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7/19

7.定休日

俺はひと足先にマスターの家に戻った。

お風呂に入りながらマスター、シーナのことを考えていた。

プライベートは家から出ないと言ってたし、ただただ引きこもるだけなんだろうか。

オンとオフの格差以上のサプライズがあるとは思えないし、ひょっとしたら何か料理を作ってくれるのかもしれない。

…考え事は風呂を出てからにしようとしたところ、ドアが開いた。


「まだ風呂にいたのか。」


「シーナさんが早すぎるんですよ。」


最近帰りが早いのだ。

そして確信犯的に風呂に直行してくる。


「セージが手伝ってくれているおかげで私の手が空き、帳簿管理を日中にできているからな。それに家でひとり寂しがっている男がいるんだ。」


「寂しがっていませんよ!それにお風呂に入ってこなくてもいいでしょう…。」


「そこは素直に、一緒に入れて嬉しい!って喜ぶところだろう。」


「イッショニハイレテウレシイー。」


「お、おおそうか、はっはっはっ。それならこれからも一緒に入るか。」


「こんな棒読みを真に受けないでください。」


「そんな見え透いた照れ隠しでは私には逆効果だ。」


「…全く意味がわからないですよ!もう先に上がります!」


「きちんと乾かしてから寝るんだぞ。」



翌朝、魔法で家に一旦帰り日課をこなした後1階に向かうとリビングにシーナがいた。

薄手のガウンだけ羽織りコーヒーを飲むのが彼のルーティンのようだ。


「おはようございます、シーナさん。」


「ああ、おはよう。」


「今日は何をするんですか?お休みも外に出ないと言ってましたが。」


「ああ、ちょっと店に行って昨日の残り物を持ってこい。どうせ明日には捨てることになるから私達で食べよう。」


「え?あ、はい。わかりました。」


「コンフィも2切れだけならいいぞ。油ごとじゃなくていい。焼いて温めるから。」


「ありがとうございます。では行ってきます。」



俺は鍵を受け取り、店に入って日持ちがしないものを選別して持って帰った。


「おかえり。なかなかたくさん持って帰ったようだな。」


「ただいま戻りました。収納しているのになんでわかったんです?」


「顔に書いてあるぞ、今日は料理食べ放題で嬉しいって。」


「そんなこと書いてません!どうせ捨てるならと日持ちしないものを丸ごと持ってきただけです。」


「今日は素直じゃないな。本当はどうなんだ、嬉しくないのか。」


「う…嬉しいですけど。お店の料理は全部美味しいし、捨てるなんてとんでもないです。」


「そうは言っても店の料理もセージが作る割合が結構増えたからな。セージの料理でもあるだろう。そういえばお店はもう慣れたか?」


「ようやく慣れてきました。でもまだまだ数をこなしたいですね。」


「そうか。今回の手伝いが終わっても…このままずっと居ていいぞ。店にも…家にも。」


「あはは、ありがとうございます。俺は家も畑もありますし…たまのお手伝いであれば歓迎です。」


「例えば…毎週1泊2日で働いて家に泊まるのはどうだ。」


「そうですね、その程度であれば難しくないと思います。いずれ王都にも行ってみたいと思っているのでその時は事前にお伝えしますね。」


「よかった。料理の作り方がわかったからともう店に寄り付きもしないんじゃないかと…。」


「そこまで無情な人間じゃありませんよ。」


「冗談だ。だが意図せずとも足が遠のいてしまうことはあるだろう。だから繋ぎ止める口実が欲しかったんだ。」


「そんなことは…。」


…無いとは言えなかった。


「まあいい、言質は取ったからな。そろそろ昼食の準備をしよう。」


「はい。」



昼食を食べた後、特に何をするでもなく各々本を読んだり新聞を読んだりしていた。

シーナの家には色々な本が置いてあり、俺は知見の狭さを補っている。

この世界には竜人族や人狼族、鳥人族、エルフ族といった様々な人種がいるらしい。

オルスのようなツノのある種族について書かれた本はなかった。


そうして日没の時間が近づいてきた頃、シーナが急に立ち上がった。


「夕食の準備ですか?」


「いや、違う。そろそろだなと。」


「そろそろ?」


「セージは今日は何の日か知っているか。」


「今日は店が休みとしか…何かの記念日なのか?…シーナの誕生日?!」


「月に1、2回の記念日はちょっと多いな。

…今日は満月だ。

私の店の名前の意味は知っているか。」


「ビスクラブレ、聞いたことがないです。」


「まあ知らなくて当然だ。今はほとんど使われない言葉だからな。

ビスクラブレとは別名ルーガルー、…人狼のことだ。」


…最初は日が落ち暗くなってきたせいだと思ったが、シーナの顔がよく見えず、なにやら様子がおかしい。

いつも羽織っているガウンも膨らんでいるような…。


「シーナさん!大丈夫ですか!?」


「落ち着けセージ。大丈夫だ。」


気がつくとひと回り以上大きくなっていて体の形が…。


「え?シーナさんが人狼ってことですか??」


今日は満月だから店も閉めて家から出ないってことだったのか。


「ああ、驚いたか。」


「それはもう。まさか2回も変身するとは思ってませんでしたから。明るい場所で見たいな…灯りをつけていいですか?」


「え?…ああ。」


部屋が明るくなるとシーナの髪色と同じグレーの毛色の人狼がいた。


「うわぁ、すごい!かっこいですね!これって自分の意思で変身や解除はできるんですか?毛は少し硬めだけどふかふかですし…爪もすごく大きい…確かにこれじゃ仕込みはできなさそうですね。」


「かっこいい、か。ちなみに日没から日の出まではこのままだ。」


「そうなんですね、見た目以外は変わらないんですか?」


「ん?例えば?」


「生肉が食べたくなるとか、遠吠えしたくなるとか。」


「私はないな。」


「人狼状態の時はなんて名前で呼んだらいいですか?」


「シーナのままでいい。」


「そうですか…。夕食はどうしますか?夕食にとっておいたコンフィ焼きましょうか。」


「ああ、頼む。」


「食欲も普段通りですか?もっと食べますか?」


「いつもよりも食べられる。」


「それじゃあ多めに準備しますね。座って待っててください。」


「ああ。」




「お待たせしました。冷めないうちに食べましょう。…その手で食器は持てるんですか?」


「ああ。」


「うわっ本当だ。その姿でも器用なんですね。」


大きな口に放り込まれていくのを見届けながら食事を終えた。



「…ところですっかり私の家の扱いも慣れたようだな。」


「はい、綺麗に整頓されてるので使いやすいです。」


「私のことも慣れたか?」


「はい、毎日顔を合わせていますし。」


「人狼の私もか?」


「驚きましたが、マスターからシーナさんになった時の衝撃の方が大きかったですよ。今回はシーナさんから変わってないですから。」


「逆じゃないか?突然化け物になったら普通は恐怖したりするもんだ。」


「そうですか?俺は内面の変化の方が怖いですよ。裏切られたり、嘘つかれたり、目に見えない心変わりの方がよっぽど…。

俺だってシーナが前後不覚になるくらい正気を失ったり別の人格になったら怖いと思いますが、それと外見の変化は関係ないです。」


「まあ見えない変化の方が怖いこともあるか。」


「シーナさんはさすがにもう変身要素は無いですよね?」


「ああ、自覚する範囲ではな。」


「今日はわざわざこの変身を見せたかったんですか?」


「そうだ。」


「これってシーナさんの秘密ですか?」


「ん?まあそうだな。公言はしていない。」


「…それなら俺もひとつ秘密を教えます。少し目を閉じてもらえますか。」


「あ、ああ。」


「テレポート」




「もう目を開けてもいいですよ。」


「な、ここはどこだ!?」


「俺の家の部屋です。」


「は?町から半日かかるという家か?」


「そうです。」


「えっと…どういうことだ?どうやってここに来たんだ。」


「魔法で移動しました。これが俺の秘密です。もう一度目を閉じてください。」


「テレポート」




「これは驚いたな。つまりセージは町と家を自由に行き来できるのか。」


「はい。実は毎日畑の世話に帰っていました。」


「ははは、家や畑を心配する割に帰りたそうにする気配もなかったからおかしいと思ったんだ。それなら私の家にわざわざ泊まる必要もなかったのか。」


「毎日家から通うのは流石に不自然でしたし申し出は嬉しかったです。」


「他の人は知ってるのか?」


「いえ、リアンが病気の時に魔法で移動したことはありますが、本人は気付いてないと思います。」


「私だけが知ってるのか。」


「そうですね。」


「それでは互いに唯一無二の存在ってことだな。」


「俺は、知人にはいずれ伝えるつもりではいますけどね。」


「なぜだ。私の秘密に感銘を受け、私だけを信用して教えたわけでは無いのか?」


「そうといえばそうだけど、リアンは一緒に住むことになるし…。」


「なんだって?なんでそんなことに。」


「なんか成り行きで。西方の調査拠点が欲しかったのかもしれませんが、一応求婚されまして……。」


「ほう…まああれも人嫌いだし、たいして帰らないだろうからいいだろう。魔法があるからいつでも自宅に戻れるとはいえ、店を手伝ってくれる時は泊まっていくってことでいいんだよな?」


「はい、よければ泊まらせてください。」


「ちなみにリアンとは結婚しないんだろ。それなら私はどうだ。」


「いえ、それもさすがに…。」


「なぜだ。私の秘密だけでなく全身隅々まで見て触って弄んでおいて?この毛皮は服ではなく私の体そのものなのだ。散々煽っているのだから人狼でなくても襲われても文句は言えないぞ。

…ああ、襲われたいのか?強引に抱かれたいタイプだったか。」


「それはごめんなさい…。あまりに毛並みが立派だったもので。」


「それにしてもこっちの姿が好きなのか。それなら…この毛皮に埋もれて添い寝したくないか?」


「ぐっ…それはとても興味がありますが…。」


「人狼は少ないうえ日常生活ではわからないからな。これを逃すともう機会は無いぞ。他の人間では味わえまい。

ちなみに人狼は一度パートナーを決めると一生添い遂げる生き物だからな。私が裏切ることは誓って無いぞ。

もう私のほぼ全てを受け入れているのだから…後は体だけだ。」


「一緒にいてドキドキするしかっこいいし、好きだとは思いますが選べませんよ。

一生添い遂げるシーナならばなおのことです。しっかり考えないといけません。」


「…一生というのは重いってことか。」


「いいえ、リアンとの件もありますし…。

正直今は経験がなさすぎて誰にでもすぐ絆されてしまうちょろすぎる男だし。…2人とも確かに魅力的ですが俺には選ぶ資格なんてありませんよ。」


「逆の立場ならどう考える?セージは好きになった相手に資格を求めるのか。」


「いいえ…。」


「受け入れるなら私の全てを好きにし放題だぞ。」


「どちらかなんて選べません…。」


「セージは1人だけを選びたくて悩んでいるのか、実はどちらも選びたいけど言い出せないのか、どっちなんだ?」


「どちらもだなんて…。」


「倫理観や体裁で1人選ぼうとしているんじゃないか?

当事者の問題だから周りのことは気にする必要がない。

俺が会えるのは多くて週一だし、リアンも家を開ける時間は多いだろう。

俺はセージの全ての時間を独占したいわけでは無いから十分両立できるんじゃないか。

セージが独占を望むなら別だがな。」


「俺をろくでなしにするつもりですか。…っていうか、なんでもう選ぶ前提で話が進んでいるんですかっ。」


「セージは間違いなく選ぶからだ。待ってやってもいいが、返事は“はい”一択だぞ。」


「…返事の内容はさておき、俺は生まれてからこれまでそういったことの経験が無いんです。少し考えさせてください…。」


「セージの年頃なら好奇心の盛りだろう。今こそ、その経験の時だ。」


「だから時間を…。」


「わかってるわかってる。とりあえず今夜はこの体で添い寝してやろう。」


「いやいやわかってないでしょう?!」


「ただの報酬の先払いだ。」


この日結局俺はシーナの圧力に負けた。

少しくすぐったかったがふかふかの体に包まれるようにして眠ったのだった。



翌朝シーナのベッドで目が覚めると全裸のシーナに抱きしめられていた。

俺もシーナも朝の生理現象で完全に勃っていて太ももにシーナのアレが押し当てられている。

…どうしよう、今俺の状態がバレたら完全同意とみなされてしまうだろう。

必死に萎えさせようと俺は直近で一番グロかった猪の解体を思い出した。

…効果は絶大で、みるみる萎んでいった。


俺は大きく深呼吸してからシーナの腕から出ようと身を捩るが、腕で完全にロックされてしまっている。

どうしたものかと考えていると寝返りを打とうとしたシーナの下敷きになってしまった。

重たくて少し苦しかったが、それより…向かい合わせで密着していることの方が問題だ。

下手に抵抗して刺激を与えるべきでは無いと考えた俺は無心で抱き枕にてっすることにした。


「おや、もう抵抗は諦めたのか。」


「んな…起きてたんですか!?」


「そんな顔を真っ赤にして…このままシようか。」


「いやいやいや離してくださいよ。」


「どうして?まだゆっくり寝てていいだろう。」


すると首筋をゆっくりと舐められた。


「っあう…。なめ…ないでください。」


逃げられないならと、自由に動かせないように逆しがみついてみる。

するとシーナのアレがビクッと脈打った。


「煽るのが本当に上手いな…。昨晩の返事と受け取っていいか。」


…まるで正常位のような体勢になっていることに気が付いた。


「えっ違…。トイレに行きたいし早く離してください!」


尿意があるのは本当だった。


「もう少し…味合わせろ。」


今度は首に噛みつかれた。

口を離すと肌着の上から鎖骨、胸元と移動しながら噛みつき、どんどん下に向かっていた。

噛まれるたびに電流が走るような感覚で口からこぼれる声が抑えられなかった。


「もう、本当にっ……我慢できません!」


俺は全力の力でシーナを引き剥がした。

そしてそのまま俺はトイレに駆け込んだ。



「…ふぅ、本当に漏らすかと思った…。」


あやうく人の家で粗相するところだった。

手を洗いながら鏡を見ると首元に歯形がくっきりとついていた。

襟のあるシャツでも隠し切れないな…。


「すまない、あまりにも煽るものだから歯止めが効かなくなってしまった。今日は添い寝だけのつもりだったんだ。」


トイレから出るとガウンを羽織ったシーナがコーヒーの準備をしていた。


「いえ…俺も無防備すぎましたから…。」


「セージは適応能力高そうだからきっとすぐに慣れる。それにとても気持ちがよかっただろう。」


「…はい。」


あんな醜態を晒してしまったのだ、今更取り繕ってもしょうがない。


「素直でよろしい。否定でもしようものならもう一度同じことをしてやろうかと思っていたぞ。」


悪あがきをしなくてよかった…。

今そんなことされたら俺は骨抜きにされ廃人になってしまうだろう。



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