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2.初めての訪問者

調味料も食料も無事に調達できた俺は普通の畑を作っていた。

水やりも桶から料理用のおたまで水を撒いている。

魔法の方が早いが俺は今この「やってる感」を感じていたかった。

つまり自己満足のためだ。


安定した暮らしを手に入れた人間とは欲張りなもので、ついつい新しいことに手を出し始めてしまうのだ。

今の俺にとってのそれはパンだ。

穀物の脱穀も精米も製粉も魔法でお手軽にできるのはいいが加工先が少なく、主食の一つとして是非作れるようになりたかった。


幸いにもりんご等の果物も砂糖も手元にある。

元の世界と同じように酵母がいることを祈って刻んだりんごを砂糖水に浸けた。

…あ、今祈ったから間違いなくいるだろう。

元種作りも合わせると一週間以上準備に時間がかかるけど一週間はパンを食べられる。

週1ペースで新しく作っていこう。



そうしてできたりんごのパンは美味しかった。

しかし卵と油分が足りない…今度は牛乳やバターも探すとなると人里を探す他にないだろうな。

以前よりもっと高く飛んで見渡してみたがやはり街らしきものは見当たらなかった。

4、5時間程度の距離にはいないってことだな…、一旦諦めよう。



コンコン コンコン


「うわあ!なんだ!?」


家で夕食のスープを煮込んでいたところ急にドアがノックされた。

どうしよう、言葉は通じるのか?


「精霊さん精霊さん!」


ーはい


「なんか今家に人が来たんですけど俺は言葉って通じるんでしょうか?!そもそも出てもいいものか…。」


ー問題ありません


「そうですか。怖い人じゃないといいなぁ。」


俺は意を決してドアを開けた。


「どちら様でしょうか…。」


「突然の訪問で驚かせてしまい申し訳ありません。私は冒険者をしてますリアンといいます。」


大きな外套の下からは確かに金属製のグリーブや剣が見えている。

俺も身長は低い方ではなかったがリアンという人はさらに大きかった。

…そしてシュッとしたいかにも好青年って感じだ。

戦隊モノなら絶対にレッドだな。


「申し訳ありません、来客が初めてでしたので動揺してしまいました。俺はせい…セージです。それで、この辺鄙なところへどのような用で…?」


「実は辺境の偵察任務から帰るところなのですが、煙が立つのが見えまして…この辺りは町もないですから泊めていただけないかと。もちろんお礼はします。」


「寝具の予備がないのですが…。」


「それは問題ありません、広間の隅でも大丈夫です。屋根や壁があるだけでありがたいのです。」


「その程度でもよければこちらとしては断る理由もありません。」


この世界の情報が聞けるかもしれないから好都合だ。


「それで、もしよろしければ湯も借りられればと。」


「はい、大丈夫ですよ。よければその間装備をお借りしても?綺麗にしておきますよ。」


「助かります。それでは湯を借りますね。」


そういうとリアンは外套を外した。

すると結構立派なハーフプレートや重そうなグリーブを身につけていた。

ひとつひとつ取り外していくが、初めて見た本格的な装備についつい見入ってしまっていた。


「珍しいですか?」


「はい、こういう装備を初めて見ました!すごくかっこいいですね。」


俺がまじまじと鎧を見ている間もリアンは服を脱ぎ続ける。

結構着込んでるんだな、戦うなら当然か。

気がつくと肌着姿になっていた。

…顔に似合わず体はかなり絞られた筋肉質でまさに逆三角形だった。

リアンはこちらの視線に気づいたが気にせず全て脱ぎ全裸になっていた。

…ついつい下に目がいってしまう。


「…タオル出しますね!風呂はこちらです。」


生まれて初めて他人のモノを目の前で見てしまった。

リアンはすぐに風呂に入ったため気まずくならずに済んだ。

じっとしていると思い出しそうになるためご飯の準備をしておこう。

こういう時お酒でも出せればいいがりんごを使ったシードルを用意しておけばよかったな。

次の目標ができた。


リアンの脱いだ服を綺麗にしておかないとな。

脱いだ服の山で一番上のパンツにどうしても目がいってしまう。

…この布であのデロンとぶら下がったモノを覆っているのか。

手に取ってみたくなる衝動を抑え鎧も一緒にで魔法をかける。


「クリーン」


ついでに布のほつれとか鎧の欠けとかも…直ってるね。

それにしても服とか元々茶色何かと思ったら真っ白になってしまったが…あれは全部汚れだったのかな?

あえて染めとしたら色が変わってしまったことを謝らないと…。

ひとまず洗面台前に畳んだ衣類と防具を並べて置いておいた。


「ありがとうございました。久々にサッパリしました。」


タオル一枚のままで出てきた。


「洗面台前に洋服置いてますよ。」


「基本的に俺は部屋で服を着ないんですよ、汗かいちゃうし。」


「そうでしたか、それじゃご飯食べましょう。」


男も女も免疫ない俺は正直目のやり場に困る。

さっきのリアンの顔を見てもモノがチラついてしまう。


「美味しそうですね!スープに入ってるのってもしかしてブラッドボアの肉ですか?こんな高級肉を頂いてしまって申し訳ないです。」


「これ高級肉なんですか?」


「はい、肉もですが毛皮や牙も高価で取引されてますね。」


「そうでしたか、売る当てもないですし…全部捨ててました。」


「ええ!それは勿体無い。」


「捨てた場所が分かれば明日取ってきて売りますよ。」


「東に30分ほど行ったところに1体分の頭や内臓を少し前に捨てました。」


「東なら町がある方角なのでちょうどいいです。朝出たら夜には戻って来られるので、売ったらまた戻ってきますよ。」


「いえ、いいですよ。リアンさんも任務があるでしょうし。」


「セージさんは私とはもう会いたくないですか?もう一度会うための口実を作りたかったのですが…。」


「いえ、そんなことは。ただただ申し訳なくて。牙だって捨てたものですし。」


「それならセージさんではなく私のために戻ってくることを許してもらえますか?」


この世界で俺は純潔を守り続ける必要はないが、30年生きて染みついた習慣みたいで逃げ癖がついてしまってるな。

リアンさんは純粋に好意かもしれないし俺も無碍にするのは良くないか。


「それでは待っていますね。」



翌朝。


「セージさん!」


「どうしましたか。」


「装備が新品に変わっています!今までの装備で問題ないので…というより初めて見たと言っていたのにどこから持ってきたんですか?」


「元々それはリアンさんのですよ?」


「…ええ?でも欠けもほつれもないし、服も真っ白でおろしたてですよ。元が白だったことも今思い出したくらいです。」


「昨日お借りした際に洗浄したついでに少し修理をしてみたのですが、余計なことをしてしまい申し訳ないです。」


「いやいや、何で謝るんですか。本当だったら補修すべきだったのをケチってほったらかしにしていた私のせいでもあるのでむしろお礼をしないと…。

あっ!今日の帰り楽しみにしていてくださいね。」


「あっはい…。」


なんか凄い勢いで行ってしまった。

東に半日か、魔法で短縮できるだろうか。

猪の牙とか高額で売れるならそれで鶏とか牛とか買えるかな。

帰ってきたら相場とか色々聞いてみよう。



「戻りました!」


「お疲れ様です、リアンさん。」


「まずはこれから。」


液体の入った瓶を渡された。


「これは?」


「お酒です。…飲める年齢ですよね?」


「ええ、大丈夫です。」


実は鏡を見て驚いたのだが、俺は転移の際に10歳くらい若返っていた。

そういえばリアンさんは何歳なんだろうか。

精悍な感じだし30歳くらいかな。


「よかった、夕食の時に飲みましょう。次はこれ。牙の代金です。」


「ありがとうございます。」


皮袋には金貨が40枚ほど入っていた。


「最後にこれ。」


なんだか可愛らしい箱だ。


「開けてもいいんですか?」


「はい、どうぞ。それはセージさんに差し上げます。大したものではないんですが。」


中には紅茶葉とクッキーが入っていた。


「うわぁお茶だ!クッキーも!すごく嬉しいです、ありがとうございます!」


「金貨よりも反応が良くて、そこまで喜んでもらえるとこちらも嬉しいです。」


「すみません、実は物価とか貨幣価値がよくわかっていなくて…。」


「そうだったんですか。贅沢しなければ金貨3枚で1ヶ月は過ごせる、と言えば伝わりますか?」


「なんとなく高額だということは分かりました…。何枚か今回の手数料としてお支払いしますよ。」


「昨日今日の宿泊代と防具や服を直してもらったお礼ですから不要ですよ。…ところでまたお湯頂いていいですか?」


「はい、どうぞ。ゆっくり浸かってください。」


また目の前で鎧や服を脱いでいく。


「今日も洗浄しておきますね。」


「助かります。」


リアンは躊躇なく全て脱ぎ裸になっていた。


「…デカいですね。」


つい口に出してしまった。


「そうですか?普段人前で脱ぐことないし、他の人のも見ないからわからないですね。」


部屋で全裸と言ってたけどひとり暮らしなのかな。


「そうだと思いますよ。そうじゃないと俺の尊厳が保てません。」


リアンが世界の標準であって欲しくなかった。


「尊厳って大袈裟ですよ。では、お湯借りますね。」



俺は手早く魔法をかけ服や装備を昨日同様に纏めておいた。

風呂から上がるまで夕食の準備でもしよう。

昨日と同じだと俺が嫌だから干しトマト入れてせめて味を変えるか。

リアンが持ってきたのが何酒かわからないけど、とりあえず干した肉と果物類をつまみ用に出しておこう。

後は…猪の脂使ってじゃがいもでも揚げよう。



「お待たせしました。今日もすごくいい匂いがしますね。」


またタオル一枚のリアンが出てきた。

だんだん慣れて俺も落ち着いてきた。


「あまり料理もありますし。」


「これはまた…料理も本当に上手なんですね。」


「ありがとうございます。冷めないうちに食べましょう。」


「はい。」


お酒は赤ワインだった。

肉料理がメインだからあえてこれにしたんだろう。

猪の肉とよく合った。



「あの、セージさんがよければお互い敬語をやめませんか?」


「はい、もちろん。」


「よかった、貴族相手みたいでなんか落ち着かなかったんだよ。俺のことはリアンと呼び捨てでいいから。」


「ありがとう、リアン。俺もセージでいいから。」


「セージ。なんか急に距離が縮まった感じがするな!」


「確かに、リアンはさっきまで心は服を着込んだままって感じだったのに部屋着に着替えた感じがする。」


「面白いこと言うね。…俺の心も丸裸にしてみる?」


「…なっ、どういう…!からかうなよ。」


「はっはっはっ、セージは可愛いからついついからかいたくなっちゃうな。」


「…もう。ところで、明日は出発するんだよね。」


「ああ、また来るから安心して。」


「いや、そういうことではなくて…実は町まで一緒に行きたいなと。」


「なるほど、ぜひ一緒に行こう!」


「ちなみにリアンが来た元々の街はどのくらい離れてる?」


「おっ、俺の家に来たいか?休み休みで1週間くらいかな。」


「…家以外をほとんど知らないから、大きな街にも行ってみたくて。明日は近くの街まで行ったら帰るつもりだ。」


「…そうか、その色々…大変だったんだな。」


多分俺がこんなところで一人で暮らしている状況を察してくれているようだ。

事情を聞かれても本当のことは言えないから助かった。


「幸いにもこの家があったからなんとか生きていけるけどね。武器も使えないし。」


「確かに、この家に武器や防具の類はなさそうだが、ブラッドボアはどうしたんだ?骨の切り口見た限り鋭利な何かで1撃って感じだったけど。」


「ああ、あれは魔法で。」


「え?でも杖も…無いよな。」


あ、これはなんかよくない気配だ。

杖が無くても魔法が使えることは知られない方がいい気がする。


「杖は…実はボアを倒す際に壊れてしまって。だから1人だと森も怖いしリアンと一緒に町に行きたかったんだ。」


「なるほど、杖が無いと時間もかかるし効果も弱まるから大変だもんな。ボアの魔石はどうしたんだ?あれ使えばかなり良い杖作れると思うが。」


「魔石って無かった気がするけど、どこにあるのか?」


「心臓の辺りだ。」


「ああ…多分他の臓物と一緒に頭の近くに捨てると思う。」


「ええ!?魔石だけでも金貨が50枚以上…あの頭の大きさからするときっと魔石も強力だから倍以上になるかもしれないのに…。」


「そっか…俺は肉しか興味がなくて…。」


「明日町で買い物とかするんだろ?俺も付き合うから。」


「え、いや大丈夫だよ。」


「町の地理もわかんないだろうし、セージは言い値で買ってぼったくられるに違いないからな。」


「まあそれは否定できないけど…。」


「それじゃ明日は道中で魔石回収して町に行こう。」


「ああ、よろしく。」

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