1話:異能バトルに巻き込まれた
関係者っぽいからと彼女を放置して帰ろうとしたが、俺は呼び止められた。
「なんで普通に帰ろうとしているんですか⁉ 待ってください!」
「……なんだ?」
「わ、私は『防衛省超常災害対策室』の課長をしている霧島 沙代里と申します。この度は助けていただきありがとうございます」
彼女は俺に頭を下げる。別に助け訳ではなく、ただ面白そうだと思っただけ。
だが、彼女からしてみれば、助けてもらったようなものだろう。
「ああ、そいうのいいんで。それじゃ」
「待ってくださいって言いましたよね⁉」
待ったよ?
「……お話をしたいのですが」
面倒だなと思いながらも、俺は話をすることにした。だって異能とかの情報を聞けそうだし。
「まあ、いいけど」
「ありがとうございます。少しお電話をしてからもでもいいでしょうか?」
「いいよ」
彼女はスマホを取り出してどこかに電話している。
「もしもし。超常災害対策室課長の霧島です。敵を確保しました。はい。それと一般人も巻き込まれましたが、無事です。はい。それはこちらで行います。それではお待ちしております」
数分の電話が終え、彼女は俺に向き直る。
「お待ちいただきありがとうございます」
「で、話しとは?」
「あなたは異能者ですよね?」
俺は普通の人間とは少し違うと認識していたが、異能という能力は備わっていないし、先ほどまで無関係の人間だった。
「普通の高校生ですけど?」
「普通、高校生が異能者を相手に勝てるわけがないんですよ⁉」
「まあ、あの程度の雑魚なら、一般人と変わらないでしょ」
異能が使えても体は脆いしね。
「あの男は水を自在に操れるので強い方だったんですよ! 所属の異能者も苦戦していたんです! それを普通の高校生が倒せるはずないんですって!」
捲くし立てられ、思わず「お、おう。そう、かもな?」と曖昧な返事をする。
「一体何者ですか?」
「異能バトルに巻き込まれた、どこにでもいる普通の高校生だぞ」
「はぁ、わかりました。お名前をお聞きしても?」
名乗っても後々特定されそうだ。
「黒崎蒼汰。高校二年生」
「では黒崎さん、一度お話を聞きたいのでご同行願います。これは強制ですので」
強制ときたか。
まあ、防衛省ってことは政府の機関だろうし、無駄に反抗して法的に処罰を受けるのは、生活をする面で不便なので穏便に行こう。
「わかりました。ところで霧島さん……」
俺は転がっている男へと視線を向ける。意識が戻ったのか、這ってでも逃げようとしていた。
「逃げないように念入りに足を砕いておきます?」
「普通、高校生がそんな物騒な発言しませんよ⁉」
あら残念。
ならもう一回気絶させようか。
俺は男に歩み寄るが、再び水の刃を飛ばしてきたので弾く。
「化け物め!」
「まあ、否定はしないけど」
自覚してるからね。
俺は首をトンとすると、男は沈黙した。
「なんでそれで気絶させられるんですか……」
「できるからでしかないでしょ」
すると黒塗りの車が到着し、俺は強制的に乗せられた。
男も政府の人間らしい人にドナドナされていった。尋問でもされるのだろう。俺もされそうだけど。
車に乗った俺は霧島さんに尋ねる。
「霧島さん、俺はどこに連れて行かれるの?」
「対策室です」
「さっき話してた、なんちゃら対策室ね」
「超常災害対策室です。覚えてくださいよ」
ため息を吐く霧島さんは多分だけど、色々と苦労しているのだろう。
「覚えられたらね。で、なにするの?」
「検査と機密保持の誓約書です。検査はまあ、本当に異能者ではないのかという簡単なものです。それで機密保持ですが、私が所属している超常災害対策室は、政府の異能者を管理する秘密組織です。異能について、公になっていませんが、政府も認知しています。第三者と外部にもれないようにする誓約書です」
まあ、名称からしてそれしかないよね。
「理解できた。異能について聞いても?」
「はい」
霧島さんは異能について説明する。
異能は、特定の個人に生まれつき備わっている特殊な能力のことを言う。
この能力は、通常の人間には持ち得ない特異なものであり、様々な形態や特性を持っている。異能には、物理的な力や感覚の強化、火や風といった元素の操作、さらには幻影を生み出す能力など、多岐にわたるらしい。
そんな異能を扱う者だが、確認されているのは百人にも満たないらしい。
しかし、異能者はその能力を隠したり、普通の生活を送ることが多いため、正確な人数を把握することは難しいとされている。
「政府は異能者を管理するため、組織を設立しました。それが私の所属する『超常災害対策室』です。表向きは防衛省の自然災害対策室となっています」
秘密組織なら、擬装用の組織を用意するとは思っていたので驚きはしない。
「ですが政府に属さない野良の異能者もおり、確認されればすぐに派遣されて仲間にするといった感じです」
「ならさっきの男は? 攻撃してきたけど」
「野良の異能者で警戒して攻撃してくる人もいますが、アレは別です。所謂敵対組織の者です。敵対組織の名前は『夜天衆』」
わーお。敵対組織ときたか。しかも少しカッコいいと思ってしまったのはナイッショ。