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ホテルの使い方〜観光はそこそこにホテルでまったり過ごしたい〜  作者: 一年目の平凡な中小企業の社長


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第5話:ANAインターコンチネンタルホテル東京①

 激動の一週間が、ようやく終わりを告げようとしていた。

 今日は待ちに待った、金曜日だ。


「あー……今回も、本当に大変だったな」


 思わず独り言が漏れる。

 今週は在庫の管理が追いつかず、注射針やガーゼ、衛生材料など、かなりの量をひたすら発注し続けた気がする。

 それに、久しぶりに先生と直接話したのも疲弊の原因だ。出入りの業者から「新しいサンプルの縫合糸を試してほしい」と泣きつかれ、その調整のために診察の合間を縫って声をかけたのだ。

 相手が多忙な医師というだけで、どうしてあんなにも緊張するのだろうか。

 幸い、今回はたまたま仲の良い先生だったおかげで、サンプルの件も快く協力してもらえた。


「あぁ〜、本当に良かった……」


 先生によっては、診察中なんかに声をかけようものなら、烈火の如く怒鳴り散らす人だっている。そんなピリついた空気のなかで調整に走るのは、想像以上に神経を削る仕事なのだ。


 そんな幾多の重圧に耐え抜き、ようやく辿り着いた金曜日の夜。

 戦場のような病院を背に僕は夜の街へと踏み出した。


 銀座線を溜池山王駅で降り、改札を抜ける。人混みのなかに、見慣れた姿を見つけて足を速めた。


「サトミ!遅くなった、ごめん!」


「ううん、今来たところだから大丈夫だよ」


 サトミは少しも気にした様子を見せず、ふわりと微笑んだ。その笑顔を見るだけで、一週間の疲れが半分ほど吹き飛ぶ気がした。


「今日は少し歩くんだけど、大丈夫かな?」


「もちろん。どこに行くの?」


 13番出口から地上へ。夜の空気を吸い込みながら、少し歩くと左手側に威風堂々とそびえ立つのが、今日の目的地ーーANAインターコンチネンタルホテル東京だ。


「今日は、ここの『鉄板焼 赤坂』を予約したんだ」

 サトミが「わぁ……!」と声を弾ませる。

 高層階へと向かうエレベーターのなかで、期待感は最高潮に達していた。

 店内に一歩足を踏み入れると、静謐せいひつな空気に包まれた。

 上品な着物を着こなした女将さんに導かれ、僕たちは窓際の席へと案内される。


「いつもありがとうございます」


 僕は礼を述べ、用意していたお土産をそっと手放した。


「まぁ、お気遣いなく。いつも来ていただいていますから、こちらこそありがとうございます」


 女将さんの柔らかな微笑みと、丁寧な所作。大切に扱われているという実感が、凝り固まった心を解きほぐしていく。


 ふと窓の外を見れば、夜の闇に凛とそびえ立つ東京タワーが、宝石のようなオレンジ色の光を放っていた。


「わぁ、すごい……」


 隣でサトミが、少女のように瞳を輝かせている。


 目の前で焼き上げられる最高級の黒毛和牛。シェフが手際よく肉を捌き、仕上げの瞬間が訪れる。

 香り付けのフランベ。一瞬、目の前で鮮やかな炎が激しく舞い上がった。


「すごい!すごいわ、これ!」


 サトミが顔をキラキラと輝かせ、声を弾ませる。その横顔は、夜景の光と炎の残像を映して、どこまでも綺麗だった。


 立ち上る芳醇で香ばしい香りが、食欲を一段と突き動かす。

 窓の外に広がる東京タワーの絶景。そして目の前で繰り広げられる、鉄板の上の芸術。

 焼き上がったばかりの一切れを、静かに口へと運ぶ。


「……っ」


 噛む必要さえなかった。

 熱を帯びた肉は、舌の上で芳醇な旨味を解き放ち、文字通りとろけて消えていく。


「あー……やっぱり、良いお肉食べないとだよな……」


 思わず、本音がため息とともに漏れ出た。

 そんな時「あっ!」とツカサは何かを思い出したように声を上げた。

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