第3話:赤坂エクセルホテル東急③
ザンギの余韻を楽しみつつ、僕らは「北海道スイーツ」のコーナーへと足を向けた。
目の前には鮮やかなルバーブジャムを使ったケーキやハスカップのジャムを使ったデザートが所狭しと並んでいる。
「やっぱり、スイーツは別腹だなー」
横でツカサが、いかにも幸せそうに呟いた。
真っ白な北海道ミルクのソフトクリームに、深い紫のハスカップジャムをたっぷりと載せて。
「あー!甘くて美味しい!」
満面の笑みで声を弾ませるツカサ。
その姿を眺めていると、日々の仕事で溜まっていた疲れが、冷たい甘みのなかに静かに溶けていくようだった。
他にも、香ばしいタレが食欲をそそる帯広の豚丼や、こぼれんばかりに輝くいくらかけ放題の海鮮丼。とろりと溶けたラクレットチーズをたっぷり纏わせたジャガイモ……。
北の大地の恵みを詰め込んだ料理を、僕らは心ゆくまで堪能した。
お腹も心も満たされて、この幸せがずっと続くのだと、どこかで信じていた。
けれど、そこにやってきた広報の友人が来て、ポツリと漏らした。
「ここ、あと数ヶ月で閉kさんしてしまうんだよ」
耳を疑った。
この場所が、もうすぐなくなってしまうなんて。
この時の僕らは、夢にも思っていなかったんだ。
「閉館するのか……」
足繁く通っていたツカサが、動揺を隠せない様子で呟く。隣のサトミも、心なしか寂しげに伏目になった。
そんな重い空気を振り払うように、「あっ!」とツカサが思い出したように声を上げた。
「これ、お土産。いつもありがとう」
ツカサが持参したお菓子を差し出すと、広報の彼もまた「こっちも、これ食べてよ」と、ホテルペストリーで作ったばかりのケーキを丁寧に包んでくれた。
「この後は、もちろん泊まっていくんだろ?」
友人の問いに、僕は「うん、泊まっていくよ」と答える。
その返事を聞いた途端、サトミが恥ずかしそうにモジモジし始めた。
さっきまでの「大手食品メーカー勤務」の凛とした姿はどこへやら、彼女の頬はほんのりと赤らんでいるように見えた。
「さて、行こうか」
ツカサが促すと、サトミは少し顔を赤くして俯いた。
「……泊まるなんて、聞いてないよ」
「あぁ、僕は明日お休みだから泊まっていくけど……サトミは駅まで送るよ」
ツカサの言葉に、サトミは驚いたように顔を上げた。
「えっ!?……私は、お泊まりしないの?」
「まだ付き合ったばかりなんだから」
ツカサは優しく、けれど諭すようにそう言った。彼はスマートに二人分の会計を済ませると、一度ホテルを後にした。
夜の風に当たりながら、赤坂見附駅まで歩く。
改札の前で、ツカサは友人から貰ったばかりのケーキを里見に手渡した。
「気をつけて帰るんだよ」
優しく微笑むツカサに、サトミは少し寂しそうな表情を浮かべて
「……今日は、ありがとう」と短く返した。
改札の中へと消えていく彼女の姿を、最後まで見届けてから。
ツカサは一人、再びホテルの明かりを目指して歩き出すのだった。




