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#13 軍勢

 東方のカリブ王国は、我がカスティージャ王国に次ぐ大きさの国がある。ここも我が国と同じく、北方大陸の小国を取り込み続けた国だ。

 が、カリブ王国ははるか東方にあるおかげで、カスティージャ王国とぶつかることはない。

 が、そのカリブ王国軍二万が、ちょうどカリブ王国と我が国との間にあるリオス共和国にむけて侵攻を開始したというのだ。

 で、聞いた話によると、リオス共和国はまだ生まれて二十年ほどの国、当時の国王を処刑し、その後しばらく混乱の時代を過ごし、ようやく国として安定したのはここ三年ほどだという。

 そんな国に、ちょうど先代のカスティージャ王国のような拡大路線を進めていたカリブ王国が、攻め入ったというのである。

 だが、早馬による情報だから四日前の情報だ。ということは、もうすでに戦端は切り開かれているかもしれない。

 ということで、訳も分からぬまま、私はそのリオス共和国の支援へと向かうことになる。


「アストラガリ、東方に向けて飛べ!」

『了解、アストラガリ、東方に向けて前進を開始します』


 猛烈な加速のあと、東の方角へ向かって飛ぶアストラガリ。

 が、肝心なことを聞き忘れていた。


「あの、エゼキエル様」

「なんだ」

「東方に向けて進んでますが、どこに向かえばよろしいので?」

「大丈夫だ、飛びながら方向を指示する」


 いい加減だなぁ。目印くらい教えてくれてもいいのに。と思いつつも、猛烈な速度で東方向へと進む。


「よし、あの山脈の脇でやや左に転進、そこをまっすぐ進むと、ヴィルヌーブという街が見えてくるはずだ」

「は、はぁ……」


 もしかしてこの王子、そのリオス共和国という国に出向いたことがあるのか? やけに地形に詳しいな。だから私は尋ねる。


「あの、エゼキエル様」

「なんだ、今、方向を見定めているところだ」

「ええと、そのリオス共和国なんですが、どうしてカスティージャ王国が肩入れをしなきゃいけないんですか?」

「そうだな、そういえば、肝心なことを話してなかったな」


 こういうところだよ、この第二王子の悪いところは。どうも大事な話をいつも飛ばして、命令だけしてくる感じだ。


「一つ目は単純な理由だ。このリオス共和国が、我がカスティージャ王国とカリブ王国との間の緩衝国となっている。この国が間にいるから、大国同士がぶつかり合うことがない」

「はあ、なるほど。で、もう一つの理由は?」

「共和国という国を、お前は知っているか?」

「いえ、全然」

「簡単に言えば、民が『選挙』と呼ばれる方法で多くの候補者から何人かの代表者を選び、選ばれたその代表者たちが集まって国を治めるという、そういう形態の国だ」

「そういえば、国王を処刑してできた国って言ってましたけど、そんな方法で為政者を決めていたんですか」

「そうだ。世界で唯一の、民の手によって政治が行われている国だ。おかげで建国当初は混乱していたようだが、ようやくここにきて安定してきた」

「ですが、そんな国をカスティージャ王国が認めてしまったら、ダメなんじゃないですか?」

「なぜ、そう思う」

「だって、国王陛下を否定している国なんですよね。そんな国を支援したら、我が国にも陛下を倒そうとする機運が盛り上がってしまうんじゃないですか?」


 その私の問いに、エゼキエル様は答えなかった。ちょうどその時、山脈を通り過ぎて、まさに街が見えてきたところだ。


「あれがヴィルヌーブという街だ。そこから街道が伸びているから、その街道沿いに進め。その先に、軍勢が見えてくるはずだ」


 指示をだすことで、私の問いに対する答えをはぐらかされたような気がする。が、目的地が近いことを知らされると、私も自然、そちらに関心が向かざるを得ない。


「見つけました! 大勢の人々の群れを探知!」


 アストラガリの外を映し出す壁に、無数の四角形が表示される。驚いたことに、その場にいる一人一人を認識してくれてるようだ。少し上に、その人の数が表示される。

 その数、およそ二万。とてつもない大兵力だ。そんな軍勢が、平原のど真ん中で何重もの陣形を組んで構えている。

 こちらに向いているということは、つまりあれがリオス共和国に進撃してきたというカリブ王国軍の軍勢ということか。

 しばらく進むと、今度は手前の林の中に人々の姿を発見する。どうやら、こちら側は迎え撃つリオス共和国側ということか。だが、木々が邪魔しているのもあるが、五千ほどの数しか探知できない。


「二万対五千か……このままぶつかれば、共和国軍に勝ち目はないな」

「ですが、このまま林の中で待っていれば、リオス共和国軍は有利な戦いを展開できるのでは?」

「そう簡単な話ではない。やつらは、つまりカリブ王国軍は、共和国軍を誘いだそうとしている」

「えっ、誘い出す? あの何もない平原にですか?」


 言っている意味が分からない。あんな障害物のない平原の真ん中に誘い出されたら、五千の兵士なんて勝ち目はない。あっという間にやられてしまう。そんなこと、素人でもわかる。


「どう考えても、このまま動かないのがどう考えても正しいでしょう」

「そうとは言えない。なぜならこのヴァルド―ル平原は、リオス共和国の生命線ともいえる港町、ポントワーズへと続く道でもある。そこを封鎖されたとなれば、リオス共和国にとってはとんでもない損失だ。だから、どうにかあの軍勢を追い払う必要がある」


 徐々に減速し、戦場の真上で停止するアストラガリから、両軍を見守るエゼキエル様だが、しばらく観察した後、私にこう命じる。


「リオス共和国軍が潜む林の真ん中を突っ切る街道に、アストラガリを降ろしてくれ」

「はい、承知しました。が、どうするんです?」

「リオス共和国軍の将軍と、話がしたい」


 話って、そんなことが可能なの? 相手が同盟国ならばともかく、どうやら違うようだ。しかも、大国の王子が来たとなれば、下手をすると殺されないか?

 が、命令に逆らうわけにもいかず、私は降り立つ。当然、いきなり降りてきた人型のこの魔物っぽい像に向けて、兵士たちが槍で威嚇してくる。

 そんな最中で、私はアストラガリの腹の扉を開く。


「カスティージャ王国の第二王子、エゼキエルだ。将軍に会いたいと、すぐに伝えてくれ」


 近くにいた兵士に、エゼキエル様がそう告げる。現れた金色の人型の化け物かと思ったら、なんと隣国の王子が現れた。慌てて兵士の一人が林の中へと走っていく。

 しばらくすると、馬に乗った上級の鎧を身に着けた人物が現れる。兜の飾りの豪華さと言い、将軍であることは間違いない。


「これはこれは、エゼキエル様ではありませんか」

「ソレル将軍、久しぶりだな」


 まるで、旧知の仲のような会話ぶりだ。地上に降り立ったエゼキエル様と硬く手を握り合っている。


「もしや、これが噂のインディアス王国の王宮に殴り込みに入ったという巨人ですか?」

「その通り、なんだ、もう耳に入っているのか」

「それはそうですよ。エゼキエル様がインディアス王国の王族、貴族どもを恫喝したと、周辺国では大変な話題になっております」

「その巨人、アストラガリをもって、貴殿の軍を支援しに来た」

「えっ、我が軍を支援なさると?」

「おかしいか? 今までの経緯を考えると、何も不自然なことはないと思うが」

「いえ、そんなことをすれば、あなた様のカスティージャ王国における立場が危うくなりませんか? 我が国は、ただでさえ君主制の国々から疎まれ、警戒されているのですよ」

「そんなことはもとより承知している。が、今はこの国を失うわけにはいかない」


 どうやらかなり親密な関係のようだ。が、それは同時に、我が王国内公認のことでもないことが、今の会話からも垣間見える。どうやら今回のこと、エゼキエル様の独断のようだ。

 しかし、なぜそこまでエゼキエル様は個人的にこの国にのめりこむのか?


「それにしても、二万の軍勢か」

「はい、おそらく我が共和国の首都サン・マルタンを堕とし、そのままカスティージャ王国へ進軍するつもりなのだろうと思われます」

「カリブの連中の考えそうなことだ。まあいい、やつらを追い払えば済むことだ」


 と、自信満々にそう告げるエゼキエル様。そして脇に立つ私に、アストラガリの背中に取り付けられたものを指差してこう告げる。


「あれを使う」


 「あれ」とは、三号ダンジョンで発見し、エゼキエル様の魔力を吸ってとてつもない破壊力を発揮した「ゴールデ・キャノン」のことだ。あれを使おうというのである。


「あの、エゼキエル様、二つ問題があります」

「なんだ、ルピタ、言ってみよ」

「まずはエゼキエル様の魔力を消費してしまいます。構わないのですか?」

「この間のように、ある程度、俺の魔力が吸われたところでお前が手を引き抜け。どのみち俺は、いずれ魔力暴走を起こしかねないほど魔力が有り余っている存在だ。多少の魔力を吸い取られることなど、一向にかまわない」

「もう一つ、あんなものをぶっ放したら、二万の軍勢が吹き飛んでしまいます」

「まさか、中心部は狙わない。敵の後方側のみに放つ。いくらカリブのやつらと言えど、ほとんどは民間人だからな。それに、貴族や王族が来ているとしたら、もっとも安全な後方に控えているはずだ。そこに狙いを定めて放てば、やつらは指揮官を失って撤退行動に出ざるを得なくなるだろう」


 たった一撃で、あの二万の軍勢を追っ払おうというのだ。しかも、その気になればおそらくは全滅させることもできるというのに、脅しのみに止める。狙うのは、後方にいるであろう指揮官のみを集中的に狙う。

 といっても、数マイルもの大穴を開けてしまうほどの兵器だ。そんなものをぶっ放せば、後方を狙ったところでその前側の軍勢もただでは済むまい。難しい決断だ。ルフィエの方がいいんじゃないか?

 が、エゼキエル様がやれというからには、やるしかない。

 私はアストラガリに乗り込み、ゴールデ・キャノンを降ろす。その網付きの穴の部分に、エゼキエル様が手を触れる。


「いいか、少し魔力を吸われたところで、俺の手を引け」

「はい!」


 一体、何が始まるのかと周囲の兵士たちが集まってくる。ソレル将軍も、馬上から怪訝そうな顔で眺めている。

 そして、エゼキエル様がその穴に手を触れた。


「くっ!」


 張り付いたように、その穴に引き込まれるエゼキエル様、その手を、私は渾身の力で引き抜く。

 ほんのわずかな時間だったが、かなりの魔力が吸われたらしい。エゼキエル様の顔色を見ればわかる。


「だ、大丈夫ですか、エゼキエル様」

「大丈夫だ、すぐに回復する。それよりも、カリブ王国軍の指揮官のいる後方部を撃つ」

「はい!」


 そういいながら、私とエゼキエル様はアストラガリに乗り込む。そこで私は、リオス共和国軍の兵士たちに向かって叫ぶ。


「今から、とんでもない爆風が吹き荒れます! 林の木々の中に、退避してください!」


 そう告げると、私は腹の扉を閉じ、アストラガリを上昇させる。

 ルフィエよりも一回りほど大きいこのゴールデ・キャノンを、二万もの軍勢のやや後方に向ける。ただ、一撃でも数マイルの大穴が開く。それを考慮すると、その軍勢のかなり後方の辺りを狙わないといけない。

 ちょうど数マイルほど離れた場所に、川が流れていた。小さな川だが、あの辺を狙えばカリブ王国軍の二万の軍勢の一部をかする程度にとどまるはずだ。

 そして私は小川の真ん中付近に狙いを定め、アストラガリに引き金を引かせる。


「アストラガリ、あの小川の中心に、ゴールデ・キャノンを放って」

『了解、ターゲット・ロックオン。ゴールデ・キャノン、攻撃始め』


 その次の瞬間、猛烈な青い光の弾が小川を目掛けて放たれた。その弾は、小川の辺りで向きを変えて、真下に向かって落ちていく。次の瞬間、途方もない光と音を放つ。

 風の輪が、小川を中心にパッと広がると、その後から、強烈な真っ白な光が広がっていく。光は軍勢の後方に到達し、そこにいた兵士らを飲み込んでいった。

 が、それで止まらない。さらに広がる白い光。あれ、前回よりも大きいんじゃないか。もしかして、魔力量が多過ぎたのか? 気づけばその光は、二万の軍勢の半分ほどを覆い尽くしてしまう。光の外にいる兵士たちも、多くは強烈な風で吹き飛ばされていく。魔道具や剣、槍が、宙に舞い上がっているのが見える。いや、中には人も混じっているな。

 その爆風は、およそ十マイル以上離れたリオス共和国軍のところまで押し寄せる。

 林の木々が守ってくれると思っていたが、その林の木々がへし曲がるほどの強烈な風が襲う。と同時にドーンというすさまじい音が鳴り響いた。

 正面には、キノコのような形の雲が立ち昇っている。前回以上のとんでもない威力の爆発を、あのゴールデ・キャノンは巻き起こした。

 おかしい、前回と比べて、むしろ早めに手を引き抜いたつもりなのに、前回よりも爆発力が増すなんて、どう考えてもおかしい。

 まさか、エゼキエル様の魔力量が増えているのか?

 ともかく、目の前の結果はといえば、以前の試射を上回る威力だった。敵の二万の軍勢の大半が、もはやその姿をとどめていない。最前衛の兵が辛うじて地面に伏せており、陣形を保っている程度だ。

 しまった。二万もの兵士の大半を、たった一撃で殺ってしまったのか? なんて恐ろしい兵器なんだ。


「しまったな……ここまで強烈な威力を発揮するとは……」


 さすがのエゼキエル様も想定外だったようだ。それはそうだ。私だって予想外だった。

 で、後に残ったのは、以前よりも大きな穴と、黒焦げの消し炭に変わってしまった多数の兵士の姿、わずかに生き残った兵士たちも、ケガで虫の息な者も見える。

 無論、狙った小川の水なんて、全て蒸発してしまった。上流から流れる川の水が、できた大きなくぼみに少しずつたまり始めている。が、その場はまだ高熱だからか、たまった水から水蒸気が上がっている。

 一方のリオス共和国軍の方も思いのほか、被害が大きい。カリブ王国軍ほどではないにせよ、骨折者などけが人が多数出ているようだ。もっとも、命まで奪われた者はおらず、幸いにもどうにか軍勢そのものは無事だった。


「なんて力だ……インディアス王国の国王が驚愕したのもうなずける」


 いやあ、その時はまだ、ゴールデ・キャノンはなかったんだけどね。だいたい、あそこでこんなものをぶっ放していたら、あの王宮どころか、インディアス王国の王都ごと吹き飛ばしていただろうな。


「さて、やや想定以上の被害を出してしまったが、ともかくこれで、カリブ王国軍がここを攻めようなどとは思わないだろう。やつらの持つ最大の軍団を、ほぼ全滅状態に追い込んでしまった。これで攻めようなどと言い出す国王がいれば、そいつの頭上に一撃を加えるため乗り込んでやればいい」


 などと物騒なことをエゼキエル様は口にする。それを聞いていたリオス共和国軍の兵士たちは思ったことだろう。

 この方が、敵でなくてよかった、と。


「さて、ソレル将軍。俺は一足先に、首都のサン・マルタンへと行く」

「左様ですか。では、首相に会われるのですね」

「うむ、そのつもりだ」


 どうやら国王陛下と同じ立場の「首相」と呼ばれるお方に会うとのことだ。しかし、私は釈然としない。

 その首相というのは、先の話によれば「民」が自ら選んだ代表者のこと。それと、国王陛下に近い王子が合うというのは、なんだか奇妙な感じがする。

 どう考えても、異質な者同士が出会うことになる。エゼキエル様は一体、何を考えておられるのか?

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