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#12 辺境

 三号ダンジョンからの帰り道に、シウダッドの街へ寄ることとなった。


「辺境と言いつつ、大きな街ですね」

「それはそうだ。元々ここは、ある王国の王都だった場所だ。今は我がカスティージャ王国の辺境都市となっているがな」


 へぇ、そうだったんだ。そういえばカスティージャ王国っていくつもの王国を戦や調略で併合し、大国となったんだっけ。

 特に先代の時代には、大遠征が行われ、国土が二倍にまで拡大されたと聞く。今の国王陛下はあまり国土の拡大に熱心ではなく、むしろ急激に膨らんだ国土を防衛するための軍勢や武器集めに奔走させられている。

 急激に大きくなり過ぎた王国だけに、その広い領土を維持することに専念せざるを得ない責務を負わされてしまったというわけだ。気の毒な国王であることには違いない。

 が、三人の王子でその重大さを認知しているのは、唯一、第二王子であるエゼキエル様しかいないようだ。他の二人の王子は、正直言って軍事にあまり詳しいとは思えない。あの王子らのどちらが玉座についても、国が奪われるばかりだろうな。


 さて、そんな辺境の街シウダッドには、離宮がある。

 その離宮の中庭に、アストラガリを着地させる。


「こ、これはエゼキエル様……って、なんなのですか、この化け物は! そ、それに先ほど、晴天にもかかわらずとてつもない雷が落ちて森を吹き飛ばしたとの報告がありましたが、もしやこの化け物が関わっているのですか!?」


 この離宮を任されている貴族が、慌てて駆けつけ、折りてきたエゼキエル様にそう告げる。


「気にするな。この巨人像、アストラガリは我が国の武器であり、先ほどの巨大な稲妻はこやつが引き起こしたものであることは間違いない。だから、何も案ずることはない。そう、街中に流布せよ」

「は、はぁ……承知いたしました」


 いやあ、そういわれても、案じてしまうんじゃないだろうか。放った私ですらもびっくりするほどの威力だった。にしても、たったあれだけの短い時間触れただけであれほどの破壊力。エゼキエル様って、どれほどの魔力持ちなのだろうか。

 ともかく、私とエゼキエル様はその離宮にて今夜は泊まることとなる。


「街に出るぞ」


 が、せっかく離宮についたばかりだというのに、エゼキエル様は私を街へと誘いだす。


「街に行くと、何かいいことでもあるんですか?」


 王都に慣れているから、こんな辺境の街に出たところで得るものはない、と私は思っていた。が、エゼキエル様は黙って私の手を引き、そのまま離宮を出てしまった。

 なんて強引な人なんだと、その時は思った。

 が、外に出て、私は思わず歓喜の声を上げる。


「うわぁ、きれい!」


 そう、街並みがとてもきれいだ。少し下り坂の、整然と石が敷き詰められた石畳の道に沿って、赤い屋根と白い壁で統一された商店がずらりと並んでいる。その道の先には、王都の中央広場のようなところも見える。

 露店も多い。が、王都トレドニアのそれとは異なり、どこか整然としている。かつてここは、カスティージャ王国とインディアス王国との交易で栄えた街だそうだが、その時の名残で商売が盛んであり、様々なところから物資が集まる場所でもある。

 少し南には港町があり、そこから運ばれた魚が売られている店もある。かと思えば、香辛料の店もあった。これも、港町より遠くから船で運ばれた品として持ち込まれているようだ。


「うわぁ、見てください、エゼキエル様。ここ、きれいな石がたくさん売られてますよ」


 青や緑の石が多数、並んでいる。青いのはラピスラズリ、緑はサファイアか翡翠だろうか。赤い石も奥に売られていた。あれはルビーだろう。まさか、魔石を宝石として売ることは、宝石店はしない。それは魔道具店の領域だからだ。


「何か一つ、買ってやろうか」


 突然、エゼキエル様が私にそんなことを言い放つ。


「い、いえ、私に似合う石などありませんし」

「そんなことはない。この緑の石などは、その控えめな胸にぴったりだぞ」


 ひと言、聞き捨てならないことを口走ったようだが、まあいいか。これまで、いくつもの魔道具を見つけ出し、挙句に敵国の王宮にまで突入させられたんだ。一つくらいもらってもバチは当たらないか。


「そ、それじゃあこの、緑のネックレスで」

「そんなもんでいいのか? おい主人、これはいくらだ」

「へぇ、三千ラエルです、旦那」


 そう言われて、なんとエゼキエル様は一万ラエル金貨を取り出し、それを店主に渡す。


「三つ、同じものを買いたい。釣りは要らん」

「しょ、承知しました! すぐにご用意を」


 いきなり金貨を出すあたりは、さすがは王族だ。にしても、三つも買ってどうするつもりなんだろうか。


「あの、私は三つも不要かと思いますが」

「構わん。予備があれば何かと備えられるであろう」


 予備、予備ねぇ。そう簡単に壊れるものでもないと思うが。まあ、いいか。とりあえずその場にてその一つを身に着ける。

 それから、エゼキエル様行きつけの店とやらに向かう。そこは「魔物料理」の店だそうだ。そんな料理屋があるんだ。確かに、近くにダンジョンもあるし、街の外の森にはダンジョンから漏れ出た魔物がうろうろしているというから、その程度の店があっても当然か。


「店主、何かおすすめの料理はあるか」

「これはこれはエゼキエル様、ちょうどいいところに、大黒竜の肉が手に入りまして」

「うむ、ではそれを頼む」


 えっ、大黒竜の肉って、さっき私が倒したやつじゃん。もう届いてるんだ。侮れないな、この店は。

 だけど、大黒竜の肉なら王都でも食べたことがあるから、正直ちょっと新鮮味がないなぁ……などと思っていたのが間違いだった。

 表面をさっと焼いた、分厚い肉が出てきた。その上からコショウと、岩塩をぱらぱらと振りかけてみせる店主。香ばしくも食欲をそそる香りが、私の胃袋にまで到達する。


「さて、いただこうか」

「は、はい、いただきます」


 まさか自身が倒した大黒竜の肉をここで味わうことになるとは思いもよらなかった。そばには、ニンジンやズッキーニ、ブロッコリが添えられている。

 王都で食べた大黒竜の肉は、もっと脂身があった気がする。が、ここは焼き方が違うのだろうか、脂身は溶け出してそのくどさはなく、さらに振りかけられた香辛料や岩塩でしまった肉身が程よく口の中に納まる。噛み応えも悪くなく、王都で食べたそれと同じだとはとても思えないほどの味だ。


「ここの料理人は、腕がいい。なればこそ、同じ食材でも全く異なる料理に変えてしまう」


 と、エゼキエル様が私にそう述べると、何を思ったのか、私の横に座る。


「あの、なんでしょうか」

「ここに、この場の風景を残す魔道具がある。これを使い、この料理を残しておこうと思う」

「風景を、残す? なんです、その魔道具は」

「まあいい、この箱をじっと見るんだ」


 そう言いながら、腕を伸ばしてそのガラス玉の入った不可思議な魔道具を片手で伸ばし、こちらに向けてそれに魔力を込めるエゼキエル様。カチンという音が二度ほど鳴ると、その第二王子はそれを引っ込める。

 なんでも、これを一度持ち帰って、そこで風景画に変えるための作業をしなくてはならないそうだ。「現像」と呼ぶらしいが、それによっていまこの私の姿が精巧な絵画となって残るのだとか。

 後日、それを見せられるのだが、なんとも無表情な姿で分厚い肉と、そして不敵な笑みを浮かべたエゼキエル様と共に映し出された絵画だった。まるで鏡で見たような自身の姿に、私は感動と共に恥ずかしさを覚える羽目になる。が、それはまだ数日先の話。

 ここではその後、美味しい料理を堪能して離宮へと戻る。

 が、問題が起こる。


「えっ、私がエゼキエル様と同じ部屋で寝る、のでありますか!?」

「そうだ」

「ええと、それは別々のベッドで寝ることになるのでしょうか」

「そんなわけがないだろう。ベッドは一つしかない」


 なぜか私は、エゼキエル様と同じベッドで寝る羽目になる。別に部屋はたくさんあるのだが、これはエゼキエル様がそう命じたとのことだ。

 あれ、まさか私、貧民の分際で第二王子のお相手をする羽目になるの? そんな作法もなにも、心得がないんですけど。


「では、ごゆっくり」


 離宮の侍女が、ベッドの上に座る私とエゼキエル様に向けて笑顔でそう告げた。バタンと閉じられた扉。この部屋には、私とエゼキエル様しかいない。


「さて、寝るか」


 そういいながら、私はエゼキエル様に抱きしめられる。私は、緊張のあまり硬直する。


「ええええエゼキエル様、私のように小さい者を相手にされても、物足りないのではありませんか?」

「そうか? そうでもないぞ。この通り、抱き枕としては最高の大きさだ」


 えっ、抱き枕? あの、男女の営みをさせられるのかと覚悟してたんですが、私はもしかして、ただの抱き枕として招き入れられたのですか?

 で、なんとその第二王子は言葉通り、私を抱きしめたままそのままスースーと寝息を立てて寝てしまった。なんてことだ。本当に私は、この王子の抱き枕にされてしまった。

 なんだか、納得がいかないような、ほっとしたような……が、今日はいろいろとあった。三号ダンジョンに潜り、大黒竜と再び対決し、魔導砲を放って森をほぼ半分以上吹き飛ばしてしまった。で、その夜はその大黒竜の肉を堪能する。

 あれ、何か一つ、大事なことを忘れているような気がする。うーん、なんだったかなぁ。ともかく、その暖かな布団と、エゼキエル様の体温によって眠気を促され、私はそのまま寝てしまった。


 さて、その翌朝のことだ。


「おい、ルピタ。急ぎ帰るぞ」


 まだ日が昇って間もないというのに、私はたたき起こされる。眠い目をこすりながら、私は起き出す。


「あの、何かあったんですか?」

「そういうわけではないが、いつまでも王都から離れているわけにもいかんからな」


 なんだろうな、通常なら馬車で往復するから、最低でも三日はかかる旅になる。アストラガリならば、ほんのわずかな時間、半刻もかからず到着する。

 それなのに、急ぎ変える必要があるのだろうか?

 が、私の主人(あるじ)がそうおっしゃるのだから、仕方がない。


「アストラガリ、王都トレドニアに向けて前進せよ」

『了解、アストラガリ、王都トレドニアに向け、前進します』


 またしても猛烈な加速と減速に襲われる。が、日が昇って間もなくの王都にたどり着いた。新たな魔道具を身に着けた、アストラガリと共に。

 しかし、慌てて帰る必要などあったのだろうか。などと思いながら私は王宮へと降り立つ。そこに、王族付きの執事長が走ってきた。


「大変です、エゼキエル様!」


 息を切らせて、着陸したアストラガリに走り寄る執事長のその姿をみて、まるでそれを予見していたかのようにエゼキエル様は答える。


「やはり、動き出したか」

「はい、おっしゃる通りです」


 私はこの見えない会話を前に、ただぽかんとするしかなかった。何が動き出したというのだろう?


「あの、エゼキエル様」

「なんだ」

「動き出したとは、何のことでしょうか?」


 と、聞いたところで、私が知るべき話であるかどうか一瞬、思い直した。もしかしたら、政治的な話かもしれない。が、エゼキエル様はあっさりとこう答えられた。


「東方にて、カリブ王国軍がリオス共和国に攻め入ったということだ」

「えっ、我が国ではなくて、リオス共和国?」

「なんだ、知らないのか。すぐ隣の国だぞ」

「ええ、ですが初めて聞く名前の国で……って、その前に、共和国って何ですか?」

「とにかく、支援に向かうぞ」

「ええーっ!?」


 東方に、カリブ王国という国がある。我がカスティージャ王国と国境を接していない国だ。にもかかわらず、そのリオス共和国という聞いたこともない国のため、戦いに出向こうとしている。

 一体、何が起きている?

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