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ホテルの使い方〜観光はそこそこにホテルでまったり過ごしたい〜  作者: 一年目の平凡な中小企業の社長


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第17話:ANAクラウンプラザホテル成田②

「ねえ、ツカサ……。ツカサって、本当に病院の事務員さんだよね? お医者様じゃないのよね?」  


 助手席のサトミが、耐えきれないといった様子で問いかけてきた。


「ああ。僕は総務課の医療事務員だよ」  


 僕は視線を前方に向けたまま、淡々と答える。それ以上は踏み込まれたくないという空気を、無意識に纏っていたのかもしれない。


「ポルシェは、なんだか前のジャガーより下から振動がくる気がする」


「そうだね。ジャガーが『優雅な猫』なら、こっちは『精密な機械』だから。乗り心地はあっちの方がいいだろうな」


 車内には、ツカサにしては珍しい現代的なロックが流れていた。


「そういえば、ツカサが聴かなそうな音楽だね」


「これ? 『怪獣の花唄』っていうんだ。最近気に入っていてね」


「ツカサもこういうの聴くんだね、意外」  


 サトミが少しだけ表情を和らげる。そんな他愛もない会話を重ねるうちに、ポルシェは成田インターを降りていた。

 出口を抜け、直進した先を右折する。暗闇の中に、ANAクラウンプラザホテル成田の白い外観が浮かび上がった。  

 駐車場に車を停め、正面玄関をくぐる。


「あ、やあ!」  


 ロビーに入った瞬間、僕は一人の女性に声をかけた。そこにいたのは、すらりとした長身に端正な顔立ちの、まるでモデルのようなスタッフだった。


「こんばんは、ツカサ様。お久しぶりでございます」


「そんなに来てなかったっけ?」


「ええ、スタッフ一同お待ちしておりました。では、チェックインを」


 彼女に案内され、フロントカウンターへ向かう。


「あ、加藤さん。これ、お土産」


「まあ、いつもありがとうございます。部のみんなでいただきますね」  


 受け取ったスタッフが、心底嬉しそうに笑う。


「では、お泊まりをお楽しみください」  


 案内役の女性は優雅に一礼し、風のように去っていった。


「ツカサのお友達なの?」  


 サトミが不思議そうに尋ねる。


「ああ、そうだよ。長い付き合いなんだ」


 何気なく答える僕の横で、サトミは静かに考え込んでいた。


(……なんで、どこに行ってもツカサにはこんなに友達がいるんだろう。それに、本当にただの事務員なら、車を二台持って毎週こんな豪遊ができるわけがない……)


 彼女の脳裏に浮かんだ疑問。けれど、それを口にすれば、今この夢のような時間が壊れてしまう気がして、サトミはそっと胸の奥にその違和感をしまい込んだ。


「いつもありがとうございます、ツカサ様」  


 フロントスタッフが、訓練された完璧な笑顔で僕たちを迎えてくれた。


「本日はツインルーム、エアポートビューのお部屋をご用意しております。加藤よりアップグレードの申し送りを受けておりますので、通常よりゆったりとしたお部屋をご用意させていただきました」


「助かるよ。これ、フロントの皆さんに」  


 僕は用意していたもう一つのお土産をカウンターに置く。


「いつもお心遣い、本当にありがとうございます。こちらがカードキーでございます。エレベーターはあちらに……ごゆっくりお休みくださいませ」


 丁寧な見送りに背を向け、僕たちはエレベーターに乗り込んだ。


「じゃあ、部屋に行こうか、サトミ」


「……うん」  


 サトミは少し圧倒されたように、こくんと小さく頷いた。


「ここの鉄板焼き『菜里多(なりた)』も美味しいんだけどさ……。今日は少し疲れたし、移動も面倒だからルームサービスでいいかな?」


「もちろん! 私は全然いいよ」    


 最上階に近いフロアで降り、カードキーをかざしてドアを開ける。


「……っ! ツカサ、ここ、なんかすごく広くない!?」  


 足を踏み入れたサトミが声を上げた。視界に飛び込んできたのは、ゆとりあるリビングスペースと、その向こうに広がる成田空港の滑走路の灯り。


「あ、スイートにしてくれたのか……。(加藤さん、いつも優しいな。本当に……)」  


 僕は独り言のように呟きながら、鞄からタブレット端末を取り出した。


「さて、早速晩御飯を頼もうか」  


 僕がソファに腰を下ろしてルームサービスのメニュー画面を開くと、サトミも隣にぴたりと座り、画面を覗き込んできた。

 窓の外では、夜の闇を切り裂くように、どこか遠い国へ向かう飛行機のライトがゆっくりと動き出している。広いスイートルーム。二人だけの静かな時間。ポルシェで駆け抜けた一日の終わりを祝うように、僕はメニューのページをめくった。


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