9人の統括生
――九人の視線が交差する学園。
一つの真実を見つめるたび、別の真実が崩れていく。
『カレイドスコープ・ナイン』
見る者すべてに違う姿を映す、九つの光の物語。
桜がまだ咲き残る校門の前で、秋月理人は立ち止まった。
掲げられた校名──天城学園。
普通科から工業科、商業科、芸術科まで、多彩な九つの科を抱える総合学園。入学パンフレットでは「自由と個性の尊重」を掲げていたが、実際はかなりの競争社会らしい。
理人は深呼吸して、まっすぐに校舎へと足を踏み入れた。
新しい制服の布が、少し硬くてくすぐったい。
入学式の講堂は、静まり返っていた。
壇上には、学園の象徴ともいえる九人の統括生が並んで座っている。
それぞれの科を代表する三年生で、学園の実質的な生徒会のような存在だ。
理人は新入生代表として、式の最後に挨拶することになっていた。
足がすくむほど緊張しているのに、壇上の統括生たちは全員が堂々としているように見える。
ステージの真ん中、校章の旗の真下では理事長がありがたい話をしてくださっている。
その前にはパイプ椅子が並べられて9人の統括生が座っていた。
右端に鎮座するのは、国際文学科 統括生 坂本悠真。
穏やかな笑みを浮かべたまま、他の統括生の視線を受け流している。
落ち着きと知性が同居するような、その立ち姿。
隣の自然科学科 統括生 北条碧斗は、無表情で前だけを見つめていた。
学科のカラーであるブルーグレーのラインの入ったジャケットを凛と着こなしている。
スポーツ健康科の相馬駿は腕を組んで背筋を伸ばしていた。
筋肉のラインがわかるほどの体格に、周囲の女子が小さくざわつく。
電子工学科 統括生 一ノ瀬悠人は、ただ話をする理事長を見て座っていた。
無言だが、目だけが鋭く光っていた。
情報プログラミング科 統括生 真壁冬弥は、タブレットを片手に式次第を確認している。
無造作にかけられたサイドの髪が、ほんの少し異質な雰囲気を漂わせた。
話をする理事長の直ぐ左隣、ローズピンクのラインの入った制服を着ていたのは、観光経済科 統括生 水城千歌。
理人の視界にふと入った瞬間、鮮やかなネイルが講堂のシャンデリアの光を反射した。
芸術文化科 統括生 久遠響は、光に照らされて静かに佇んでいた。
首元のスカーフがゆるく揺れ、どこか夢の中にいるような雰囲気だ。
福祉家庭科 統括生 榊原蓮は、整えた制服姿で微笑んでいる。
誰にでも優しそうな顔立ちだが、視線の奥に一瞬だけ冷たいものが走ったように見えた。
坂本の対になる左端に座っていたのは、環境建築科 統括生 篠原蒼真。
切れ長の瞳が鋭く、理人と目が合った瞬間、わずかに口角を上げた。




