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#7 発見

「なんだってぇ!? なぜルピタ殿が、エゼキエル兄さんの下で働くことになったんだよ!」


 その翌日、すぐにニコラス様が私のところにやってきて、こう言い出した。


「ええと、それはですね、私の発掘人としての力を認めてくださって、それで……」

「あのアストラガリを操る力があるのに、どうして発掘人などする必要があるんだ!?」

「聞き捨てなりませんね、ルピタ殿。どういうことか、説明してもらいましょうか」


 そこにアントニオ様まで現れて、私は早速追いつめられる。ああ、しまったな。せめて三人の王子がそろったところで明かすべきだったか。


「その質問に、俺が答えましょう、アントニオ兄さん」

「なんだ、エゼキエルか。お前、王位継承に興味がないと言いつつ、アストラガリとそれを操るルピタ殿を言いくるているではないか。ようやく国王の座を狙うつもりになったのかい?」

「兄さんもニコラスも、アストラガリをただの強大な力をもつ魔道具としてしか見ていないでしょう」

「当然だ。これだけの力をもってすれば、誰だって」

「では伺いますが、その力をどうするおつもりで?」

「ど、どうするって……」

「このカスティージャ王国は大国となり、それゆえに今、周辺諸国から狙われている。国土を広げ過ぎてしまった分、それを維持するための兵力や武器が必要だ。また、遠く離れた国境で、敵軍の侵入を許してしまうかもしれない」

「それは分かっている。だが、それとこのアストラガリと、どういう関係があるんだ?」

「あのアストラガリは、第二ダンジョンのあるラ・マンチャ山まで瞬く間に到着しました。あの速さをもってすれば、たとえ他国が攻め入ろうとも、すぐに駆け付けることができる」

「そ、そんなことが……」

「となれば、戦場に出る俺にこそ必要な魔道具だといえる。しかも、昨日だけで七十もの魔道具を見つけ出すことができた。それはまさに、ルピタのおかげだ」

「えっ、七十もの魔道具を!?」

「そうだ。ルピタは耳を頼りにダンジョン内に隠された部屋を探し出せる、優れた発掘人だ。これで、不足する魔道具を得る手段も手に入れたのだ。これは他国との戦いを有利に導くことができる」


 この二人の王子は、第二王子の言葉に反論することができない。それはそうだ。実際にアストラガリに乗り込み、さらに私の発掘人としての能力も知った。実際にその場に行ったものだからこその、重みのある言葉だ。

 大黒竜を倒したという場面しか知らないこの二人の王子は、このアストラガリの使い道を全く考えていなかった。ただ力を誇示するためだけの道具、その程度の認識だ。一方、アストラガリに実際に触れることで、エゼキエル様はその有用性に気づくことができたのだ。

 そういえば、鍛冶屋の父が言っていたな。口上ばかりの輩より、現地や現物に触れたものの方がはるかに説得力があり、それを使いこなすことができる、と。父が作った剣に苦言を言う者もいたが、実際にそれを使ったかどうかは、その話した内容から分かるという。本当にそれを使った上での問題点であれば、父は実直にそれに耳を傾けて応えていた。

 まさに、この三人の王子を見ていると、父の言葉通りだ。口先だけの者たちと、実際に体感してその可能性を知った者との差が、これほどまでに大きく現れるとは。


「ところで兄さん、あなたは今の話を聞いて、アストラガリの新たな可能性に気付いてますか?」

「アストラガリの、可能性だと?」

「そうですよ」

「素早く移動し、大黒竜をも倒せるほどの力。確かに戦場にいれば、敵軍を敗北に追い込むことはたやすいだろう」

「何を言っているのですか、兄さん。あのアストラガリさえあれば、敵兵など殺さずとも、良くなるということですよ」

「なんだって!? どういうことだ!」

「歯向かった国の王都に直接、アストラガリで乗り込めばいいのですよ。あの大黒竜と同様、空から迫る兵器に対処できる国はありませんから」


 この三人の会話を聞いていた私は、この言葉に一瞬、ぞっとするものを感じた。つまり、わざわざ兵士を殺さずともその王国の中枢をつぶせば、あっという間にその国を手に入れることができる。どうして、そんな発想がすぐに思いつくのだろう、この王子は。


「言われてみれば、その通りだな。まさにあの魔道具は、カスティージャ王国にはなくてはならない存在だ」

「だからこそ、最前線に出るものでないと扱えない。この、アストラガリという魔道具は。だからこそ俺が、このアストラガリとその使い手であるルピタを、俺の下に置きたいと、そう申し上げているのですよ」

「では、エゼキエル兄さん自身は、どちらにつくというのです? まさか、そのまま王位簒奪を図るというのではないでしょうね!」

「まさか、俺にそんな資格はない。俺は、その王になった誰かに従うだけのこと。せいぜい頑張って、玉座を得てください」


 どう見てもこの三人の中で、もっとも口が上手いのは第二王子であるエゼキエル様だ。第一王子と第三王子は、この第二王子の言葉に圧倒されている感がある。黄色と青の瞳が、二人を鋭くにらみつけて脅しつつも、言葉巧みに上手く自身の思い通りに導いている。それに対抗できるだけの何かを、残る二人の王子はもっていない。


「さて、ルピタ。早速だが、また二号ダンジョンへと向かってもらおう」

「は、はい!」

「今日も三つほど、隠し部屋を見つけてもらおう。それからついでに、ちょっと寄りたいところがある」

「は、はぁ……」


 寄りたいところって、魔道具店のことだろうか? 昨日も魔道具店に寄って、礼の隠し部屋の魔道具の回収を依頼していた。

 いや待てよ、どいうことは、魔道具店主は今日、二号ダンジョンにいるはずだ。わざわざ店に寄らずとも、その場で話せばいいはずだ。

 ということは、どこに寄ろうというのだろう。

 もやもやとした気持ちを抱えたまま、私はアストラガリを二号ダンジョンのある、ラ・マンチャ山の麓までアストラガリを進める。


「そうそう、アストラガリを動かす前に、これをつけるぞ」


 そういいながら、エゼキエル様が革製のベルトを手渡してくれた。


「これは……」

「こいつを椅子に縛り付け、身体を固定する。そうすれば、あの加速、減速時の勢いにも耐えられるだろう」


 そういいながら、ご自身も皮ベルトを椅子に縛り付けて、身体の前へ斜めに通す。私もそれに倣い、同様に通した。

 で、アストラガリに前進を命じると、また猛烈な勢いで加速し、減速する。が、椅子に縛り付けられているおかげか、今日は昨日と違い、吹き飛ばされることはなかった。ちょうど二号ダンジョンに到着すると、たくさんの行商人の馬車が見えた。


「おお、これはこれはエゼキエル様」


 その中に、例の魔道具店の店主の姿もあった。


「たくさん、人をそろえてくれたものだな」

「ええ、なにせ行商人は先日の大黒竜の一件で、資金不足ですからな。此度の運び屋の仕事を、あっさりと引き受けてくれました」


 ああ、そうか。やっぱりあの鱗だけじゃ足りなかったんだな。でも、こうして新たな職でお金を得て、いずれあの露店を復活させるだろう。彼らのためにも、頑張らなくては。

 が、ちょっと頑張り過ぎてしまった。


「おい」

「は、はい」

「どうして今日は、十個もの隠し部屋を見つけてしまったんだ?」


 あれ、私、悪いことしたのかな。また黄色と青の眼で私をにらみつけてくる。うう、おっかない。


「いえ、あの、その……行商人たちもたくさんいらっしゃいますし、彼らの生活を早く元通りにしなくてはと頑張った次第で……」

「まあいい、おかげで第六階層まで一気に進めた。この調子ならば、明日までには二号ダンジョンの十階層目まで制覇できそうだ」


 なんだ、喜んでいたのか。てっきり怒られたのかと思った。性格というより、その態度が冷徹すぎるんだよなぁ。いつもびくびくしてしまう。

 いや、慣れなきゃだめだ。それにしてもこの王子、人の心とかないんかなと思うこともある。おそらく、己一人の力を頼みに生きてきたのだろうな。

 でもどうして、他の兄弟とはこれほど異なる性格をしているのだろう。それに、あの二色の瞳。どうも他の王子とは異なる存在に思えてくる。


「なんだ、人の顔をじろじろと見て」

「えっ? あ、いえ、すみません」

「何か思うところがあるのであろう。遠慮なく申せ」


 うーん、遠慮なくと言っても、本当に遠慮なく申し上げたら、首が飛ぶかもしれない。でも、しかし……


「いえ、エゼキエル様は他の王子と違うなぁと思いまして」


 ああ、本当に遠慮なく言っちゃった。当然、王子の眼光が鋭くなる。私など、まさにオオカミに食われようとしているウサギだ。


「私だけ、違うのだよ」

「はあ、何がですか?」

「目を見れば、分かるだろう」

「確かに目の色は違いますけど、それが何か?」

「……つまりだ、俺は小さいころ、あの二人とは別の場所にいたということだ」

「えっ、まさか、母親が違うとか?」

「そうではない。この王国ではヘテロクロミアの男子は、武術や体術を鍛えられるものと決まっているからだ」

「そ、そうなのですか?」

「そうだ。ヘテロクロミアの男子は、魔力量が多すぎる。それゆえに、普通の暮らしをしていたら魔力暴走を引き起こしてすぐに死んでしまう。だから、それに耐えられるだけの身体にしなくてはならない」

「あー、だから最前線に出たりされてるんですか」

「それは結果だ。おかげで子供のころから剣術、槍術、体術、ありとあらゆることを体得させられてきた。そのおかげで、前線に立っても負けぬほど強くなれた」

「そうなのですね。だから、いつも最前線にいらっしゃるのですか」

「だが、それも時間稼ぎだ。いずれ俺は、魔力暴走によって死ぬ。いつかは分からないが、そう長生きはできない運命だ。だから俺は、王になる資格はないのだ」


 王子の秘密を一つ、垣間見ることができた。ということは、もしかするとあの冷徹な言葉遣いは、その幼少期に受けた過酷なる修行の末に確立されたものと言えるのかもしれない。

 なぜだろうな、私はそれを、解きほぐさないといけない気がする。このままただ、冷徹で残虐な王子としてのふるまいをし続けていたら、それこそ身を滅ぼしかねない。

 いや、それ以上にこのエゼキエル様が、救われない気がする。


「確かに、過酷な運命をお持ちだとわかりました。ですが、しかし国を憂う優しい心もお持ちです。もう少し……」


 つい、出しゃばったことを言い過ぎたのか、急にエゼキエル様の眼が鋭さを増す。

 しまった、ついしゃべり過ぎてしまった。どうやらエゼキエル様の逆鱗に触れてしまったのか。

 そのエゼキエル様が左腕で、私の腕をつかむ。そして引き寄せながら、右腕で剣を抜いた。

 しまった、この場で斬られる。そう覚悟したとき、私はふと後ろに気配を感じる。

 私は目を疑った。そこに立っていたのは、ジャイアントオーガだ。エゼキエル様は私を抱き寄せて、その剣先を突如現れた巨大魔物に向ける。


「……我が剣よ、持てる魔力を剣先に注ぎ、彼の魔物を撃砕せよ!」


 詠唱と共に、剣先に金色の魔力光を発しつつ、それを剣身全体に行きわたらせる。その剣を一振り、襲い掛かってきたジャイアントオーガ目掛けて振り下ろす。

 あっという間だ。オーガの身体は真っ二つに引き裂かれ、ズシンと音を立てて倒れる。さらにその倒れたオーガのその手足、そして首を、その上級魔道具の剣で切り裂いていく。


「大丈夫か?」


 この時、不覚にも私はドキッとしてしまった。圧倒的な力を持つ王族の腕の中で、何か別の感情が沸き起こるのを感じる。

 ああ、このまま抱かれていたい……

 だが、この王子は事が済むと私から離れ、オーガの元へと向かう。そしてそれを、じーっと見つめている。

 別にジャイアントオーガに嫉妬しているわけではないが、なぜかそういう感情が私の中に沸き起こる。


「あの、私、油断してました」

「いいや、構わない。ルピタを守るのが、俺の役目のようなものだ」


 そうは言うけれど、あなたは王族で、私はただの平民。守られるべきは逆であって、私はむしろ殺されてしかるべき者だ。ただ、空洞探しとアストラガリを動かすというその二つのことだけで特別視されている存在であり、元々は魔力も力もないただの発掘人である。

 と、そこまで考えたところで、ふと思い出したことがあった。


「おい、どこに行く」


 私はジャイアントオーガが現れた場所の壁を、コンコンと叩く。もしかすると……私は以前、オーガと出会った時のことを思い出したからだ。

 そう、あの時に私は、アストラガリを見つけた。

 ということは、もしかするとここにも、何かとてつもない隠し部屋があるのではないか?


「おい、どうした、何か見つけたのか!?」


 エゼキエル様が叫ぶ。が、私は今、それどころではない。岩の奥の、わずかな音の差を聞き入り、空洞のありかを探す。

 そして、それを見つける。


「エゼキエル様! ここに、空洞があります!」


 私の行動を不可解に感じてはいるだろうが、ともかく、空洞があると分かれば切り開くしかない。エゼキエル様があの剣をふるい、岩壁に穴を開ける。

 そこは、大きな隠し部屋だった。ランタンで照らすその先には、巨像の姿はない。が、おびただしい数の魔道具が置かれていた。


「これは……」

「アストラガリを見つけた時も、私はオーガに襲われたんです。だから、あれが何の前触れもなく出てきたということは、もしかすると同じように強力な魔道具がある場所につながってるんじゃないかと思ったんです」

「なるほど、確かに魔道具の宝庫だな、ここは」


 山と積まれた魔道具がある。多くは下級、中級魔道具だが、その奥に金色に輝くものを見つける。

 アストラガリほどの大きさはない。むしろ、小さいくらいだ。だがそれは、手のひらほどながら、ランタンの光で黄金色に光るひときわ目立つ魔道具だった。

 見るからにそれは、魔導銃だ。だが、何か周りの魔道具とは異なる何かを感じる。確実に言えるのは、上級も上級、かなり上物の魔道具だということだ。


「これは……間違いなく上物の魔道具、ルフィエだ」


 ルフィエ。それは、アストラガリにもついている銃のことだ。一体、この王国にはいくつの伝承があるのだろうか。

 ともかく、それは握られた瞬間から、エゼキエル様のものとなった。他は、ごく普通の魔道具に過ぎないものばかりだ。

 思わぬ発見を、私はしてしまったのかもしれない。

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