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終末世界の創世記  作者: 言乃葉
Once Upon a Time in the West 邦題:ウエスタン
4/83

3話 困惑




 ガバリと何の前触れもなく、ベッドからばね仕掛けの人形みたく跳ね起きた。


「うぇ! ……うぅぅ~? あぁ……」


 何か途轍もない夢をみていたような気分だった。

 あまりのショックに目が覚めてしまったが、そのショックのためにどんな夢をみていたのか欠片も思い出せない。

 口からアホのような声を出して、ボリボリと頭をかいて今の時間を確認しようと枕元に置いた携帯電話に手を伸ばした。


 窓の外がかなり明るい。いつも起きている時間より遅くなってしまった? ケータイの目覚ましはセットしたはずなのに。もしかして学校に遅刻か? 

 などなど胡乱になっている頭の中身をそのままに携帯電話を手探りで探す。探すけれど、いくら枕もとを手でかき回しても携帯電話の硬質な感触はない。

 床に落としたか? と思い、ここで初めてオレは自分が寝ていたこの部屋の様子を知った。


「……なんだこりゃ? ここは誰? オレはどこ?」


 まだ寝ぼけているかもしれない。オレが寝ていた場所は自宅の見慣れた六畳間じゃなかった。

 何処かの古いビジネスホテルの一室と言えばいいのか、結構広めの室内にカーペットが敷かれ、生活に必要な家具が置いてあり、出入り口らしい扉とトイレ兼シャワールームに通じる扉。

 って、ここ見覚えがあるんだけど? 壁紙や家具、隅に置かれている武具らしいもの、まるで自分が熱中しているネットゲーム『エバーエーアデ』での自キャラ『マサヨシ』の自室を再現しているみたいだ。


「マジか?」


 まさかと思い、布団をはねのけベッドから立ち上がり自分の体を見下ろしてみた。

 うぉ! 背が高い!? という感想がまず一つ。オレの身長は一六〇㎝代前半の低身長チビだったはずなのだが、記憶にある足までの距離が今は遠く感じる。比較対象がこれといってないため分かりにくいが、目線も高くなっている気がした。

 寝間着らしいハーフパンツと綿の半袖シャツを身に纏っており、両手を見てみれば元のオレのものより筋張っていてゴツクなっている。


「いまのオレ、どうなっているんだ!? あ、鏡、カガミ」


 トイレを兼用するシャワールームに洗面台のある記憶があり、それに従って駆け込み、鏡に今のオレを映し出した。


「これが、オレか?」


 戸惑う声が遠くに聞こえる。今になって自覚したが、元の自分の声よりも野太くなっている声は他人の声そのものだ。

 その声に見合うように容姿も変わっており、二〇代半ばぐらいの筋骨逞しい大男の姿が鏡の中にあった。

 身長は大雑把に二m近くはあり、肩幅は広く、胸板も厚い。シャツをめくってみれば腹筋が六つくらいに割れていた。六パックというヤツだ。

 濃い茶色の髪は短く刈り込んでおり、顔は彫りの深い西洋系。ただし若干幼く見え、目元口元を中心に元の自分の雰囲気が残っているように思えた。ハリウッド映画の肉体派男優に元の自分の顔のエッセンスを四分の一ほど混ぜ込めばこうなるかもしれない。これが『マサヨシ』になったオレということなのだろう。


 シャワールームから出て、改めてこの部屋を見渡す。

 やっぱりゲーム『エバーエーアデ』でプレイしてきた自室そのままだ。バッグを吊るしたラックにも、武器防具一式をまとめて入れているチェストも、全部ゲームの通りなんだろう。

 けれどモニター越しには感じられない五感に訴える臨場感が、ゲームではないとオレに分からせようとしている。


「待てよ。ゲームの通りだとして、他のみんなは?」


 はたと気付いた。

 オレがこんなふうに『エバーエーアデ』の世界らしき場所にやってきたということは、他のプレイヤー連中もここに来ている可能性だってある。

 特に気になったのは同じチームを組んでいるメンバー達のことだ。


 他のMMORPGでもそうであるように、『エバーエーアデ』でも気の合ったプレイヤー同士でチームを組み、複数人数で冒険に臨むことができるシステムになっている。

 チームを組むとチーム用の集合住宅に拠点を構えられるようになり、そこを起点に同じチームの仲間から冒険に出るメンバーを募り、クエストに出発するのがチームに加入したプレイヤーの基本的なプレイスタイルとなっている。

 今いるこの住居だってゲームの設定がそのまま正しければ、オレが加入しているチーム『銀月同盟』が所有している集合住宅の一室のはずだ。

 外に出て他の連中の事を確かめなければ、そんな気持ちが一気に強くなった。


 寝間着のパンツとシャツという姿のまま外に出るのはさすがにマズイと思い、部屋を漁って出てきた綿の長パンツとGジャンに似ているジャケットをシャツの上から羽織り、ブーツを履いて外への扉を開いた。

 熱せられた石の臭いと乾いた土、そして潮の香りが風にのって吹き込んできた。

 扉の外、集合住宅の石造りの廊下に出てみると街の臭いが鼻の中に入り込んでくる。自分の部屋は四階にあり、それなりに高い場所から『ジアトー』の街の様子を眺めることができた。

 海が近い石造りの街並み、アスファルトではなくレンガで舗装された道、自動車やバイクが走っている中で馬車や馬が平然と道を行く。二十一世紀に入った日本では見ることのない光景がオレの視界全面に飛びこんできた。

 モニター越しではない、余りにも臨場感のあり過ぎる風景に頭がクラクラしてくる。


「ねえ、そこの君。もしかしてマサヨシかい?」

「……え?」


 頭がどうにかなったせいか横からかけられた声にとっさに反応できなかった。けれども顔を向けてみると、オレの部屋の隣から出てきた男が目を見開いてこちらを凝視している。

 見た目は若く、スマートな印象の男性。身長はこっちより幾分低いが十分に長身に入る背丈。こちらがゴリマッチョなら男性はホソマッチョというところだろうか。教育番組に出てくる体操のお兄さんを洋風にしたらこんな感じかもしれない。

 でも……あれ? オレは男性の顔に見知った顔の印象を重ねた。うん、似ている。それにオレの隣の部屋から出てきたという事はまず間違いない。


「タカ!? 隆士……いや、この場合はタカヨシか。あー、どっちで呼んだら良いんだ」

「どっちでもいいよ。じゃあ、やっぱり君は正義、マサか」

「うん、何かスゴク体が変わってしまったけどな。やっぱコレ『エバーエーアデ』かな?」

「ネット小説の読み過ぎ、って言いたいけど否定できないか。この体だってタカヨシのものにそっくりだし」


 やっぱり細川隆士、オレのダチだった。

 中学、高校と同じ学校で同じクラス。付き合いも長く、クサイ言い方をするなら親友と言える仲だ。ネットゲームの楽しさを教えてくれたのもコイツで、『エバーエーアデ』を紹介してくれたのもコイツになる。ネームエントリーの時、話し合って『マサヨシ』『タカヨシ』と語呂良く名前を合わせており、チーム内でも名コンビだと思われている。

 そんな付き合いのあるダチだ。だからだろうか、さっきまで感じてたクラクラ感はなくなり、すっと落ち着いた気分になれた。


「ここもジアトーの街でいいんだよな?」

「多分ね。そっか、リアルで見るとこんな感じなのか」


 何やらしみじみと外の街並みを見つめているタカ。

 タカにつられる様に改めて見ると日本にはない異国情緒が感じられる街で、観光パンフレットに写真が載っていてもおかしくない。こんな事がなければ街一周の観光ぐらいはしたくなる。

 けれどもタカ? 今は非常時ですよ。


「おい、タカ。眺めんのはいいけど、今は他のメンツの様子を確かめてみないか?」

「ん、そうだった。そうだな、まずはリーダーのところに行ってみよう」

「ああ」


 オレ達がこうしてこの場所で目が覚めたんだ、銀月同盟のメンバーが他にも揃っていることは十分に考えられる。

 ここはタカの言うようにチームのまとめ役をやっているリーダーに連絡をとってみるのが最初の一手だろう。

 銀月同盟の創設者であり、チームリーダーのサイトーさん。高レベルプレイヤーの彼がドッシリと構えて皆を纏めているお陰で、ゲーム内に数多く存在するチームの中でも堅実な働きを見せると評判になっていた。

 彼に会う事が出来るなら多少は今の状況が良くなる。そんな気分さえオレは持っていた。


 サイトーさんの部屋は二階、ここから二つ下だ。

 何もかもがいきなり、どうしてこうなったとかの理由も分からない。だけど、今は足を動かすしかない。

 オレはタカと並んで廊下を駆けていった。



 ◆



 朝日に照らされているその建物は、この街ジアトーの為政者達が住まう場所だった。

 ジアトー市庁舎。重厚な石造りの建築物は秩序の所在を知らしめ、街に住まう人々に公平さの在り方を示す威厳ある雰囲気を放っていた。

 働いている職員たちは一人一人程度の差こそあれ、街を運営している身としてそれなりに誇りをもっていたはずだった。

 この街の長たる市長も市民に選ばれた誇りをそれなりに持ち、この街を良くしていこうという考えもあったはずだった。

 それらがみな過去形で語られなければいけないのは、市庁舎にいる大半の人間が無残に命を落としているからだ。


 壁や床、天井を問わず血しぶきがかかり、市庁舎の内装を前衛的な赤いアートに染め上げている。

 床にはゴロゴロと不揃いの死体が転がっており、五体満足に見える死体は一体もなかった。首がなく、手足が欠け、胴体が上と下でスッパリ切れているもの、挙句の果てには原型を留めず挽き肉になっているものまである。

 死に方も様々。焼死、爆死、感電死、出血死、ショック死、呪いで死んだというものすらある。この様子は子供が遊び飽きたオモチャを放り捨てる様によく似ていた。

 庁舎にいた彼ら職員は、無邪気な子供の残酷な遊びに付き合わされたアリやカエルだったのだ。


「すっげーな! エバーエーアデでの力がみんな使えるぜ。装備の効果もリアルだ」

「おう! 魔法も習得したやつが一通り使えるし、使い魔や召喚獣も呼べる。なんかカンドー、リアル魔法使いになれるとはね」

「でもって、無敵の俺様ちゃん達は圧政を敷く市長をぶっ殺したのでした。アイアムヒーロー」


 血の臭いが充満しだした庁舎の一室に惨劇を起こした人間が集まって談笑していた。

 彼らはゲーム『エバーエーアデ』のプレイヤー達である。気の合う連中でチームを組み、少々素行が悪いながらも深刻な問題とならず今日までゲームをプレイしてきた人々だ。高レベルのプレイヤーが彼らの大半を占め、その装備品も手間と暇、そして少々のチート行為で手に入れたものが多い。


 彼らに共通することは現実の現代日本に倦んでいた事だ。人それぞれの抑圧された気持ちのはけ口を求めてネットゲームにやってきて、それでも満足しきれない彼ら。

 そんなある日、ネットゲームの世界がリアルな感触をもって目の前に現れた。しかも自分が手塩にかけて育ててきたキャラクターの能力をそのまま受け継いでだ。

 最初こそ戸惑いの連続だったが、やがては大きな喜びに取って代わる。

 今まで夢の中でしかなかった魔法が使える。常人のはるか上をいく身体能力。現代日本では厳しく規制されている武器の数々、しかも常識にはない特殊効果さえある。

 超人願望、変身願望、破壊願望がいとも容易く叶えられる世界。しかも本来なら彼らの行動を規制するべき官憲は全く歯が立たない。阻むものは一つもない。後はきっかけ一つで簡単に行動に移せた。


「よーし、じゃあ目標は分かりやすく世界征服でもいっとく?」

「いいねー」


 その部屋は市長室だった。本来なら市民に選ばれた市長とその秘書が駐在している部屋になるのだが、それも昔のこと。現在は彼らプレイヤー達が殺戮の余韻に浸って成果を自慢しあう場になっていた。

 この部屋の主だった市長は、自分自身のデスクを飾る奇怪なオブジェに成り果てていた。彼らの一人に首を綺麗に刎ねられ、さらし首の罪人のようにデスクの上に乗っている。その体は、別の一人が召喚した召喚獣のエサになってしまい、今もぼりぼりむしゃむしゃと食事中だ。

 市長を補佐する女性秘書も彼らがやって来た当初この場にいた。そして今は彼らの都合のよいダッチワイフにされている。この部屋の一画で彼らに代わる代わる犯され、彼女の瞳にはすでに正気の光はない。反応も薄くなっており、その内に飽きた誰かによって殺されるのは明白だった。


 このようにまともな神経をもった者がいれば顔を背けたくなる場所で愉快そうに笑い、彼らの所業を満足そうに見ている男がいる。

 市長用の革張りの椅子に座っている彼は、座っていても長身だと分かる長い脚を優雅に組んで長めでセットされた金髪をかき上げる。現実でも彼のクセだが、手に伝わる感触が異なるせいか少し不慣れな手つきになった。


「みんな、市庁舎制圧おつです。手始めに僕たちの目標は市街征服ってことにしませんか?」

「いいねー、それってどんなエ○セルサーガ?」

「じゃあ、リーダーのストさんはイ○パラッツオ? 面白そう。アタシ、エ○ガーラ役希望ね」

「お前なんてメ○チで充分だろ」


 ワイワイ賑やかに話す気の合った彼の仲間たち。

 彼らを纏めていく男、ストライフはこんな仲間たちの雰囲気を非常に気に入っていた。リアルでは引き篭もりのゲーム廃人の上をいく廃神だった彼。ネットゲームの世界こそが全てで、自室の液晶ディスプレイに映されていることが真実だったのだ。

 ネット上で出会った彼らは一緒に冒険をする仲間。彼らと付き合い、信頼を得て、気付けば高レベルプレイヤーのリーダーとして仲間を引っ張る立場になっていた。

 認められた。その事が嬉しく、ネット世界にのめり込んだ理由であった。

 そんな彼らと共に今度はリアルの世界を蹂躙していく。なんとも心躍る話ではないか。


「警察署制圧も別メンバーに頼んでいますし……うん、ここは一つ大きな勢力を呼び込んでみようか」

「え? 大きな勢力って、どっかの大手チームでも参戦させるんですか?」

「違うよ、もっと巨大な勢力。これは僕とリーでやってみるから任せてくれないかな。それまでみんな好きに暴れていいからさ」

「ふーん? 我に策アリかなリーダー。いいよー任せた」

「アタシはまだ試していない魔法をバンバン使いたいからいいよ~ 召喚獣も一通り呼んでパーティーね」

「では、某≪それがし≫と殺戮した人数を競ってみるか? 庁舎の人間を斬っただけでは物足りないのでな」

「いいねー マンハント勝負もしたいな~」


 今の彼らは基本的に人を殺戮することに酔って、楽しんでいる。

 現実の自分にはない、超人の能力で人が面白いように壊れていくのが楽しくて仕方ないのだ。

 そんな無邪気で残酷な殺戮集団といる空気をストライフはとても楽しいと感じていた。

 血の匂い、臓物の臭い、若干の精液の臭い。人間なんて一皮剥けばこんなにも臭いがプンプン漂うものだ。それが今はとても芳しい。


 これから立てていく血塗れの計画を頭の中で楽しみ、市長の生首を軽く撫でるストライフは深い充足を得ていた。



 ◆◆



 話し合ってばかりでは埒が明かず、一先ずは偵察の為に何人かのチームを数個編成して外の街、ジアトーの様子を窺う。

 これが銀月同盟の出した一先ずの結論だった。いや、これは結論とは言えないか。とりあえず何をやる? という言葉で出てきた話を実行に移したに過ぎない。

 チームリーダーのサイトーさんを頼りに、集会所には銀月同盟の全員三十名ばかりのメンバーが集まった。


 みんな取りも取らずといった格好がほとんどで、中には下着姿の女子がいてドギマギしてしまった。

 みんな体が変容したことに戸惑い、人間じゃない種族になっていた奴は頭を抱えて精神的な重症だった。

 男から女、女から男とリアルと性別が違った奴らも深刻そうだ。それからすると、ただ単にゴリマッチョ化しただけのオレはまだ恵まれた方かもしれない。


 戸惑いが一段落したら、今度はこうなった原因の議論だ。

 そりゃ昔に比べたらコンピューターの技術は格段に良くなったが、それでもヴァーチャルリアルはまだ漫画や小説の世界のものだ。それなのにオレ達はこうしてゲーム『エバーエーアデ』そっくりな世界に自キャラそっくりな姿で存在している。

 ゲーム会社の陰謀か!? 異世界落ち!? 古式ゆかしく宇宙人の誘拐!? そんな推測を言い合って議論は進まない。

 サイトーさんはここで話を打ち切るべく、外の偵察を提案してきてみんなに了承された。こういうのも鶴の一声というのだろう。


 外への偵察にはそれなりにレベルの高い中堅レベルから高レベルのプレイヤーが出張る事になり、オレとタカもそのメンバーとしてサイトーさんに声を掛けてもらった。

 普段からオレ達二人の名コンビ振りを評価されたのか、オレとタカは離さずにもう一名を加えて三人での偵察行にしてもらえた。

 でもって、現在に至る。


「うわぁ、綺麗な街。こんな事がなければ本当に観光したいな~」

「うん、賛成。けれど今はチームのみんなのために街の安全を確かめるのが優先事項ですよ」

「うい了解」


 タカ、オレ、そしてもう一人の三人で連れ立って道を歩く。

 そのもう一人というのはココットというフェルパー族の女性プレイヤーだ。リアルでの面識はないけれど、オレ達とは何度となく一緒にクエストをこなしてきた仲で、実際の人となりもそこそこ分かっている人だ。

 ネカマとかではなく本物の女性プレイヤーで、実は専業主婦をやっている人妻な方らしい。専業主婦って忙しい時は忙しいけれど、暇な時間も結構あるのだとか。その暇な時間を使ってネットゲームを始め、このゲームにハマったそうな。ココットさんみたいなネトゲにハマる主婦もかなりの数いるそうで、ママさんチームも結成されている話を聞いたことがある。


 話がそれたが、現実では高校生であるオレとタカにしてみるとココットさんは年上の女性。当初はどう接したものかと思ったものだが、気さくな彼女からオレ達の方に寄ってきて、あれこれと楽しい話題を振ったり主婦の割にかなりのゲーマーな部分を見せて、知らない内にこうして溶け込んでいる。

 そんな彼女の見た目は一〇代半ばの猫耳少女にしか見えない。本人はやけくそ気味に「わーい、若返った!」なんて言っているが、フェルパー族の特徴である猫型の耳と尻尾の存在には困惑しているようだった。


 ゲーム『エバーエーアデ』では、キャラクターメイキングに性別、体格、外見年齢、髪や瞳の色、種族というのが選べるようになっている。

 大抵のゲームであったらこのメイキングに深い要素はあまりない。遊びなれたゲームプレイヤーになればなるほど、手を抜くか凝り性になるかのどちらかになる。

 けれど『エバーエーアデ』では少し違う。まず他のゲームにはある『クラス』や『職業』といったスキル、装備を制限するものは存在しない。

 ガチガチの戦士系に見える装備に身を固めたプレイヤーが魔法を撃つことが得意だったり、その逆でいかにも魔法系に見えるプレイヤーが大きい剣を振り回したりなんていう装備のコーディネイトが可能になっている。

 勿論、装備を着用するにあたって要求されるパラメーターは存在し、満たしていなければ何らかのペナルティが課せられたり、そもそも装備出来なかったりする。でも自由度が高いことは確かで、それがゲームでの売りの一つでもあった。

 そんな自由度の高いゲームでキャラクター育成の基本的な指針となるのがメイキング時の性別、種族といった最初期の設定なのだ。他のゲームでもその設定が初期のパラメーターを決定したり、育成時のパラメーターの伸びやすさが決定したりするものがあるが、このゲームではより強調されたものになっている。

 だからプレイヤーはゲームを始める段階からある程度の成長計画を立てることが求められていた。


 ゲームでの設定がそのままに当てはまるならだけど、種族的に言えばオレとタカは『人間』。パラメーターの伸び方が各種バランス良く、割り振ったポイント、スキルの熟練度次第でどんな戦い方も出来るようになるのが特徴だ。初心者から熟練プレイヤーまで選ばれる事が多い種族になる。

 ココットさんの『フェルパー』は外見のままに猫を起源とする一族のことで、パタメーター的には敏捷さが伸びやすく、軽戦士的戦い方を好む人にはうってつけ。意外なことに魔力のステータスも伸びが良く、ココットさんはそこを活かして戦場を駆け回れる魔法使いとなっていた。


 以上のように、ゲームでは当たり前のように人間以外の種族のプレイヤーもいたのだが、ここではどうなのか? 猫耳少女が街を歩いて大丈夫なのか? と外へ出る際に思っていた。でもそれは杞憂というものらしい。通行人を見ても『エルフ』やら『ドワーフ』の人もいるので、ココットさんの外見に関してはここでも一切問題のないことなんだろう。

 重大な問題は他のところにある。


「座り込んでいる人ってみんなプレイヤーでいいのかな」

「でしょうね。待っていればいずれ戻れる、と考えているのかも」

「覇気のない連中だな」


 レンガで舗装された街路の片隅で数人ずつ固まって座り込み、ぼんやりとしている人々が何グループもいた。

 ココットさんが言うようにこいつ等はまず間違いなく『エバーエーアデ』のプレイヤーだろう。いきなり何の前触れもなくこの世界に放り込まれ、何をしたら良いか分からず、一人になるのも心細い。そんな気持ちを抱えた奴らが寄り添ってあんなグループができたってところだろうが、本当に覇気どころか気力が全く窺えない連中ばっかりだ。

 待っていたところで元に戻る保証なんてどこにもない、だったら動かないでどうするとオレは思う。


「マサ、あの連中を悪くは言えないよ。僕達だってサイトーさんってリーダーがいなければ同盟の何人かがああなっていたかも知れないんだ」

「そう、かもな」


 オレが余程座り込んでいる奴らを嫌っていると思ったのか、タカがたしなめる様な事を言ってきた。

 むぅ、確かに集会所で見たメンバーの様子を見るにああいう風になりそうな人もいたな。そこにサイトーさんが精神的な重石となったのかも。それを考えるとリーダーというのは大変だ。

 オレ達三人は、この観光パンフレットにでも出てきそうな街を散策し、街や人を観察していき、時折『チャット』で同盟の住居と連絡を取り合う事をして偵察を進めていく。


 街の人々は人種や種族の多様さを除けば、日本の都市と変わりない生活を送っている。朝に起きて食事をして仕事に行き、それぞれの仕事に勤しんでいく。そんなどこの街にでもあるような光景だ。

 時折、「メニューが開けない! これじゃログオフができないよ」「管理会社は何をやっているんだ!」といったプレイヤー達の喚く声も聞こえるが、事情を知らないらしい街の人は奇異な目で見るか、迷惑そうな顔をするかの反応を示していく。

 ひどい喚き声をあげている人が街の保安官≪シェリフ≫に連行されていく様子も見ることができ、オレ達も悪目立ちする真似はしないようにしようと決めた。


 空を見上げると、太陽が青空に浮かんでいる。ここだけが元の世界と変わらないところだった。




 7月29日 改訂

 11月29日 再改訂


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