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第2話 確認と実験

 鑑定結果を聞いた翌日、ユリウスは一人で街道を歩いていた。

 アリサは、アリサで何処かへと向かった様だ。


「昨日の夜に気が付いたが、まさかこの体、魔法を使う度に痛み伴うとは。恐らく魔力が闇に侵食されているせいだろうが……。それに全てではないにしろ、前世の魔力量を引き継いだせいで、過剰魔力体質になってやがる」


 独り言を呟きながら、街道を進む。

 目的地は特にない。

 そして面倒な体質になっていることに嘆いていた。

 過剰魔力体質とは、本来同時に育つはずの魔力量と魔力回路の内、魔力だけが群を抜いた状態で生まれたり、そのような状態になってしまった場合になる体質である。

 この体質になると魔力を全て使うことが出来ず、均衡が著しく崩れた状態だと、魔法が使えなくなってしまう。

 そしてユリウスはやや重症であり、魔法が不安定になってしまっている。

 魔力回路がユリウスの魔力量と、ギリギリ均衡を保っているのは奇跡のようなものだ。


「早急に対策をしないとな。このままだと強力な魔法が使えない可能性がある」


 魔法が使えなくなる心配は一切してなかった。

 火力こそ正義をモットーにしているユリウスとっては、強力な魔法が使えないことこそが、死活問題だと思っているからだ。

 しばらく歩いていると、前方で何かあったようだ。


「ふむ、あれはグリズリーベアか」


 クマ型の魔物に、一人の女性が襲われていた。

 そして悲鳴が響く。


「――フレイム・ランス」


 中距離から魔法攻撃。

 炎を槍状にしたものを放ち、魔物の右肩に命中させた。

 着弾箇所がかなり抉れ、腕がもげるか、もげないかというギリギリの状態だ。

 ユリウスは急いで女性の元へ駆けていく。


「大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます、ユリウス様」

「なら、さっさと逃げろ。ここは、俺が引き受ける」

「ですが、ユリウス様に万が一があっては!」

「俺は大丈夫だ。早く離れてくれ、庇いながらだとキツイ」

「分かりました」


 ユリウスの指示に従い、女性がその場を去っていく。

 ある程度、離れたのを確認すると剣を抜いた


「さて、試し斬りだ! この器の性能チェックに付き合ってもらうぞ」


 地面を蹴り、一気に距離を詰める。

 ユリウス本来の力のほんの少しを解放したその時、脛骨に亀裂が走った。


「力を失ってるとは言え、これくらいでも体が耐えられないか」


 闇が脛骨の修復を始めるが、瞬時に完全修復されないことに、ユリウスは目を見開くほど、驚いていた。

 驚きながらもしっかりと、魔物の右腕を斬り飛ばす。

 だが、この動作も体が耐えきれない。


「チッ! 体が!」


 魔物が痛みに絶叫しながらも、本能に従い残った左腕を振り上げ、そして振り下ろす。


「ま、間に合わねー!」


 もう一本の剣に手を伸ばし、柄を掴んだが、抜剣が間に合わない。

 回避行動を行うが、体がユリウスの反応速度に全く追いつかず、胸を深く切り裂かれる。

 大量の鮮血が吹き出し、肋骨と内蔵の一部が外から見える。


「いいやつ、貰っちまったぜ」


 死にそうになりながらも、不敵に笑う。

 それは、恐怖でおかしくなったとかでは無い。

 ただ単純に、命が無くなりそうなスリルが、楽しくてたまらないからだ。


「ふっ!」


 体に負担をかける動作からの、袈裟斬り。

 そして魔物が怯んだ瞬間に二本目の剣を抜き、首を跳ねる。

 すると、一瞬ビクンッと痙攣し、魔物が絶命した。


「ばっちりだな。……おっ、とと」


 負担をかけすぎ、体のあちこちが壊れ、着地を支えられず尻もちをつく。


「こりゃー鍛え直しだな」


 その場に寝転がり、空を見る。

 体の修復が終わるまでは、全くと言っていいほど、身動きが取れない。

 筋肉の断裂や筋肉痛など、体が言うことを聞く状態じゃないからだ。


「今の内に、新しい魔法を作るとするか。今の状態を可視化して確認したいから、なる早で完成させないとな」


 独り言を言いながら、魔法陣を複数展開して、それを組み合わせたり、削除したり、はたまたルーン文字を書き換えたりなどしながら、大雑把な形を作っていく。

 作業に没頭していると、何処からか鎧の音が聞こえてくる。

 それも一人ではなく、複数だ。

 音がする方を見ると、先程の女性が走りながら衛兵を案内していた。

 ユリウスが倒れているのが見えると、女性は顔を青くして慌てて走る速度をあげる。

 もしかしたら死んでいるのでは? と最悪な事を考えながら。


「だ、大丈夫ですか!?ユリウス様!!」

「ああ、無事だ」


 寝転がりながら、片手をひらひらと振る。

 それを見て、安堵の息を吐く。


「こ、これは、グリズリーベア!?これをお一人で?」

「見ての通りだ」


 衛兵達が死んでいるのを確認していた。


「流石、ユリウス様です。ですが、こんな危ない真似は、これからしないでください。話を聞いた時は、心臓が止まるかと思いましたよ」


 ユリウスと顔見知りの衛兵が、割と真剣に話していたので、ユリウスは適当に聞き流していた。


「まあまあ、倒したんだからいいだろ」

「お怪我は大丈夫ですか!?」


 女性が引き裂かれた服と、それに付いている大量の血を見て焦る。


「問題ない。大半は返り血だ。傷も治癒魔法で治した。ただ、筋肉痛と疲れで寝転がってるだけだ」


 そんな嘘をつく。

 実際は自身の血も結構な割合を占めているが、返り血としといた方が面倒にならないと踏んだようだ。


 (こう言わないと母さんに報告されて、怒られそうだしな)


 後の事を考えると、嫌な汗が一つ背筋を伝う。


「おっちゃん、後処理は任せるよ。爪と牙だけ貰ってく。あと、報告は俺がしとく。その方が早いと思うから。だから、いつもの定期報告に載せる程度でいいよ」

「分かりました。素材はこちらで剥ぎ取り、邸宅へ送れば良いですか?」


 少しの間、思考する。


「……それで頼む」


 結局剥ぎ取りが面倒くさくなり、丸投げした。


「俺は森に用があるから、これにて失礼するよ」

「お気をつけて」


 衛兵のおっちゃんがの言葉に、背中で手を振って応える。


「助けて頂きありがとうございます!!」

「気にするな。領民を助けるのも、領主の息子の仕事さ」


(ふっ!決まった!)


 そんな事を心の中で叫び。

 そしてユリウスは森へと入っていく。


(さて、森に入ったは良いが、地形が分からないな。まあ、ワクワクするからいいけど。……こんな感情を感じるのは、何百年……いや何千年ぶりだ?)


 自問しながら、森の奥へと歩みを進める。

 木々の隙間から入る光。

 澄んだ空気が気持ち良い。

 木漏れ日に当たりながら、周囲を見渡す。


「あそこなら良さそうだな」


 ちょうどいいくらいに開けた場所を見つけた。

 芝生くらいの草が一部分に生え、他は地面が剥き出しだった。


「ここなら、のんびり魔法の開発ができるな」


 草が生えている場所に寝転がり、青空を見上げながら、先程中断した魔法の作成に勤しむ。

 いくつもの魔法陣やルーン文字、魔法文字が消えては現れを繰り返す。

 大まかにでも、魔法の形を決めようとしている。

 魔力消費が殆どない魔法に仕上げようとしている為か、かなり時間がかかる。

 しかも、人一人分の存在証明を書き出す様な魔法を作ろうとしているのだ。

 そう簡単には、理想形の枠組みにはならない。

 それからも二時間程、試行錯誤してやっとそれらしくなってきた。


「とりあえずはこんなもんか」


 ユリウスの前に、砂嵐のかかった画面の様なものがあった。

 だが、それだけだ。

 何も表示されていない。


「ここまで来れば、後は根性で何とかなるな。さて、次は魔法の実験だな」


 足を振って立ち上がると、地面が剥き出しになっている場所まで、わざわざ移動した。


「草原が無くなったら、これからの拠点に出来なくなるしな」


 一人で誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。

 何の魔法にするか、少しの間、考えを巡らせる。


「……ちょうどいいし、許容限界がどれくらいか、試してみるか。――ゼノ・ブレイズ」


 試し撃ちに選んだ魔法は、よくユリウスが牽制や攻撃に使っていた第一〇位階の魔法。

 魔力がごっそり持ってかれる。

 そして魔力過剰体質特有の、使用可能魔力のほぼ限界まで使ってしまい、回復するまでは魔力切れと同じ状態になるので、当分は魔法を使えない。


「……まじか」


 魔力の無さを痛感した。

 今の自分が撃てる魔法の大体を把握し、ため息を吐く。


「それに魔力切れのこの感覚は、久しぶりだな」


 久しく感じることのなかったものを感じ、どこか懐かしさを覚える。

 遠いところを見るように、空を見上げ、そして目の前に広がる惨状に視線を向けた。


「うむ、火力が落ちてるな」


 眼前に焼け野原が広がる。

 大地は沸騰し、直撃した木々は蒸発していた。

 そしてこの魔法の真骨頂たる爆発は、起こらなかった。

 魔力が足りなかったのが原因だ。


「こりゃー鍛えがいがあるな。今ので、魔力回路もオーバーヒートしてやがる。近いうちに、置換魔法で体を作り替える必要もあるな。……やることがいっぱいだぜ」


 面倒くさそうに呟きながらも、当面の目標が見つかり、心の中ではうきうきしていた。

 そして踵を返し、残った草原の上に寝転んだ。

 体中から激痛が生じるが、痛みに対する耐性が高すぎて、それを痛いとは感じていないユリウス。

 だが、今の魔法で体を動かすのが、困難な状態となっているのは事実だ。

 血液を循環させる血管と、似たような性質を持つ魔力回路がオーバーヒートした事で、脳波の信号を阻害していた。

 正確には、魔力の流れが乱れ、脳波が体の各機関に届いていない。


「体も動かないし、寝るか」


 二時間が経った。

 日も暮れ始め、やっと体が言うことを聞くようになる。


「今日はこれで撤収だな。魔法も近接戦も難がある事がわかったのは、収穫だったな」


 独り言を呟きながら、森を突っ切って屋敷を目指す。

 傍から見たらヤバいやつでは? とか思いながら。

 屋敷の敷地に入ろうとした時、血でトマトのように真っ赤になった服を見て、目が棒になる。


「どうするか、これ」


 少し思考してから数秘術を使い、血を原子レベルまで分解する事にした。

 そして空間収納の魔法から薄い上着を取り出し、前を閉めて誤魔化すことにした。


 (これからは、予備の服を持っておくか)


 今回の事を通し、肩を竦めて反省する。

 屋敷の玄関に着くと、偶然アリサと鉢合わせた。

 タイミングが重なったらしい。


「よう、アリサ。今帰りか?」

「そうだよ〜。じゃあ、一緒に入ろ」

「そうだな」


 二人で片方ずつ扉を開けた。

 すると、ユリウスとアリサ、そして双子の妹であるイリヤの専属メイドであるフェニアが、二人を出迎えた。

 彼女はハーフエルフであり、幼い頃にユリウス達の親であるクレア達に助けられ、この屋敷にいるのだ。

 とは言っても、見た目はユリウス達より少し上くらいの歳の見た目だ。


「お帰りなさいませ、アリサ様にユリウス様」

「ただいま〜」


 アリサが元気よく返した。


「もうすぐ食事の準備ができますが、どうされますか?」

「俺は着替えてから向かうよ。運動したせいで、汗だくだし」


 どこか怪しむ視線が、フェニアから送られるが、あえて気づかないフリをした。


「私も荷物置いてから行くよ」

「分かりました」


 それだけを残し、食事の支度へと戻っていくフェニア。


「で、本当は何してたのお兄ちゃん?」

「運動だって、言っただろ」

「私の目は誤魔化せないよ」


 そう言ってアリサが、上着の下に視線を送る。

 そこには、数秘術で取り切れていなかった血が付着していた。

 やばいと思いながらも、ユリウスは顔に出ないよう努力する。


「ほら、ここ、赤くなってる。これって血でしょ?」

「はぁぁ。誰にも言うなよ」

「どうしようかな〜」


 楽しそうにアリサが、悪い笑みを浮かべている。

 困った顔をするユリウスを見て、クスクスと笑う。


「……本当に勘弁してくれよ」

「今度、美味しいもの買ってくれるならいいよ〜」

「……背に腹はかえられないな」

「やった〜!」


 こうでもしないとアリサに、報告されると言う確信がユリウスにはあった。

 そしてお財布の中を見て、目に涙が溜まる。


 着替えを終えて、夕食を済ますと、ユリウスは風呂でゆっくりと湯船に浸かっていた。

 この時間は体が休まり、ユリウスが温泉好きってのも相まり、精神的にも癒やされていた。


「あ~いい湯だわ〜」


 ゆっくり癒やされていると、浴場の扉が勢いよく開け放たれ、アリサとイリヤが入ってくる。


「二人とも危ないから走るなよ〜」

「「は〜い」」


 元気よく返事を返す双子の姉妹。

 二人が仲良く体を洗い合っているのを、微笑ましく見守っているユリウス。

 流石に幼女二人に興奮する趣味は、持っていない。


 体や髪を洗い終わると、アリサが浴槽に飛び込む。

 双子の妹であるイリヤが、止める間もなかった。


「飛び込むなー」


 何かどうでもよくなり、棒読みで言う。


「もー誰もいないんだからいいじゃ〜ん」

「お姉ちゃん、行儀悪いよ」

「行儀は悪くするためにあるのだ!」


 無い胸を張る。


「全く誰に似たんだか……」


 その言葉にイリヤが、じっとユリウスに視線を送る。

 まるでユリウスが悪いと言わんばかりに。


「ほらそこ、俺を見ない」


 三人の笑い声が浴場に、響く。

 そんなこんなで、夜を迎えるのだった。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

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