジンのものとは性質の違うムチのような腕で、飛びかかるランドラプターを空中ではたき落とす様子はまるでハエ叩き。速すぎて拳が見えず、パンチが当たる音だけが暗闇に鳴っている。

 これでお喋りをしているのだ、本気じゃないのは誰にでも分かる。元プロボクサーっていうのはこんなにも凄いのか。

 ちょっと悔しい気分だけど、それ以上に仕方ないかと思ってしまう、思わされてしまう。


「面の制圧は任せて。マサヨシは一点突破で道を作ることに専念して」

「おう、分かった」

「後ろを気にする程余裕はないだろう」

「おー、分かっているよ」


 ジンの余計な茶々はともかく、水鈴の後ろからの援護は心強い。心置きなく前へと突き進められる。

 バルディッシュを振るって足を十歩進め、さらに振って十歩。振うたびに魔獣が切り裂かれて返り血が鎧にかかって、鉄臭さが強烈になっていく。オレの攻撃の合間を縫って後ろから水鈴の援護の魔法が飛んできて魔獣に炸裂、今度は二〇歩は行けた。

 こうやって『コラム』までの距離をオレ達は詰めていく。大丈夫だ。数は多いけど皆一撃で倒せる相手ばかりで、油断をしなければイケるっ!

 そう思っていた事自体が油断だったかもしれない。


「マサヨシ、上っ!」

「う?」


 水鈴の声に反射的に真上を見上げた。

 林の枝の間に影が見えて、それがすぐに大きくなって近付いてくるものだと分かった。何かが降ってきた。


「えぇぇっ!」


 見えてはいても反応する間はない。咄嗟に手に持ったバルディッシュを顔の前にかざして、防御の姿勢をとれただけでも上等だ。

 次にやってくる痛みを覚悟して歯を食いしばる。それでも目は閉じない。降ってくる影は視界の中で明確な輪郭を帯び、魔獣の形になった。ランドラプターだ。

 ジュラシックパークに出てきそうな姿形のソイツは、爪を前に突き出して頭上から襲ってきたらしい。いくらゲームで弱小の分類にあったランドラプターでも、落下の勢いがついた爪攻撃はヤバイ。

 水鈴の魔法は間に合わないし、ジンとオッサンも近くにはいない。あ、マズイなこりゃ――その思考が次のコンマ数秒で塗り変わった。


 ―― ――

 それは空気を切る弾丸が出す表現の難しい音だった。その音が耳に入った時にはすでに降ってきたランドラプターは血を吹き出し、地面に自由落下している。

 生々しい音を立てて地面に体をぶちまける魔獣。すぐ傍に落ちたせいで鎧の具足には飛びはねた血が付いたけど、あの爪に襲われるよりは何倍もマシだ。

 そうだった、ルナさんの存在があった。ジンとオッサン、水鈴のさらに後方、黒服とエカテリーナに脇を固められたルナさんの姿が見える。


『マサヨシ君、怪我は?』

『な、ないっす。引き続き突撃する、であります』

『了解。後方からの援護は完璧を約束する』


 おかしな口調になってしまった。けれど彼女は一切気にしていないらしく、それが少し残念だ。

 短い念会話が終わってすぐ、さらに数発の弾丸がオレの横を通り抜けて近くに寄ってきた武装熊の頭を撃ち抜いた。撃った弾丸が全部頭に集まっていたようで、倒れた武装熊の頭がばっくりと砕けてスプラッタな光景になっている。

 さらに弾丸は飛び、やや遠くで群れになりだしたランドラプターを撃ち抜いていく。ルナさんはその言葉通りに完璧を期して、進路上の妨げになるものを優先して撃っているようだ。


 こんなにも心強い援護がオレの後ろにはある。

 血まみれ泥まみれで、臭いも鼻が麻痺するくらいになっているが気にはならない。兜の中で口元が笑みの形になっているのが分かる。

 目的地の『コラム』はもうすぐだ。オレ達にかかればこんな魔獣の群れ、軽いもんだと笑いとばしてやる。血に濡れてグリップが悪くなった柄を握りしめてバルディッシュを大旋回、またも魔獣の血飛沫を飛ばしてやった。


「行くぞコラぁぁ!」


 オレ自身を奮い立たせる声を張り上げて道を爆走、魔獣の群れへと突っ込んで行く。後ろに誰かの守りがあることの頼もしさを感じながら。



 ◆◆



 満月の夜はこれまで以上に感覚を明瞭にしていた。五感全てがひたすらに鋭利になっていき、まるでタフで良く斬れるナイフになったようだ。

 触覚は近くを固めるエカテリーナを初めとした月詠人達の存在を空気の振動で感じ取って、音は細かな音も拾い上げて自分の内臓が蠢動する音も聞き取ってしまい、嗅覚は周辺の雑多な臭いをひとつひとつ嗅ぎつける。

 特に目は尾根道の木々の先を見通し、先の先まで視界が通る。そして『ルナ』である自分なら視界が通る場所なら弾丸も通せるのだ。

 構えているタイプ14ライフルの感触もこれまでになくしっくりきていた。体の延長よりもさらに一歩先、意識を伝える器官の一つになったようだ。これなら弾を外しようが無い。


 基本通りの膝撃ちの姿勢から標的を定める。数は十、距離は一〇〇mを切っていた。まず外さない。

 今夜の作戦に際してタイプ14のスコープと二脚は取り外している。夜ならスコープは必要なく、移動しながらの機動戦には二脚は重りでしかない。むしろ取り外して軽くなったお陰で取り回しが少し楽になっていた。この軽量化がこの作戦に最適なチューンナップだ。

 十の標的全てに狙いを定め、それら全てに一息で十発の弾丸を見舞う。結果、三秒で事は成った。全弾命中、十体の魔獣はその場で崩れ落ちた。

 空薬莢が地面に落ちきる前にさらに次の標的へと銃口を巡らす。怖いくらいに好調な身体に火が点る。


 マサヨシ君が前面で魔獣の攻勢を受けてくれるお陰で、こちらは比較的のんびりしたものだ。林の中からの急襲に気をつければ、後は遠距離攻撃が出来る魔獣を優先して狙い撃つだけで良い。

 銃口を巡らした先にいる武装熊に狙いをつける。名前の通りに装甲だけではなく背中に生体由来の大砲を持っている武装した熊なのだ。ゲーム内の設定では口にした岩石などを圧縮空気で打ち出す空気砲の一種で、威力はともかく射程はそれほどないとあった。

 もちろん射程が短い程度で油断などはできない。射程外の内にいち早く発見して優先して屠らなくては。

 距離は二〇〇で射程内。捉えたと確信した次には撃っていた。ライフルはサプレッサーでくぐもった銃声を鳴らし、肩に馴染んだ反動を返して銃弾を吐き出す。そして結果は言わずもがな、捉えた標的に送った弾丸は一発も外さず武装熊の息の根を止めた。


「すげぇ腕だな姉ちゃん」

「なにか?」

「いや、良い腕だって言いたいだけさ」


 弾切れ間近になったので、周囲をガードしてくれているエカテリーナさん達に「リロード」と一声かけて弾倉を交換していると、近くにいた黒服の一人が声をかけてきた。

 エカテリーナさん以外はそれほど気に留めていなかったせいで、揃いのダークスーツを着た彼らを意識の中ではひとまとめにしていた。けれどこうして声をかけられてみると、彼だけこの中で一番の年嵩に見える。三〇代後半くらいだろうか、他のメンバーよりもスーツを着崩しているし口にはタバコまで咥えている。

 ちょいワルどころか完全に不良オヤジそのものだ。AKを抱えているせいでそこらのヤクザよりも迫力がある。


「デール、無駄口を叩いている場合か」

「へいへい、お堅いな我らがリーダーは。戦闘中の緊張をほぐすちょっとしたディスカッションだってのに」

「お前の場合はほぐすんじゃなくて、緊張を破壊してしまうだろうに。すいませんルナ様、部下が無礼な口を利いて」

「いえ、別段気にしていませんのでお気になさらず」

「だそうだ、リーダー。金眼の君は気にしてないって言うんだから、もっとフレンドリーにフランクに行こうぜ。せっかくの同胞なんだしよ」

「社交辞令だろう、馬鹿者」


 何だろうな、今は作戦行動中なのにこの緊張の抜け方は。

 デールと呼ばれた部下とリーダーのエカテリーナさんのやりとりに周囲の他のメンバーは笑っている。これが彼らの何時ものスタンスなのか、苦言を口にする者はいない。

 ジョーク一つにも気合いの入っている米国の軍隊ならありえそうだが、少なくとも自分が居た部隊ではありえない光景だ。

 彼らの中にいて疎外感を覚えたが、仲間に入ろうとする気持ちも湧かないので再び射撃に集中することにした。マサヨシ君の活躍でだいぶ道が拓けている。そろそろこちらも前進しよう。

 歩兵戦闘の基本ドクトリン『ファイアアンドムーブ』だ。火力援護しつつ前進、その後援護を受けつつ前進して目標地点までにじり寄るのだ。


「あっと、何時ものようにリーダーをいじっていたら金眼の君が拗ねちまったぜ。すまないな。おれはデール、世の美しい女性達の味方だ。短い時間のダンスパートナーだろうがよろしくな」

「ルナ・ルクスです。よろしく。後、九時方向から敵」

「おおっと」


 接敵の警告からすぐさま銃声、掃討には十秒とかかっていない。

 極めて軽薄な印象を見る人に与える人物だが、戦闘能力は高いようだ。横の林から迫ってきた複数の軍隊狼を短時間で独力排除してしまった。もしかすると軽薄そうに見えるのは演技なのだろうか。

 さらに彼らが持っているカスタムAKはクララさんの供給を受けた直後だ。なのに早くも銃の特性を掴んでいるらしく、手慣れた操作を見せていた。他のメンバーも適応は早いが、デールは頭一つ抜きん出ている。

 現実に一つの銃に馴染むにはそれなりに時間が必要だ。その道のプロならば特に。銃の特性を知り己の手の延長とするには時間と大量の弾薬が必要で、ゲームのようにボタン一つで切り替えられるものじゃない。これは銃に限らず、道具全般に言える事でもある。

 それが彼ら月詠人はすぐに適応してみせる。こと武器に対しての適応力は種族の特性の一つとなるほどに。デールはこの適応力が特に優れているらしい。


「ハッハアッ! ワンコロが何匹かかってきてもやられるかよ。もっとドーンとデカイのを寄越してみな」

「本当に来かねないのが怖い」

「だったらそれはそれで楽しむのが月詠人の心意気だ。それとも金眼だと違うのか?」

「少なくとも私個人は何事もなければ良いと考えている」


 作戦前の緊張感はどこへやら、こうして始まってみると賑やかな行軍になりそうだ。この時には感じていた疎外感が少しだけ薄れていた。

 尾根道の先に目標地点の『コラム』はもう捉えている。舗装のされていない山道は、歩く度にゴツゴツとした感触を足に伝えてくる。それでも自分達の移動速度は速く、後十分位で目的地にたどり着けそうだ。

 前衛のマサヨシ君、中衛の水鈴さん、遊撃のレイモンドとジンに合わせて走り、立ち止まっては障害を排除しては走っていくのを繰り返す。本来ならもっと遅い歩みになりそうなものだが、前を行く三人の速度が速いお陰でこちらも引っ張られているのだった。


 鋭敏化する各種感覚はあの塔に何か居ると告げていて、近付くに従い嫌な予感は増していく。この場合の予感は高い確率で現実となってしまう予測だ。

 デールの言葉ではないが、どーんとデカイものがありそうで簡単に作戦が進行するとは思えない。

 それでも引き返す選択は存在しない。町を一望する丘の上の塔を目指して自分達はさらに前進していった。



 ◆◆◆



 最初に気付いたのは当然と言えば当然だが、一番前を行くマサヨシ君だった。

 四〇m近い高さの『コラム』がすぐ近くにあり、石造りの塔を軽く見上げる位置まで到達している中で彼は前方に何かを見つけて足を止めた。

 ここまでほとんど足を止めることなく爆走していたマサヨシ君が急に足を止めたので、異常は後ろにいる全員にすぐ伝わった。

 臨時の突撃隊メンバーの多くは、急に止まった切り込み屋の様子に何事かと訝しんでいる。でも少し捻くれていると自認している自分は、彼よりも彼の視線の先を見やった。何がマサヨシ君の足を止めたのか、そちらが気になる。


 マサヨシ君の顔は面で覆われているので視線を追うことは難しいが、顔の向きで大体の方向は察せられる。その方向へ目を凝らす。

 後二〇mも行かない内に林は切れて、『コラム』周辺の広場に出るようだ。厄介なことに林から『コラム』の入り口までの約三〇mの距離は整備された公園として遮蔽物が一切存在しない。

 公園にも魔獣は見える限りで数匹は確認できる。これらは幸いな事に無力化に手間のかからない軍隊狼やランドラプターといった小型種だけだ。

 気になるのはただ一つ、『コラム』の出入り口前に門番かバリケードのように鎮座するもの。それがマサヨシ君の目も引き付けている『戦車』だ。


『ルナさん、あれは戦車っすよね?』

『そうだね。しかもチハ車』

『ちは?』


 マサヨシ君はそれほど興味のない分野だったようだ。念会話で不思議そうな言葉が返ってくる。


『旧日本陸軍の戦車に似ている』

『そうなんすか』

『そう』


 ここからも感心するような「ほへぇ」と間の抜けた声が聞こえる。まるで歴史の授業に出てきた史跡を見たような調子だ。実際、本物のチハ――九七式中戦車は戦車史の中でしかお目にかかれない骨董品だ。けれどこの世界では異なる位置づけにあるのだろう。

 現代のMBTから見るとはるかに小さく貧相に見える車体に、小型の砲塔が右寄りに据えられている。本物だったら改修前のタイプだろうか。

 エンジンの音は聞こえず、砲塔や前方に据えられた機関銃も静かなものだ。ここが博物館なら展示物として見ていられるぐらいに動きはない。

 それとも本当にこの公園の展示物だったりしないだろうか? そんな考えが浮かんだが、直後に隣にいたデールが否定した。


「おいおい、なんで陸軍の戦車がここにあるんだ?」

「……デールさん、あの戦車は?」

「おう、我が首長国の主力戦車『マークⅢ』だ。あれがなんでここにあるかはおれも知らね」

「主力戦車。あれがこの国の主力」


 現役かもしれないとは思っていたが、この国の主力戦車とは思いもしなかった。一部の熱狂的マニアとこの国の軍人には失礼だろうが、大丈夫だろうかこの国。

 こんな失礼な思考が向こうに伝わったのか、チハ、もといマークⅢ戦車の砲塔が唐突に動き出した。

 ターレットが滑らかに回り、短い砲身が仰角を定める。定められた標的は自分達。

 夜気とは別の原因で肌が粟立つような寒気がする。ここに来るまでに感じていた嫌な予感は、あの戦車に集約されていくような感触がこの一瞬で自分の中に巻き起こった。これは、拙い。


「みんな、散らばれ!」

「散開っ、衝撃に備え!」


 エカテリーナさんとその部下三人の行動は、実戦で鍛えられているらしく素早い。対してマサヨシ君、水鈴、レイモンドの三人の反応は遅い。無理もない。平和な国で戦車砲に狙われた経験など普通は無いに決まっている。咄嗟にどう対応したら良いか分からないのだ。

 発砲まで数秒もないと感じて、一番手近に居た水鈴さんに向って飛びかかる。ジンもマサヨシ君に飛びかかり、「面倒をかけるな」とかいう声が聞こえた。


「ひゃんっ」

「伏せて!」


 体重をかけて彼女を地面に引き倒して、強引に伏せさせる。手荒極まりないが今は非常時、文句は受け付けない。

 その数瞬の後、すぐ近くで地面が噴火して耳に感じる音が一色に染まった。戦車の主砲弾が着弾して爆発したのだ。土と砂と石が勢い良く舞い上がって、周囲に土埃が立ちこめる。土の臭いがキツく、息をするのにも抵抗があるくらいに土埃の濃度が高まる。目にもホコリが入りそうになって、思わず目を細めた。

 けれど砲弾の破片とかが当たって負傷するよりはずっと良い。すぐに身体を確認したが五体は満足に動く。


「水鈴さん、無事?」

「ふぁ……あ、うん、何とか。守ってくれてありがとう」


 強引に伏せさせて自分の下にした水鈴さんも無傷だ。砲弾の爆発を間近で体感したせいか少し呆けている様子だが、大事はなさそう。

 ただ、緊張のせいなのか狐の耳がせわしなく動いて、尻尾は地面をホウキのように掃いているが。


「別段大した事は。動けるならこのまま伏せた状態で移動、匍匐前進の姿勢に」

「あ……うん、分かった」


 水鈴さんの上から素早く身を引いて、腕にライフルを抱いて肘で前へと進める姿勢をとる。これに倣ってか、水鈴さんも腕に杖を抱えた姿勢で地面に伏せてみせた。

 二人並んで見るのは、砲撃をしてきた戦車。砲撃を放った直後にエンジンを始動させたのか、静かだった戦車からはディーゼルエンジンの低く重い音が聞こえている。何時動き出してもおかしくない状態だが、戦車は『コラム』の入り口から一㎝も動いてはいなかった。

 万事が無事に終わるとは思っていないけれど、なぜこうも試練が向こうからやって来るのやら。自分は疫病神や死神に祈りを捧げた記憶は無いのに。


 取りあえず話をして、上手くいけば良し。決裂したら昔の対戦車戦闘の真似はしそうだ。

 背中のバッグから柄付き手榴弾と結束手榴弾を取り出し、肉薄攻撃の準備だけはしておく。この国の戦車なら白旗上げつつ話をするのも良い手だ。実力行使はその後。

 そう考えてはみたものの、果たして話が通じる相手だろうか。

 戦車のエンジン音が低く遠くへ響く。それだけで古めかしく小さな戦車のはずが、鉄塊の重量感がそのまま伝わってくるような威容に変わっていた。それはまるで目を覚ました猛獣のような気配の変化だ。


 目的地を目の前にした難所に自分は誰にも聞かれないように溜め息を吐いた。

 その間に戦車の砲塔は回り、砲がこっちを睨み付ける。すぐにやって来た二発目も手荒く容赦のないものだった。




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