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#19 暴走

 エゼキエル様が、魔力暴走を起こした。

 が、魔力暴走というものは、めったに起こらない。最近起きたのは、今から七十年ほど前で、男爵家の子息であったと伝えられている。

 その時は自らの発する魔力の光りに包まれ、しばらく魔力を放出した後にそれが身を焦がし、最終的に焼け死ぬ。魔力暴走というものは、そういうものだと伝えられていた。

 が、今回は貴族ではなく、より強大な魔力を持つ王族が魔力暴走を起こした。その場合、どうなるのか?

 実はこれまで、その実例はなかった。

 が、今まさに、それが起きている。

 エゼキエル様の魔力は膨大だ。その膨大な魔力が作り出す光の柱が天高くそびえて、その先に何かを作り出している。

 それを見て私は、目を疑った。

 そこにいるのは、巨大な赤い竜。大黒竜ならばすでに二度、見たことがあるが、それは真っ赤な鱗を持ち、大黒竜以上に禍々しい顔つきの竜だ。

 それが、エゼキエル様の魔力を吸い上げながら、徐々に大きくなっていく。


「な、何事ですか!」


 執事のカルニセルさんが現れる。


「カルニセルさん、エゼキエル様が魔力暴走を起こしました!」

「な、なんということですか!」

「そうなんです! それで、このことを王宮にすぐ連絡して下さい!」

「ルピタ様は、どうされるので!?」

「アストラガリを使います」

「あの巨人像で、何をされるのです!?」

「空に見える、あの赤い竜、あれを倒します。もしかしたら、あの竜を倒せば暴走が止まるかもしれない」

「わかりました、直ちに王宮へ!」


 私は大急ぎでアストラガリの納められた蔵へと急ぐ。扉を開き、中の椅子に座り両腕をひじ掛けに置いた。


『システム起動、生体認証チェック、バイタル正常、ロック解除。アストラガリ、起動』

「上空にいる、赤い竜を倒す。アストラガリ、前進」

『了解、ターゲット、赤竜に設定。アストラガリ、直ちに発進、迎撃します』


 さあ、アストラガリよ、いつもは人や魔物の命を奪ってきたが、今回は人助けだ。何としても、エゼキエル様を救い出してみせる。

 蔵から外に出ると、あの赤い竜はとんでもないことになっていた。大きさが、大黒竜の比ではない。王都の空を覆い尽くすほどの巨大な竜にまで成長していた。

 あんなでかいの、倒せるのか? いや、アストラガリは無双無敵の魔道具だ。今まで、倒せなかった魔物はいない。私はアストラガリに命じる。


「上空の赤い竜を倒す。直ちに攻撃せよ」

『了解、赤竜へ、攻撃を開始します。ウエポン選択、ルフィエ、セーフティロック解除』


 上空に浮かびつつ、もはや王都ほどの大きさにまで膨らんだ赤竜へ攻撃を始める。


『ターゲット、ロックオン。ルフィエ、攻撃始め』


 青い光が、握られた金色の大きな魔導銃から放たれた。赤竜の首元に命中し、大爆発を起こす。

 私は、目を疑った。

 当たったはずのルフィエの魔導弾が、まるで効かない。どこに当てたのか、分からないほどだ。なんて化け物なの。ともかく、私は攻撃を続ける。


「何処かに弱点が……とにかく、手当たり次第に撃って」

『了解、赤竜に向けて、連続攻撃を開始します』


 そうアストラガリに命じるが、首や頭、目、羽根の根元などを立て続けに撃つも、まるで効かない。

 そんなばかな……アストラガリのこの強力な魔導銃であるルフィエを用いても、傷一つつけられないなんて。

 が、撃っているうちに、いつもと様子が違うことに気付く。

 撃っている弾は、あの赤い鱗で弾き飛ばされているわけではない。エゼキエル様からあふれ出している魔力が赤竜の表面を覆っており、それがこちらの魔導弾をはじき返しているのだ、と。

 そんなの、どこにも隙がないじゃないか。


「こうなったら接近戦よ。聖剣ティソーナでたたっ斬る」

『ウエポン変更、聖剣ティソーナに切り替えます』


 その状態で、私は赤竜の長い首の真ん中あたり目掛けて聖剣ティソーナを構える。そして、それを突き刺した。


「うーっ、貫いてぇーっ!」


 青と金色の魔力とがぶつかり合い、バチバチと音を立てる。が、一向に貫ける様子がない。なんて強い魔力だ。

 これほどまでにアストラガリが無力に感じたことはなかった。数千、数万の軍勢すらも吹き飛ばすほどの威力を持つ武器を持ちながら、大型の竜の一部も貫けないなんて。

 その時だ、赤竜が首を振る。その勢いで、アストラガリが突き飛ばされる。


「うわああっ!」


 私はどうにかレバーを握って減速し、空中に踏みとどまる。地面に叩きつけられたら、アストラガリがもっても、中の私が耐えられない。

 しかし、その赤竜がこちらに狙いを定める。

 王宮を丸呑みできるほどの巨大な口を開けて、こちらにその頭を向ける。口の奥からは、金色の何かが光っている。

 まずい、そう直感した私は、レバーでアストラガリを上昇させる。竜の口も、こちらに向けて上を向き始める。

 そして、金色の炎のようなものを吐き出した。

 それを見た私は、すかさずレバーを下げて下降する。ギリギリのところで、あの金色の炎をかわした。

 未だかつてない恐怖だ。おそらく、あれに当たればアストラガリと言えども無事では済まないだろう。おそらく一瞬で、消滅させられたかもしれない。

 しかし、赤竜の動きは鈍い。あれだけ大きな身体であることも原因かもしれないが、おそらくはまだ、エゼキエル様の魔力を吸って成長途中なのだろう。生まれたての生き物は、すぐには動けない。

 なんとかして、あれを今のうちに殺るしかない。

 が、他に武器がない。どうやって……と、そこでふと私は、とある武器の存在を思い出す。

 そういえば、こんなものがあったことを忘れていた。

 そう、ゴールデ・キャノンだ。

 しかしこいつは、エゼキエル様の魔力を吸わなければ使えない兵器だ。

 だが、私はすっかり見落としていた。そういえば今のエゼキエル様は、その魔力を無尽蔵に放出しているところじゃないか。

 あれを吸い出せば、赤竜の成長を止めることができるばかりでなく、それを使って赤竜にとどめを刺すことができるんじゃないか?


「アストラガリ! 武器をゴールデ・キャノンに持ち替えて!」

『了解、ウエポン変更、ゴールデ・キャノンを装備します』


 腰に聖剣ティソーナを納め、背中につながっていたあのゴールデ・キャノンを手にする。当然だが、アストラガリはこう私に告げる。


『ゴールデ・キャノン、魔力補充が必要です』


 そんなこと、言われなくても分かってるよ。だから、いまからそれをもらうんじゃない。

 私はエゼキエル様が光の柱を放つ場所に向かう。エゼキエル邸の中庭に降り立ち、私はゴールデ・キャノンを立てた。

 ちょうどこの武器の側面には、あの魔力を吸い取る穴が開いている。それを、あの光の柱に押し付けた。

 私の正面に、棒の形のものが現れる。それは恐ろしいほどの勢いで跳ね上がっていく。すさまじい魔力を吸い取っていることを、その棒の長さと色で示しているようだ。最初は緑色で、徐々に黄色になり、さらに赤色に変わっていく。


『ゴールデ・キャノン、魔力補充限界量に達します。これ以上の補充は、危険です』


 ついにアストラガリが警告を出した。つまりこいつは、据えるだけの魔力を吸い取ったということか。


「よし、このままゴールデ・キャノンをあの赤竜に向けて撃ち放って!」

『了解、ゴールデ・キャノン、攻撃始め』


 ズズーンという、聞いたことのないほどの強烈な射撃音を響かせる。今まで撃ってきたものとは、明らかに格が違う。それはまだ身動きの取れない巨大竜のど真ん中にぶち当たった。

 下からの猛烈な攻撃は、上空の赤竜にはじき返される。ゴールデ・キャノンの青い光と赤竜の表面を覆う魔力と干渉し、その反動で猛烈な風を出しているようだ。

 が、それだけではおさまらない。私はエゼキエル様の魔力の柱に、魔力補充用の穴を当てっぱなしで引き金を引いている。その魔力は、まるで関を開いたため池から流れ出る水のように、魔力を吸い取りながら上空に流し込み続けている。

 しばらく魔力をはじいてきた赤竜だが、ついに魔力が尽きたのか、その身体をゴールデ・キャノンの光が貫いた。赤竜の真上に青色の光が貫かれ、そのまま赤竜を消し飛ばしつつ、王都の空一面を輝かせる。

 やがて、魔力の光は消える。辺りは、すっかり真っ暗になった。

 先ほどの風も止んだ。王都は一転して、静けさを取り戻しつつあった。

 そして、光の柱の中心部分、周りの草を焼き尽くしたその中心部に、エゼキエル様が倒れているのが見える。


「え、エゼキエル様!」


 私は駆け寄る。まだ熱い地面を踏みしめながら、私はエゼキエル様のそばに駆け寄り、抱き上げる。

 まさか、魔力を使い果たして、死んでしまったのか?


「……ルピタ、か」


 ところがだ、私が抱き上げた直後に、目を開ける。魔力暴走に、打ち勝つことができた。私は、涙が止まらない。


「よ、よかったぁ〜! 心配したんですよ、急に光出して、おまけに王都の空いっぱいに赤竜まで出てきちゃって……それでもう、どうしようかと」

「だが、お前がやっつけてくれたんだろう、あの、アストラガリで」


 あの光の中で、私の様子を見ていたのか。そう思うと、私はさらに泣けてきた。


「お前があのゴールデ・キャノンで俺の魔力を吸い取らなければ、今ごろ俺の身体は魔力で焼かれていただろう。それどころか、俺の魔力が産み出したとてつもない赤い竜が、王都を滅ぼしかねなかった」

「そ、そんなことより、エゼキエル様が助かったこと、本当にうれしく思います! もうだめかと思ったぁ!」


 私もやや取り乱し気味だった。王都のことより、エゼキエル様が助かったことに歓喜していた。普通は、逆なんだろうが。


「だが、思えば俺は、来るべき運命に打ち勝ったことになるな」


 突然、エゼキエル様がそんなことを言い出す。


「えっ、運命に、打ち勝つ?」

「そうだろう。俺は魔力暴走によって滅ぶと、それが運命だとずっと思っていたが、その運命を変える方法を、偶然にも見つけてしまった」

「えっ、そうなんですか!?」

「そうなんですかって、お前がさっきやったことだろう」


 ああ、そうだった。私は、エゼキエル様の魔力暴走を食い止め、助け出したんだった。思えば、あれこそが魔力暴走を食い止める手段だった。

 つまりだ、最初からあのゴールデ・キャノンをエゼキエル様の魔力の柱に押し当てていればよかった。あれで魔力を吸い取って、それを空に撃ち放てば、それだけで済んでいたことだ。

 なんですぐに、そのことに気付けなかったのだろう。私は現れた赤竜にばかり気を取られて、それを倒すことに集中しすぎていた。とりあえず結果的には、赤竜を倒してエゼキエル様を救い出すことに成功したのだが。

 でもまあ、もし今後、エゼキエル様が魔力暴走を起こされたなら、アストラガリでそれを取り除くことが可能だと分かった。この事実は、実は大きな意味を持つ。

 そう、この時からエゼキエル様が王位を断る理由が、なくなったということだ。


「エゼキエル様、王位を、ぜひその手でこの国の頂点に、お立ち下さい。そして、ご自身の望む国に、変えるのです」


 私はそう言いながら、エゼキエル様の手を握る。


「そうだな。運命を変える手段を見つけてしまった以上、俺に王位を断る理由はない。俺が実現したいことが、手早く可能となる」

「その通りです、エゼキエル様!」

「が、そのためには一つ、条件がある」

「条件ですか? だってもう、魔力暴走を止める方法が見つかったんですよね。他に何か、必要なものがあるので?」

「何を言っている。それだけでは足りない」

「そうなのですか?」

「お前、今夜は俺のベッドで一緒に寝ろ」


 周りに執事や衛兵がいるというのに、お構いなしにそんなことを言い出すエゼキエル様。つまり、それって……私は顔が熱くなるのを感じる。


「ちょっ! エゼキエル様、皆さんの前で何てこと言うのですかぁ!」

「魔力暴走を恐れて生きてきたが、もう遠慮は要らない。好き放題、させてもらうぞ!」


 えっ、今まで、あれで遠慮してた方なの? ほら、執事のカルニセルさんと侍女、そして衛兵たちが唖然としていらっしゃる。

 が、そんな周囲に構わず、私を両手で抱えるエゼキエル様。


「さて、今夜はもう、遠慮しないぞ。覚悟するんだな」


 などと私に告げた後、そのまま屋敷に入ってしまった。私を、脇に抱えたまま。

 おかしいな、魔力を相当失ったはずなのにやけに元気だぞ、このお方。どういうことだ? 何がこれほど、王子を元気にさせているのだ。

 その元気な第二王子に私はその夜、一晩中振り回されることとなる。

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