第1話 回顧と回想
面白い物語をお届けします。気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
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『女の子に告白される』
これで始まるのがラブコメだとするならば。
『好きと言われた直後に、別に好きじゃないと否定される』
そこから始まるのはどんなお話なのか。
答えは明白だ。
捻くれた告白が入口なら、そこから始まる物語もまた、複雑怪奇なものである。
例えば宝くじが当たった後に、配当金以上の借金が出来た。ちょっと生々しい言い方だけど、心境はそう言い換えてもいい。
つまり彼女の告白は、負債の方が少しだけ多かったのだ。
――影守冴夜。
俺の主観で言うなら好みのど真ん中。ひとめ見てストレートに、光の速さで心臓を撃ち抜かれた女の子である。
ただし。
影守さんに恋はしていない。
というのも、彼女のことは、外見と外聞でしか知らないからだ。いくら容姿に魅力があっても、それだけでよく知らない相手を好きにはなれない。だから影守さんに抱く感情は、憧れのようなものだ。
同級生が噂する彼女の印象には様々なものがある。
『孤高の超人美人』、『影守さんは笑わない』、『住む世界が違う』といった具合に。そのどれもが彼女を言い表すに相応しい言葉だと、俺にも思われた。
一年前、学園に入学するやいなや、その容姿で生徒たちの話題を独占した影守さん。俺にとって、彼女のイメージは触れた途端壊れてしまうような、儚げで、物憂げな深窓の令嬢……だった。過去形。なぜならまったくの勘違いだったからである。
二年生になる頃には、その思い違いはすっかり改められていた。実際の彼女は、優美でありながら威風堂々。ハキハキとした口調に、上品だがキビキビとした所作が見ていて気持ちのいい、貴族のお姫様だったのだ。
影守さんについて知っていることはその程度。クラスも違うから声さえまともに聞いたことがない。なので来年クラスが一緒にでもならない限り……いや、なったとしても関わることは無いのだろうと思っていた。
当然のように、そう思っていたんだ。
だが――。
ある何でもない日に、その当然はあっけなく覆される。
生活環境が些細な理由で変わり、奇妙な同居人と暮らし始めた翌日のことだった。
俺はいきなり彼女に呼び出され、告白されたのだ。
しかも理解不能な言い回しで、当たり前のように。
「私――貴方のこと好きになるわ。だから私に付き合って」
そんな普通じゃない告白をしてきた女の子は、やっぱりただの美少女ではなく。結論として端的に言えば『魔女』だった。
こうして俺――家隠 囮の元から異常だった日常は、恋物語の皮を被って、さらにおかしく変わっていく。すべては影守さんの、切実で、大真面目な性的かつ個人的な魔女としての問題を皮切りに。
後輩と先輩、そして人外の少女たちの、『故意に恋する』事情に巻き込まれていく。だからこれはラブコメじゃない。
言うなればそれは、伝奇のような怪異譚。
あるいは、御伽話のような囮話。
求められたのは、様変わりした困難な現実に立ち向かうための成長。そして、ほんの少しの痛みと恋を交えた彼女たちとの絆。
多種多様な『物語』に追われ、つけ狙われる。
少々変わった名前通りの、奇妙な日々の始まりだった。
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