好きだった幼馴染の彼女を寝取られた後、協力者の女の子と一緒に、幼馴染と浮気相手を纏めて盛大にざまぁしてやる話
19作目になります。
ざまぁする所を目撃するモブ視点です。
17作目に続く話になります。
幼馴染の友達カップルが破局した。
原因は色々あるけど、端的に言えば、彼女の浮気だ。
彼氏と少しの間、疎遠になった所で、イケメンの先輩に浮気した。
それでご破算になった。
俺は結局、何の役にも立ってなかった。
幼馴染カップルだった『香取 鏡花』と『坐間 健斗』は、俺こと『守山 克也』とは小学生からの付き合いだった。
二人は高校に入学してから正式に付き合いだしたが、その前からずっと一緒だった。
何時も一緒だから、まぁ妬けたよ。
『香取 鏡花』は、滅茶苦茶可愛い女の子だし、成績優秀、スポーツ万能、コミュ強、弁当すら自作出来る、完璧超人だ。
対して、『坐間 健斗』は、俺が言うのもなんだけど、フツーの奴だった。
いや、多分真面目に努力していたら、良い線行ってたと思う。
何にもしないから、フツーになっただけだ。
ただ、今でこそ完璧超人と言われている鏡花も、滅茶苦茶努力して、今では周りに注目される様になったんだから、健斗だってそうなる事は出来るのにな……と思う。
因みに俺は、一応俺なりに努力しているつもりなんだけど、勉強じゃあ一夜漬けの健斗とあんまり変わらないし、スポーツ……中学の部活では後輩にレギュラーの座を奪われてたりする。
正に凡庸の極みだな! ……はぁ……凹む。
そんな訳で、二人については格差がどうとか、結構外野が騒いでいたりする。
余計なお世話だし、関係ない奴等が好き勝手に言ってたりする。
一応、幼馴染の友人として、俺なりにフォローはしてるんだけど、中々難しい。
健斗がもう少しやる気を見せていれば、周りもガタガタ言わないだろうに……。
そうじゃないから、俺もヤキモキしたりする。
何で俺まで? と言うのも、俺は鏡花の事が好きだったからだ。
中学に上がって、女の子らしくなった彼女に、俺は恋をした。
ま、恋をした瞬間に失恋してるんだが。
そんな訳で、彼氏である健斗にはしっかりして欲しいんだよ。
俺の勝手な期待で申し訳ないけどさ、なんつーか、納得させて欲しいんだ。
健斗だから……健斗こそ、鏡花の恋人に相応しい男だっていう、納得が。
そう思いながら、健斗に努力を促してみたけど、俺の力では、健斗にやる気を出させる事は出来なかった。
そんなある日、健斗が鏡花にサプライズプレゼントしたいと言って来た。
鏡花に黙ってバイトをして、サプラーイズ! との事だった。
正直、俺は別にサプライズなんてしなくてもとは言ったが、健斗の意志が固く、結局俺はそれに賛同した。
これが、間違いの始まりだった。
鏡花と健斗はこれまでずっと一緒だったんだが、健斗がバイトをするようになってから、余り会わなくなった。
その所為で鏡花が不安になったらしい。
俺の所にも相談に来た。
サプライズを黙って欲しいと健斗に頼まれていたので、俺はあんまり気の利いた事を言えなかった。
忙しくて会えないのは分かるけど、なんかフォローしてやれよ、健斗……。
そんな日が続く中で、鏡花の友達が彼女を元気付ける為に遊びに誘ったりしていた。
俺にも何度かお声が掛かった。
最初は緊張したけど、皆良い奴等ばっかりだったので、俺も楽しく過ごせた。
でも、そんな中で鏡花は出会ってしまった。
イケメン先輩に。
まぁその先輩が本当にイケメンだった。
俺が女だったら絶対落ちてた。
健斗がこんな感じだったら、俺も鏡花の事をスッパリ諦められたと思うくらいだ。
それからも相変わらず、健斗はバイトで鏡花とも会って無かった。
その所為で鏡花も寂しがっていた。
こんなんでサプライズが成功するのかと、俺も不安になって来た。
そして、俺の不安は最悪の形で的中した。
ある日俺は鏡花に呼び出された。
多分、健斗の事で相談したいのだろう。
幼馴染の友人として頼られている事に、嬉しさと寂しさを感じながら鏡花の元を訪れた俺は、そこで衝撃の告白を受けた。
鏡花が先輩の事を好きになってしまった。
以前に会って以降、友達を通して何度か会っていた二人。
その内、二人だけで会うようになっていた。
『浮気じゃないか、それ』と俺は思ったし、健斗に対する裏切り行為をした鏡花が信じられなかった。
そりゃあ、健斗にも鏡花を放置していた落ち度があったけど、あいつは鏡花の為にバイトを頑張っているんだから、そりゃあねーよと思った。
もうこの期に及んで、サプライズの事を黙ってる事は出来ないから、俺は真実を告げようとした。
そこに、先輩が割って入って来た。
最初からいたらしい。
気を使って、俺と鏡花の二人で話し合って貰いかったそうだが、俺がテンパって声を荒げたから、先輩が出て来たそうだ。
その後、先輩から事の経緯を告げられ、鏡花の意志も固かったので、俺は情けない話だが、何も言えなかった。
その日の夜、頭の中がゴチャゴチャになった俺は、少し冷やす為、昔よく遊んだ公園まで、足を延ばした。
そこで、鏡花と健斗の別れ話に遭遇するんだが。
咄嗟に隠れて様子を見る。
そこで、俺は鏡花の本当の想いを聞かされた。
鏡花は健斗に褒めて欲しいから、これまで一生懸命頑張って来た。
勉強もスポーツも、ファッションも、女の子らしい仕草に、料理、健斗と楽しくお喋りする為の話題など、色々頑張って来た。
でも、健斗はそんな鏡花に対して、ぶっちゃけると塩対応だった。
確かに鏡花に話しかけられても、相槌を打つだけだし、健斗から楽しくお喋りしようとしている所を、俺は見たことが無い。
鏡花の手作り弁当を貰う時に感謝や、食べた後の美味しかったって感想も、聞いたことが無かった。
鏡花は健斗に褒めて欲しい、喜んで欲しいと思ってやった事に対して、健斗がそれを返した事なんて、記憶になかった。
何時もの当たり前の風景だと流していたが、それは本当はおかしい事で、鏡花には思う所があったのだった。
それで、先輩と会う内に健斗との違いに気付いて、そして……先輩の事が好きになってしまったそうだ。
そんな鏡花の想いの吐露に対して、健斗は『言わなきゃ分からない』と返した。
なんかもう、絶句した。
その後は健斗がこれまで見た事に無い形相で、鏡花を裏切り者とかクソ女と詰って、プレゼントを投げ付け、何処かへ行ってしまった。
鏡花も先輩に支えられて、帰路に着いた。
俺は、どちらにも声を掛けられず、ただ右往左往していた。
その後、先輩もいるし、一度話を聞いている鏡花に会う事も出来なかった俺は、健斗に連絡をした。
電話には出なかったから、メッセージで俺なりに励ましや、気晴らしにどこかへ出掛けないかと誘ってみたけど、全部既読無視された。
まぁ、仕方なよな……。
健斗のクラスメイトの友人にも話を聞いたけど、向こうも全然駄目だったみたいだ。
俺って何の役にも立ってないな……。
それから新学期も始まり、二年生へと進級した。
俺のクラスでは、男共が喝采を上げていた。
ザマーとか、健斗の苗字に掛けて騒いでいる。
健斗の幼馴染である俺の前でやる事か?
少し嫌な気分になる俺を尻目に、クラスの友人達ははしゃいでいる。
「お前達って、なんでそんなに喜べんるんだ? そんなに健斗が嫌いなのか?」
「ああ、そうだよ?」
「嫌いだからメシウマなんだって」
「……え?」
「え?」
「え?」
正直、驚いた。
そりゃあ、健斗に対してやっかむ声は多かったけど、健斗を本当に嫌っていて、ネタ抜きに別れた事を本当に喜んでいたなんて思わなかった。
それから話をしている内に、俺自身健斗に対してどう思ってたか、良く分からなくなっていた。
俺は前から、周りの奴等が鏡花に健斗は釣り合って無いとか、なんであんなヤツが鏡花と付き合えるんだとか、言われる度に、昔からの付き合いや、健斗にも良い所はあるんだって言ってた。
でも、いざ健斗の良い所は何処か具体的に答えろと言われた時、咄嗟に思いつかなかった。
思い付く事と言ったら、優しい所とか、やる時はやる奴とか、そんな辺り障りのない答えだけだった。
でも、普段の鏡花への態度に、優しさはあったか? やる時はやるって言ったけど、それってつまり、普段はやらない奴だって事だ。
友人達の健斗に対する評価が低いのは、嫉妬も大いにあるだろうけど、健斗が鏡花の彼氏としてしっかりやっている様に見えてないからだ。
じゃあ、彼等よりも二人に近しい俺の目からして、健斗への評価が上がる様な所あったかというと、無かった。
精々、サプライズプレゼントの為のバイトくらいだ。
それも裏目に出て終わったけど。
「はーーー、やっぱりな! 俺の思った通りだ! そりゃあ、浮気されてフラれるはじごーじとく、インガオホーって奴じゃん!」
「完全同意。つーかさ、それでアイツにも良い所があるって、本当に唯の冗談にしか聞こえないぞ。悪いけど、お前の目って節穴過ぎん?」
「返す言葉もねーよ……」
正に俺の目は節穴だった。
それなりに長い時間近くにいたのに、俺は全然何も分かっていなかった。
もっと早く色々気付いていれば……。
この時、二人の仲を支えられたと思うよりも、自分が鏡花と付き合える事が出来たかもしれないなんて、そんな考えが過ぎる時点で、俺も大概なクズだった。
目の前で健斗の不幸を喜ぶ友人達の事を、呆れ顔で見れる立場じゃない。
その上、先輩が相手じゃあもう絶対勝てないなんて諦めている。
この時、俺の中で初恋が完全に終わった事を実感した。
部活の朝練の朝練の為、朝早くに俺は学校に着く。
何やら周りが騒がしかった。
先生達がチラシの様な物を回収しているようだ。
「おい! 守山! お前、これを見たか?」
部活の先輩が、俺にそのチラシを見せてくれた。
俺はそのチラシに、とんでもなく驚いた。
チラシには、男女カップルの写真が印刷されていた。
そのカップルは、鏡花と先輩だった。
ハッキリ分かる位に綺麗に映っていた。
それだけならどうってことは無かっただろう。
問題は、その二人の後ろの背景が、どう見てもラブホテルだった事だ。
要は、二人が不純異性交遊をしていたという、証拠写真だった。
写真は複数あり、俺が見たのは二人が恐らくは、ラブホテルから出て行く所だ。
他にも、入って行こうとする写真。
歓楽街を二人で歩いている写真があった。
後ろ二つは、顔は見えないが、服装は出て行く時と同じだし、間違いなく二人の写真という事が分かる代物だった。
当然ながら、大問題となった。
この件で先生方が忙しく動いていた。
誰がやったかは分からないが、学校でも優等生として知られる二人の醜聞で大騒ぎとなる。
そして、そんな混乱の渦の中、断罪劇が始まった。
渦中の人物である鏡花と先輩は何故か校舎裏にいた。
この時はどうしてそこにいたのかは分からなかったが、後で健斗に呼び出されたと聞かされた。
周りには大勢の野次馬もいた。
そして、健斗もまたそこにいて、鏡花達と対峙していた。
「はっ! 何だよこの写真はよっ! 浮気して直ぐにベッドインか? この尻軽のクソビッチが!」
そう鏡花に罵倒を浴びせるているのは健斗だった。
ただ、俺には一瞬誰かは分からなかった。
混乱している事もあったが、健斗の見た目が大分違っていたからだ。
ボサボサだった髪は奇麗に整えられ、雑誌のモデルみたいな髪型になっていた。
眼鏡も外している。
恐らくはコンタクトを付けているのだろう。
ラブホテルの写真を突き付けられた鏡花達の顔は、青褪めていた。
更に、多くの野次馬に囲まれているのだから、半ば恐慌状態だろう。
それでも、先輩は鏡花を庇う様に前に立った。
「あ~、何? ナイト気取り? こんな事やっといて、随分とカッコイイですね、先輩?」
嘲るように先輩を煽る健斗。
「……な、なんで、こんな事を……」
絞り出すようにして声を出す先輩。
「はぁ~? 知りませんよ。僕はもう一度ちゃんと話をしようと思っていただけですよ? なのに、こんな写真が出回ってるんだから、僕こそアンタらはナニしてんだって話ですよ?」
健斗はそう言うが、本当に偶然かよ?
狙ってやったとか思えないタイミングだ。
大体、話をするんなら放課後とかあるだろ?
何だってこんな皆が来る時間帯で、話なんかするんだよ!
しかも、こんな写真がバラ蒔かれた日になんて。
「てかさー、信じらんないよ。僕がプレゼントの為にバイトをしていた時にさ、二人は浮気してさ、こんな事までしているなんて!」
何と言うか、妙に芝居がかった台詞だ。
いやでも、なんかおかしいぞ?
順番が合ってないんじゃあないか?
「待ってくれ、それは……」
「良い訳すんなよ! ヤリチンのサイテー男が! お前等が浮気してたのは本当の事だろう! 付き合ってる男がいるのに手を出してさ! 鏡花! お前もそうだ! ちょっと会えないからって、簡単に股開きやがって! 腐れビッチがッ!」
「ッ……」
健斗の言葉に鏡花が悲しそうな顔をする。
「は? 何被害者みたいな面してるの? 浮気された僕の方が被害者なんですけど? ……薄汚い淫売の浮気女が! お前みたいな奴が、ワザとらしく可哀相なフリなんかするなよ! ホント、クズだな!」
聞くに堪えない罵声が続く。
これがあの健斗なのか……?
あの夜、健斗が別れ話をされた時にも確かに鏡花達を口汚く罵ったが、あの時は裏切られた怒りとか、悲しみとか、悔しさとか、そういうのを感じられた。
でも、今の健斗の罵声には、愉悦が感じられた。
本当に悲しくて悔しかっただろう、あの時の感情が読み取れない。
実際に、鏡花達を罵る健斗の顔は、明らかに嗤っていた。
見下し、嘲笑する貌だった。
あの時、暗がりの中で見えた、形相とは全く違う貌だったのだ……。
「お前の様なクズの最低女に、これまで付き纏われていたのは、本ッ当に不快だった! 僕の時間を返して欲しいよ! 毎回ゴミみたいな物を食わせやがって! アンタもだ! 何が優しい先輩だよ! タダのサルじゃないか!」
浮気をしたのは確かに悪い事だけど、だからって言い方って物があるだろう!
今まで一途に尽くしていた鏡花に対して、何て言い草だよ。
それに、こんな衆人観衆の前で晒し者にするか?!
鏡花は項垂れていた。
肩も震えている。
先輩も口を結んで、健斗の暴言を耐え忍んでいた。
半ば思考停止していた俺だったけど、これ以上は黙って見てられない。
俺は人込みを掻き分けて、鏡花達の所に向かおうとした。
これ以上健斗に暴言を吐かせないために。
健斗だって、感情がおかしくなって、こんな事を言ってるのかもしれない。
冷静になったら、健斗も自分の言った事を後悔するかもしれないんだ。
そう思って進もうとするも、ぎゅうぎゅう詰めで、中々前に行けない。
結局俺が、人ごみの中から出る頃には、健斗も言いたい事を全部言い終わり、退散する所だった。
知らない女の子が、健斗の後ろをそっと付いて行ったのが見えた。
俺は大声で健斗を呼び戻そうとしたが、その頃に先生方が集まって来た為、結局俺の声は、先生や周りの野次馬に掻き消され、健斗の耳に届く事は無かった。
諦めて鏡花と先輩に声を掛けようとしたが、先生方によって阻まれた。
二人は先生方と一緒に、職員室まで連行されていた。
それから騒ぎが落ち着いて、少しの時間が経った。
鏡花達の処分が決まった。
まず先輩だが、ほぼ決まっていた推薦の話が無くなった。
それに停学と、部活の退部もあった。
今回の騒ぎは、学校だけでなくPTAや県の教育委員会まで話が行ってしまったらしい。
あれだけ派手にやれば当然か。
その所為で、学校側で内内に処分をする事が出来ず、先輩はこれまでの積み重ねを失ってしまった。
鏡花に至っては、停学処分だけでは済まず、退学となった。
正確に言えば、自主退学後に他校への編入だ。
問題が問題なだけに、鏡花は学校にいられないだろうという配慮だそうだ。
それだったら、先輩もそうなるんだろうけど、三年生ということもあり、水際で止められたそうだ。
部活の件もあって、最後まで部員や顧問が抵抗したそうだけど、結局退部は免れなかった。
それに、先輩が所属していたサッカー部も当面は自粛する事になったそうだ。
あの一件の顛末が、これだった。
他にも色々と影響があったらしい。
先ずはサッカー部だ。
先輩ともう一人のエースの二枚看板で、今年こそは全国大会出場も狙えると言われていたが、先輩の退部で戦力が大幅にダウンしてしまった。
それに、部活の自粛もあり、インターハイに出られるかどうかも分からない。
現役もそうだが、新入部員にも影響がモロに出ている。
「あーあ、やってられねー!」
クラスの友人の一人が、盛大に愚痴を溢す。
彼はサッカー部だ。
部活の自粛で、暇を持て余しているそうだ。
各自自主練するくらいなら認められているが、皆、モチベが大幅に低下しているとの事だった。
「俺だけじゃ無いな。悲惨なのは先輩達だ。今年こそ全国! って時にアレだろ? んで、活動も自粛だ。それだけじゃあない。今年入った俺の後輩は、先輩に憧れてこの学校に入った奴なんだが、あんな事になっちまって、滅茶苦茶落ち込んでるよ……」
サッカー部は今、かなりの危機に瀕しているらしい。
それ以外にも影響を受けているのは、鏡花の友達グループだ。
鏡花は結構な人気者だった。
それ故に友人も多く、ほぼ全員がスクールカーストの上位陣だったりする。
鏡花達が不純異性交遊で処分されてから、グループは先生方から大分厳しい目で見られてるらしいし、他のカースト上位陣から結構やられているっぽい。
具体的には見下されてたりとか、鏡花の事で嫌味を言われている事とか、結構あるらしい。
人気がある分、アンチも存在しているので、そっちからの突き上げもあるそうだ。
「……別にウチらはどーって事無いよ。外野のアホ共の嫉妬ややっかみなんて、大した事無いしね」
特に強がりでも何でもないような態度だった。
「ただ、センパイやキョーカの事を言われるのは、ムカつく!」
「アイツら、人が弱み見せるとホントーに、嬉しそうに叩くよなー」
つい最近、似た様な事があったので、何て言ったら良いか分からない。
「ま、ウチらにも問題あったよ。キョーカとセンパイがお似合いだからって、二人が会う様にセッティングしたんだからね」
「あ、モリヤーには悪いけど、俺等、あのクソカス野郎と鏡花が付き合っていた事に反対だったからな。一回怒られて、鏡花に言わない様にしてたけど」
モリヤーとは、俺のあだ名だ。
守山だからモリヤーだってさ。
「あのカス、ホントありえねーよ! 浮気されて悔しいからって、あんな形で復讐するか!? 写真なんか知らないって言ってるけど、絶対アイツやってるよな!」
やっぱり皆、あの写真については健斗を疑っていた。
「浮気した鏡花が悪いって言ってもさ、テメーに甲斐性ないから、先輩に獲られたんだろ! プレゼント? バイト? 散々鏡花を放っていて、良く言うぜ!」
正直、浮気に関してはいくら先輩が魅力的でも、俺にはちょっと擁護は出来ない。
彼等からすれば、学生同士の惚れた腫れたなんて、当たり前の事なんだから、フラれるような奴が悪いって考えなんだろうけど……。
ここら辺は価値観の違いを感じる。
「モリヤー君はどうなの? どっちの味方なの?」
そう言われてドキリとする。
浮気した鏡花が悪いけど、鏡花の心情を考えると、結局健斗がしっかりしてなかったから、ああなったって思えてしまう。
でも、ずっと一緒にいた健斗を裏切ったのは、鏡花の方だし、それを責められるのは仕方が無い……とは思う。
「モリヤーさ、そろそろハッキリさせた方が良いぜ?」
「え?」
「モリヤーにとって、鏡花もカスも幼馴染の友達だから、どっちがどうとか言いにくいかも知れないけど、それでもあるだろ? なにか」
「俺はあのカス死ぬほど嫌いになったけど、モリヤーはどうなんだ? 鏡花にも悪いトコあったけど、それでもあそこまで滅茶苦茶にやられるだけのコトだったか?」
「それは……」
確かに鏡花には非はある。
先輩もだ。
だから、自分を裏切った二人を健斗が断罪するのは、分からないでもない。
でも……。
「俺は、鏡花達が悪い事をしたから……それで健斗が二人を恨むのは、仕方が無いと思う……」
周囲から微妙に失望した様な気配を感じる。
心情的に彼等は完全に鏡花の味方だ。
俺の言葉にガッカリしたんだろう。
自分達に付いて欲しい、そう思ってたんだろうな。
それでもやっぱり、裏切るような事を先にしたのは鏡花だ。
この点においては、非は鏡花達にある。
けど……。
「でも、でもさ! アレはないよ! やり過ぎだ! 大勢の前で晒し者して! 散々罵倒して! 幾ら許せないからって、あそこまでやるかよ! な、なんか上手く言えないけど、もっと何か別のやり方があっただろ! し、信じられねーよ! なんであそこまでやるんだ? 出来るんだ? 大体、浮気って言うけど、ちゃんと鏡花は別れを告げただろ! 健斗だってあの時、ブチ切れてたけど、別れを受け入れてた! なのに、後になってなんで、あんな……あんな事を!」
「ちょ、落ち着け、モリヤー!」
「深呼吸しろ、ほら、水飲め」
「はぁ、はぁ、はぁ……ゴメン。ちょっと訳が分からなくなった」
「いや、こっちこそゴメン。追い詰める様な事、しちゃったな」
「マジゴメン。ウチらちょっとやり過ぎたかも……こーいう所で、鏡花も追い詰めちゃったのかな……」
俺の所為で、お通夜の様な雰囲気だ。
それから暫く、誰も喋らない気まずい空気が流れた。
「……俺さ、鏡花から相談されたんだよ。健斗と別れた日の午前中に……」
「そうなんだ? 一体何があったか、聞かせてもらえるか?」
俺はその時の事を包み隠さず話した。
「なるほどね。俺等はあのカスと別れて、先輩と付き合う事にしたってくらいしか聞いてなかったから……」
「ウチらだったら、相談された時、絶対賛成するしねぇ……背中パンチしてるね」
……それは背中を押すって意味なのかな?
「でもさっき、気になる事を言ってたよな。あのクソカス野郎が別れを受け入れてたって、何で知ってるんだ?」
「いや、鏡花に相談された夜にさ、頭がゴチャゴチャだったから、冷ましに夜に出歩いたんだよ。で、昔よく遊んだ公園に行ったら、そこで別れ話にエンカウント」
「うわ……」
「タイミング良いのか悪いのか……」
「別れ話の時、鏡花が健斗に、今まで頑張って来た自分を褒めてくれなかったとか、これまでの不満を言っててさ、それで鏡花の事を良く見ていた先輩に靡いたって話だった」
「なるほどね……あのカスって釣った魚に餌やらんタイプ? 前からそう思ってたけど、ガチだったか……」
「ウチらからみても、鏡花ってめっちゃ努力してるの分かるから、そりゃ褒めて欲しいよね。愛しの彼クンに。アイツ最高にカスだけど」
「浮気されてもってか、普通に愛想尽かされてもおかしく無い案件だよね」
「皆ボロクソだな……まぁ、俺も普段から健斗が鏡花の為に何かやってるのを見た事が無いし、それが何時もの当たり前の光景として受け入れてたからな……何もしない健斗に小言を言うくらいが精々だった」
「モリヤー、大分感覚麻痺してね?」
「日常茶飯事で感覚が狂ったんだな」
「うん……今にして思えば、何時もの光景を仲良いなーなんて、のほほんと見てないで、もっとちゃんと鏡花に向き合ってやれって、念押しすれば良かったよ……」
「……多分言っても聞かないと思うけどな。『愚者に金言は無価値なり』だな」
「誰の言葉?」
「俺」
「格言ですらねぇ!」
ちょっと空気が緩んだ。
「まぁ、状況は分かったよ。そうすると、少し矛盾があるな。あの時のカスの言い分と、モリヤーの話にさ」
「だよね。あの時ってまるでカスがバイトをしている間に、キョーカとセンパイが浮気して、チョメってた風に言ってたけど、カスがバイト終わって、プレゼントを買った後に、キョーカは別れ話をしたんだよね」
「それは俺も気になった。健斗がバイトしている間、鏡花が先輩と二人で会ってたと言ってたけど、鏡花の言い分を信じるなら、普通に健全な奴のはず」
「いくら何でも、その時にベッドイーンは無いよね」
「……そうだな」
「そもそも、こんな写真撮ってるって事は、あのカスは事前に鏡花と先輩がそういう関係にあるって、知ってた事になるぜ? まず、そっからおかしいわ!」
「ああ、そうだな。鏡花が先輩と浮気するように泳がせたんじゃないかって思える」
「いや、実際そんな事あるか? そもそも鏡花が浮気に走るかどうかだって分からないし、健斗が鏡花と先輩が出会う事を把握してるってなったら……」
「この中に、あのカスと連絡を取ってる奴がいるって事になるな」
「!?」
「まさか……」
一瞬、剣呑な空気が流れるが、
「まぁ、それはないな。それをやるメリットが俺達にあるか? 実は鏡花が嫌いだった、貶めたかった、そんな事を考えている奴がいたなら話は別だけどな」
「ゼッテーねーし!」
「誓ってそれは無いよ」
「俺だってそんな事、絶対に無いよ!」
皆口々に否定する。
「まぁ、この件に関しては、もっと単純な話だと思う。多分だけど、あのカスは先輩と鏡花をより貶める為に、あんな風に言ったんだろ」
「どゆこと?」
「カスがバイトしている間、先輩と鏡花が二人で会ってたのは事実だろ? その時点で浮気と言えるけど、ただ遊んでただけじゃパンチが弱い」
「うん」
「浮気っつったらやっぱSEXよ! 健全な関係だったら、浮気がどうのこうの言っても、あのカスの普段の素行から、普通にフラれただけ、別に大した問題じゃあない」
「俺等からしたら、別になー。別れ話はしてんだし、その後他と付き合うくらい、別になんの問題もないな」
「あ~、だから、キョーカ達がガチ悪者になるような、キョーレツな証拠を見つけて来たってコト?」
「ああ、鏡花達の処分にだって関わるからな。不純異性交遊は」
「俺はあの処分に納得してねーぞ。幾ら校則だからって、心情的にはガチで無い」
「ウチも……今時アレくらいフツーっしょ」
「まぁ、俺等の考えは置いといて、やっぱバレたらヤバイ、案件なんだよ、不純異性交遊は……それもあんだけ派手にやられたら、学校側だって……な」
「チッ」
「……」
「話を戻すぞ。本来アレをビラ撒きするだけで、先輩も鏡花もアウトだ。やった方も本来アブねーんだが、それは置いておく」
「そーだよ、あのチラシはぜってーカスの仕業だろ! なんでアイツだけ注意で済むんだよ!」
「本人は否定してるからな。証拠も無い。それに、話し合いをしようとしたら、あんな写真を見つけちまって、激高したって流れだから、先生方も深く追求出来ないんだろ」
「クソザル過ぎてマジカスだし……」
「ムカツク話だ」
「話を戻すと、あのカスは自分が一生懸命バイトしている間、先輩達が浮気して、不純異性交遊までしている最低な奴等だって、周りにアピールしたかったんだよ。二人をガチの悪者にする為にな」
「で、自分は浮気された被害者だから、加害者の二人に対して言いたい放題、正義は我にあり! ってか、クソが……」
「良く知らない外野からすれば、完全に二人は最低の浮気者共だ、まったく、やってくれたよ……」
「信じられない……健斗がそこまで考えて、実行に移すなんて」
「そっか? アレが本性なんだろ。幾ら鏡花が浮気した裏切り者だからって、普通の感覚の奴はあそこまでやれねーよ。ビラ撒きまでならまだしも、更に大勢の前で罵声だぜ? 嘘まで織り込んでな!」
確かに、言われてみれば……。
「やられたからやり返す、倍返しどころじゃ済まさない。まぁ、そういう復讐は、やる奴次第だけど、俺達は学生だぜ? 付き合ってるって言っても、結婚してる訳でも無い。どんだけムカついたからって、相手の人生に影響を与える様な、ブレーキ壊れた苛烈な復讐を決めるなんて、それだけぶっ壊された奴か、元からそういう奴だったかのどっちかだ。俺は後者だと思うぜ?」
「ウチもそれ。大体、キョーカに今まで塩ってた奴が、フラれたからキョーカ達の人生ぶっ壊すって暴走する程、アイツキョーカのコトを愛してたの?」
「普段から大事にしているようにも見えなかったし、狂っちゃうほど鏡花に執着してたとは思えない。俺も後者に一票」
「……俺は……」
長い付き合いがあったからこそ、裏切られたのが許せなかった。
だからやり過ぎなまでの復讐をした……そう思っていたけど、何だか分からなくなって来た。
「つーかさ、別れ話した時、散々キョーカのコト悪く言ってたんでしょ? なのに後になって更に派手にやるとか、人間性ゴミクズっしょ」
「あのカスが二人を罵倒していた時の写真あるぜ? さっき送って貰った。見ろよコレ。心底楽しそうだぜ? 怒りでも憎しみでも、悲しみでもなくて、完全に愉しんでる顔だ」
「うわ、キモ!」
「……酷いなこれは。ドラマの悪役でも、こんな顔しないんじゃないか?」
この貌……そうだ、別れ話の時は多分悲しみもあったんだろう……でも、あの時とこの写真に写ってる健斗の貌を見て、俺も漸く目が覚めた。
アイツは、自分の中のどうしようもない感情を晴らす為に、鏡花達を断罪したんじゃあない。
ただ、愉悦したかっただけだ。
馬鹿にして、蔑んで、見下して嘲笑って、ただ鏡花達を貶めたかっただけ、それがやっと分かった。
俺の中でボロボロと崩れていた『坐間 健斗』の像は、今この時、完全に崩れ去った。
その後すぐに、健斗にはどういう訳か、新しい彼女が出来ていた。
見た目が良くなったというのもあるんだろうけど、鏡花を断罪して、そんなに時間が経ってないにも関わらず、直ぐに新しい彼女を作った健斗。
それも、鏡花に劣らない美人だ。
一体今までどこに居たのか分からないって、皆言ってたけど……多分、あの時に健斗の後ろに控えてた子じゃないか?
……そうか、彼女が協力者か。
別に根拠が無いけど、こんな早くに付き合うんだ、多分俺の予想は間違っていないと思う。
この後、健斗を嫌う連中や、関わりたくないと距離を置いた者達がゴマンと増えた。
少なからず健斗に同情的な者達も、健斗が直ぐに鏡花に代わる美人な彼女を作った事で、アンチに反転する始末だ。
尤も、怒らせたら何をされるか分からないから、以前の様にアレコレ言う奴はいない。
そもそも、見た目だけなら、健斗も十分に並べる位になってるから、その点では文句も言えなかったというのもある。
俺自身、健斗に対する見方が変わった事もあり、もう関わりたくないと思った。
あれだけの事をしておいて、自分はさっさと彼女を作っているアイツには不信感しかない……。
それだったら、鏡花達にあんな復讐する必要など、無かっただろうと、そう思った。
あの一件で、健斗達は周りから孤立しているようだ。
暫くの間は、新しい彼女と一緒にいたから気にしてなかった様だ。
元々、そこまで交友関係が拾い訳でも無かったし。
ただ、流石に誰からも相手にされていない現状は、気になるらしい。
「お前、最近ザマーと会ってるか?」
クラスメイトの友人に問われるが、
「いや、全然」
俺自身会う気になれないし、健斗からも接触がない。
完全に没交渉だ。
「最近随分冷たくなったな。やっぱアレが原因か?」
「そうだな、もう、アイツにはついて行けないよ」
「だよなー、アレはマジでねーわ。流石にやり過ぎぃ! ドン引きだぜ」
「ヤっちゃった二人が悪いのは、分かるけど、晒し者にして罵倒とか、ちょっと無理よなー。俺が同じ立場でも、多分あそこまでやれない」
「完全にブレーキ壊れてるよな。俺も思いっきり悪口くらいは言いそうだけど、あそこまでやれる自信は無いって。親が殺された訳でもねーし!」
「そう、だな。俺もそう思う。長く一緒にいた相手に、幾ら裏切り者と思っても、あんな事は出来ないと思う……まぁ、実際俺がやられた訳じゃないから、本当の所は分からないけど」
「いや~、無理じゃね? 普通に理性が止めるって!」
「大体、あんなことすれば、問題は当人だけじゃあないだろ? サッカー部ほか、滅茶苦茶影響出てるじゃん。周りのこと考えたら、そこまで踏み込めんって」
「こえーのは、アレだけの事をした当人が、なーんも関係ねーって態度で、しかもアレだ! メッチャ美人な子を彼女にしてるって、マジありえねー!」
「マジでマジで! ホントそれ! 新しい彼女出来るんだったら、香取への復讐をあれだけ派手にやる必要ねーだろ! フラれたのがマイナスでも、美人の彼女ゲットなら、最低でもプラマイゼロだろ!」
「アイツ以外、周りがとばっちり食らって、皆迷惑かけられてんだぜ?」
「それなのに、アイツだけ一人勝ちとかさー、理不尽じゃね?」
と、この様にブー垂れている。
「色々納得は行かないだろうけどさ、此処で管撒いても仕方ないだろ? アイツにはもう、関わろうって気にはならないし、心底どうでもいい」
「おーおー、以前とは大違いだな。俺等が何か言う度に、『いや、そんな事ないぞ? アイツにも良い所あるんだって』とか言ってたのに」
「お前もついに来たか……『こちら側』へ」
どちら側だよ。
「何言ってんだか」
呆れながら、俺は出掛ける用意をする。
「お客さん、どちらまで?」
「1組のとこ」
「ゲェーッ! セレブ組かよ!」
「そうだった! コヤツ、香取繋がりでセレブ一派だった! 裏切り者ぉ! お前は『こちら側』じゃなかったのかぁ?」
この学校は成績優秀者ほど、番号が若いクラスに集まるようになっている。
1組と2組が上位クラス。
3組と4組と5組が中位クラス。
6組が下位クラスとなっている。
あからさまだな。
なるべく学力の近しい者同士を集める事で、全体的に無理の無い教育を施すとか何とか。
ちなみに俺は4組だ。
……アイツは3組だけど。
「ホント、何を言ってるんだよ……皆、普通に良い奴らばっかりだぜ? 紹介するぞ?」
「「だが、断る!」」
「おい!」
「上級学生様とか無理無理無理無理ぃーーー!」
「劣等感に噛み殺されるわ!」
「お前らの謎の自信の無さは何なんだよ……」
「自慢じゃあ無いが、こんなんだから、ザマーに嫉妬してるんだよぉ!」
「自信満々で出来る奴だったら、そんな事はぁ、してないぜ!」
「そ、そうか……」
高校から付き合いだが、まだまだこいつ等が理解出来ない……。
気を取り直して俺は1組の所へ向かう。
正確には、いつもの面子のたまり場だけど。
「ああ、そろそろお前も気を付けろよー」
「そーそー、そろそろ孤立したザマが、お前に擦り寄ってくるかもよ!」
「……ああ」
嫌な気持ちになる。
正直暫く会いたくない。
つーか、今後も会いたくない。
もう、なんか無理だ。
教室を出た俺は、1組の皆の下に向かう。
鏡花がいなくても、ちょくちょく会って一緒に遊んだりする。
何で今でも変わらず交流してくれるのか、最初は分からなかったけど、
「? モリヤー君、普通に友達っしょ」
との事だった。
最初は鏡花達の事で、色々言っていたそうだから、鼻持ちならないエリート様みたいな偏見持ってたけど、別にそう言う訳でもなかった。
クラスの奴らだって、好き勝手言ってるけど、そんなに悪い奴らではないと思う。
良い奴らかと言われると、ちょっと……。
じゃぁ、アイツは……。
そう思っていた時、アイツが俺に声を掛けて来た。
腹の中でナニかが、モゾリと動いた気がする。
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