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第7話 決闘の果てに


「お兄様にお姉様、私と決闘してください! なの」

「決闘ってことは、模擬戦的なやつか?」

「そうなの」

「私たちは、構わないよ」


 ユリウスとアリサが頷く。


「ルールは、急所への寸止めもしくは、相手の頭を軽く叩くって感じでいいか?」

「それでいいよ」


 イリヤがルールに了承すると、ユリウスとアリサの二人がどっちが戦うのか言い合いが始まった。


「お兄ちゃんは、ゆっくりしてて。私が戦うから」

「何を言うか妹よ。戦闘といったら俺!つまり、俺が戦うべきなのだ」


 不毛な言い合いに、ギルとイリヤが目を棒にして、見守っていた。


「私は二人と戦いたい!」

「「…………」」


 イリヤの一言が、不毛な戦いに終止符を打った。

 二人が顔を合わせると、笑い合う。


「じゃんけんで先行を決めるか」

「さんせ〜い。じゃあ、いくよ!」


 最初はグーの掛け声と共にじゃんけんが始まるが、互いに動体視力が良すぎて、決着がつかない。

 そして魔法で偽装することで、互いに手を隠す。

 偽装が解け、互いの手が出る。

 ユリウスがチョキで、アリサがパーであった。

 よってユリウスが先に模擬戦をすることになった。


「距離はこれだけ離れれば十分かな」

「私はいつでもいいなの」

 

 二人が距離を取り、向き合う。


「アリサ、審判よろしく」

「わかったよ〜」


 アリサが二人を交互に見やり、二人が頷くのを確認した。


「はじめ!!」


 その合図と同時に動いたのはイリヤだ。

 ユリウスは、一歩も動かずその場に立っていた。

 剣も構えずに。


(やっぱりお兄様は、私が見えてないなの。さっきのは偶然。だって、この戦いがそれを教えてくれてるんだもの)


 イリヤがユリウスの背後に回り込み、素早く剣を振る。


(もらった! なの)


 だが、次の瞬間、イリヤは空を見上げていた。

 そして頭部にあまり痛くない痛みを感じた。


「え?」


 そのままイリヤは、地面を倒れた。


「まだまだだな。勝利したと確信した時に、一瞬気が緩んでたぞ」


 イリヤが何が起きたのか理解出来ず、立ち上がる気配がない。


(確かに勝利を確信して気が緩んだけど、でもそれで負けるはずが……一体何が起きたの? )


 イリヤが呆けている間に、アリサが勝利宣言をする。


「お兄ちゃんの勝ちー! 流石だね」

「だろ」

「イリヤもいい線いってたよ」


 そんな会話をしていると、納得がいかないイリヤが再戦を宣言する。


「もう一本なの!」

「いいよ~。じゃあ次は私が相手するよ」


 そういうとアリサとイリヤが互いに距離を取る。

 今度は、ギルが開始の合図を出した。

 開始の合図とともに、イリヤが先に動く。

 横なぎの攻撃から始め、繋げるようにして連撃を繰り出す。

 だが、その悉くをアリサは避ける。

 しかも紙一重のタイミングで余裕そうに。

 一テンポ遅らせ、イリヤが突きの攻撃をするが、これも最小の動作で躱され、連結するようにすぐに他の剣技を使うが、綺麗に受け流される。

 そして受け流しと同時に素早い動作で、アリサがイリヤの頭部を優しく叩いた。


「ひゃん……」


 可愛い小さな悲鳴をイリヤが上げる。


「攻撃が素直すぎだよ。もしかして、実戦はあまりやったことがないの? 例えば今のような対人戦闘とか」

「うん。だって、先生達は今の私よりも弱いから」


 今のイリヤにとっては、もう家庭教師たちの攻撃はゆっくりに見えてしまうのだ。

 経験の差を圧倒するほどの才と、努力によって得た動体視力と見切りの技能によって。


「なるほど。確かにね」

「それよりも、もう一本なの!!」


 ここまで来たら、意地でも一本取りたがっているイリヤ。


「じゃあ、次は俺だな」


 ユリウスとアリサが入れ替わる。

 そして少ししてアリサが、開始の合図を出した。

 最初に仕掛けたのは、またイリヤだ。

 初手から連続攻撃を行う。

 初撃は下段から行い、そのまま刃を返し横薙ぎをし、勢いに任せて左斜め上へと切り上げた。

 その後も今ある連撃系の剣技、そのすべてを使った。

 だが、ユリウスはその悉くを全て受け流した。

 そして連撃が途切れた一瞬の隙を突いて、イリヤの頭を軽く叩いた。


「まだまだだな。連撃はいいけど途切れた瞬間の隙を補える技を作っておくといいぞ。それとまだ動きが素直すぎるな」

「な、なんで……なんで勝てないの」


 悔しがるイリヤに、ユリウスがアドバイスを送る。


「俺はスキルがないから、『そろそろ現実を見て』、みたいなことを言うか思い知らせるためにやってるのかもしれないが、ただスキルがないから弱いなどと侮ると、痛い目を見るから気をつけた方がいいぞ」

「なんでそんなに強いの?」

「経験の差と積み上げた時間が違うからかな。イリヤ、お前はギルと同様に筋がいい、だから慌てずとも強くなれるぞ」


 なぜ強いかをイリヤに告げる。

 かつて自分たちが、通った道でもあるからだ。


「でも……スキルが無くてそこまで強いのは幾らなんでもありえないなの」

「さーな。それは俺にもわからない。一つ言えるのは、見かけの情報を鵜吞みにするなってことだな」


 ユリウスが「まあ、嘘だがな」と心の中で呟く。

 スキルがない原因の候補は、幾つかあり、その中でも可能性が高いものにユリウスとアリサはあたりをつけていた。

 無論、二人が話し合ったわけではなく。

 これまでの経験と魔法の研究結果から、二人は同じ結論に辿り着いただけだ。


(まあ、実際に強い理由は、前世の戦闘経験とかだろうな。イリヤとは積み上げた年数が違う。それにスキルについても、恐らく転生前の文明の道具を使えば何かしら出てくるだろうしな。これ言うと面倒な子ことになるから、今は言わないが)


 ユリウスが自分の世界に入っていると、再びイリヤが再戦を申し込んできた。

 もちろん、アリサと交代になるが。


「もう一本なの」

「いいよ~。いくらでもかかってきて」


 ギルがまた開始の合図を出す。


(これならどう?)


 イリヤが心の中で呟く。

 そしてイリヤが、一気に距離を詰める。


「――暗殺剣……なの」


 イリヤが小さく呟くと同時に剣が消えた。

 否、消えたように感じるだけだ。

 暗殺剣は剣の気配を消すことにより、ほんの一瞬消えたように感じさせ、剣の間合いを瞬間的に狂わす技。

 速攻で、なおかつ、初見の剣の間合いだと効果は高い。

 そして相手を音もなく仕留めるための暗殺に使われる剣技でもある。

 暗殺は気配を消さなくてはならない。

 そのため剣や短剣を振るう時も、気配が出てはいけない。

 故に、その時に使う技でもある。

 イリヤは、この技を三週間以上かけて習得した。

 本来はもっと長い期間を掛けて、気配を断つ訓練を積んでやっと習得できるものなのだ。

 その過程を飛ばして、イリヤは習得した。

 どれだけの才があるかは、もはや見ればわかるだろう。


 だが、アリサはその一撃を軽く体を捻ることで躱した。


「え!?」


 イリヤは、躱されたことへの驚愕を隠せなかった。

 困惑の表情が出てしまう程に。

 躱されたが、イリヤはすかさず連続で攻撃をした。

 しかし、アリサはそれをすべて受け流す。


「ぬるいよ」


 そういうと軽くイリヤの頭を叩いた。


「……剣の間合いが読まれている相手に、その技を使うのは良くないよ。それは不意打ちや縮地からの攻撃に使うのがテンプレだから」


 今回の模擬戦でも、イリヤにアドバイスを送る。

 それはイリヤを鍛える意味も込めていた。


(なんでこの技についても知ってるの? 年齢を考えると、私より経験はあったとしてもありえないなの。しかも、おねえちゃんは、私と同い年なのに……。でも、次の技ならきっと一太刀入れられる)


 イリヤは、もう心の中では自分は負けたのだと悟っていた。

 だが、せめて一矢報いたかったのだ。

 そして次の一撃には、絶対の自信があった。


「もう一本なの」

「なるほど。次で決めるつもりなのかな」


 イリヤが浮かべた不敵の笑み。

 それを見て次で、決めに来るとユリウスが予想した。


「さぁ、どうだろうね。お兄ちゃん」


 ギルはその会話を聞き、合図の準備をしていた。

 そしてユリウス達が距離を取ったのを確認すると、開始の合図を出した。


「――天罰の剣!」


 イリヤが技名をいうのと同時に、枝を上段に持ってきた。

 すると、枝に光が集約され始めた。

 そしてその光が完全に収束し、それを振り下ろそうとした瞬間、アリサは仰向けになっていた。

 振り下ろす瞬間に、ユリウスがアリサの足を払い、枝をはじき、そして体勢を崩して後に軽く頭を叩いたのだった。


 気がつくとイリヤは、仰向けになって倒れていた。

 イリヤは、何をされたのかをすぐに悟り負けを認めた。

 天罰の剣は、今のイリヤの集大成であった。

 今日に至るまでの間、鍛錬を積み習得したものであるが故に、負けを認めざるを得なかった。


「参ったなの」

「最後のは良かったぞ。だが、大技を使うために動かなかったのはいただけないな。それとその天罰の剣は、まだ未完成だからもっと鍛錬を積め。個人的には先に星の剣あたりを習得するのを進めるが、そこまで形になってるなら近い内に完成に近いものにするのがいいとも言っておくぞ」


 ユリウスの一言を聞き、イリヤは驚いていた。

 なぜなら、完成しているものだと思っていたからだ。

 そしてイリヤを教えていた家庭教師達も、完成だといったためでもある。


「え!? だってみんな完成だって言ってたなの」

「それは違う。天罰の剣はもっと火力がある。例えで言うなら竜種の中位種くらいなら難なく屠ることができるぞ。そしてこの技は、天使がよく使う剣技だしな。まぁ、剣をメインで使うやつらだけだがな」

「そうなの!? そんなすごい技なんだ。でも、なんで知ってるの? 本にも書いてないのに」


 当たり前の疑問を言った。

 この時代では、天使なんて降臨したことがほとんどないからだ。


「あ、いやー、まぁ、うん。とりあえずその技は未完成だ。もっと経験を積めば、その技がどれほど凄いか分かるぞ。それまでは精進あるのみ」


 とりあえずそれっぽいことを言って、その場を乗り切ろうとするユリウス。

 そんなユリウスを見て、助け船がてらにギルが話掛けてくる。


「流石だねユウ。あの大技を捌くとは」

「なーに。発動までの時間が長かったから出来たんだ。そう言えば、お前らちゃんと自己紹介的なのしてなくね」

「言われてみれば。じゃあ僕からやるね。僕はギルバート=エス=メイザースよろしく。後、僕のことはギルって呼んでくれるとありがたいかな。みんなから、そう呼ばれてるから」


 ギルが先に自己紹介を始めた。

 それにならい、アリサが続いて自己紹介をした。


「私はイリヤ=エル=アルバートなの。よろしくお願いしますなの」

「ってことは、イリヤはユウとアリサの妹かな。もしかしてアリサの姉だったり?」

「ちがーう。私がイリヤのお姉ちゃんなんだから」

「あはは。ごめんごめん」


 アリサが全力で否定した。

 なぜなら、ギルがイリヤの方が姉に見えると顔に書いていたからだ。


「まあそんなわけで、俺たちの妹だ。よろしくしてやってくれ」

「うん。二人よりも礼儀正しそうだね」

「「失礼なことを!」」


 アリサとユリウスが息を揃えて言い返した。


「ギルにぃは、お兄ちゃんと何してたの?」


 イリヤは尾行したあと、ユリウス達が剣の素振りをしていたのを見て、疑問に思ったことを口にする。

 何となくは答えはわかってはいたが、それでも聞いてみたかったのだ。


「……ユウ達と剣をぶつけて稽古的なのを毎日してるんだ。でも、まだまだ追いつかないけどね」


 ギルは苦笑しながら答えた。


「……ねぇ、私もこれから参加していいかな? なの」

「僕はいいけど、ユウとアリサがなんて言うか次第かな」


 するとユリウスへ視線が集中した。

 ユリウスは「はぁぁ」と溜め息を吐き頭を掻いた。


「私はいいよ~。大歓迎だよ!!」

「別にギルが構わないなら、俺も願ってもないことだけど……勉強の方は大丈夫なのか?」

「うん。夜に予習とかして間に合わせるから大丈夫なの」


 イリヤは、「ちょっと大変だけど」と心の中で呟く。

 その様子を見てユリウスはしゃーないという感じで、イリヤに提案をした。


「なら、夜に俺の部屋にこい。勉強とか教えてやるから一人だと大変だろ。どうせ、アリサも来るだろうしな」

「当たり前だよ!」


 イリヤが驚いていた。

 まさか、そんな提案をされるとは、思っていなかったようだ。


「え!? いいの……だって、お兄ちゃん達にその……あんな態度しちゃったのに……」

「アリサ、お前は俺たちの妹なんだぞ。妹が大変なら兄として手伝ってやりたいし、別にさっきみたいなことをされても気にしないぞ。俺にとっては、妹の可愛い我がまま的な感じで捉えてるから。そしてあまり遠慮するなよ。妹ならドンと、兄である俺とかにも大いに甘えてくれ。アリサもその方が大喜びするぞ。な?」

「イリヤが甘えてくれるなら、お姉ちゃん的にはすごーく嬉しいよ!」


 アリサが満面の笑みで言う。

 ユリウスは、少し照れくさそうにしていたが。

 二人とも、甘えてほしいという願望が混じっていなかったわけではない。

 そんな三人の様子を、温かい目でギルが見守る。


「うん。わかったなの。じゃあ、これから色々教えてね」

「おうよ」

「任せなさ~い」


 ユリウスとアリサが、嬉しそうにしている。

 イリヤは、ギルにふと思ったことを聞いた。


「そう言えばギルにぃはここにいても大丈夫なの? 勉強とか」

「僕は、そういうのはあまり受けてないから大丈夫だよ。だいたいは剣の稽古とかだから、今とあまり変わらないかな」

「羨ましいなの。私は、ずっと勉強と稽古で自分で稽古する時間はあまりないなの」


 イリヤが羨ましいものを見ている目をしていた。

 そしてユリウスは、前から疑問に思ってたことを聞いた。


「そういえば、兄さんは次期領主になることが確定してるから、結構面倒な勉強してたけど、アリサはなんでだ?」


 聞かなくても何となく答えは、わかっていた。

 だが、興味本位で聞いてしまう。


「私は、昔のお兄ちゃん達みたいに期待されてるなの。だから、自分の時間もほとんどないくらいにやってるんだ」


 イリヤが、少し暗い表情をした。

 どこか疲れているようにも見える。


「なるほどなー。……確かにあれは、お前にとってはまだきついかもな。俺はもうだいたい分かってたから、すぐ終わってたけど。……なら母さんに頼んでみるか。流石にそこまで鬼ではないと思うからな」

「いいの? だってそれはお兄ちゃん達だと大変なことなんじゃ……」


 現在のユリウスとアリサはスキル無しの烙印のせいで、下手に両親と会話することもできない。

 何せ、この国の英雄の血を引く者として見られるため、貴族からの圧などが酷い。

 その結果、領地民や屋敷の使用人たちと話す以外のことはなるべく避けているのだ。

 いつどこで見られているかわからないからだ。

 近くに誰か居れば、この二人ならすぐに気が付くが。

 とは言っても、全く話さないわけではない。

 客が来るときの前後は疎遠のフリをするみたいな感じではある。

 だから、ユリウスが「手は既に考えはある」と言った。

 それを聞きイリヤは、小首を傾げた。


「そんなの簡単だ。ばっくれてサボればいいんだ」

「ばっくれるってなに?」


 イリヤが聞きなれない単語を聞き不思議そうに質問した。

 それにアリサが簡単に答えた。


「……えーと、簡単にいうと逃げるとか、どっかいく的な意味のはず。ざっくり言えばサボるってことだね!」


 ちゃんと考えてみたら、意味はわかるが言語化できず、勢いで逃げる。


「なるほど?」


 イリヤが何となく理解したようだ。


「でも、サボるのは良くないと思うなの」


 イリヤが正論を言ってきたため、ユリウスとアリサが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「まぁ、勉強量を減らしたいっていうなら、行動で示した方がわかりやすいだろ」

「論より慣れろってやつだね」


 アリサの発言にギルがツッコんだ。


「多分、それは違うと思うよ」


 苦笑いをしながら言った。


「でも……」

「自由の時間が少しでも欲しいんだろ」

「……う、うん。でも、母上に怒られるの怖いなの」


 イリヤは怒られることを怖がっていた。

 露骨に態度に出るほど。


「大丈夫だ。そこは俺に任せてくれ。とりあえず明日サボってここに来い、あとは何とかする」

「私も協力するから安心して! 皆で怒られれば怖くない!!」

「わかったなの」


 イリヤは二人を信じることにしたが、アリサの発言を聞き、少し不安が残るのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日もしくは土曜日の予定です。

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