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第3話 平穏な一日

 風呂から上がり、自室に戻ったユリウスが机で作業をしていた。

 机の上には、数秘術を使って作り上げた設計図が広がっている。

 細かい部品が散らかり、ユリウスは必要なものを的確に選ぶ。

 大まかな骨格は完成しており、リボルバーに近い形だ。


「こんなに細かい作業は、久々にするな。……あれ、これのパーツ違うじゃねーか」


文句を言いながら、設計図通りにパーツをはめていく。


「流石に可変式の魔導銃は、作るのが大変だな。シリンダーとマガジンの可変機構を付けるべきじゃなかったか?」


 ユリウスの想定では、特殊弾をシリンダーへ装填し、通常弾をマガジンに装填、もしくは魔導カートリッジを装填できる機構で、銃を設計していた。

 装填部の可変機構、つまり薬室にどうやって二つを連結させるかと言う問題があったり、構築が細すぎるなど、多岐に渡りユリウスを悩ませていた。

 設計を変更しないのは、浪漫を求めるためである。

 数秘術の演算結果により、理論上は可能だと証明されているのも、理由の一つだ。


「うん。キツい!」


 半ばヤケになっていると、扉がノックされた。


「開いてるぞ」


 それを言うのと同じタイミングで、扉が開く。

 返事をした意味があったのか、と疑問に思うユリウス。


「一緒に寝てもいい?」


 入ってきたのはアリサだった。


「いいぞ。イリヤはどうした?」

「ぐっすりだよ」


 何気なく部屋を見渡すアリサ。

 机の上にある物に気が付き、近くによる。


「これって……」

「魔導銃に興味があるのか?」

「うーん。なんて言うか、お兄ちゃんがアンチマテリアルライフルとかの、重火器を作ってないのが不思議で。お兄ちゃんって言ったら火力! みたいなイメージだから」

「否定はしないが、人を一体なんだと……まいいか。重火器だと必要素材が増えるし、弾のコスパも悪いからな。それに剣と一緒に使うなら、小銃の方が使いやすい」


 設計図を指でなぞりながら言う。


「それに魔力が増えるまでの、繋ぎとして作ってるからな。あとは、屋内とか市街地だと俺の魔法は、相性が悪いっていう弱点を補うためでもある」

「なるほどね~。……ここの機構をこんな風にしたら。そうすれば銃への負担と、可変速度が少しだけど、改善出来ると思うよ」


 アリサが近くの白紙に、簡単な設計図を書く。

 かなり簡略化されているが、それだけで言いたいことがわかる。


「盲点だったな。……あえてそこの部分を弄って、不完全性を利用するのか」


 ふむふむ、と頷いて忘れる前に設計図の一部を書き換える。


 ん? 何故、アリサが銃の事を知っている。

 この時代には、銃と言う概念は無いはずだぞ。

 仮にあったとしても、物理弾を使う発想はないはず……。

 調べた限り、魔力を使う技術が発展して、科学はあまり発展していない。

 ……まあ、考えても仕方ないか。

 俺の部屋には、超文明時代の本とかが置いてあるわけだし。


 アリサが勝手に、本を読んでいたと結論を出して納得した。

 咎める気もない。

 その辺は、割とどうでもよく感じていた。

 読みたければ勝手に読め、見たいな感じである。

 むしろ、自分の妹が頭が良くて誇らしさを感じる程だ。


「さて、寝るか」


 ユリウスが机の上にあった物を一式、空間収納魔法を使って、その中に放り込む。

 かなり無造作に。


「うん!」


ユリウスが布団に入ると、アリサもその隣に入り、幸せそうな満面の笑みを浮かべて瞼を閉じる。

翌日、ユリウスは少し遠出をし、二つ隣の村を訪れる予定だった。

 そして今、一つ目の村にユリウスはいる。


「おっちゃん、出来はどうだ?」


 畑の手入れをしている顔馴染みの農夫に、声をかける。


「おお! ユリウス様。最近、雨が少なくて見ての通り、干上がっちまってなー」

「確かに、これは酷いな」


 乾いた土に亀裂が入っている箇所もある。

 ユリウスは、土を指で擦りながら状態を確認する。

 作物を育てるには、不向きな状態になっているのが、それだけでもすぐわかる。

 念の為に、数秘術で土質を分析したが、結果は見ての通りだった。


「村全体がこんな感じか?」

「そうですね。……生きてる畑の方が、珍しくなっているのは確かです」

「母さんへの報告を盗み聞きしてたけど、これはちょっと予想以上だ」

「はい。このままだと、今年の収穫は例年より落ち込み、冬の備えが足りなくなってしまうかもです」

「わかった。何とかしてみよう」


 ユリウスの言葉に農夫が首を傾げた。

 子供の言うことだから、と言った感じだ。

 子供の真剣な遊びを見守るような温かい眼差しで、ユリウスを見守る。


「――ウェザークライン」


 天候操作の魔法を使う。

 かなり魔力を消費し、立ちくらみがユリウスを襲う。

 だが、流石にそれで倒れる程、やわではない。

 数秒して、ポツリポツリと雨が降り出し、本降りとなる。

 範囲は村全体と、周辺一体だ。


 洗濯物を干してた人には、悪いことをしたな


 少し罪悪感を覚えながらも、満足そうに空を見上げる。


「こんなんでどうだ? この雨量で三日くらい、降るよう設定したけど。それと定期的に降るように、大気状態を弄っておいた」

「……こ、これは。……あ、ありがとうございます!」

「なーに、気にするな。領主の息子として、領民を助けるのは当たり前だ」


 農夫はかなり感謝している。

 それを見て少し照れくさそうに、頬をかく。


「さて、他の村にも行かないとだから、俺はこの辺で」

「ホントにありがとうございます。これ、少ないですが持っていって下さい。せめてものお礼です」


 農夫がそこそこの量の野菜を、ユリウスに押し付けるように渡す。


「こんなにもらっていいのか?」

「感謝の印です。ここで何もしなかったら、女房に家から叩き出されちまう」

「ははは……。じゃあ、ありがたくもらってくよ」

「領主様にも、いつもありがとうございます、と伝えてください」

「ああ、わかった。また、様子を見に来るよ」

「その時までに、たくさん作って待っています」

「そりゃあ、楽しみだ。じゃあまた」

「お気をつけて」


 雨の中、わざわざ農夫が見送ってくれた。

 ユリウスも背中越しに手を振る。


「自分で雨を降らせて言うのもなんだが、濡れたくねーな」


 苦笑気味に笑い、次の村に歩みを進める。

 村々に行く度、声をかけられ、野菜やらを貰っていた。

 皆、領主達に感謝していたのを見て、少し誇らしく思えてきた。

 困っていれば、助けたりしているうちに、ユリウスも領民達と仲良くなっていたりする。

 日が暮れ始め、来た時とは別ルートで帰路に着く。

 しばらく歩いていると、三人組の猟師が話しかけてくる。


「ユリウス様! 早くお帰りになってください! ここら辺で災害級の魔物の目撃が今朝方、報告されたんです」

「それは、ほんとか!?」

「はい。見た者によれば、街の方へ行ったらしいです。報告のため何名かの村人が向かいました。もし良ければ村に泊まって行っては、どうですか?」

「気持ちは嬉しいが、断らせてもらう。俺も急いで帰って、念の為に報告をしておきたい。少しでも放置すれば、被害が広がるかもしれないからな」

「わかりました。どうか気をつけてお帰りください」


 その場を後にし、ユリウスが急いで家に向かう。


 こんな事になるなら、もう少し魔力を残しとけばよかった。

 ……あと一五分くらいで、転移分の魔力は回復しそうだな。


 周囲を警戒しながら走っていると、他の村の猟師と鉢合わせになる。

 どうやら早馬で、村々を回っているようだ。

 そして彼が来た方角は、ユリウスの家がある方。

 つまり、英爵領で一番栄えてる街、ウルスラからだ。

 ユリウスが嫌な予感を覚える。


「ユリウス様、ご無事で何よりです」

「何かあったのか!?」

「はい。ウルスラ郊外の東側で災害級の魔物、グリズリーボアが目撃されました」

「わかった。報告ありがとう」

「……私の村に泊まって行きますか? その方が安全だと思います」

「気持ちだけ受け取っておく。母さん達に念のために報告したいからな。緊急の案件なら尚更」

「わかりました。私は、隣村にも知らせを死寝ければなりませんので、これにて」


 猟師が馬で走り去っていくのを見届け、ユリウスが再び走り出す。


 確か今日、アリサとイリヤはウルスラの商業区へ行くって言ってたな。

 頼む侵入してないでくれよ。


 転移可能まで残り五分。

 その僅かで長い時間が、もどかしく感じるユリウス。

 転移を使うなら、走る意味はない。

 だが、気持ちが急かす。

 少しでも早くと。

 そして転移が可能となり、転移魔法を使う。


「――レティム」


 ユリウスの視界が、白く染まる。

 そして目の前に広がった光景は、アリサが袈裟斬りに斬られ、炎を纏った瞬間だった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日の予定です。

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