第23話 ユリウスVS時の女神
「ギリギリだったみたいだな」
ユリウスが少女の攻撃を何とか凌ぎ、周辺を見渡しながら言う。
それから少しして咳き込む。
それを心配そうにしていたティア達に、軽く手を上げて大丈夫だと意思表示をする。
「マスター、なんでここに?」
「千里眼での覗き見ですわね?」
ユリウスが答える前に、少女が答えを言った。
「ああ、そうだ。こんな状況になったせいで色々中途半端になっちまったがな」
「会えて嬉しいですわ。私の仇」
「久しぶりだな。いつ復活した?」
「数千年前ですわ。歴史で言うなら、大戦が終わってしばらくした頃ですわね」
ユリウスは、少女の時間感覚が自分たちと違うことは知っていた。
だからこそ、すんなりとその言葉を受け止めることができた。
「で? お前の用は俺たち二人だろ?」
「ええ。キヒヒ。その為に手を回したのですよ。キキ」
「なら、こいつらは見逃せ」
星雲は、ユリウスの提案を少女がすんなり呑むとは思っていなかった。
だが、それとは裏腹に少女の答えは――。
「いいですわよ。多少は楽しめましたもの。それにあなたが来るまでの繋ぎでしかありません。キヒッ」
その言葉を聞き、ユリウスが星雲の方を向く。
「という訳で、お前らは退避しろ。アリサ、そいつらを頼めるか?」
「このアリサちゃんに、まっかせなさーい!」
アリサがVサインをユリウスに送る。
それを見て、ユリウスが小さく頷く。
「待って! いくらあなたでも、あれには勝てないわ!!」
ティアは、ユリウスが少女に挑むのを止めさせたかった。
「大丈夫だ。何とかなる何とかなる」
ユリウスが適当にそれをあしらった。
そしてユリウスが換装の魔法を使い、魔導士よりの装備を身に纏う。
「ティア、安心して。少なくとも今回のお兄ちゃんは、少し本気を出すみたいだから」
「でも――」
ルミアがどこか思うところがあり、声を出そうとしたが、アリサがそれを遮った。
「大丈夫! むしろ、私たちがいる方がお兄ちゃんの力を制限しちゃう」
「それはどういう……」
エリナが不思議そうにしていた。
彼女たちは、まだユリウスが本気で魔法を使ったところを見たことがない。
それ故の不安である事を、アリサも理解していた。
だからこそ、無理矢理にでも彼女たちを離れた場所に自分ごと強制転移した。
そして邪魔者が居なくなり、ユリウスも戦闘準備を始める。
「――能力偽装強化 全力能力強化 全能力超強化 魔力回復量大幅上昇 生命力不死化 認識拡張 魔法強化 魔法超強化 魔法性能大幅上昇 タイム・アクセラレーション パラドクス・エフェクター 仮想スキル展開 魔法威力超強化 魔法位階上昇 魔法三重化 魔法限界突破最強化 魔力の神髄 生命力の神髄 全能力常時上昇化 神に至りし魔法詠唱者 飛行 無限魔力障壁 魔力吸収 魔法及び状態異常無効化無効 超常感知 天体開演 強化倍率増幅 強化効果倍化 時間耐性上昇 魔法性能極限化 強化時間無限化 強化解除不可」
ユリウスが、強化魔法を使いまくる。
目の前にいるのは、紛れもない神だ。
慢心して勝てる相手ではない。
そしてアリサも念の為に、ユリウスと同様の強化魔法を使う。
違いといえば、威力を上げる魔法以外に火属性を強化する魔法があるくらいだ。
ユリウスの準備を待っていた少女が口を開く。
「もうよろしいのですか? キキ」
「まあ待て。ここまでやらせたなら、もう少しくらいやらせろって」
「ええ、ええ。好きなだけやってくださいまし。ヒヒヒ」
その言葉に甘えてユリウスがさらに準備を進める。
「これを使うのも久しぶりだな」
換装の魔法で黒い魔杖を呼び出す。
そして背部に半円状の特殊武装を展開した。
特殊武装は頭部くらいの高い位置で浮いている。
そしてその武装は、等間隔に槍とも剣とも見える突起がある。
「待たせたな。さて、やるかアナスタシア」
「神殺しの兵器は、使ってくれませんの?」
「悪いな。最高神との戦いで壊れちまってな」
「それは残念ですわ。……アナスタシア・クロノス参りますわ」
世界の時が止まった。
そして次の瞬間には、まるで転移したようにアナスタシアが空中に移動していた。
それに合わせてユリウスも彼女の前に移動していた。
ユリウスがアナスタシア目掛けて挨拶がわりにフレイムボールを放つ。
アナスタシアは、攻撃が当たる瞬間に時を止めて数センチ前に出ることで避ける。
外れた火球が山に着弾した。
その威力は絶大だった。
初級魔法でありながら、第一一位階にある戦略級魔法と同等の威力を誇り、山の一部を消し飛ばしたのだ。
その光景を前にして、星雲は開いた口が塞がらなかった。
ルミアがアリスに「あれは最上位魔法だよね?」と訪ねるほど、自身の目を信じられなかった。
「あれが人に許されていい力なの」
アルビオンすら、ユリウスの力に驚愕していた。
彼女にとってこの世界の人とは、弱く脆い存在という認識であったからだ。
そしてユリウスを見る彼女たちの目には憧れと羨望、そして敬意があった。
「あ、あれが彼の本気」
ティアは、冷静を装っていたが震えが止まらない。
それは恐怖や武者震いと言ったものでは無い。
感動からくるものだ。
「全盛期には、遠く及ばないけどね。……でも、あれこそが殲滅者や殲滅の魔王と呼ばれた所以。魔法の破壊力を探究した成れの果てだよ。でも、だからこそかな。七賢者の中で最も破壊力があるって言われてたのは」
アリサの言葉を聞き、ティアが少し間を空けて口を開く。
「あれは初級魔法のファイア……フレイムボールよね?」
「そうだよ。でも、今のあの魔法はお兄ちゃんが使った強化魔法の効果によって、本来は第二位階だけど第一一位階まで強化されてるの。そしてそこにお兄ちゃんが極めた魔法の破壊力に関する強化とかを合わせることで、性能を極限まで引き出せてるの。これが魔導を極めるってこと」
常人を超えたそれを前にして、ティアは絶句するしかなかった。
言葉が見つからない、それが彼女の感想だからだ。
「あの力の秘密って何かあるの?」
ルミアが目を輝かせながら問う。
「加重乗算展開って言う私たちの時代でも、超一流でさらにその中のひと握りしか使えない技法。それを使ってるの」
「もしかしてあの尋常じゃない魔法の量のこと?」
「アルビオンは、気づいたんだね」
「どういうこと?」
ルミアには理解が出来ていなかった。
「ざっくり言うと数万を超える魔法を常時展開して、必要に応じて組み合わせたりして、威力の増幅やたくさんの魔法を展開できるようにするの。そして用のない魔法は、発動する前に別の魔法陣で相殺して発動を止める。これを繰り返すことで魔力消費を最小に抑えることもできるけど、一歩間違えば全魔力を消費した自爆になりかねないのが欠点」
「そ、そんな高度なことを戦闘しながら……。さすがアルス様」
ルミアが尊敬の眼差しを向ける。
そんな中、アリサの瞳には不安が漂っていた。
ユリウスが無数の魔法を同時展開して撃ちまくる。
そして一気にゼロ距離まで詰めて、剣を抜刀して攻撃した。
その後、後方に次元の狭間を展開して、バックスッテプをするようにその中に瞬時に移動する。
アナスタシアの後方に出現して攻撃後、即座に次元の狭間に移動し、次は前方から斬りかかる。
そのまま前方に次元の狭間を作って消え、アナスタシアの頭上に出現後、杖の先端に魔力を集めてそれを叩きつける。
魔力爆発が発生し、街の半分くらいが消し飛んだ。
「あらあら、街の人が消し飛びましたわよ」
「今更だろ。積み上げた屍の量と比べれば誤差でしかない」
「ふふ、ではこちらも遠慮なくやらせてもらいますわ。イヒヒヒ! キキキ」
「おいおい!? それは反則だろ!!」
アナスタシアは、M52A2 8連装ガトリング砲を取り出した。
旧人類が最盛期だった頃に開発された兵器だ。
過去に遡ることでアナスタシアは、それを鹵獲していた。
「戦艦とかに使う対空兵器だぞ! てか、そんな体でなぜ持てる」
「魔力で筋力をブーストすれば、紙も同然ですわ。それはあなたが一番よく知っているのでは?」
「ごもっともだな。でもまさか、ガトリング重砲を持ってくるとは」
その言葉を言うのと同時にユリウスが逃げる。
アナスタシアが引き金を引いたからだ。
砲身が回転し、少し間を置いてから銃弾が放たれた。
三〇ミリ口径であり、毎分一万二五〇〇発が放たれる。
しかし、アナスタシアの時間加速により連射速度が二倍近く上がり、弾倉は時間を巻き戻すことで残弾は無限になっていた。
放たれた銃弾は、弾倉の時間遡行の影響を受けることはない。
「イヒヒヒ!! ヒャハハハ! キヒヒ!」
トリガーハッピー状態のアナスタシアを見て、迷惑極まりない、と思いながらユリウスが回避に専念する。
弾幕から逃げながら、ユリウスも無数の魔法で攻撃する。
属性は多岐にわたる。
単一属性だと対策されやすいからだ。
そしてアリサの様に、特定の属性を極めたわけではないからでもある。
「低位魔法でここまでやるとは、さすがですわ」
「お褒めに預かり光栄……だッ!」
一発強力な魔法を放つ。
だが、アナスタシアが魔力障壁でそれを防ぐ。
そして未来の自分が過去に向けて放った弾丸の雨がユリウスを襲う。
ユリウスにとっては、感知外からの攻撃だ。
回避は不可能。
「クッ!」
魔力障壁で防ぐが、アナスタシアの魔力により一発あたりの火力が上がっている。
ほんの数秒で、何十枚もの障壁を割られてしまう。
強化魔法を使っていなかったら、今頃ハチの巣になっていただろう。
「押し切られる……」
ユリウスが苦しそうな声で言う。
魔法で迎撃も行いながら、頭を高速で回転させる。
数秘術により、思考加速と並列思考も多用して、だ。
「ユメ公! 居るんだろ?」
「何よ? うるさいわね。人が……妖精が気持ち良く寝てたのに」
「魔力制御は任せた」
「ハア!? ……後で美味しいもの振る舞いなさいよ!」
ユリウスが問答無用で魔力制御を全てユメに丸投げする。
そして魔力制御に使っていた分を魔法にまわす。
数多の属性槍が形成され、アナスタシアに放たれた。
それと同時に弾丸の雨を魔力障壁で防ぎながら、アナスタシアまでの距離を詰める。
槍の着弾で視界が悪くなる。
そんな中でアナスタシアの魔力砲撃を、紙一重で短距離転移で避け、彼女の目の前まで詰めた。
「――バースト・ゲーティス!」
アナスタシアは、もろに魔法を喰らって吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
そして魔法の威力は凄まじく、射線上の全てを吹き飛ばし、副次効果の爆発により周辺一帯が消し飛んだ。
ユリウスが戦略級の魔法を行使した結果だ。
しかもこの範囲で単体攻撃魔法なのだ。
だが、肉体にもかなりの負荷をかけた結果、反動が凄まじくユリウスが吐血した。
「内臓系の一部が死んだか。置換が終わってない箇所は……ミンチだな」
ユリウスが余裕そうに自身を分析する。
そして損傷箇所は、闇によって修復されるのだった。
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