21.特級になれない?
目の前には今まで見た街より少し大きい町が広がっていた。塀が囲むように街を覆っている。
入口には門番が立っていて、人が並んで入るための検査を受けている。今までの街とはひと味違う。サーヤはそれを見て「へぇぇ」と感心していた。
「この街に用か?」
自分たちの番になると、門番が確認を取ってきた。
「そうです。この街は久しぶりです。娘を探してまして、この街に寄ったそうなので」
「ほう。なんという名だ?」
「マナと言います。探索者をしていました。最近行方不明になったそうです。容姿はこの子と同じくらいの背で、ピンクの髪に彫りの深い美人なんですが……」
「……なんと! あなたの娘さんでしたか! マナ様は私達の街の子供が誘拐された事件を解決していただきました! 感謝してもしきれません。しかしですな。最近また誘拐事件がありましてなぁ」
「ギルドに依頼は?」
「出しております! 念の為ギルドカードを見せて頂けませんか?」
ギルドカードを見えるように目の前に提示すると目を見開いた。
「こ、この目で見ることができるなんて……失礼しました! 特級のお方とは知らず! どうぞ! お入り下さい! お連れ様もどうぞ!」
兵士は頭を下げながら先に入るように促してくれた。こういう時に特級は待遇がいいから助かる。
後ろを歩いているサーヤとヤマトも得意げだ。まぁ、ヤマトもギルドカード復活させれば特級になるんだろうけどな。
とりあえず、ギルドへ行くことにした。窓口に行きヤマトのギルドカード復活をお願いする。
「たしかに記録はあるみたいですが、引退した方をいきなり特級にはちょっと……」
「えっ!? 俺は特級で登録してもらいましたよ!?」
「そうするには、ギルドマスターの権限が必要なんです。ギルドマスターは忙しい方なんです。一度引退して歳も取ってますし、再登録するなら上級からです」
「なんとかならないですか?」
ヤマトも特級にしておかないと依頼が受けにくい。
ギルドの依頼は特級を受けるには等級の荷重によって受けられる依頼が違うのだ。特級と中級ならギリギリパーティランクが最上級になり、特級の依頼を受けていいことになる。
だが、ヤマトまで上級になるとパーティランクが上級になってしまう。そういう仕組みなのだ。
「まぁ。いいんじゃねぇの? こんなおっさんに特級の依頼は無理だって、受けられないっていうんだろ? 実力があるとしても?」
「実力があるかなんて、わからないじゃないですか?」
「そりゃあ、ねぇちゃんにはわからねぇだろうよぉ?」
ヤマトが窓口のギルド職員に食って掛かっている。
「やめましょうよぉ。仕方ないですよ」
「でもな、サーヤ、俺達が特級の依頼を受けないと困るのはギルドの方なんだ」
サーヤにさとすようにそれを教える。そう。困るのはギルドのはずなのだ。誘拐事件も下の階級の者たちが失敗しているようで、依頼のランクが特級に指定されていたのだ。
「どうしてもギルドマスターに会えないかい?」
「もう! わかりましたよ! 聞いてきます!」
その女性職員は奥へと消えていった。最初から聞いてくれれば早かったと思うんだが。
この街のギルドマスターか。一体どんな人だろうな。
しばらくすると大柄の同い年くらいのおっさんが歩いてきた。
「ハッハッハッハッ! 本当に鬼拳と防獣がいらぁ!」
俺達のことを知っているようだ。
ヤマトが防獣の異名を持っていることも知っているようだ。
「俺達を知っているんですか?」
「いやー、俺達の年代でガイルさん達を知らない人はいないでしょうよ。俺達の憧れですから。七大罪具は健在ですか?」
「えぇ。これと」
俺は赤黒の腕輪を見せ、ヤマトに目配せする。
「これがそうだ」
ヤマトもネックレスを指さす。
「なるほど。くっくっくっ。嬉しいですよ。会えるなんて。現役に復帰するんですか?」
「俺はしたんだ。娘を探すためにな」
「娘さん?」
「マナという」
「マナっていうと誘拐犯を捕まえてくれた英雄のことですかな?」
「あぁ。そうらしいな。門番から聞いたよ」
「おぉ。あの子があなたの娘さんだったんですか!? 凄いこともあるもんだ! また依頼が出ているんですよ」
「それを受けようとしたんだが、ヤマトを特級にできないと言われてな?」
そこまで話してなぜ揉めているかを伝えた。
「それはすみませんでした。この子はまだ若く、あなたたちを知らないので」
「すみませんでした!」
対応してくれた女性が頭を下げている。
「いや、いいんだ。ギルドマスターを呼んでくれてありがとう」
俺は極力優しくそう口にした。
「じゃあ、俺様は特級でいいんだな?」
「はい。その雰囲気で強さはわかります。いつまで現役でやるつもりで?」
「この旅が終わったたらまた引退するわな? なっ? ガイル?」
急に振られたので驚いた。
「あ、あぁ。そうだな。娘が見つかれば連れ帰ってまたのらりくらりと生活するさ」
「いやぁ。すごい。誘拐事件も受けてくれるんですか?」
「あぁ。娘も受けたんだ。俺達を受けるさ」
「有難う御座います!」
こうしてヤマトは特級に返り咲き、俺達は誘拐事件を追うことになったのであった。




